2代目魔王と愉快な仲間たち

助兵衛

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65話 よっしゃ、最後の戦いだ

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魔王は瞳を閉じて、黙々と魂と肉体の調整を行っていた。

城に残っている魔物達は皆、大陸各地に散っている仲間を勧誘しに出て、或いは和也らを迎え撃ちに出た。
この城にはもう戦力となる魔物は一体も存在していない。

「……」

魔王はもう何日も玉座の間からは出ず、それどころか姿勢すら変えずに只管瞑想に耽っている。

しかし、何重にも張り巡らせた感知網は城の内部、外部に留まらず大陸の半分程を覆い尽くし絶えず情報を魔王へと伝え続けていた。

目を通じて景色を見たり、耳を通じて音を聞いたりするのは効率が悪い。
故に魔王は目となり耳となり、時に己の意志を反映する拳となる感知網を大陸に張り巡らせている。

もはや魔王は生物としての領域を超越しつつあり、目指す先には彼の考える魔物にとっての理想の世界が……あるはずだ。

異界の神を完全に取り込めば、誰も彼を止められなくなるだろう。

「来たか」

しかし、それを阻止すべく。
進藤和也が現れた。

ノックなんかありゃしない。
重い扉を乱暴に蹴破り、ぶち壊して、勝手にもズカズカと。

「ふぅー、広いわりに警備とか居ねえのな……来たぜ」

正しく言うならば、和也と仲間達が現れた。
決して相容れないはずの魔物と帝国兵士が徒党を組み、和也と共に魔王の野望を
打ち砕くべく。

見れば酷い有様だ。
怪我をしていない者は1人もおらず、立っているのすらやっとの者もいる。
だと言うのに、自らの敗北なぞまるで考えにない馬鹿どもがこれでもかと雁首揃えて現れて。

魔王は久しぶりに、玉座から立ち上がる。

「ロリエル、途中からやる気が無くなったのは分かっていたけれど。まさか裏切るとは思わなかった」

「ふふ、見ての通り手出しなんか出来ないから隅っこで見ているわよ。後は若い人同士ごゆっくり」

ロリエルは悪戯っぽく笑うと、宣言通り部屋の隅にある適当な段差に腰掛けて、呑気に観戦を開始する。

「……えーと、らしいです。じゃ、やろっか」

なんて、精一杯おどけて見せる和也。
内心は冷や汗ダラダラで、何とか平静を取り繕っていた。

ドラゴン、悪魔王、そういった超常の存在と初めて遭遇した時と似た感覚が、それら以上に押し寄せる。
本当に、あの魔王と自分は同じ種族なのかと和也は疑わずにはいられなかった。

