2代目魔王と愉快な仲間たち

助兵衛

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58話 愛歌炸裂

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むかーしむかし、そりゃもうめっちゃ昔。

魔物達が互いの覇を競い合っていた頃、人類が文明を築く遥か以前の太古。
人魔戦争とは比べ物にならない程の大規模な争いが、何百年かに一度という高頻度で行われていた。

巨人の王国とドラゴンの争い。
これはドラゴンが巨人を全て食い殺して決着した。

異世界から侵略に訪れた無機生命体との生存戦争。
何種もの魔物が絶滅する被害を被ったが、ドラゴンが敵の女王を焼き殺した事で決着した。

何度も何度も、世界や既存の種を滅ぼす程の危機を魔物達は退けて来た。

その中心には必ずドラゴンが居た。

「素晴らしいぞ! 暫く見ない内にまた早くなった! パワーも申し分無い! 」

人魔戦争に人類が勝利出来た要因の一つに、ドラゴンが本格参戦しなかった事が真っ先に挙げられる。

もし魔王が人類では無く魔物なら。
ドラゴンの顰蹙を買う事なく、戦力に上手く組み込めていたならば結果は大きく変わっていた事だろう。

素手でドラゴンをぶちのめすお爺ちゃんも存在するが、アレは例外だ。

「戦闘中の細やかな気配りも素晴らしい、千年前なら背後からの攻撃で……あぁ今度は避けれませんでしたね」

ドラゴンはドラゴン故に、世界最強種故に。
同種で顔を合わせれば必ず、激しい縄張り争いを繰り広げてきていた。

鋭く睨む者改め月を見る者と、他のドラゴンも例に漏れず常に争って来た。
最後に彼らが会ったのは一千年前、互いに互いを殺し、転生する羽目になった。

「……がぁ! 黙れ! 同種で組むなぞ、お前達は龍のプライドを忘れたのか! 」

「ははは! 帝国に与したお前には言われたくないぞ! 」

別に帝国に、と言う訳では無い!
と言いかけて、月を見る者は高速で飛来する白龍に吹き飛ばされた。
切り離された宝石のような鱗が、キラキラと空に舞う。

龍結界を貫き、月を見る者の鱗を容易に切り刺く事が出来る存在はそう多くない。

白龍、頂に坐す天剣は名の由来ともなった長い尻尾を前に構え、高度を急上昇させる。

頂に坐す天剣の尾は研ぎ澄まされた剣の如く、太陽光を受けて鋭く輝いていた。
再度アレを喰らえば、今度こそ地に落ちる。
飛べなくなった所を黒龍、傷だらけの黒鉄は見逃しはしないだろう。

