2代目魔王と愉快な仲間たち

助兵衛

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68話 決着

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魔力による制御が乱れ、末端から崩壊を始めた魔王城。
その一室、瓦礫が転がる空間に乾いた音が何度も響く。

「はぁ……はぁ……! 」

鼻血が詰まって上手く息が出来ない和也に、追い討ちの右ストレートが飛んで来た。
防御の為に上げようとした腕は鉛のように重い。
間に合わずに、そのまま顔面で魔王の拳を受ける羽目になった。

メキメキ、という嫌な音が鳴った鼻を抑える。
和也がふらついて後退ると、魔王もよろめいて互いに距離を取った。

「うおえ……」

鼻血を飲みすぎて気持ちが悪い。
込み上がる吐き気を無視して、駆け寄ると魔王の顔面に頭突きを見舞ってやった。

「があっ……」

お互いボロボロだ。
この決戦は、もはや戦いとは言えない様相となっていた

魔法を用いた高度な戦闘、宝具を用いて獣の様に襲いかかる野性的な戦闘、それらは今や、全く見る影もない。

ただ殴り、殴られ、偶に勝手に転んでダメージを蓄積させていく。

「よぉ、ちょっと、休憩したいならしても、いいぜ」

「したいなら、しろよ」

「いや、俺は別に」

偶に言葉を交わして、また殴り合う。

実質、この戦いの決着なんてとうの昔についていた。

和也の思惑に乗り、喧嘩を買った魔王の負けだ。
モヤモヤとしていた過去とか、暴走気味に永遠の戦争をやろうとしていた事とか、そういった魔王の負の感情はとっくの昔に上書きされていた。
和也がしたのだ。

いつ殴り合いをやめたっていい。
仲直りしよう、握手して、夕陽をバックに抱き合って未来へ向かって歩き出そうじゃないか。

ただし……

最後に殴るのは俺だもんね。

「おらあ! はい! 俺の勝ち! 」

「勝手に決めるな! 」

「んが! 」

頭突きを受けて転んだ魔王。
息も絶え絶えの勝利宣言をした和也の足に組み付いて、無理矢理その場に引き摺り倒す。

もう滅茶苦茶だった。
小学生だってもう少しマシな喧嘩をする。
なにせ、お互い生まれて初めてのガチ喧嘩で、加減もやり方も何も知らなかった。
勝ち負けを決める方法なんて存在しないし、ならば負けを認めさせようと躍起になるが、互いに似たような事を考えている為に泥沼の殴り合いっこが終わらない。

「……あーあ、陽がもう沈みかけだ」

「何時間こうしてた? 」

「さぁ。ってか、お前が負けを認めねえからこんな拗れてんじゃん」

どうせ反論か反撃が飛んでくるだろう、と身構えていた和也の元には、いつまで経っても何も訪れなかった。

「……? 」

様子を伺うけれど、魔王は視線を外に向けて和也を見てはいなかった。
2人が空けた穴から、もう殆ど沈んだ夕日が見える。

「そろそろ終わりにするか。ダラダラやったって仕方ない」

「……」

「なあ和也、あれをしよう。君が好きだったやつだ」

魔王の言いたい事を理解して、和也は魔王と距離を取った。
ゴキゴキと関節を鳴らして、最後の瞬間に向けて神経を研ぎ澄ます。

「俺は全力でいく、当然だよな。和也、君もそろそろ隠し玉をだせよ、知ってるんだ」

膠着した状況に痺れを切らした両者が、互いに持つ最強の技をぶつけ合い決着をつける。
よくある、定番のシチュエーション。

そんなベタな展開が和也は大好きだった。
胸を熱くして、テレビや漫画に齧り付いたものだ。

和也と暫く一体化していた魔王も知識としてはそれを知っている。
復活してすぐ、和也の影響を受ける前なら、なんて下らない非効率な戦法だと鼻で笑っただろうが……

後腐れのない決着、そういう観点から見ればとても素晴らしいと、魔王は考えを改める。

「和也、俺はな。自分と対等な存在なんて、勇者しかいないと思っていた」

少し前に1度見せた、空間が歪んで見える程の魔力。
拳をゆっくりと握って、丁寧に魔法を編み込んでいく。

「お前も、俺達と対等の存在って認めてやる。異界の神だとか、お前の優れた霊的素質は関係ない……その精神を俺は評価する」

魔物にも、人類にも、魔王と血の繋がっていたはずの家族でさえ。
魔王にここまで歩み寄り、対話した理解しようとした者はいなかった。

「凄いよお前は。だから、負けない」

ピン、と張り詰めたような緊張感。

信じられない程に圧縮された魔力が、本来有り得ない事だが、軋むような音を立てる。

「へぇー、勝つのは俺だけどね」

軋むような音は、和也からも発せられていた。

大袈裟に拳を振り被った体勢、一見不格好に見える。
互いのスタミナや、本来の力量差を鑑みるとするならば一応理には適っていた。

まあ、和也はそんな事考えちゃいない。

一瞬、一撃、この為に全てを賭ける。
それしか考えちゃいない。

馬鹿だし。

馬鹿だが、馬鹿故に、最後まで信念を曲げるつもりは毛頭ない。
勝つのは俺だ、と、馬鹿らしくも退くつもりはない。

「結局、異世界転移だってのに魔法なんて1回も使えなかったのが悔やまれるな」

和也は魔力を拳に込める。
ロリエルから渡された魔力、一滴も残さず、出し惜しみせず全てを。

「俺に出来る唯一の魔法がこれだ、最初で最後になっちゃうけど」

眩く、軋み、熱を放つ。
魔王と同等か、それ以上の魔力を拳に篭め、練り上げる。

「行くぜ、名付けて自爆パンチ」

「それ、大丈夫なのか? 」

「でーじょうぶだ。最低限指向性は持たせてる……大丈夫、多分」

死ぬことは無い、はず?

ほんとかよ、と訝しげに見つつも魔王は気持ちを切り替える。

決着だ。

「せーのでやろう、1発で終いな」

「……あぁ」

一同が固唾を呑んで、長い戦いの来る結末を待った。
周りがシン、と静まり返る。

戦闘の影響で崩れた壁の一部が崩れ、埃を巻き上げながら床を転がって……

よーいドン、なんて合図は無かったが。

示し合わしたように、瓦礫の音とほぼ同時。

2人が転びそうになりながら駆け出し、同時に拳を振り抜いた。

そう。

「!? 」

「!? 」

振り抜いたのだ。

拳と拳をぶつけ合って、相殺しあうなんて事はしなかった。

互いの必殺を、何の躊躇も無く、互いの顔面にぶち込んだ。
これだって、何も示し合わせていない。

互いに、相手の一撃を貰うつもりで当てに行った。

「おらぁ! 」

「しねごらぁ! 」

和也と魔王、共に腰から上が消失する。
突風で肉片や血が撒き散らされ、残っていた壁や柱も粉々に吹き飛んで。

即座に2人とも復活を遂げる。

魔王の能力では無い。
黒い手型のモヤが溢れて、グッと親指を立てた。

決着……?

魔王が和也を殴る。

決着! つかず! 

ルール違反だ。
唯一決めた、最後の1発と言うルールをガン無視である。

負けずと和也も魔王を殴る。

互いにルール無用、ノーガードの殴り合い。
息もせず、叫んで殴って殴られて。

何処かで、品のない神様の大笑いが聞こえた気がしたが注意を割く余裕なんて無い。

ひたすら、技術も、駆け引きも、プライドも、何もかもかなぐり捨てて殴り合い。

日が暮れた事になんて気が付かず。

何方か倒れる音と共に、全てが終わった。












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