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59話 声出していこうぜ
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「分断して、各個撃破するつもりだったのかな? らしくないなぁ、どうせあの根暗魔王の入れ知恵でしょ」
地下では和也と他数名、空では月を見る者と爪に引っ掛かり飛んでいった誰か。
荒野には麗かな日和とベルライトが残されていた。
春の息吹はいつの間にか走り出してもう居ない。
まあ、麗かな日和自身、チームプレイなんてする気が無いから別に問題は無いので、全く気にしていなかった。
「……悪魔王、邪なる瞳の王とお見受けするブヒ」
大地を割り一行を分断させた張本人……豚? 鉄の猪は鋭い目つきのまま、頭を下げた。
「ぶひ……嫌な記憶を思い出すなぁ。そうだよ、そうだけど名は改めた」
「貴殿は人類を敵視していたはずブヒ。何故、我らに刃を向けるブヒ? 」
「うーん、別に人類の事が好きになった訳じゃないよ。和也の事は好きだけどね」
和也、と言う名を聞いて鉄の猪が眉を顰めた。
彼はその名を知っている。
その名が、二代目魔王の名であった事を知っている。
「……」
「あ。今、思考を放棄したね。脳筋種族の悪い癖だ」
「どうでも良い事ブヒ! まさか、説教をしに遥々来た訳ではないブヒよな! 」
「和也の付き添い……ちょっと違うね。彼の仲間として、彼の喧嘩に付き合いに来た」
喧嘩という文化はオークにもある。
大抵、下らない事が発端で発生する意地と意地のぶつかり合い。
彼らはそれをしに来たのだと言う。
「……馬鹿馬鹿しいブヒ」
「馬鹿だからね。彼も、僕らも」
馬鹿馬鹿しいと吐き捨てる鉄の猪だったが、その心中にあるのは、羨望。
和也らを羨んだ。
何のしがらみ無く、自分の信じる物や人の為にこんな馬鹿げた所まで来る事が出来る事を。
それを態々口に出して揚げ足を取る程、悪魔王も無粋では無い
いや……正直めっちゃ無粋だが今回は見逃した。
揚げ足取ってマウント取って煽り倒してやりたい所をぐっと我慢した。
「それで、まさか貴様一体で我と戦うつもりブヒか? 」
何故なら、鉄の猪が強敵であるからだ。
「君程度に、僕が苦戦すると? 」
悪魔王は超越者として名を連ねる魔物だ、自他ともに認める世界最高峰の魔法使い。
だが、その能力の殆どを自らの愉悦の為に注ぎ込んでいるが故に、直接的な戦闘能力は悪魔の中でも中位程しかない。
しかも封印明けだ。
わずかに残った魔力でも十分強力だが、相手が鉄の猪程ともなると些か厳しいと言わざるを得ない。
だから虚勢を張る。
お前なんて大した事ないぜ、お前の見積もりなんて甘々だぜって鼻で笑い。
手を翳した。
「宙に満ちる無よ」
「させないブヒ! 」
大地が爆ぜる程の踏み込みと共に、鉄の猪が駆け出した。
詠唱を続けたまま、肉弾戦にて麗かな日和が応じる。
「悪辣なる魔女が拐かす」
大木の様な剛腕を、麗かな日和は細腕でいなして距離を取った。
骨が軋む、折れる寸前で手を引いたとは言え暫く腕は使い物にならないだろう。
麗かな日和の予想外の近接戦闘能力に面食らうも、鉄の猪はさらに追撃をかける。
「ブヒッ」
正拳突き。
大地すら砕く圧倒的パワーで放たれたそれを、またしても麗かな日和が弾き飛ばした。
流石に腕は使い物にならなくなるが、いよいよ鉄の猪は驚愕に攻撃の手を緩めてしまう。
「私の言う通りになれ」
何が起きるか、身構えていた鉄の猪が突然咳き込み始めた。
暫くそうして、抑えていた手を見ると微かに血が付着している。
体の挙動にも違和感があり、鉄の猪は顔を顰めた。
「昔取った杵柄と言うやつさ、筋力こそ無いが防御には事足りるだろう。魔法使いの弱点なんてとっくの昔に克服済みさ、坊や」
