2代目魔王と愉快な仲間たち

助兵衛

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60話 鉄の猪

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オーク族最強の戦士、鉄の猪は困惑していた。

「改めて名乗ろう、私は帝国兵士、ベルライト! 」

突然現れ凛々しく剣の切先を向ける女騎士、彼女に。

「さぁ、何処からでもかかっこい! 」

彼女はこの頂上決戦とも表現出来るこの荒野において、余り。

「来ないなら私から……きゃん! 」

弱い。
軽く振った拳、そこから発せられる風圧だけで体勢を崩す様では話ならない。

この場に置いて、世界の命運を決する様な戦場において。
この女騎士は余りに弱かった。

「悪魔王、これはどう言う事ブヒか。こんな子娘を巻き込んでどうするつもりブヒ」

「クスクス、見てなかったのかい。勝手に飛び込んできたんだよ」

つい先程までの怖気が走る威圧感を放っていたのが嘘のように、悪魔王は快活に笑って女騎士を静観していた。

姿や魔力こそ依然、恐ろしい物だが殺気がまるで感じられない。

「くぅ、流石だ」

「おい子娘、もうやめるブヒ」

「……? 」

人類言語というのは本当に不便だ。
魔物の様に、種を跨いでも通ずる言語があればまだ楽なのに。

「ブッヒ……悪魔王! 今から言う事を通訳するブヒ! 」




ただのヴィセア帝国兵士。
宝具保管庫の責任者であるベルライト。

眼前にて戦闘の構えすら解いたオーク。
彼から発せられる威圧感に押し潰されそうになりながらも、何とか耐えていた。

「やぁ、お嬢さん。そこの彼から通訳を頼まれたから、そっくりそのまま伝えるよ」

面白おかしく笑いながら、麗かな日和が声をかける。
ベルライトは顔を向けずに、返事だけを返した。

悪魔に顔は向けれない。
目を合わせたら小便ちびっちまうからだ。

一瞬、啖呵を切る際に2人は目を合わせた。
互いに敵意は無かったものの、超越者という称号に恥じない圧倒的な存在感と邪悪な瞳。
アレにもう一度見据えられたら、今度こそ彼女は卒倒してしまうだろう。

