2代目魔王と愉快な仲間たち

助兵衛

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72話 これから

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魔王と和也の喧嘩から数ヶ月。

帝国兵士と、彼らを指揮するアークライト・シーザー辺境伯は毎日の様に安全線へと出向いていた。
目的は、安全線より西を完全に封鎖する進藤愛歌の討伐。

この作戦は毎日の様に行われていたが、一度も成功していない。

愛歌はアークライトの想像を遥かに超えて成長しており、かつて人類最強と恐れられた彼でさえ、愛歌には傷一つ負わせる事は出来なくなってしまっていた。

とは言え諦める訳にもいかず、人類最大の敵である魔王を殺す為、その障害である愛歌を何とかしようと安全線に赴き……

アークライトは、いつもとあまりに違う光景に眉を顰めた。

「……おい、あれはなんだ」

近くにいた兵士に問い掛ける。
兵士もまた困惑しながら、何とか言葉を絞り出した。

「パーティ……立食会場でしょうか……あ! い、いえ申し訳ありません」

発言した兵士自身、自分の発言に自信が無いようだ。
確かに、彼の言った通りにしか表現出来ない光景が広がっている。

いつもなら愛歌が仁王立ちしている場所に、立食の為の設備が整えられていた。
準備をしているのはゴブリンだ、それが更に混乱を加速させる。

「いや、私にもそうとしか見えない」

「は、はい。ゴブリン……は、討伐しますか? 」

「いや、良い……お前の世代は知らんか、アイツは緑の刃と言って……とにかく、良い」

ゴブリン最強の戦士、緑の刃。
かつて若きアークライトを苦しめたゴブリンは、今やせっせと料理を運んでいた。

「これは一体何なんだ」

「あ! お爺ちゃん! 」

「お前は、カズヤ」

二代目魔王にして、帝国十二勇士が一人。
アークライトら、帝国から派遣された郡が討伐すべき対象として最優先に挙げる人物。

そんな彼が、ようやく会えた! とばかりに顔を輝かせて駆け寄ってくるのだ。

「カズヤ、何だこれは、何のつもりだ」

彼は帝国の信頼を裏切り、魔王の協力者となり、帝国を害する大敵となった。
そのはずなのに、今までと全く変わらない様子で、人懐っこく。

「招待状とか何回も送ったんだけど、届いてないかな……」

「……」

「話し合いしたくてさ、準備してたんだよ。こっちのゴタゴタは全部片付いたから、帝国とちゃんと話し合いたい」

和也の他には何体かのゴブリン。
少し遠く、見守る様に強い魔物の気配も幾つか感じられるが、何より。

「カズヤ、全て片付いたと言ったが……建国は叶ったのか」

「まあね。俺ってか魔王の国だけど。全員、説得して回ったよ、結構強引な手も使ったけどね」

進藤和也は、かつての異能を取り戻していた。
死を司る異世界の神の権能、それに加えて、アークライト自ら彼に仕込んだ野生的な戦闘技術。

以前、初遭遇の際。
死の権能を自在に操る和也を殺せる、と判断したのはあくまで、彼が戦闘において素人だったからだ。

今はどうだ。
人外の力と、人ならではの狡猾と獰猛を兼ね備えた進藤和也を相手に勝てるだろうか。

「お爺ちゃん? 」

「カズヤ、私はあくまで軍人だ。政治的な権限は無い、話を聞き持ち帰るくらいならしてやれるが……」

「それでいいよ、帝国の出方に関係なく暫く国境は閉じさせてもらうし。後の事は、この世界の人に任せる」

和也も一緒になって料理を運び、アークライトら一行を席に座らせ、料理を運ぶ。
魔物の作った料理、と最初は気味悪がっていた兵士らも美味しそうな匂いについ唾を呑み込んだ。
アークライトの手前、手をつける事は無いが。

