2代目魔王と愉快な仲間たち

助兵衛

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47話 お願い!

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ヴィセア帝国の政治機能が集中する帝都は、基本的に多くの役人が昼夜を問わずに様々な問題に追われている。
魔力灯によって24時間明かりが点る官庁街は正しく、眠らない街と表現しても過言ではないだろう。

そんな官庁街は、まるで地獄の様な喧騒に包まれていた。

「ロリエルの研究所、支所、秘匿されている物から何まで全て洗い出して勇者教異端審問部に送っていけ! 精査は後でする! 」

「存命の帝国十二勇士の方々に至急連絡を取れ! 」

「何の為の非常用防護結界だ! 魔法使いを全員起こして24時間フル稼働させろ! 周辺国の動向にも気を配れ」

特に騒がしいのは帝都の守備を担う部署。
書類が舞い怒号が飛び交う部屋に、壮年の男性が視察に訪れる。
不機嫌そうに、眉間には深い皺が刻まれていた。

「外回りから帰還した。何か新しい問題は無いか」

役人や書類のごった返す部屋にて異彩を放つ白銀の鎧。
帝国十二勇士が1人、アークライト・シーザー。

彼は辺境伯として西の安全線を警護する任務を与えられていたが、和也の件で報告の為に帝都に来て以来、何だかんだと問題が続き未だに帝都に留まっている。

安全線の防護は現在、部下に任せ切りでそちらも不安だが……こちらも何とかしなければいけない。

「辺境伯様! ロリエル様が見付からない事以外は……」

彼は今、帝都の問題を率先して解決するべく昼夜を問わずに働き続けていた。
流石の彼にも連日の激務の疲れが表情に滲んでいる。

「異端審問部の追跡から逃れるとはな、前々から逃走の為に準備していたのだろう。あれが本気で逃げたならもう追えん、シィフの容態は? 」

「あ、はい。異端審問官長殿は未だに意識が戻らず……あの方のあんな姿は初めて見ました」

「ロリエルは相当手加減したのだろう。流石に教え子は殺せないらしい」

手渡された書類に目を通しながら簡単な食事を手早く済ませる。
悪魔王の振りまいた魔力による災害は解決、それに漬け込んだ反対勢力は全て鎮圧。

未だに周辺国はきな臭いが、今夜は久しぶりに眠る事が出来そうだ。
報告の書類を返し、今日はもう上がろうとした時。

部屋の扉が勢い良く開かれて、伝令の兵士が駆け込んでくる。

「辺境伯様! 」

「……悪い報せか」

「え、あ……いえ辺境伯様への面会の要請がありまして。それがその、二代目魔王で」

つまり悪い報せだった。
地下犯罪組織や魔物であればまだ可愛い、和也はどうせ面倒な要件で来たのだろう。

「急ぎか? 1日待たせる事は出来ないか?私が自費で宿を取ってやってもいいと伝えろ。な? 」

「え、え、辺境伯様? 」

伝令に来た兵士の肩を強く掴み、アークライトは大きな溜息を吐く。
公私共に普段見せない弱気な表情に、兵士は動揺して視線をさ迷わせた。

「ですが、二代目魔王は至急の用件であると。ドラゴンまでもが、辺境伯様を出せと騒いでおりまして……」

「そうか、そうか。うむ、そうか」

アークライトは自ら淹れたコーヒーにありったけの砂糖をぶち込むと一気煽った。

「案内しろ」





「カズヤ私はここが嫌いだぞ監視防護攻勢何百も魔法が折り重なっている鱗がピリピリするんだ見ろ見ろ鱗がささくれてる」

「あ、本当ですね。後でお手入れ致しましょう」


帝都をぐるりと囲む高い壁。
物理的にも魔法的にも帝都の防護を担う門の前で、和也と愛歌、そして月を見る者がのんびり待っている。

流石に帝都の中に入る事は出来なかった一行は、今多数の兵士と魔法によって監視されながらも呑気にお昼ご飯なんかを食べていた。

「爺やの野草サンドイッチ美味しいなぁ、俺ベジタリアンになっちゃいそう」

献立は宴の残り物。
今や食べる事はもう叶わない、爺やのサンドイッチだった。

「うまうま」

人型になった月を見る者が普段なら1口で食べる大きさのサンドイッチを両手で抱えて頬張っていると、ついさっき用件を伝える為に走って行った兵士が戻ってきた。
その後ろにはまるで鬼の様な形相の老人、アークライト・シーザー。