同時に哀れにも思えた。

「やるならやればいい。龍も悪魔も、勇者の後継者も……神の絞りカス、君もだ和也」

次に怒りが湧く。

生まれ持った力を、彼がこうなるまで使わせた周りの奴らに対して。
全て諦めてしまった彼に対して

「うし、やるか」

「うむ」

月を見る者の背に跨り手綱を掴んだ。
彼女もそれに応える。

「うん? おいおい、室内で騎馬戦でもするつもりなのか」

当然、騎馬の利は広いとはいえ室内で活かせる物では無い。
この世界においても、騎馬は勿論野外にて猛威を振るってきた、室内で騎乗するなぞ正気の沙汰では無い。

知らんけど。

「グウオオオオオオオ!!! 」

月を見る者が吠える。

魔力を伴った咆哮は威嚇の域を超越し、物理的な破壊力を伴って室内に響き渡る。

玉座の間に存在する突進の邪魔となる物体を全て……柱すら吹き飛ばし、龍は姿勢を低く構え直した。

「掃除は俺がやるんだ。無茶に壊すなよ」

「なら、外にぶっ飛ばしてやる! 」

いけ! と言う和也の号令と共に、月を見る者が突進を開始する。

「おいおい」

そりゃあ、デカくて重くて、ドラゴンだ。

瞬間火力ならアークライト・シーザーだって凌駕する。
突進は何にも阻まれる事無く、こっそり後方の味方とかもぶっ飛ばして、魔王に最大スピードで激突。

魔王は両手を前に出して受け止めようとしたが、物理法則が許さない。
猛烈な運動エネルギーに弾かれて魔王諸共、全員が魔王城の外へと吹き飛ばされた。

「この城作るのに苦労したんだぞ、何年もかかったし、何人も死んだのに」

普通なら、なんて常識との比較はもはや何の意味もない。

人間サイズ、人間並の体重、全てが普通な魔王はこの音速の突進を身一つで耐え抜き、何事も無かったかのように荒野に着地する。

土埃を払うと、眠そうな瞳を和也に向けた。
未だに敵意は感じられない。

「和也、俺は別にお前の世界にまでちょっかいを出すつもりは無い。帰れば追わない、生かしたい奴は連れて帰ればいい。何が気に入らないんだ? 」

月を見る者の背に乗ったまま、和也は魔王を指差す。

「お前だ」

突進では何の効果も無かった。
ならば、と月を見る者は口内に魔力を圧縮する。

「魔物達やロリエルを退けて、そのまま俺に勝てるつもりなのか」

魔王からの妨害は無かった。
魔力の圧縮は限界に達し、太陽の如く輝き出すと、咆哮と共にそれが放たれる。

思わず目を閉じた和也、瞼の上から光が瞳を焼いた。

「……騎乗具が無かったら目と耳やられてたな」

騎乗しているドラゴンが放った光や音からの保護も機能に入っているらしく、和也は何とか見える様になった目で魔王を探す。

「和也、お前が1番知っているはずだろう」

当然の様に魔王は無事で、地獄みたいな爆心地で平然と立っていた。

「神の権能で命を幾つかストックしている。調整が不完全だから無限とはいかないけど……俺を何回も殺せると思うなよ」

「元々殺すつもりはないし問題ねーし」

和也は未だにやる気満々、鼻息荒く魔王を睨んだ。
だが跨る月を見る者は、尻尾を不安げに和也へと巻き付ける。

「おわ」

冷たい尻尾は微かに震えていた。

「グルルル」

精一杯唸るけれど、滲む恐怖が隠せるものでは無い。

世界最強種、ドラゴン。
数々の名で呼ばれ恐怖と暴力の象徴として君臨してきた彼女の脳裏に、拭い切れぬ敗北の屈辱と恐怖が溢れ出ていた。

「大丈夫か? 」

和也と出会ってからは生涯で最も充実した時間を過ごす事が出来た。
しかし、その短い期間に生涯初の敗北、大切な物を守れなかった絶望……つい先程もロリエルに敗けてきたばかりだ。

怖くて堪らなくて、魔王が実際に見えている以上に大きく、強く見える。
本当に恐ろしいのはそれが過大評価でも何でもなく、彼は人類として見ても魔物として見ても最強にして最悪の存在である事だ。

「大丈夫だ。俺がいるし、皆もいる」

あくまでぼんやりと戦闘態勢を取らない魔王の元に、彼方から槍が飛来する。
槍、人類の規格で考えるならそう表現するしか出来ない巨大な矢が何十本と降り注いだ。

土煙を巻き上げ、大地を穿つ。

「何の真似だよ」

自分に命中する軌道の矢のみを素手で弾いて、魔王が矢の飛来源……城の麓で次の矢を番えるケンタウロス達を見据えた。

刺さった矢を引き抜き、ケンタウロス達に向けて投げ返そうとした魔王の腕を緑色の閃光が切り飛ばす。
体勢を崩した所を、丸太の様な剛腕が撃ち抜いた。

「……緑の刃、鉄の猪まで」

淡い光を纏って腕を瞬時に再生させ、2体から距離を取る。
ダメージが全く無い訳では無いが、直ちに活力を与える彼自身の異能により回復してしまった。

無傷の魔王が、辛そうな表情で魔物達を見る。

「そっか、今回はそういう趣向なんだな。大丈夫、大丈夫だ、俺がいるから、みんな俺が救ってやるから」

魔王が初めて戦う意志を見せた。

姿勢は一切変わらない、ただ、狂気じみた殺気の篭った視線を和也へと向ける。

「ようやくこっちを見たな」

「まずはお前からだ、和也」



















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