王国への独立宣言 〜この領地では自由にやらせてもらいます〜

雀の涙

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グレイスニル王国 王都編

道中

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 僕は領民たちと別れてから御者台で馬の手綱を握っている商人の横に座っている。

「お兄さんの名前を教えて!」

 再び4歳のカケルになりきるため、18歳の翔を出さないように子どもらしい口調や態度に変えた。
 これから向かう先々に僕の正体を知る者はいないだろう。今後怪しまれるような言動はなるべく避けたい。

「す、すみませんでしたっ!! 自己紹介もせずに大変失礼しました」

 商人はすごく慌てた様子で頭を勢いよく下げた。

「謝らないで! お兄さんは何も悪いことしてないよ?」

「しかし…… 名乗らずにいたことだけでも失礼なのに、その上貴族の方に聞かれてしまうなんて……」

 そんなの別にどうでもよくないか? 大体自己紹介に先とか後とかないよね?
 それに小さな子どもにでもこんなに必死に謝らないといけないほど貴族というものは恐ろしいのか?

 一向に頭を上げようとしない。このままだとちゃんと話ができない。

「僕のことを見て! じゃないと怒っちゃうよ!」

「す、すみません!」

 冗談で言ったつもりが、商人は本気だと思ったのかすぐに頭を上げ、僕を恐れるような目で見ている。
 さっきからこんな子どもにビクビクしすぎじゃないか……? 

「嘘だよ! 怒ってないし大丈夫だから安心して!」

 商人は本当なのかと疑うような目をしていて、言葉だけじゃ信じてくれないようなので僕はにっこり笑ってみせた。

「よかったぁ……」

 それを見て全身から力が抜けたような様子の商人。その表情には安心したからか、ここに来るまでに見たことのなかった笑顔が少し浮かんでいた。

「じゃあ名前を教えて!」

「はい。私はローマンと申します」

「僕はカケル・ゴレイ! よろしくね、ローマンさん」

「ローマンとお呼びください! よろしくお願いします」

 一体どんな男なのか。もしかしたらガルノートやジェイスなどに雇われてるかもしれない。

「聞きたいことがたくさんあるんだけどいい?」

「もちろんです! 時間はたくさんありますので」

 僕にはこの先王都とゴレイ領を行き来する商人が必要になってくる。
 王国最南端のゴレイ領を出発してから王都に着くまで3日はかかるだろうから、ゆっくりと時間をかけて知っていこう。

「じゃあ商人になろうと思ったのはどうして?」

「そうですね、少しでも自由になりたかったからです」

「自由?」

「はい。カケル様は平民の仕事についてはご存知ですか?」

「ううん、全然知らない」

「では、そこからお話しましょうか。
 平民の仕事はいくつかに分けることができます。
 一つ目は親から受け継いだり、自分で立ち上げたりして店を経営し収入を得る。
 二つ目は貴族に雇われて仕事をもらい働いて収入を得る。
 三つ目は自分の馬車を持ち、頼まれた商品はもちろん、今私がしているように人も指定された場所に届け収入を得る。
 大きくこの三つになります。

 貴族から受ける仕事というのは、経営する店の店員や清掃員、屋敷のメイドなどの一般的なものから、盗みや殺しなど犯罪行為まで様々です。平民はそれを拒否することはできません。貴族に逆らったらどうなるか私たちは理解しているからです。それ故に、二つ目の人はほぼ奴隷とあまり変わりません。

 ですから、平民が望む仕事の選択肢としては一つ目と三つ目が残ります。

 一つ目の人は基本自由がききますが、店を出したらその土地に居続けなければなりません。それにお金がかかる上、人気が出たとなると貴族の方々からの嫌がらせが絶えません。

 三つ目の人は商人です。別名自由人とも呼ばれ、平民の中では唯一国内をどこでも好きに動くことができます。仕事は身分問わず受け付けています。貴族のものが優先になりますが自由に仕事を選ぶことができ、監視下に置かれることはないので気が楽なのです。お金のやり取りは当人同士で行われ、依頼人が貴族であっても提示されていた料金を割り引くことなくちゃんと支払わせることができます。」

「へぇ~、そうなんだ」

「話が少し長くなってしまいました」

「大丈夫だよ! だって時間はたくさんあるんでしょ?」

 ニコっと笑う僕を見て、ローマンはやられたといったような表情をした。

「確かに話を聞くと商人は他よりも自由だね。でもそうしたらみんな商人になろうとするんじゃない?」

「その通りです。しかし商人が増えればそれだけ儲けは減り、商人同士で争いが起きます。なので商人になれる人数は決まっています」

「へぇ~、それじゃあ商人になるのはとても大変なんだね」

「条件は厳しいですよ。信用を得るために銀貨80枚を王城に持っていき納めなければなりません。ただでさえ平民は馬車を用意するだけでも精一杯なのにです」

 馬車にどれだけお金がかかるのかは知らないけど、それとは別で80万用意しないといけないのか。それだけで2、3年は暮らせるはずだ。国王なだけあって馬鹿げたことを平気でやるんだな。

「ローマンは頑張ったんだね」

「え、えぇ…… まぁ……」

 歯切れの悪い返事が返ってきたが僕は気にせず話を進める。

「さっき貴族が盗みや殺しを平民に頼むって言っていたけど、国はその犯罪行為を許すの?」

「犯罪ですので許されませんよ。ただし、罰せられるのは決まって平民だけです。平民がなんと言おうと貴族は知らないふりをし、裁く者は貴族の主張しか受け付けません。だからこそ必死でバレないように行動するのです」

「ねぇ、なんでそんなに貴族って偉いの?」

「え? いや、なんでと言われましても…… 私は物心ついた頃から貴族は偉い人、逆らってはいけない人と教わりましたので」

 この世界に存在する多くの理不尽について、ここの人々は僕のように疑問に思うことはないだろう。それが当たり前だと育ってきてしまっているから。
 身分制度ができた時は活躍した者を人々は英雄だと讃えた。しかし、どこでズレたのかは分からないが、世代が変わるごとに英雄という認識は薄れていき、代わりに権力を持つ者という認識が生まれた。
 貴族は自分の持つ権力を振るい好き放題し、平民はそれを受け入れてしまった。奴隷いう身分が貴族をより優越感に浸らせ、自分は偉いんだという思いを加速させたのかもしれない。
 もしその時人族の中でおかしいと声を上げる人がいたら何か変わっていただろう。
 だが、変化のないままここまで来てしまった。誰かが変化を起こさない限り、この腐った概念はなくならない。

「あの…… 何か失礼なことを言ってしまいましたか?」

 僕がそんなことを考えているとローマンから声がかかった。すっかり返事をするのを忘れていた。

「ううん! ごめんね、考え事してたんだ」

「そうですか、それならよかったです」

 僕はもう怯えさせないように気をつけなきゃなと思いながら、ホッとした様子のローマンを見ていた。

 
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