そのダンジョンの冒険者はダイバーと呼ばれている。

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ダイバー編

二十一話 新たな住処

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 スカイブロックで、ナンバーネームズのリンクがほぼ終了した頃。

 漸く酔いから目覚めたカイネルは、その惨状を目にした。

 目の前で土下座するテンスが、すぐにカイネルに言葉をかける。

「おはようございます殿」
「?」

 カイネルは、その態度に困惑して、彼女に、「どうしたの?」と優しく声をかける。

「殿に置かれましては、本日のご機嫌はいかがですか?もしすぐれないようでしたら、すぐにでも私が介抱いたしまする」
「どうしたのテンス、話し方が変だよ」

 そう言うカイネルは、自身が酔ってしでかしたことなど全て忘れてしまっている。

「変でございますか?ならばお仕置きでしょうか?殿」
「え?」

「ぜひとも、このテンスめにそのご不満をぶちまけていただきたく!」

 顔を上げたテンスの表情は、うっとりとしていて、舌を出してハァハァと息を切らす。

「……」

 カイネルは思考した。

 これはもしかすると、ナノマシーンが体内でよくない動作をしているのではないだろうか。

 すぐにテンスを抱き上げると、ソファーに寝かせて瞳孔や体の異変を探るカイネルは、服を剥ぎ取って上半身を触診し始めた。

「殿……」

 テンスはゆっくりと目を閉じて身構える。

 おかしい、どこにも異常がない……ただの杞憂か?

 カイネルは、テンスの服をそっと元に戻すと部屋を一瞥する。

「空の酒……そうだ、ボクはたしかナエリカと酒を飲んで」

 それからの記憶がないことから、彼は眠ってしまったのだと推測した。

「テンス、他の子はどうした?」
「……殿、お仕置きは?して下さらないので」

 テンスは、その銀髪にかかる金色の瞳をウルウルとさせて、そのまだ未成熟な体でカイネルを誘う。

 現状異変が起きているのがテンスだけとは限らない、と考えたカイネルはすぐに他の異常を確認し始める。

「テンス、緊急なんだ他の子は?」
「は!エイトス姉上は自室にてお着替えを、セヴン様は寝室にて寝ております、クスス姉上は、王子様と結婚、との事で自室へ、ナインス姉上は、そちらでお隠れに、イレヴンスはサーティーンスと自室へと向かいました」

「……王子様?」
「フォース姉上、フィフス姉上は天外の整備をしています」

 と言い終わったテンスは、そっとカイネルの手を握るとハァハァと荒く息を吐く。

「ナインス?いるのかい?」

 壁の中の収納のためのボックスが一つ開いていて、そこから恐る恐る顔を覗かせるナインスはすでに半泣きだった。

「い、います、なんで、しょうか、カイネル様?」

 カイネルが優しく微笑みかけるが、ナインスはそのボックスから出ようとしなかった。

「どうしたの?出てきてくれないかい」
「……で、出て行けば、私、丸齧りされてしまう、です?」

 カイネルは首を傾げる。

「丸齧り?お腹空いたのかい?」

 カイネルがそう言うと、ナインスはその小さな頭を左右に振って、恐る恐るボックスから出てきた。

「う~、怖い、です~、肉食系男子です~」

 ナインスが近くまで寄ると、カイネルは優しく頭を撫でながら言う。

「ナインス、ここでなにがあったのか教えてくれないかな?」
「う~、はい……です~」

 ナインスは、自身の体験をカイネルに話した。

 事実を知ったカイネルは、頭を抱えてしばらく沈黙する。

「俺様だって?おまけに丸齧り?このボクが?」

 必死に思い出そうとするが、その時のことは一切思い出せなかった。

「……ボクがそんなことを言ってたなんて」

 自身の知らない部分に直面した彼は、さらにもっと詳しく知りたくなった。

「テンス……ボクは、一体キミに何をしたんだい?」
「は!私がこの部屋へ辿り着いた時には、すでにセヴン様が殿と接吻をしていまして、その後私に、可愛いなお前、と言って寝室へ……ハァハァ」