「あ、お爺ちゃん久しぶり! 」

「カズヤ」

歩幅を広げ、歩く速度を増して、1歩毎に大地が揺れるかの様な錯覚を覚える程の迫力と共にアークライト・シーザーが和也に迫る。

「お、お爺ちゃん? 」

「用件を言え、もったいぶらずに言え、悪魔王の一件を有耶無耶にしてやった事に関しての謝罪か? 」

伝令の兵士が困惑して追い縋る。
それを無視して、アークライトは和也と目と鼻の先にまで来た。

「アイツに関しては本当にありがとう。有耶無耶にしてくれたお陰で何とか連れて帰れたし……あ、魔王復活したの」

「うん? 」

アークライトが巨体を屈めて、耳を和也に近付ける。

「勇者と相打ちになった魔王様、実は俺の中に居たみたいでさ。この前復活したよ」

「……うん? 」

「ロリエルさんに言われた通りの儀式をしたら魔王の魂が神様と一緒に受肉しちゃって俺の中の力を殆ど持って行って魔物も引き連れて西の方に行っちゃったんだ

アークライトは天を仰いで中天に輝く太陽を瞼越しに感じた。
寝不足の目には太陽光が良く沁みる。

「わかった。ゆっくり、話を……聞く……」

もう泣きそうだった。
目頭を抑えて、兵士に場所を確保するように指示をする。

「だ、大丈夫? 良く見たら隈が……あれ、お爺ちゃん不死身だったよね」

「慢性的な疲労や寝不足は、不死鳥の鎧の効果範囲外だ……」

因縁あるアークライトが憔悴した様子に、月を見る者がケタケタと笑う。
それを怒る元気も彼には無かった。

「……はぁ。ドラゴンはここで待て、2人は着いて来い」

いつもより覇気の無いアークライト。
彼と、その部下に案内されたのは門の外側にある兵士の詰所。
応接室とはギリギリ呼べない、比較的綺麗な部屋に椅子を運び込む。

膝を交わす程の距離で座った3人は、暫く黙り込んでようやく話し出した。

「まず、君の言いたい事は先程全て聞いた。ゆっくり噛み砕いて聞き直したいが……まあいい」

「うん、だってお爺ちゃんがさっさと話せって言うからさ……これは? 」

アークライトは砂糖を注ぎ込んだコーヒーを飲むと、メモを和也に渡す。

「帝国中枢から複数の人間が姿を消した。異端審問部は彼らを異端者として指名手配、これはその人間のメモだ」

「へぇー帝国も一枚岩じゃないんだ……」

暫くメモを眺め、和也はそれを返した。

「ごめん字読めないや」

「はぁ、まぁ見て欲しかったのは1番上の首謀者の名前だ。そこにはロリエルの名前がある」

「うーん……やっぱりロリエルさんが原因だったんだね。最初に会った時から仕組んでたんだ、良くやるよ」

アークライトは一瞬だけ目を伏せて、直ぐに顔を上げる。

「あまりショックを受けていないんだな。今のお前からは魔力も、あの形容しようの無い力も、何も感じない……」

和也の中は空っぽだ。
もう彼は魔王でも禍津神の縛り手でも無い。
もう特別な物なんて、例の置き土産程度しか持っていないのに。

彼はいつも通り朗らかで、瞳の中には希望が宿っている。

「君は、どうしようも無い事態になれば自暴自棄になって馬鹿な行動をするような薄っぺらい奴だと思っていた」

「めっちゃ酷くない? 」

「……君はもう、あの時砦で会った君では無いな」

アークライトは和也と愛歌の為のコーヒーを淹れる。

「それで、態々報告の為だけに来たのか、他に用件があって来たんだろう。聞いてやるぞ」

「うん、お爺ちゃん。俺近々魔王の所にカチコミかけるんだけどさ、力を貸してほしいの」

お願い! と和也は頭を下げた。

「俺達いつの間にか5人しか居なくなっちゃってさ。なんにも無くなったし……一応、神様が置き土産をくれたけど」

「悪いが帝国には新たに喧嘩をする余力は無い。しかも、相手は40年前より力を増した魔王と来た……全く手が無い訳では無い、しかし時間がかかる」

うんうんと頷きながら、アークライトは自らのスケジュールを確認する。

「帝国が備えを終えるまで待つつもりは無いだろう。それに君自身がケリを付けたいから私を頼って来た、そうだな? カズヤ、少しばかり地獄を見る程苦しむ覚悟はあるか? 」

「う、うん。なんかめちゃくちゃ話が早いね……」

「支援は出来ない、戦力も本格的には出せない……そこで」

アークライトは傍に控えていた部下を呼び、無理矢理スケジュールを開けるように調整する。
部下は悲鳴をあげたが、それでも無理矢理に空白を作り上げた。

「その置き土産とやらはどんな物だ? 」

「えーと、砦でドンパチした時に俺って殺しても死ななかったでしょ。あれが50回出来る……」

にぃ、とアークライトが獰猛に笑った。

「いいな、十分だ」

「あのお爺ちゃん? 何を……」

「カズヤお前を魔王の足元、爪先に届くくらいには鍛えてやる。覚悟しろ、正に死ぬ程苦しいぞ」





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