「激しく運動しながらの魔法行使、マナの観察により判別出来るはずの看破を妨害……流石ブヒな」
「そうだろう。主要な臓器を幾つか損傷させた、あまり激しく動くと回復する事も出来ないほどに傷が広がり、死んでしまうよ」
短い詠唱で、絶大の効果。
対象を生物に限定するとは言え、コストパフォーマンス良く効率的に相手を殺傷する事が出来る。
世界広しと言えど、同じ芸当が出来るのはロリエルくらいだろう。
しかし、その離れ業を鉄の猪は鼻で笑った。
「ブヒ、それで? 」
「あぁ? 」
「まさか追撃しないのは、我が降参すると思うたからブヒか? 」
再度、大地が爆ぜる。
依然衰えぬ速度で麗かな日和に迫ると剛腕振るった、流石に片手では先程のレベルの防御は行えない。
吹き飛ばされ、荒野に叩き付けられた。
同時に鉄の猪の豚鼻と口から泡立った血が溢れ出る。
「どうしたブヒか悪魔王。これでは差し違えるくらいなら出来てしまうブヒよ」
「けほ、おいおい。君死んじゃうぜ」
「悪魔王ともあろう物がどうしたと言うブヒか? てっきり弱体化の影響で消極的なのだと思ったブヒが、まるで我を殺したく無いような言動……不可解ブヒ」
互いに血を拭い、向かい合う。
ご名答。
麗かな日和はこのオークを殺したく無い。
何故なら和也が悲しむかも知れないから、もし殺さずに済むならそうしたい。
まあシンプルに苦戦してると言うのもあるが。
「舐めるのも大概にするブヒよ。ここは戦場、そして我らは敵同士ブヒ」
「……そうだね」
後悔するなよ。
しても辞めないから。
鉄の猪の発破を受けた麗かな日和が……笑う。
それはもう愉しそうに。
悪意が形を成したかの如く、粘度の高いドロリとした笑顔。
背から黒い羽毛が飛び出して、歪な翼を形成する。
健康的な小麦色の肌は、同じく艶やかな黒い羽によって覆われた。
「あぁ……ゾクゾクする」
一回り膨れ、人型を保てなくなった悪魔が、唯一変わらない美しい顔で悍ましく笑った。
これこそが、和也によって力を過剰供給された悪魔王の真なる姿。
麗かな日和という爽やかな名前が薄っぺらい、正しく邪なる瞳の王。
悪辣非道な悪魔の姿であった。
「さて、どうしたくれたものか」
「く、ククブヒ」
流石に、これ程の変態には鉄の猪も冷や汗を流す。
感じる魔力も桁違いに膨らんでいた。
封印前と謙遜無い、或いはそれ以上の威圧感を放っている。
「上等ブヒ! 父祖よ! 我の戦い様をとくとご覧あれ! 」
三度、血を吐きながら大地を蹴った鉄の猪。
魔王より魔王らしく、それを迎え撃つ悪魔王。
「馬鹿ぁ! 」
突然、鉄の猪は横合いから強く押し出されて体勢を崩されてしまった。
転がって、素早く立ち上がり乱入者を見据える。
「……人間? 」
美しいブロンドの髪を靡かせ、強気に目尻を吊り上げて。
磨かれた甲冑を誇らしげに纏い、装飾剣を構える。
「私の名はベルライト! 助太刀するぞ、と言うかずっと無視しおって! 」
「君さあ、空気読めよ」
麗かな日和は味方である、と言う事になっているベルライトを歪に長い手で摘み上げると眼前に掲げた。
「悪魔王、貴様は勘違いしている! 」
「は? 」
「なにシリアスしているんだ! 馬鹿者! 」
暴れ回って麗かな日和の顔面を蹴っ飛ばすと、地面に降り立ち剣を突き付けた。
「喧嘩しに来たのだ、私達は! それを、そんな悪役みたいた顔をし腐ってからに! 」
「う、うん? 」
「殺し殺されをしに来たのではない。悪魔王、もし殺さなければ倒せない程の強敵だと言うなら私が助太刀する! 」
だから、もっと気持ち良く喧嘩しようぜとベルライトが笑った。
その無謀で空気の読めない、底抜けな明るさに麗かな日和は和也の影を見る。
「はぁ、彼に感化される奴多すぎだろう……」
まあ一番は自分かな。
と、蹴られた顔面を撫でながら独り言を漏らした。