ある意味、味方と言う事になっているあの悪魔の方が余程手強い敵だ。

そもそもビジュアルとかキャラが変わり過ぎていて、ベルライトすっごく混乱中。

道中話した時はもっと快活で爽やかな笑顔の女性だったはずなのに。
今は御伽噺の中から飛び出して来た、子どもを脅かす魔女そのものだ。

まあ実際、幾つもの御伽噺の元になった魔女なのだが。
その事をベルライトはまだ知らない。

ともかく、彼女は今とてつもない背後からの恐怖に圧されながら闘っていた。

「えー、ごほん。子娘、剣を納め此処を去れ……」

そんな、空前絶後の恐怖が。

「此処はお前にはまだ早い、剣を磨き、精神を鍛えてから出直してくる事だ……だって。本当はブヒ、ってついてるけど絶対言わないから」

煮え沸るマグマの様な怒りで燃やし尽くされる。

「ふ……」

構えを解き、もうベルライトを敵とすら見ていないオークに向かって飛び込んで行った。

「ふざけるな! 」

当然、無謀な突撃に終わる。
鋭く振るった剣は片手間に弾かれ、押し返された。

「ブヒ」
 
実力差は圧倒的。
ベルライトも帝国兵士の平均よりは強いが、一対一でオーク最強の戦士を相手取れるレベルには達していない。

それでも、ベルライトは剣を構え直す。

「さっきからやる気のない防御ばかり……ふざけるな! 」

「ね、いい事教えてあげようか。そいつ、実は致命傷一歩手前で激しく動くとヤバいんだよ」

「なに? 先程の魔法、そんなに強力な物だったのか」

ベルライトの目には、詠唱が終わると同時にオークが暫く咳き込んだ程度にしか見えていなかった。

実際は、麗かな日和が言う様に鉄の猪もギリギリ立っているだけに過ぎない。
軽く押せば倒れてしまう程に弱っている。

ただ、軽く押す事すらさせてくれない。

「勝利条件の整理をしようか。あのオークは僕らを退かせたい、僕らは彼を殺さずに戦闘不能にしたい……幸いにも彼はボロボロ、逃げ回りながら石でも投げれば勝てる状況だ」

「……」

「でも、それじゃ嫌なんだろう」

「当たり前だ! それでは私がわざわざ割って入った意味がない! 」

馬鹿な奴。
麗かな日和はベルライトを鼻で笑うも、心の中では受け入れつつあった。

やはり、彼女はあの馬鹿と似ている。

「細工して、オークと君がマトモに戦える様にしてやる事は出来る。それでも、まだまだ実力差はあるだろうし、すっごく苦しむと思うけど……どう? 」

「……正々堂々の範囲か? 」

「うーん、ギリかな」

「なら、ヨシ! やってくれ! 」

麗かな日和が魔力を精製する。
ベルライトの肩に手を触れ、慎重に魔法を組み立て始めた。

「ブヒ? 」

直接攻撃を行う魔法ではない、そこまでは鉄の猪にも分かる。
ベルライトの傷を癒したり強化したりする物でもない。
まるで実態が掴めず、とにかく様子見に徹するしか出来ないでいた。

「宙に満ちる無よ」

「悪辣なる魔女が拐かす」

「病めるときも、健やかなる時も」

私の言う通りになれアブラ・カタブラ

魔法が発動する。
発動した、と言う事しか鉄の猪には分からない。

「む? 何も起きないじゃ……」

突然、ベルライトが口を抑えて蹲った。
暫く咳き込み、顔を青くして立ち上がる。

「あ、悪魔王。何をした? 」

「まさか効果を聞かずにやれと言うとは思わなかったよ。それはね、君とそこのオークを平等に傷付ける魔法さ」

ベルライトの掌にはべっとりと血が付着していた。
体内にある異常を認めて、顰めっ面を作る。

「君が傷付けば彼も、彼が傷付けば君も、平等にダメージを受ける。これにより、君程度でも彼と同じ土俵に立つ事が出来るようになった。つまりは、根性の比べ合いだ」

「凄い魔法だ。チョイスも凄く性格悪いが……お腹の中がグチャグチャになったようだぞ」

「なってるよ」

さて、とベルライトは剣を腰から外す。
鉄の猪へと距離を詰め、拳を構えた。

まだ魔法の効果を理解していない彼に対して渾身の拳を放つ。
ガードすらしない……だが。

「ン、ブビィ!? 」

予想を遥かに超えた衝撃。
殴られた腹を抑え、鉄の猪が困惑して後退る。

「ぶほ! 」

全く同じタイミングで、殴ったはずのベルライトが腹を抑えて蹲った。
鉄の猪は更に困惑する。

「ま、まさか……攻撃力も平等だったりするか? 」

「お、よく分かったね。君本来の力じゃ鉄の猪には傷1つ付かなくてゲー……勝負にならないからね。言っておくけど僕はこの魔法の維持で手一杯だから手伝えないよ」

「い、今ゲームって言おうとしたな! 」

ひとしきり騒いだ後、ベルライトが立ち上がって再度拳を構える。

「まるで実戦向きの魔法ではないが……まぁ、ゲームというのもあながち間違いでは無いな」

「ブヒィ……」

「チキンレースだ。参ったと言うか、何方かが起き上がれなくなったら決着としよう。しようったらしよう」

ようやくルールを、自らの置かれた状況を理解した鉄の猪が距離を取る。
だが、ダメージは深く足取りは覚束無い。

少しの距離を後退するのにも手間取る鉄の猪に向けて一気に距離を詰め、ベルライトは再度拳を振るった。

遅く鈍く、話にもならないパンチ。

しかし、2人にとってはこれ以上なく重い。

「ぐうぅ……」

「ンブヒ」

今度は鉄の猪の方が少し早く立ち直り、防御の姿勢を取った。
慌ててベルライトも続く。

「ブッヒッヒ」

この上ない苦痛と苦境の最中にあるはずなのに。

「もっと歯見せて笑え! どんどん行くぞ! 」

2人は馬鹿みたいに笑って拳を振り上げた。









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