「くそ、2体1は流石に吠え過ぎたか……ん? 」

「余所見とは、諦めましたか? まあ最期に見たい景色くらいは選ばせてあげましょう! 」

飛行速度だけなら月を見る者が三体の中で飛び抜けて早い。
しかし、黒龍と白龍はいがみ合っていたとは思えない程の連携で赤龍を追い詰め……

そしてとうとう、白龍の尾剣が狙いを定めた。

急降下し、今度こそ確実にトドメを刺す為に刃を突き立てる。

「一千年後も私が殺してあげま……」

突如、頂に坐す天剣を信じられない程の衝撃が襲う。

滅茶苦茶に吹き飛び、回転しながら視界の端で欠けた尾剣を認める。
驚愕に、端正な顔を歪ませた。

「ば、馬鹿な! あり得ない、私の、天剣が! 」

「おいおい白龍! ははは! 欠けてるじゃないか! 」

驚く頂に坐す天剣を尻目に、月を見る者が落ちていた高度を稼ぐ。
そして得意げに笑った。

「何が起きるか分からない物だろう! 長い永い龍の一生、なあ! 義妹よ! 」





「キュオオオオンンン! 」

甲高い笛の音のような大爆音。

「ギャギギギギ! 」

鉄を擦り合わせた様な大爆音。

「グオオオオオォ! 」

大空の端から端まで轟くような、大爆音。

うるさ。

「うるさーい! 」

進藤愛歌、赤龍の背に仁王立つ。
荒れ狂う大気で髪は逆巻き、痛々しい額の古傷が見え隠れした。

「何が何だか分からない内に空だし戦闘が始まるし……もう滅茶苦茶です! 」

和也の元に駆け寄ろうとした瞬間、飛び立つ月を見る者の爪に引っ掛かり上空に連れて行かれ……

超機動の空中戦の最中、必死になってよじ登り、顔を上げれば眼前に迫る龍。

我武者羅に振り回した聖剣で、とにかく吹っ飛ばした。
天剣だかドラゴンだか知らないが、兄、和也の道を拒むなら容赦はしない。
あとうるさい。

「あーもう……攻守交代と参りましょう。お兄様でありませんが、今はお許し下さいね」

宝具の手綱を手探りで握ると、荒れ狂っていた風が止む。
片手間で髪を直し、聖剣を片手で構え直した。

「おお義妹よまさかお前がくっついて来るとはびっくりしたぞさっきは助かった礼を言おうありがとう」

「いえいえ。所で、先程まで劣勢だったようですが勝算は? 」

白龍と黒龍は突然の乱入者、愛歌の脅威を測りかねて遠巻きに様子を伺っている。
この均衡は直ぐにでも破られるだろう、白龍は怒り心頭と言った様子で喧しく吠えていた。

「馬鹿な事を言うなそもそも劣勢ではないあいつらが私に勝っている所なんてそれぞれ硬さと鋭さだけだった」

だが、今は彼らの硬さと鋭さを上回る愛歌がいる。

「全速力で飛んで斬るもう一回飛んで斬るそれで決着だ」

「気に入りました、進藤の喧嘩に後退は有り得ません! それでお願いします! 」

月を見る者の背に仁王立ち、それぞれの手で手綱と聖剣を握る愛歌の威容に二体の龍は一瞬たじろいた。

その隙を見逃さずに、月を見る者が急降下を開始する。

作戦は至ってシンプル。

突撃して、斬る。
それを2回。

「しゃあああぁ! 」

威勢良く吠える愛歌。
プライドと自慢の尾剣に傷を付けられた白龍が、それを迎え撃つ。

欠けたとは言え、世の名剣魔剣を容易に砕く世界最高峰の天剣には変わりない。

「二度はありません! 人間! 」

「……うん? 」

竜種最速、即ち世界最速の降下と共に愛歌の聖剣が振り下ろされた。
刹那、振り上げられた天剣が交差する。

「あぁ、さっきのは適当に振っただけなのでノーカンです。本当の聖剣の切れ味、その身で味合わせてあげましょう」

聖剣は何の抵抗も無く。
空を斬るかの如く、天剣をすり抜ける。

「なっ……馬鹿な、何故。私の、無敵の……てんけん、が」

一刀両断。
美しく二つに切り離されたドラゴンだった物が、遥か下方の大地に吸い込まれていく。

「キュイキュイと何言ってるか分かりませんが、敵では無かったですね」

劈く様な絶叫。
断末魔を背に受けて、残る黒龍に向けて加速した。

「おいおい! 驚いた! 」

黒龍、傷だらけの黒鉄は歪な赤黒い翼を変形させ盾として聖剣を受け止めた。
金属が擦れ合う、不快な音がなる。

「ぬー! 硬い! あと五月蝿い! 」

「……まさか」

聖剣を押し込むと黒龍が身を引く。

「そいつは昔に神族が使っていた剣か! 何故それを、現代の人間が使えている!? 」

聖剣、本当の名はもう誰も知らない勇者の愛剣。
様々な特殊能力を秘めていると言われ、万物を切り裂き決して刃こぼれする事ない。

「役目を忘れて傲り昂った人類が! その剣を通じて神々と交わした約束を忘れたのか! 」

その材質は……
由来は……
うんたらかんたら……何と衝撃の事実がCMの後……

「うるせええええ! 」

語られないバックボーンに意味なんて有りやしない。
知らない事はどうでもいい。

愛歌ちゃんはとにかく相手が五月蝿くって、それだけが気に入らなくて剣を振った。

「お兄様の道を阻むなら、何であろうとぶっ飛ばします。来世ではもっと慎ましく生きなさい、あとうるさい」

「……うー」

黒龍は斬られた箇所から、粉々に砕け散った。

言いたい事、知らせておく必要のある事、沢山あったらしいがどうでも良い。
あとうるさい。

「雑魚が」

世界の命運、宿命や因縁とかいう些事には構っていられない。
愛歌と月を見る者は和也を探して地上へと降り立った。

世界でも類を見ない天上の戦いが行われたと言うのに、呆気なく決着し、誰も詳しくは語ろうとしない。
そう言うもんだ、いまはもっと







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