「いいよ。第二ラウンド、やろっか。悪いけどオーク君、此処からは好き勝手やらしてもらうよ」
「声出していこーぜ! 」
地下では和也と他数名、空では月を見る者と爪に引っ掛かり飛んでいった誰か。
荒野には麗かな日和とベルライトが残されていた。
春の息吹はいつの間にか走り出してもう居ない。
まあ、麗かな日和自身、チームプレイなんてする気が無いから別に問題は無いので、全く気にしていなかった。
「……悪魔王、邪なる瞳の王とお見受けするブヒ」
大地を割り一行を分断させた張本人……豚? 鉄の猪は鋭い目つきのまま、頭を下げた。
「ぶひ……嫌な記憶を思い出すなぁ。そうだよ、そうだけど名は改めた」
「貴殿は人類を敵視していたはずブヒ。何故、我らに刃を向けるブヒ? 」
「うーん、別に人類の事が好きになった訳じゃないよ。和也の事は好きだけどね」
和也、と言う名を聞いて鉄の猪が眉を顰めた。
彼はその名を知っている。
その名が、二代目魔王の名であった事を知っている。
「……」
「あ。今、思考を放棄したね。脳筋種族の悪い癖だ」
「どうでも良い事ブヒ! まさか、説教をしに遥々来た訳ではないブヒよな! 」
「和也の付き添い……ちょっと違うね。彼の仲間として、彼の喧嘩に付き合いに来た」
喧嘩という文化はオークにもある。
大抵、下らない事が発端で発生する意地と意地のぶつかり合い。
彼らはそれをしに来たのだと言う。
「……馬鹿馬鹿しいブヒ」
「馬鹿だからね。彼も、僕らも」
馬鹿馬鹿しいと吐き捨てる鉄の猪だったが、その心中にあるのは、羨望。
和也らを羨んだ。
何のしがらみ無く、自分の信じる物や人の為にこんな馬鹿げた所まで来る事が出来る事を。
それを態々口に出して揚げ足を取る程、悪魔王も無粋では無い
いや……正直めっちゃ無粋だが今回は見逃した。
揚げ足取ってマウント取って煽り倒してやりたい所をぐっと我慢した。
「それで、まさか貴様一体で我と戦うつもりブヒか? 」
何故なら、鉄の猪が強敵であるからだ。
「君程度に、僕が苦戦すると? 」
悪魔王は超越者として名を連ねる魔物だ、自他ともに認める世界最高峰の魔法使い。
だが、その能力の殆どを自らの愉悦の為に注ぎ込んでいるが故に、直接的な戦闘能力は悪魔の中でも中位程しかない。
しかも封印明けだ。
わずかに残った魔力でも十分強力だが、相手が鉄の猪程ともなると些か厳しいと言わざるを得ない。
だから虚勢を張る。
お前なんて大した事ないぜ、お前の見積もりなんて甘々だぜって鼻で笑い。
手を翳した。
「宙に満ちる無よ」
「させないブヒ! 」
大地が爆ぜる程の踏み込みと共に、鉄の猪が駆け出した。
詠唱を続けたまま、肉弾戦にて麗かな日和が応じる。
「悪辣なる魔女が拐かす」
大木の様な剛腕を、麗かな日和は細腕でいなして距離を取った。
骨が軋む、折れる寸前で手を引いたとは言え暫く腕は使い物にならないだろう。
麗かな日和の予想外の近接戦闘能力に面食らうも、鉄の猪はさらに追撃をかける。
「ブヒッ」
正拳突き。
大地すら砕く圧倒的パワーで放たれたそれを、またしても麗かな日和が弾き飛ばした。
流石に腕は使い物にならなくなるが、いよいよ鉄の猪は驚愕に攻撃の手を緩めてしまう。
「私の言う通りになれ」
何が起きるか、身構えていた鉄の猪が突然咳き込み始めた。
暫くそうして、抑えていた手を見ると微かに血が付着している。
体の挙動にも違和感があり、鉄の猪は顔を顰めた。
「昔取った杵柄と言うやつさ、筋力こそ無いが防御には事足りるだろう。魔法使いの弱点なんてとっくの昔に克服済みさ、坊や」
「激しく運動しながらの魔法行使、マナの観察により判別出来るはずの看破を妨害……流石ブヒな」
「そうだろう。主要な臓器を幾つか損傷させた、あまり激しく動くと回復する事も出来ないほどに傷が広がり、死んでしまうよ」