 右手をゆっくり口で舐めだすテンスに、カイネルは目の部分押さえて天井を見上げた。

「……スー……ハァァアア、寝室でナエリカと同じようにキミにもその、キスを?」

 腕をスリスリと触り、手をペロペロ舐めるテンスは、上目遣いでコクコクと頷く。

 カイネルは、スッと立ち上がるとテンスに頭を下げる。

「本当に申し訳ない!謝っても足りないだろうけど、申し訳ない」

 テンスはすぐに自らも立って、「滅相もないです」と両手を振る。

「……ナエリカやエイトス、それにクススとイレヴンスにも謝らないといけない」

 カイネルは、ふと今日まで酒を飲だ日の後のことを思い出して、これまでもこういうことがあったんじゃないかと頭を悩ませ始める。


 数時間後、もう一度リビングに初期ロット以外のナンバーズが集まった時には、部屋はキレイに片付いていて、カイネルの頭も普段どおり冷静さを取り戻していた。

 しかし、ナエリカの態度やクスス、エイトス、テンス、イレヴンスの態度は以前のものとは違っていて、その他の姉妹たちは彼女たちに何があったのかを知りたがったが、カイネルは一先ず「今はどうでもいいことだよ」と無理やりに言いくるめた。

「それよりもリリアンやユリアン、マリアンにジュリアンが起きてくるのを待とうよ」

 初期ロットが未だ目覚めていないことをカイネルは話題に上げて、その理由を彼女たちに話した。

「どうしてファースト……じゃなくて、ユリアンたちが起きるのが遅いのですか?王子様」
「お、王子様?……か、彼女たちは記憶の初期化を要求していたからね……だから、キミたちよりも時間がかかるんだよ」

「記憶の初期化?ファーストお姉様たち全員をですか?」

 そう言うフィフスは、カイネルと素顔では初対面だが、リンクした姉妹の記憶から大体の話を理解していた。

「……ファーストたちとはそういう話で意見が一致したけど、実は少し違うんだ。もうそろそろ入ってきたらどうだい?」

 カイネルは、開きっぱなしのリビング入り口に向けてそう言う。

 そして、彼の声に招かれるように一人姿を現したのは、サードことジュリアンだった。

「サードお姉様!」
「よう!みんな揃ってんな」

 様子からして、彼女が記憶を消されて初期化されていないことは明らかだった。

「カイネル様、これはどういうことなのでしょうか?」

 サーティーンスがそう聞くと、その質問にはジュリアン本人が答えた。

「それについては私が話すよ、まず、初期ロットの記憶削除は私以外のリリアン・マリアン・ユリアンだけするように私がカイネル様に頼んだ。そうしないと彼女らを教育して生きていくことができないからな」

 ジュリアンは壁にもたれかかると、服からライターとタバコを取り出して、それを口にして火をつけた。

「あ!吸ってもいいよね?カイネル様」
「ああ構わないよ」

 カイネルがそう言うと、ふーと煙を吐いたジュリアンは本題を口にする。

「私たち初期ロットは、このスカイブロックで暮らす、あんたたちはカイネル様についていきなよ」
「!」

「サードお姉様」
「サード姉様!」

 姉妹は驚いた様子でサードの名を呼ぶ。

 ジュリアンは灰を捨てるために壁の一部のボタンを押して、水の入ったコップを出すとタバコの灰をそれに落としながら続けた。

「正直、私たち初期ロットは地上じゃ生きられない、全員に首輪代わりのナノマシーンが投与されていて、私は長いことこのナノマシーンの除去法を探していたが……結局は見つからなかった。だから私たちはこのスカイブロックから長く離れられない」

