王国への独立宣言 〜この領地では自由にやらせてもらいます〜

雀の涙

文字の大きさ
9 / 20
領地視察編

敵の思惑

しおりを挟む
 カケルが部屋で勉強をしている頃、ウールの書斎ではあるやり取りがされていた。

「なぁ、本当にこれでよかったのか? こんなに焦らずとも、数年後でもよかったんじゃないか? 我は息子にあんなことを言ったが、今はまだ3歳、それにたった4ヶ月であのクリスセント学院に合格できるだけの学力を身に付けることができると思うか?」

 我の息子なら優秀な成績で合格できるなんて言ったはいいが、本当にそう思ってるわけではない。生まれて4歳であの学院に入学できるわけがない。
 それに冷静になった今ならわかるが、3に一体何ができるというんだ。


 
 ウールにはずっと疑問に思っていたことがあった。

 我はをするために、部下の提案を採用し、その通りに行動を起こした。それは税率を上げる、徴収の回数を増やすというものだった。
 領民は我がどれだけ搾り取っても決して家族を売ることはなく、税を納めてきた。
 おかげで、ものすごくいい暮らしができている。最初はそのことを素直に喜べていたが、2年経ってから次第におかしいと思うようになった。我が言うのも変だが、とても領民が毎度支払えるような額じゃない。食料すらろくに食べることなどできないはずだ。それなのに餓死する人は誰一人いない。
 
 が手助けをしているはず……
 
 我はその誰かを突き止めるため、今まで部下に探させていたがその尻尾すら掴めずにいた。毎回部下からの未だわかっておりませんという一言のみの報告に悔しい思いをしてきた。

 しかし、この一件は突然終わりを迎えることになった。

 2日空けていた屋敷に帰る道中、手紙を読んだ時に思わず、ふぇ⁈ っと変な声が出てしまうくらいに驚いた。その手紙は泊まっていた高級な宿を出るときに受け取ったもので、差出人は部下であった。

 そしてそこに書かれていたのは今まで領民に手助けをしていた、我に反抗する犯人の名前であった。
 だが、驚いたのは犯人が見つかったからではない。その犯人が予想もしなかった人物だったからだ。

《ウール様にはお伝えしづらいのですが、犯人はカケル様です。》

 その文を見たとき訳がわからなくなってしまった。たかが3歳児がそんなことするはずがない、できるわけがない。そんなこと分かりきっていることなのに、動揺してしまった。それほどまでにウールにとって衝撃的なことだったのである。

 だからこそ、単純なことに気づくことができなかった。

 ウールがおかしいと思い始めたのが3からだということに。


 我は屋敷に帰ってきてすぐに、手紙の差出人であり、この一件にずっと関与してきた執事のジェイスからある提案をされた。
 
「カケル様を4歳になった時に学院へ入学させましょう。」

 贅沢をしたいと言った時もあの提案をしたのはジェイスだった。

「学院がそれを認めると思うか? 入学は10歳からだぞ?」

「大丈夫です。私がすでに手回しをしておきました。あとはウール様がカケル様にこのことを伝えてくださればと」

 我は彼を信頼していた。彼は前の領主にも仕えていて、ここの領地、領民のことを熟知していた。そして我に仕えてからその情報を存分に活かしてくれ、我の贅沢をしたいという望みを叶えてくれていたからだ。
 
「そうか。わかった」

 だからこの提案もすんなり受け入れた。




「これでよかったのです。カケル様はまだ幼いです。それ故に純粋であるため、何をするかわかりません。ならば学院に入学させ、そこで貴族とはどういうものなのかを学ばせた方がカケル様のためなのです」

 そう言われたら、その通りだと思ってしまう。

「しかし、4歳で合格できると思うか?」

「ええ。カケル様はですから」

 そう言って薄っすら笑みを浮かべるジェイスにウールは息子を褒められたと素直に嬉しくなり、彼と同様に笑みを浮かべた。

 ウールはまた気づかなかったのである。

 なぜジェイスが笑みを浮かべたのか、その顔の裏に何が隠されているのか。

 そして、そんなウールを見て彼は思うのであった。

 ”なんて操りやすいのだろう"と。

ーーーーー

 俺はこいつを一目見た時から予想していた。強欲な奴なのだということを。
 実際この領地に領主として来てからというもの、毎日口を開けば文句ばかりだった。前の領主ができていた普通の暮らしが我慢ならないようで、常に金が欲しい、贅沢したいと言っていた。

 だから俺は見極めるためにこいつにある提案をした。

「今のままでは税率が低いように思えます。前の領主様には欲というものがなく、失礼を承知で言いますがとても貴族らしくありませんでしたので……。なので税率を上げてみてはどうですか? ウール様はここの領主です。何事も最終判断はウール様に委ねられます。つまり自由なのです。ですから、税率を上げ、徴収回数も増やしてみては?」

「た、確かにそうだな! ……いや、しかし急にそんなことをすれば我は領民に殺されるんじゃないか? 贅沢はしたいが死にたくはないのだ」

 随分弱気な奴だな。少し大袈裟に持ち上げてみるか。

「ウール様! あなたは領主であり、貴族なのですよ? 貴族はでしょう? それならば恐れることはありません」

「……そうだ。我は貴族なのだ! 選ばれし者だ! すっかり忘れてしまっていたぞ! してジェイスよ、どうしたらよいのだ?」

 クククッ、こいつ本物だ。

「まずは先ほど申し上げた通り、税率を上げ、徴収の回数を増やしましょう。そして領民の反乱の恐れをなくすために粗末な小屋をこの屋敷から少し離れたところに建て、そこに領民を住ませましょう。現在住んでいる家は全て壊すのです。そうすればウール様に反乱を起こそうなどと考えるものはいなくなるでしょう」

「よし、わかった! ジェイス、お前に任せよう。我の願いを叶えてみせよ!」

「わかりました、ウール様! お任せください」


 俺は実に単純で安易な提案をこいつにした。誰が聞いてもバカだと思うだろうし、他の領主に同じ提案をしたならきっと俺は殺されているだろう。
 しかし、こいつはそんな提案を採用したんだ。そして自分で行動するのではなく、俺に全て任せてきた。

 この時俺は確信した。

 こいつは”本物バカ”だということを。

 そして俺はこの領地をという計画のために準備を進めてきた。
 しかし、ウールが少しずつおかしいと思い始め、俺はその犯人を探すように言われた。どうにか誤魔化していたが、バレるのも時間の問題だと思っていた。領民のところへ行かれたら気づかれてしまう。


 そんな時あるところから信じがたい情報が流れてきた。だが、それは同時に嬉しいものでもあった。

《カケルが計画の邪魔をしようとしている》

 ただの子どもに何ができるというんだ、それに3歳児が領民の暮らしを理解できるものなのかと疑った。
 しかし、その情報に間違いはなかった。その証拠にと渡されたものに見覚えがあったからだ。

 青い、星の模様の入ったリュックである。

 俺はすぐに頭を切り替え、身代わりにしようと考えた。

 そしてウールに2度目の提案した。今回も思い切った提案だった。カケルを犯人に仕立て上げたが、ちゃんと考えればわかってしまうのだ。

 ウールがおかしいと思い始めたのが3年前、カケルが生まれたのも3年前ということが。

 しかし当の本人は犯人がカケルであることに信じられないと驚き、動揺していた。そんなことに気づかなかった。だからその場ですんなり通った。

 予定が狂ってしまったが、カケルが王都に移ったら計画を前倒しで進めることにしよう。
 これが上手くいけばあの方に認められてこの領地を与えてもらえるかもしれない。

 俺はウールと話しながら薄っすら笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...