2代目魔王と愉快な仲間たち

助兵衛

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64話 しーらない!

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「白状せい! 」

「ふーんだ」

「ネタはあがってんだぞ! 」

「しらなーい」

怪我を自力で治した2体に揉みくちゃにされながら、和也が凄んでみせる。

精一杯睨むも、ロリエルは手を挙げて拗ねた風にそっぽ向くだけだった。

「カズヤカズヤこいつ焼いて食って良いか私の鱗が割れてしまったのだ許せんぞ
魔力の多いやつは美味いんだ」

「和也、拷問なら任せてよ。僕も結構鬱憤たまってるんだ」

火を吹きながら威嚇する月を見る者、手をワキワキさせながら暗く笑う麗らかな日和。
2体と和也、ロリエルの間に愛歌が割って入る。

「まぁまぁお兄様、それに皆さん。ロリエル様は降参した、それでいいのですよね? その上で、何も知らないから教える事はないと……通るなら好きにしろと」

「ふーんだ。そうね、私の負けよ! 煮るなり焼くなり好きになさい! 勝手に通ればー」

ロリエルは拗ねた顔のまま、大の字で荒野に転がると手足をばたつかせる。
先程までの迫力は何処に行ったのか、まるで見た目通りの年齢になってしまったかのようだ。

「いや……でも、良いの? 俺ら通してさ」

「なあに? 私の心配をしてるの? 」

荒野、乾燥してひび割れた地面の隙間に潜り込んでいく虫を寝転んで観察しながらロリエルが適当そうに答える。

「私は精一杯戦って、負けたから君達を通してしまったの。後の事は知らなーい」

「精一杯……」

愛歌とロリエルを交互に見比べ、ついさっき決着した戦いを思い返す。
結果的には愛歌が勝った。
でもそれは、ロリエル自身が敗北を宣言したからだ。

終始ロリエルは愛歌だけでなく、和也ら全員を圧倒し続けたが……決着の経緯も含め、彼女が本気を出していたのは到底思えない。

今もそうだ。
ロリエルは傷一つ無く、ノーアクションで魔法を行使出来る能力は一切失われていない。
彼女は未だに人類最強の一角である。

「……帝国を裏切って、今度は魔王も裏切るんすか? 」

「酷い良い草ねー! それは私だけに向けられたセリフ? 私が余裕そうに見えるから、背中から撃たれないか怖くって聞いちゃうのかしら」

「え? 」

「緑の刃も、鉄の猪も、風の鏃も……ドラゴン共は置いとくとして……彼らも私と同じよ? 」

和也が振り返ると、魔物達がキョトンとした顔で見つめ返してくる。
少し離れた位置から、話がどういう風に纏まるかを見守っている様だった。

そこに、殺し合った直後の緊張感は存在しない。

「夕陽の中、河原で殴り合えば皆お友達? 青臭くっていいわよね、若い頃を思い出すわ」

「なんかトゲあるっすよね。あんたも潔く負けを認めてんじゃん」

「まーね。ほら」

起き上がったロリエルは土を払うと、古ぼけた紙を差し出した。
紙は劣化して変色し、文字は光が反射してキラキラと輝いている。

不思議な雰囲気の漂うそれを和也は受け取り、マジマジと観察した。
何が書かれているかは分からない。

「なにこれ」

「宝具よ。帝国に返しといて」

「えー……」

「私が帝国を裏切ったのは魔王の持つ魔法、魔導の真髄を知る為。その為にはその宝具が必要だったから持ってたけど、もう要らないから」

宝具をとりあえず、保管庫の管理者でもあるベルライトに渡す。
おっかなびっくり受け取った彼女は、仕方無くソレを布で包んで荷物に突っ込んだ。

「用無しになったら魔王を裏切るんだ」

「だからなに? 文句があるならまだやる? 今度はボコボコにしてやるわよ? 」

「……」

「ホントにやりそう……馬鹿ね」

ロリエルの予想は的中していた。
本当に飛び出て殴り掛かる、まではしないものの和也はロリエルを睨み付ける。

この危うい均衡、お情けで拾われてもらった勝利を手放す事だって十分に有り得た。

馬鹿だし。


「俺、アイツがムカつくから殴りに来たんです。あんたみたいな人が、アイツを利用するのは同じくらいムカつくんです」

「ふーん……」

「だからって、此処でそんな事言っても話が進まないのは分かってます。だからあんたとの話はこれでお終いにします」

じゃ、と言って去ろうとする和也。
その手を、ロリエルの小さな手がギュッと握り止めた。

子ども特有の高い体温が和也の分厚くなった掌越しに伝わってくる。
あとちょっと湿ってる。

「カズヤ君、お婆ちゃんからお節介してあげる」

「え? なに? 」

伝わる温もりが少し増した。
掌から心臓へと、血液と共に何かが和也に流れ込んでくる。

反射的に振り払おうとした和也だったが、見上げるロリエルと目が合ってそんな気も起きなくなった。

幼い顔のままなのに。
まるで孫に贈り物を手渡す老婆の様に見えたのだ。

和也の祖母は生まれた時には死んでいたが、会った事も無い祖母の影をロリエルに見た……気がした。
あと幼女に母性を見出すのはちょっと危ない気がする。

「私が一度に蓄える事の出来るありったけの魔力。全部君にあげるわね」

懐かしい魔力の感覚。
かつて和也の身に溢れ、数々の騒動を巻き起こした魔力が再びその身宿った。
1度きりではあるが、大魔法使いの力を宿したとも言える。

「普通なら他人に魔力なんて渡せないけれど、君は器だけは大きいからね。後は私の技術で……ほら、この通り」

ロリエルが手を離す頃には、和也の中にたっぷりと魔力が充填されていた。
とは言え、和也は魔法が使えない。

「あの、嬉しいけど……俺魔法使えない……」

「勇者の骨髄液は魔法の知識も与えてくれるはずだけれど?  」

初耳だった、和也は目を丸くする。
何十回と死ぬ度に飲んできたが、そんな事は一度もなかった。

「うーん……才能無さ過ぎ。根気よく教えたら……でも労力に見合う成果は期待出来ないわねぇ」

「上げて落とされて、また上げられたと思ったら叩き付けられる俺の気持ちにもなってくだせぇよ……」

まぁなんやかんや。
すっかり傷心の和也であったが、懐かしい魔力が戻ってきたのは少しうれしい。

「私の魔力を完全に受け渡したわ。戦闘が行えるレベルにまで回復するとなると何時間かは必要かしらね、これなら君も安心して私を見逃せるでしょう? 」

「……ここまでされたら、流石にもう疑いませんよ」

魔法使いが魔力を手放すと言う事は、剣士が剣を手放す事よりもずっと重大な意味を持つ。
両手足を縛り、上手く動けなくなるまで殴り続けてようやく釣り合いが取れるだろう。

「うんうん。じゃあ、後は頑張ってね! 私は適当に観戦させてもらうわ」

「はぁ……え、逃げないんですか」

「まあね。どうせ魔王が本気で殺しに来たら逃げる意味なんてないし」

どうせなら味方になってくれたら心強いが、流石にそこまで露骨に裏切ってはくれないみたいだった。

彼女は魔王と和也らの決戦を、あくまで傍観する事を選んだらしい。
多少和也に力を貸したものの、手出しはしないようだ。

「……本当は見届けたいんでしょ」

「しーらない! 私裏切り者だもの」





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