 ジュリアンの言葉にナインスはポロポロと涙を流し、フィフスも悲しげな表情を浮かべる。

「まー私たちは無理だけど、あんたらは別にここに縛られなくても構わない、三人の面倒は私がみるから――スィクスス」
「はい!」

「あんたが本来こん中で一番上の姉なんだから、ちゃんと妹たちの面倒をみな、分かったね」
「……はい」

 暗い空気の中、カイネルが一言だけ呟いた。

「今は無理でも……いつかは彼女たちも地上で暮らせるようになるさ」

 いつかは、その言葉は地上に向かう彼女たちを励まし、またジュリアンたちにも可能性を見せる言葉だった。

「……フー……そうなるといいな、本当に心からそう思うよ」
「きっと、なる、私、そんな、気がする」

 フォースの言葉に他の姉妹を顔を見合わせ頷く。

 ジュリアンは、カイネルの提案で対神宝具の保管管理も引き受け、天外の発着場にて別れをむかえようとしていた。

 カイネルが、コールオブヴァハムートでヴァハムートを召喚すると、天外を準備していたフィフスが腰を抜かして下着が丸見えになるハプニングがあった。

「なあ、なんな~」
「驚かして悪いね」
「すまぬな小娘」

 そしてエイトスが、カイネルの手をとってそれに飛び移った瞬間、風でスカートが捲れて穿いてないことが発覚し、「換えの下着が無かったから」というハプニングもあったが、何とか彼女らを地上で待つホチアの元へと連れて行くことができた。

「ただいまホチア」
「……あ~もういいです、カイネルが拾ってくるものは大体女の子なので……もう、なんか、分かってました」

 ホチアはそう言って出迎えたが、彼女もナンバーネームズたちに同情的で、歳の近いテンスとは仲良く話していた。

「殿!ホチアとはキスをしたのですか?」
「な!テンス!」

 慌ててその口を押さえたカイネルに、ホチアは「キス……」と眉をピクリとさせる。

「主、困らすな、テンス……許すまじ」
「ん~ん!」

 フォースの言葉に、テンスは内心で土下座するも、カイネルは全く手を離さない。

「カイネル……まさか、ウチと歳が変わらないテンスには手を出したりしたの?」
「だ、出すわけないだろ?見て見ろ、みんな別に普通だろ?」

 明らかにテンスやクススの様子、エイトスの様子もセヴンの様子も不自然で。

「……コロロが言ってる、カイネルは嘘ついてるって」

 コロロに視線をカイネルが向けると、コロロは、なに?という風で、明らかにそんな事を想っても話してもいない様子だったため彼は視線のやり場に困る。

「ホチア、それよりも今は彼女たちが住む場所探しが重要だと思うんだよねボク的に」
「……ウチ的に、それは後に回してキスに関しての話を聞きたいけど?コロロも聞きたいよね?シュシュもそう思うでしょ?」

 コロロもシュシュもそれには全く興味が無さそうで、人が増えたことに今は興味津々な様子だった。

 無理矢理ホチアの話題から逃げたカイネルは、早速ヴァハムートを使って帰路につく。

 カイネルは、ナンバーネームズたちを地上で住まわすことで一番最初に問題になることは、住む場所だと分かっていた。銀髪の女ばかりの集団は、バルファーデンでは手配されていて、カフドや周辺ににもその情報は流れている。

