2代目魔王と愉快な仲間たち

助兵衛

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48話 十二の宝具

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魔物への反抗の筆頭として戦い、遂には魔王と刺し違えた勇者。

勇者の活躍を支えた宝具と呼ばれる十二の装備を、死後分け与えられたのが帝国十二勇士と呼ばれる人類最高の戦力である。

彼らは強かった。
人類と言う弱小種でありながら、圧倒的強者であるはずの魔物を駆逐して人類を勝利へと導いた。

しかし、彼らもまた人類の枠組みを完全に逸する事は叶わなかった。

彼らは傷を受けると血を流し、適切な手当を受けなければ死んでしまう。
もちろん、老いや病にも勝てない。
狡猾な魔物は容赦無く油断や情に漬け込み、掻き乱す。
彼らは徐々に数を減らし、戦線を退いていった。

剣を担う騎士は邪龍鋭く睨む者に。
盾を担う王子と短剣を担う小男は悪魔王邪なる瞳の王に。

薬瓶、外套、鞍、髪飾りを担う者は病に倒れ。

杖を担う女帝は老いから孫娘へと受け継がせ。

指輪を担う聖職者は衰えを感じつつも継承者を未だ見つける事が出来ず。

書状を担う魔女は、ずっと昔から裏切っていた。

「そして、鎧を担う私が最後の健在な十二勇士となった訳だ。書き終えたら挙手せよ」

「ちょっと待ってね! 板書が追いつかない! 」

和也は必死こいて鉛筆を動かしていた!
ノートがのたうち回ったミミズのような時で埋め尽くされていく。

なぜこうなった? 
和也は数日前を回想する。

力を欲した和也は人類最強、アークライト・シーザーから直々に鍛えてやると言われて……

ぶっちゃけ、凄く、ワクワクしていた。

修行編始まっちゃう! 
髪とか伸びて衣装が新調される! 
と、胸の高鳴りを抑える事が出来ないほどに興奮していたのだ。

何時に無い凛々しい顔で、案内されるまま着いて行けば帝国兵士が生活する隊舎。
これから激しい特訓が始まるのか……とドキドキしていた和也だったが、次の日から行われたのは戦闘の訓練では無く座学。
アークライト自らが教鞭を振るって、勇者や宝具、十二勇士の知識をひたすらに詰め込んだ。

詰め込まれた和也はと言うともうオーバーヒート寸前、頭から湯気が出る程だ。

義務教育すら受けていない和也にとって、生まれて初めての本格的な授業。
猛烈な勢いで進むカリキュラム、予習復習の嵐、油断を許さない小テスト。

「はい! 」

ちなみに月を見る者は帝都には入れず、帝国兵士一個大隊を常駐させた監視体制の元、塀の外でお留守番である。

「うむ、早いなアイカ」

元気の良い声が和也のすぐ横から聞こえる。
妹、愛歌は既に板書を終えノートに自分なりの注釈なんかを書き足していた。
余白部分にはオリジナルキャラクターのカズヤンが「テストに出るよ!」と親指を立てている。

