2代目魔王と愉快な仲間たち

助兵衛

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67話 第2ラウンド

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進藤和也は喧嘩なんて1度もした事がない。
それどころか、他者と意見が食い違いぶつかり合った事なんて一度もなかった。
そんな人生を送ってきた。

生まれてこのかた、屋敷から1歩も出ること無く、制限が多いものの蝶よ花よと育てられてきた訳で、意見のぶつかり合いなんて1度も経験した事はなかった。

この異世界に来て、波乱の連続ではあったが喧嘩、と言える行為は未だに未経験であった。
良くも悪くも、対等な相手が少なかった事も理由になる。

そして、魔王も似たようなものだった。
自らの異能を自覚する以前は魔物の奴隷として育てられ、誰かの意見や行動に反抗するという思想は幼い頃から奪われて育ってきた。

異能を見出され、魔王が魔王となってからも魔物と意見がぶつかりあった事は無い。
ひたすら、周りの魔物達の機嫌を伺いつつ生きてきた。
王なんて、人が聞けば笑うような称号だ。

見かけが変わっただけで、魔物の奴隷として戦い続けてきた。
何の不満も漏らさずに。

だって、そう育てられてきたから。

「ムカつくんだよそもそも! 勝手にこんな世界に連れて来やがってよぉ! 俺の気持ちにもなれよ! お前のせいで俺元の世界で無職じゃん! 」

「元々ニートみたいなもんじゃないか! ゴチャゴチャと……煩いんだよお前は! 」

和也にはもはや、一般人に毛が生えた程度の運動能力しか残っていない。
アークライト仕込みの獣じみた動きと付け焼き刃の格闘術で、魔王にひたすら攻撃を与え続ける。

超常の存在、魔王。
彼はダメージなんて負うはずがない。

なのに、魔王は和也の打撃に微かに体勢を崩して瓦礫に手を付いた。

「顎に効くだろ。お爺ちゃん直伝、魔法とかそういうバリア越しパンチ……略して……えー、バンチ」

魔法による防壁は使い手が高位になればなるほど、無駄を省く傾向にある。

「バンチ? 」

宙に舞う埃さえもいちいち弾いていれば魔力の消費は尋常では無く、また操作にかかる負担も甚大な物となる。
大抵の魔法使いは予め設定した内容に基づき防壁を作動させ、攻撃を阻むという訳だ。

魔王とて例外では無い。
彼によって緻密にプログラミングされた防壁は、本来なら和也程度の人間が貫けるものでは無い。

しかし、芸術の域にまで達する魔王の魔法技術は、防壁の無駄を省き過ぎた。
普通なら想定しようもない、和也の拳を攻撃と認識出来ずに対応が一瞬遅れる。

その隙を狙い、和也は拳を防壁に添えて……防壁と対象の頭部を揺らすのだ。

様々な呼び名がある。
鎧通しやら浸透拳やらとよばれる技術、だがあえて和也やクソダセェ名前で呼んだ。
特に意味ない、馬鹿だし。

「ふざけた名前だ、そんなもの……」

俺だって出来るんだ。
少し得意げに、優しく拳を握ると和也の腹部に紙一重で添える。

「え? あ……」

魔王の踏み込みによって石畳が砕け散る。
強烈な踏み込みによって生み出されたエネルギーが、和也の身体に放たれた。

突然の衝撃。
内臓が全部ひっくり返ったような苦痛に、吐瀉物を撒き散らしながら和也が膝を着く。

「う……う」

「君よりずっと完成度の高い拳だ。本当はこうやるんだぞ」

「……」

「どうした? 少し内臓が傷ついたかも知れないけど、そんな……」

「……」

「お、おい! 」

いつまで経っても顔を上げない和也に、急に不安になった魔王が駆け寄る。

「うらぁ! 隙あり! おらぁ! 」

肩を掴んで、様子を見ようとした魔王の顔面に、和也の額がめり込んだ。

「バリア貫通不意打ち頭突き」

「ただの……頭突きだろうが」

鼻血を出しながら、憤怒の形相で魔王が睨む。

「とことん馬鹿にして、遊びじゃないんだぞ」

「そうだ、喧嘩はこっからだ」

魔王の怒りの拳が和也に炸裂する。

横に回転しながら壁に叩き付けられた和也は、魔王に飛びかかってめちゃくちゃに顔面を殴り付けた。

魔王はそれを引き剥がし、床に押し付けてマウントポジションを取ると和也の顔面を只管殴る。

「グラウンド……に、がてぇ! 」

無理矢理、腕を痛める無茶な挙動で抜け出し、フラフラと和也が立ち上がる。

そのまま、ふらつく足取りで魔王の顔面を殴り、そのまま一緒になって倒れ込む。

「どけニート! 」

「ぶつぞゴラあ! 」

上になったり下になったり、倒れたのか倒されたのか。
とにかく滅茶苦茶になりながら、2人は子どもみたいな喧嘩を続ける。

ただ、若干和也が優先だ。

力でも技術でも、覚悟においても何もかも魔王は和也に勝る。
だが魔王相手に、若干とはいえ優勢に立ち回れているのは……

あれである。
そう、あれだ。

先に泣いた方が強いってやつだ。
小学生レベルの喧嘩によくある、理屈じゃない気持ちの問題だ。

先生が止めるまで止まりゃしないぜ。

「うーあ、クソ」

「歯が欠けた、くそ」

和也と魔王は殴り合いが一区切り着くと、少し離れて瓦礫に腰掛ける。

「和也今のはいいパンチだった、やっこさんも相当追い詰められている」

「お兄様腹です! リバーを! 」

愛歌の差し出した水で口をゆすぎ、残りを頭から被る。

「いいかい、君が辛い時相手も辛いんだ。基本を思い出して」

「お兄様! 腹殴ってガード下がった顎をぶん殴るんです! 」

「カズヤかっこいいぞ絶対負けるんじゃないぞ勝てたらいっぱいご褒美をあげるからな」

駆け寄ってきた騒がしいセコンド達。
和也は、腫れて碌に開けなくなった目で対角線上の魔王を見つめていた。






「あっちの……セコンドは騒がしいな」

「……ふ」

セコンドってなんだよ、自分で自分にツッコミを入れる。
和也の中にいた時の感情や記憶に引っ張られるようだった。

馬鹿馬鹿しい、そう独り呟くも、答える声はない。

魔王の側には誰もいない。
独りで小休止を取った。

そうだ、馬鹿馬鹿しいのだこんな事。
結局、和也のノリに付き合ってこんな目にあっている。

もうただの人間である和也なんて、少し強めの魔法を使えば1発でグチャグチャに出来るのだ。
そうすればいい、それで終わらそう。

「ぎ……ぃ」

「うん? 」

震える小さな手、何かが差し出される。

「ギィ、グギャギャ」

小さなゴブリン。
名も無き幼いゴブリンが、魔王に水を差し出していた。

「ギャア! ギャッギャッ! 」

拙い言語で、魔王に頑張れと言う。

何を頑張ると言うのか、こんなお遊びその気になれば一瞬で片がつく。

だというのに、この若いゴブリンから差し出された水を飲むとその気が無くなっていた。

稚拙な励ましで、あてにならないアドバイスを語るゴブリン。

とても不思議だ。
さらに不思議な事に、理由を考える気には全くならなかった。

「セコンドアウトだ」

「ギィ! 」

「心配するなよ、おれは……魔王だぜ」


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