「セヴン、本当に家族に会わなくてもいいのかい?」
「気になさらないでください、私には主さえいれば、もう十分です」

 そう言って抱き付く彼女に、ホチアの視線が刺さるカイネルは、少しだけ顔が引きつる。

 話は戻るが、集落から遠くなると彼女たちが生活するには難しい。彼女らには生活力はほぼ無いに等しく、金銭面でも銀髪が目立って働き口も探せない。

 人が住んでいる近くだが人目には付かず、カイネル自身が頻繁に会いに行ける場所。

「そんな場所一つしか知らないな」

 呟いたカイネルは、ホチアとセヴン、ナンバーズたちにある秘密を教えることを決意する。

 ヴァハムートに乗った一行は、デクリの上空から真っ直ぐタワーへと向かう。

 タワーが見えてくると、カイネルは「ここから上へ」と言って高度を上げさせた。

 タワーの七十階層辺りの外壁を黒い影がスッと上へ上へと登っていき、百階層に到達すると彼女たちは揃って驚きの声を上げた。

「これって、スカイブロック!」

 タワーの上に着陸しているように、スカイブロックが半分ほどタワーに載っている。

 そのスカイブロックは、浮遊機関を半損していて、全体を支えられずにタワーへともたれかかっている様に見えた。

 外層幕もしっかりと張られて、内部に入るとデクリの上空にあったスカイブロックとなんら変わりはなかった。

「カイネルここは?」
「彼女たちの新しい家だよ、内部の構造は向こうと変わりないだろうけど、天外は2つしかないし街に降りる手段がそれしかないけど」

「ち、地上で、暮らせない、です?」

 怯えるナインスは、エイトスの後ろに隠れながらそう言う。

「キミたちが地上で暮らすには少し時間が掛かる、ここは仮拠点みたいなものだよ、地上の生活に十分慣れたなら、その時はボクが責任を持って地上で暮らせるよう手配しよう」

 彼女たちをそこへと案内すると、ヴァハムートに別れをつげる。

「次回はいい戦場へ招いてもらいたいものだな主よ」

 意味深な言葉を残して、ヴァハムートは消え去る。

 カイネルは、スカイブロックの中へ行く前に彼女たちを連れてタワーの中へと入る。

 タワーの中とは、百階層へ直接入るということで、入ったとたんに「タワー攻略~!」と声を上げたホチアにカイネルは口元を緩めた。

 スカイブロックへと向かうための天外が一つそこにあるが、スカイブロック自体が落ちてきているために使用した形跡はなく、九十九階層へと続く螺旋の廊下と隣接したスカイブロックから入ってきた穴があるだけ。その穴はカイネルがリミテッドソードメイドで、その部分の外壁を剣に作り変えて開けたものだった。

 一度通ると数時間で塞がってしまうその道は、カイネルでない限りはもう一度通ることはできない。スカイブロックへの道は、完全に彼にしか開くことができないものだった。

「これなら他の人間がキミたちの所へ行く可能性も無い。……仮に百階層に上れる者がいた場合だけどね」

 カイネルが彼女たちに見せたかったものは何も百階層ではない、そこにある一つの遺骸だった。

「主、この遺骸」
「そう、この遺骸には脳がない」

 遺骸は白骨化していて、頭部の骨には頭に脳の代わりとなる機械がボルトで取り付けられていた。

「おそらくこれは古代にいた冒険者のものだろう、推測するに年齢は十代、この頭に付けられた機械を切り開いてわかったことは、これが古代人の脳だということ」
「ですが、カイネル様……古代人は私たちと同じ存在であるとスカイブロックのライブラリーにはありました」

 クススは、自身の記憶から古代人の知識を思い出す。

「機械仕掛け、ロボットといいますが、それがいることは知っています。アンドロイドと呼ぶようですが、骨格や内臓も機械仕掛けだったと記憶していますわ」
「そうクススの言うとおり、この遺骸は機械仕掛けではないし、完全な古代人でもない」

 カイネルは、左手でその機械を持ち上げると言った。

「これは、デン脳と呼ぶものらしい」

 カイネルは、それを指で触りながら中のものを取り出した。

「この管の中にはさらに小さな管が入っていて、それらが脳のように微量なデンリュウを流している。本来は人の体を機械化する過程で脳も機械化できた。が、彼ら古代人の住むチキュウはすでに大気中のタイデンリュウが機械に影響を及ぼすために、それを採用できたのはウチュウクウカンでのみだったんだ」