「くうぅ、なんで愛歌ちゃんも? 」

「アイカにも素質はある。何より本人が望んだ、兄の助けになりたいと言われれば断れん。さぁ、お前も早く書き終え……字が汚いな」

「……なんで異世界人のお爺ちゃんが俺より字上手いんだよ、おかしいだろ」

日本人である和也と愛歌の為に、態々授業は日本語で行われていた。
トメ、ハネ、ハライ、全てが完璧な漢字が黒板に並んでいる。

「アンバー大司教の異世界人召喚には何度か立ち会っている。日本語もその折に習った」

「くそぅ、異世界特典とか欲しい。あ、あったけど奪われたんだったか……そう言えば、宝具ってこれじゃあ11個じゃない? 」

アークライトとが日の傾きを確認し、教本を閉じた。
何時の間にか本日の授業は終わっていたらしい。

「良いところに目をつけた。12個目は……遺品と言って良いのか諸説ある特殊な品物だ」

「ふうん」

どれだけ素晴らしい代物だろうが和也には関係ない話だ。
どうせ今回の目的に使って良い物ではない訳で……

「他人事だな。十二宝具が欲しく無いのか? 貸与の為に態々授業してやっていると言うのに」

話が変わった!
つまらなさそうにしていた和也が爛々と目を輝かせて立ち上がる。

「え! え?! 」

「宝具の貸与には最低減、成り立ち等の知識は知ってもらわないといけないからな。今日の授業が終われば夜にでも一度触れてもらう予定だった」

「え、ほ、宝具? お爺ちゃんの鎧みたいな……? 」

「所有者の居ない宝具は現在8個。そのどれかを扱えれば魔王討伐の役に立つだろう……貸与するだけだぞ? 」

ふんふん、と鼻息荒く和也は猛烈な勢いで板書を終えて立ち上がった。

既に、彼の頭の中には伝説の装備に身を包んだ自分を思い浮かべている。

「そう言う事なら早く言ってよ! 勉強のモチベーションも変わるしさ! さ! 行こうすぐ行こう」

「私はてっきり宝具をねだりに来たと思っていたのだがな。まあ良い、やる気があるなら直ぐにでも行くぞ」

「わぁ、やりましたねお兄様! おめでとうございます! 」

教室の片づけを始めたアークライトは嬉しそうに和也とハイタッチする愛歌を見て口角を緩める。

「アイカ、お前も他人事では無いぞ。宝具に適正があれば貸与しよう」

「私もですか? いや、私はいいかな……」

「ん? 珍し」

いつもならノリノリで喜びそうな愛歌が珍しく乗り気では無い。
少し違和感を覚えたが、今は何よりも宝具が楽しみで仕方なかった。

「まあ無理強いはせん。赤の他人の遺品と言われれば、複雑だろうからな」

「そ、そうですね」

アークライトも無理に勧めたりはせず、和也と愛歌と連れて教室を出た。
赤みを帯び始めた西日の中、隊舎から離れて長い渡り廊下を歩く。

「教室のある隊舎も大きいけど、そもそも軍の敷地が大きいねぇ」

「帝都の約5分の1が軍事や防衛施設だからな。安心しろ、宝具の格納庫はもうすぐだ」

「へぇ、道理で……うん? 」

周りを見ると疎らに帰路に着く兵士がいるくらいだった隊舎からの道。

そんな渡り廊下のど真ん中。
肩を怒らせた女性兵士が猛然とこちらへ歩いてくる。

廊下は決して広くは無い。
3人が話しながら歩くとどうしても場所をとってしまう。
和也は気を利かせて廊下の端に寄ったが、女性兵士は態々和也のいる方向に寄って更に近付き。
和也と目と鼻の先の距離で立ち止まった。

ふわり、と制汗剤のような甘い香りが漂う。

「え、えーと」

「アークライト・シーザー辺境伯! 私は納得していません! 」

キンキンと鳴るよく通る声。
和也をキッ! と、睨んでアークライトに詰め寄った。

鋭い目で睨まれて、和也はちょっとゾクッとした。
色んな意味で。

不遜な女性兵士に、アークライトが諌めるような声をかける。

「……ベルライト。お前に今回の件に口を挟む権利は無い」

アークライトは彼女と面識があるようで、うんざりした顔で道を開けるよう促す。
帝国の重鎮であるはずの彼が命じても、ベルライトは道を開ける事は無かった。

より一層、切れ長い目を吊り上げて和也を指差す。

「私は宝具格納庫の責任者です! こんな、何処の馬の骨とも知らぬ者に宝具を貸与するなど! 」

「おぉ、まさか……」

和也は注意深く、このベルライトという女性兵士を観察する。  

ハッとする様な金髪、青い瞳、他の兵士に比べて装飾が施された鎧。
何より勝気そうな目だ、常に怒っていそうな表情もポイントが高い。

「驚いた、ツンデレ女騎士ってやつだ。もうちょっと序盤で出るもんだと思うんだけどな」

「はぁ!? 私に騎士位はありません! そもそも、あなたは辺境伯に直談判しに来たそうではありませんか! 」

鋭い視線がアークライトから和也に再度向けられた。
大きな声に道行く兵士が驚いて振り返る。

「恥を知りなさい! どんな目的か知りませんが、あなた如きが触れて良い物ではありません! 」

「て、言ってますけど」

「ベルライト。目的については明かせない、だが皇帝陛下も今回の件には同意なさった。分かったら道を開けるんだ」

アークライトの断固とした態度に、彼女は顔を真っ赤にして怒る。

和也の腕を掴むと力を込めた。

「こんな細腕で! 宝具を! 扱えるはずがありません! 」

女騎士、ベルライトの握力は凄まじく和也は顔を顰めた。
ミシミシと骨が軋んでいる気がする。

「お兄様になにする! ぶっ殺すぞ! 」

狂犬のように飛び出そうとした愛歌を制して、和也は彼女の瞳を見詰める。
誠意の上手い示し方は分からない、だからせめて嘘偽りが無いように。

「ベルライトさん俺は力がいるんです。お願いします、通してください」

頭を下げた。

その程度で! と言いそうになったベルライトが、顔を上げた和也を見て言葉を詰まらせる。

「俺、頑張って宝具を貸してもらえる位の特訓をします。相応しいとか、資格とか分からないです。でも、めちゃくちゃ頑張ります……お願いします、ベルライトさん」

「う、むぐ……」

「お願いします! 誰かじゃなくて、俺自身がとっちめてやらなきゃいけねぇ奴がいるです」

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