「魔王の目的は何だ、帝国に何を望む」

「魔物達は、これから暫く教育期間に入ります。攻めないから、攻めないでねってだけですよ……別に食べて良いのに、美味しいよ」

「教育? 一体何を教えると」

「嫌がる事はしちゃいけない、助け合わなくちゃいけない、基本的な道徳とかそんな所です」

思わず、兵士の1人がぷっ、と吹き出してしまう。
アークライトに睨まれ、慌てて取り繕うが他の兵士も皆似た様な感想を抱いている様だった。

「部下が失礼をした。だが、これが世間の認識であるのも事実だ」

「まぁ、ですよね」

食事を始めながら、和也は大雑把な大陸の地図を広げる。

「ま、細かい事はこっちで勝手にやるんで。安全線を境に、互いは不干渉にしましょう。とりあえず100年くらい」

「100年で魔物が最低限の道徳を持つ種族になれると、本気で思っているのか?  」

「魔王が生きている間は面倒見続けるって言ってました。俺は多分、代替わりで死んでるから見届けれないけど……」

「……」

話を持ち帰るまでも無く、皇帝を始めとした帝国の人々は猛反発するだろう。
魔物の国を作るなどと、道徳を教え込むなどと、戦いの準備を誤魔化す為としか思えない。
アークライト自身も、和也の話を信じきれないでいた。

「納得してなくたって、要求を呑むしかないですよ。愛歌ちゃんと何回か戦いましたよね、あの子、すげぇ強くなってたでしょ」

兵士らの顔が強張り、嫌な汗が流れる。

安全線に張り付き、アークライトら帝国兵士を撃退し続けた愛歌の戦い様と言ったら、勇者の再来としか言いようが無い。
鬼神の如き強さで、かつての人類最強すらとうとう突破する事は叶わなかった。

「魔王とか、ロリエルさん、他の武闘派な魔物達からみっちり戦いを仕込まれてまして。俺もなんですけどね」

「何が言いたい」

「魔王の要求を突っぱねて攻撃してきても、愛歌や俺が食い止めます。少し落ち着いたら魔王や他の強い魔物も防衛に加わって、多分人類じゃどうしようもない」

話の最中、アークライトの表情はどんどん厳しい物になっていく。

かつての、人類が虐げられ続けた苦渋の時代が繰り返されるのか、とその場の誰もが思った。

「こっちからは絶対に攻めません、絶対に誰も殺しません。だから、落ち着いたらちょっとずつ、外交とかしましょう、難しいとは思いますけど、100年で無理なら200年、500年、1000年かけて」

まぁとりあえず、と和也は小瓶と紙束をテーブルに乗せる。
小瓶の中にはトロリとした半透明の液体が収められており、紙束には淡く発光する難解な文字が書き連ねてある。

「回収するのめっちゃ大変でしたけど、勇者の骨髄液……まぁ俺のなんですけど、返します。後、魔導原典目録写。もう少ししたら俺と愛歌ちゃんはウチに帰るんで、その際に他の宝具も返します」

半信半疑で小瓶を受け取ったアークライトが中身を検分する。
彼の身に付ける宝具「不死鳥の鎧」が共鳴し、本物である事は直ぐに分かった。

「確かに。そうか、帰るのか」

「滅茶苦茶お世話になったのに、最終的に裏切った形になってごめんなさい。やりたい事やって、逃げるみたいに帰ることも、ごめんなさい」

アークライトは深い深いため息をつく。
どうせ言っても仕方ないのだろう。

「良い……お前に好き勝手やれと送り出したのは私だ。結果的に人類を救う事となったと言うのなら、それでいい。まだ半信半疑だがな」

アークライトは出された食事には手を付けず、コーヒーだけ飲み干して席を立った。
慌てて他の部下も立ち上がる。

「カズヤ、帝国十二勇士として最初にして最後の大活躍、見事だった。なにより……」

無事で良かった。
という言葉は呑み込んで、踵を返す。

「後の事、この世界の事はこの世界の者に任せて自分の世界に帰るといい」

「お爺ちゃん! 」

「直ぐに帰る訳でないのだろう。最後に一度、皆で食事でもしよう。また使者を出す……じゃあな、カズヤ」

何度か呼び止める和也の声を無視して、アークライト一行はその場を去って行く。

「落ち着いたら直ぐに連絡するから! ちょっとだけ待っててよね! 」

戦うよりも疲れたんじゃないか。
そう思いながら、アークライトは答えずに肩を回して歩き続ける。

彼と和也が直接会い、言葉を交わす事が出来たのはこれが最後であった。
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