 カイネルの話についてこられる知識の持ち主は、おそらく今はいないナンバーネームズの父のみだろう。ナエリカはすでに理解できないために口を挿んだ。

「主、もっと分かりやすく話してはいただけませんか?」
「……そうだね、ごめん先走りすぎたよ。今大事なのはこの遺骸がなんなのかだった」

 カイネルは手にしたそれを遺骸の傍に戻すと、ようやく本題を言う。

「この遺骸は冒険者のものだけど、古代人の言葉でアバターという仮の自分のものなんだ」

 アバター?と首を傾げるホチアとテンス。

「君たちの父が言っていた神核者の護るコアブロック、そこは本来このアバターを保管しておく場所なんだ」
「なら父様がコアブロックに固執していたのは」

「おそらく、アバターの存在を彼は知らなかっただろうな、彼が求めていたのは神核者に用いられている技術で自身を不死者にすることだろう」

 カイネルは指を立ててある問題を彼女らに言う。

「古代人が自身の仮の存在であるアバターを使って、この星のダンジョンで冒険するのは何故だと思う?」
「……自身の体ではなく、他人の体を使ってダンジョンで冒険する理由?」

「それは、身体能力ですか主」

 首を傾げるフィフスの隣でセヴンがそう言う。

「その可能性もあるセヴン。古代人は長いウチュウクウカンでの生活で、筋力は最低限しか身に付けないことが日常になっているようなんだ」
「だから、他の体でダンジョンなどに行き、モンスターと戦うのですか?なんだか変な話ですわね」

 クススの言葉に共感する者も少なくない中、カイネルは腕を組んでその理由を話す。

「古代人はここをアトラクション、リアル・プラネット・ロールプレイングゲームとして作ったらしいよ」
「アトラクション?」

「本格的、惑星、誰かを演じる、遊び?」

 エイトスとクススがそう言うと、カイネルは続ける。

「RPRPGとも、MMRDRPGとも言われているこの星は、遊び場として作られた星なんだよ。ボクらはその中ではNPC、ノンプレイヤーキャラクターと呼ばれる存在だったんだ」

 話が終盤に近づくと、カイネルにセヴンが聞く。

「それを私たちに話した理由を聞かせて下さい、主」
「うん、そうだね。そこの遺骸、レベルいくつだと思う?」

 カイネルのその質問に答えたのは、イレヴンスとサーティーンス。

「私たちは、その……スキルなんかはあってないようなものですので、その遺骸が生前の強さは……なんとも言えません」
「見た目も小さいし、それほど強くはなかったのでは……と推測します」

 カイネルは、自分を指して「ボクは69」と自身のレベルを言うと話を続ける。

「本来、戦いでのレベルの恩恵はごく少量……、スキルにずば抜けたものがあるのはそのためなんだけど、古代の冒険者はその肉体自体が素手でモンスターを倒せるほどの力を持っていたとボクは推測している」
「素手で?モンスターをですか?」

「この遺骸、もちろん元々ここにあったものじゃない。元々八十六階層の隠し部屋、もしくは罠が仕掛けられた部屋の中にあったんだ。そして、その遺骸は何かの甲殻系モンスターの外殻を素手で貫いた状態で見つけた」

 カイネルはカタナを剣製してそれを振ってみせ、ナノマシーン鉱石でできた床を傷つけた。

「こんなことをしても折れないこのカタナでさえ、その甲殻系のモンスターの死体の外殻に傷つけることができなかった。それを素手で貫く古代の冒険者の身体能力……これは異常だ」
「確かに、そのような力を持った者がいたなら、私たちは手も足もでませんわね。例え対神宝具を持っていたとしても」

 クススはそう言い、「ですが今は遺骸となっていますけれど」とそれを見る。

「さっきも言ったろ、アバターを保管しているのがコアブロックだと」

 漸く事の真意に気づくクススとセヴン。

「コアブロック内には、おそらくだけど、2万体以上の古代の冒険者のアバターが存在している、ボクはそう予想する」
「に、2万!?」

 驚きを表したのは話を理解している一部で、ホチアやテンスは必死に理解しようとするが常に首を傾げている。

「2万ものそれが危険だと言うことですか?」

 セヴンの言葉にカイネルは首を左右に振る。

「ボクの望みはね、自身の意思すら持たない彼ら、己の意思で死ぬことすらできない彼女らに死を与えること」

 クススとセヴンはその言葉の重みをその旨に感じる。

「元々ここに書かれていたことから推測したことだから、コアブロックに行ったところで何もないかもしれないけど。キミたちにこの話をしたのは、いつかキミたちがその事実にここの文面から辿り着くかもしれないから」