短い詠唱で、絶大の効果。
対象を生物に限定するとは言え、コストパフォーマンス良く効率的に相手を殺傷する事が出来る。
世界広しと言えど、同じ芸当が出来るのはロリエルくらいだろう。
しかし、その離れ業を鉄の猪は鼻で笑った。
「ブヒ、それで? 」
「あぁ? 」
「まさか追撃しないのは、我が降参すると思うたからブヒか? 」
再度、大地が爆ぜる。
依然衰えぬ速度で麗かな日和に迫ると剛腕振るった、流石に片手では先程のレベルの防御は行えない。
吹き飛ばされ、荒野に叩き付けられた。
同時に鉄の猪の豚鼻と口から泡立った血が溢れ出る。
「どうしたブヒか悪魔王。これでは差し違えるくらいなら出来てしまうブヒよ」
「けほ、おいおい。君死んじゃうぜ」
「悪魔王ともあろう物がどうしたと言うブヒか? てっきり弱体化の影響で消極的なのだと思ったブヒが、まるで我を殺したく無いような言動……不可解ブヒ」
互いに血を拭い、向かい合う。
ご名答。
麗かな日和はこのオークを殺したく無い。
何故なら和也が悲しむかも知れないから、もし殺さずに済むならそうしたい。
まあシンプルに苦戦してると言うのもあるが。
「舐めるのも大概にするブヒよ。ここは戦場、そして我らは敵同士ブヒ」
「……そうだね」
後悔するなよ。
しても辞めないから。
鉄の猪の発破を受けた麗かな日和が……笑う。
それはもう愉しそうに。
悪意が形を成したかの如く、粘度の高いドロリとした笑顔。
背から黒い羽毛が飛び出して、歪な翼を形成する。
健康的な小麦色の肌は、同じく艶やかな黒い羽によって覆われた。
「あぁ……ゾクゾクする」
一回り膨れ、人型を保てなくなった悪魔が、唯一変わらない美しい顔で悍ましく笑った。
これこそが、和也によって力を過剰供給された悪魔王の真なる姿。
麗かな日和という爽やかな名前が薄っぺらい、正しく邪なる瞳の王。
悪辣非道な悪魔の姿であった。
「さて、どうしたくれたものか」
「く、ククブヒ」
流石に、これ程の変態には鉄の猪も冷や汗を流す。
感じる魔力も桁違いに膨らんでいた。
封印前と謙遜無い、或いはそれ以上の威圧感を放っている。
「上等ブヒ! 父祖よ! 我の戦い様をとくとご覧あれ! 」
三度、血を吐きながら大地を蹴った鉄の猪。
魔王より魔王らしく、それを迎え撃つ悪魔王。
「馬鹿ぁ! 」
突然、鉄の猪は横合いから強く押し出されて体勢を崩されてしまった。
転がって、素早く立ち上がり乱入者を見据える。
「……人間? 」
美しいブロンドの髪を靡かせ、強気に目尻を吊り上げて。
磨かれた甲冑を誇らしげに纏い、装飾剣を構える。
「私の名はベルライト! 助太刀するぞ、と言うかずっと無視しおって! 」
「君さあ、空気読めよ」
麗かな日和は味方である、と言う事になっているベルライトを歪に長い手で摘み上げると眼前に掲げた。
「悪魔王、貴様は勘違いしている! 」
「は? 」
「なにシリアスしているんだ! 馬鹿者! 」
暴れ回って麗かな日和の顔面を蹴っ飛ばすと、地面に降り立ち剣を突き付けた。
「喧嘩しに来たのだ、私達は! それを、そんな悪役みたいた顔をし腐ってからに! 」
「う、うん? 」
「殺し殺されをしに来たのではない。悪魔王、もし殺さなければ倒せない程の強敵だと言うなら私が助太刀する! 」
だから、もっと気持ち良く喧嘩しようぜとベルライトが笑った。
その無謀で空気の読めない、底抜けな明るさに麗かな日和は和也の影を見る。
「はぁ、彼に感化される奴多すぎだろう……」
まあ一番は自分かな。
と、蹴られた顔面を撫でながら独り言を漏らした。
「いいよ。第二ラウンド、やろっか。悪いけどオーク君、此処からは好き勝手やらしてもらうよ」
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