 カイネルは笑顔で彼女たちを見る。

 すると、セヴンが片膝を突いて跪く。

「それが主の望みであれば、吾身を持ってお供いたします」
「よく分からなかったけど!ウチもカイネルのクーリエとして、その、なんたらってとこに行く!もちろんコロロとシュシュもさ!」

 そんな二人に続くようにクススが、「私もお役に立てるなら何でもいたしますわ」と言い、他の姉妹も同じようなことをカイネルに伝えた。


 カイネルの話が終わると、彼女たちは一先ずスカイブロックで生活させることになり、そこで一度別れてホチアとセヴンを連れて八十階層まで降りた。

 何故八十階層まで降りてきたのかというと、九十八階層からダイブすることは自殺行為だからで、それ自体は一度カイネルが実践していた。

 ダイブして数十秒後には、体内のナノマシンが原因で失神する。カイネルはすぐに気がつくことができ事なきを得たが、死んでもおかしくない状況だったのは確かだった。

 クススが天外で地上に降りる際に外層幕を張って降りていたのもそのためだ、とカイネルは言う。

「本来高度一千バレン(m)程度の高さで外層幕なんて必要ないんだ、ただ、ナノマシンの影響で意識すら保てなくなるボクらにはそれは必須なんだよ、パスコードみたいなものかな」

 そう言ったカイネルに、セヴンは自身が高い所が苦手だと告げる。

 すると、「ボクと二人で降りるかい?」と言うカイネル。

「無理です!私には無理です主~!」

 泣きべそをかくセヴンと、満面の笑みを浮かべるカイネル。

 ホチアが、その身に大き目のタコの筒を付けて、シュシュを体に縛り付けると迷いなく飛び降りる。すぐに小さくなったホチアが、タコを開いたのを見てセヴンは言葉を失う。

「あんなに早く開いたら降りるまで何分かかるんですか!?」
「数分だよ、心配ないよ、高いほうが安全なんだよ、十分タワーから離れられるし、タコが絡まることは万に一つもないけど……、もし絡まっても直すだけの時間はあるから」

「そんなの信用できない!」

 セヴンの説得を諦めたカイネルは、セヴンの後ろからジリジリと横穴へと近づく。

「いや、無理、無理だ、無理だ!主ぃぃぃいいいいい!」

 セヴンが気を失ったのは、タコが開く少し前だった。

「あれ?気絶したのかい?お~い、セヴン?せっかくのいい景色なのに」

 ワールドの白面を被って、まだひと月も経っていないことを不意に思い出すカイネル。

 忙しいひと月だったと言って、明日から体を休めたい気持ちで一杯だったが、戦争の処理、ナエリカ、ナンバーネームズ、ディアルムドと名乗った神核者。

 まだまだ彼に安息は訪れないことは間違いなかった。が、一つ朗報があるとすれば、彼の腰に巻きつけた筒の中の注射、これがあればレイフの足を直すことができる。

 今はそのことと、自身の腕の中のセヴンを救えたことに、ホッと一息吐くカイネルは、沈みかけた夕日を見ながら「よかった」と呟いた。


 その日、バルファーデンのハルファー城には、ドラゴンヘッドの一団が訪れていた。

 レーム・クランクラン、ギクス・レイラー、アルファー・クリート、フィリアナ・マキナ、彼らがバルファーデンを訪れたのは、フォレストのキャンプを今後どうしていくかの相談だった。頭を欠いたドラゴンヘッドは、その時点で手が足が各々の行動に戸惑っていた。

 一団の話を第1王女ユーファが、将軍ヒュデルンをお供に連れて聞いていた。

 レームの話は、4人の中から新たにギルドを率いる者を立てることを提案して、ギクスはそれに賛成しているもののアルファーは反対していた。

 そして、フィリアナは別の視点で新たな提案をしていた。

 それは、コトーデ王国の領地にする、というもので、なぜバルファーデンではなくコトーデなのかを話していた。

「我々が負けたのはバルファーデンではなく、ワールドという個人によ。私のテイムモンスターのヒュルケから聞いたことだけど、あのモンスターはフォレストの最奥に辿り着いた者が手にできるスキルなのよ」

「あ~ヒュルケっていうのは、彼女のテイムモンスターで、ゴーストと呼ばれる霊魔だが、なんでもフォレストのナビ、案内役なんだそうだ……です」

 フィリアナの言葉に説明を付け足すレームは、彼女が懇切丁寧に説明するたちでないことを理解しての補足だった。

「ワールドがフォレストの攻略にかけた時間は約1日とヒュルケは言っていた、彼は何?冒険者?いいえ違うは、彼は力、絶対的な力の塊」

「あ~何故ワールド氏がフォレストを攻略した期間を約1日としたのかと言うと、その期間にフォレストを訪れた謎の若者が、入って出てくるまでの間に古代語で、攻略おめでとうと表示されたからでして、っていつまで俺が説明しなけりゃならんのかねこれ」

 レームは、本来面倒なことが嫌いで、このやり取りにずいぶん前から嫌気が差していた。

「彼がコトーデの人間なら……我々がコトーデにつくのもまた道理」

 話し終えたフィリアナは、その幾重も裂けたスカートをヒラヒラと揺らしながら足を組み替え、薄い青紫の髪に隠れた左目を一瞬だけ見せる。

「えーと、つまり、フィリアナさんは、我がバルファーデンとの同盟を反故にすると?」
「違う、そうじゃない、バルファーデンと同盟は断続し、その上で我々はコトーデに属するのよ」

 フィリアナの言葉にユーファは困惑して、隣に座るヒュデルンに視線を移す。

 その視線を汲み取ったヒュデルンが、フィリアナに対して返答する。

「その申し出は受けられない。コトーデはドラゴンヘッドに関しては関与したくないと考えている。ゆえに、レーム殿が言うようにそちらの方で代表を新たに立てるのがよいのではないだろうか?」

 バルファーデンもコトーデもそれどころではないのだ。ナエリカ誘拐やその部隊の半壊損でバルファーデンは混乱している。

 コトーデは、カーハス・ロバルトアールの死で、宰相の一人バラドア・デ・ロバルトアールは今や骨の抜かれたように身が入らず、自宅で寝込んでしまっていた。

 カーハスは、ダンダ・リオ・ラインハートの側近としても名の通った軍人で、コトーデの中では出世頭だった。宰相の甥である前に、自身の力で階級を上げる努力を惜しまない、と周囲に関心されるほどだった。

 葬儀に遺体もない、戦勝凱旋が一転、国葬にて盛大に弔われた。

 ナエリカが不在に意外とバルファーデン国内は平穏だった。

 将軍という地位の人間がいない場合、普通の国なら土台を支える柱が一本折れているに等しい。国が傾く場合も少なくない。

 しかし、バルファーデンは、コトーデとの同盟で西側が脅かされることがなく、ドラゴンヘッドとの同盟に加えてカフドの騎士団の弱体で北側も安泰、東は自国と広がる広大な海。

 脅威がないこともそうだが、一番の要因はナエリカが誘拐されていることを国民が知らないこと、軍の中でもごく少数の者しか知らないことだからだ。

 ドラゴンヘッドの一団と別れたあと、ユーファは仔細を王に話すためにハルファー城を出発する。

「ん?アレは?」

 ユーファが向かっている先は、王の隠れている場所ユラダリアの東部。そこへ向かっている彼女が目撃したのは、コトーデへ霊魔に乗って移動する、ドラゴンヘッド傘下ドラゴンブレスギルドマスターのフィリアナ・マキナだった。

 彼女の目的やドラゴンヘッドの話し合いがどうなったのかは、ユーファの理解するところではないが、彼女のワールドへの執着が何かよくないものにならなければと心配するのだった。

 ドラゴンヘッドとバルファーデンの一団との間にそんなことがあったなど、帰ったばかりのカイネルはまだ知らない。

 帰って直ぐギルドへ寄りレイフとシア、それに丁度帰っていたメイシャ・カロフッツォとクラウド・ヘイブン、サルバーニ・ローガス、ティファニー・ローガスの三人と顔を合わせる。

「久しぶりだな!カイネル!もう済んだのか?」
「お久しぶりです、レイフさん、早速ですが少しいいですか?」

 ギルドの裏で、ナエリカのことやスカイブロックでのことこれからのことを話すカイネル。

「んー……かなり複雑なことになってやがるな、だが、大体分かった」
「まずは、ナエリカのことをバルファーデンに話して、それから次にカフドやドラゴンヘッドにことの顛末を聞く。もちろん殆ど嘘を話すことになるんだけどね」

「よし!俺はこれからその娘っ子たちの生活物資をあのちびっ子に渡す。ベルギットにも話しておくぜ」
「待ってくださいレイフさん、実はもう一つ朗報があるんです」

「朗報?俺にとっての朗報はお前がちゃんと無事に帰ってきたことだぜ。それ以上は必要ないけどな」

 そう言うレイフに、カイネルはかつて彼から聞いた言葉を言う。

「……光りの中では影になり、影の中では獣の形を成す、それと戦いました」
「なんだと!それで!お前大丈夫なのか!」

「肩から胸にかけて貫通した傷を負わされて、直ぐに回復薬を飲んでみたけどレイフさん同様直ぐには血が止まらなかったんです」

 レイフは表情を強張らせて、「患部を見せてみろ!」と言った。

「心配は要りません。もう治っています」
「バカな!完治したのか?!どうやって!」

「これですよ。これは注射器で中にその傷、その異状を治すための薬が入っているんです」

 レイフは、震える手でその注射をカイネルの手ごと握りしめた。

「これで……俺の足は――」
「治ります!」

「……ぁ――」

 声を殺して天井を見上げた彼の頬には、溢れる感情が止めどなく流れた。

「おれぁまた、ダイバーに戻れるのか?」
「はい」

「人生ってやつは!ちくしょー!目から汗が出てやがるな……」

 突然レイフが啼き出すと、ホチアとナエリカは裏口をそっと閉めた。

 その数秒後に、表側からシアが入ってきて二人に声をかけて事情を聞く。

 シアは、泣き止まないレイフの頭を背伸びしてそっと抱きしめる。

「実は……レイフ、あなたに伝えたいことがあるの」
「な……なんだよこの人生の最高潮の俺に、これ以上いいことなんてあるわけねーから、悪いことなんだろうが」

「子どもができたの」
「子どもが?誰のだ?隣のメシリか?それともポーラ?」

「私たちの、だよ」

 レイフはシアの肩を押さえて目を合わせて、「本当か!」と目を丸くする。隣のカイネルも口を開けたまま、閉じないほどに驚いた。

 レイフは自分のダテめがねをポケットに入れると、そのまま横倒しのタルに頭をぶつけた。

「ちょ、レイフ?」
「レイフさん?」

「イテー……夢じゃない――現実か、まだ、信じられない。な、カイネル……一発顔面を殴ってくれ!本気で!」
「悪いけど、ボクが本気で殴ったらレイフさんは即死だよ」

「ははは!だな!はは!やった!俺は今幸せだぞ!」

 レイフはカイネルとシアに抱きつくと、そう言って泣きながら笑った。

 カイネルが帰って3日の内にバルファーデンへの報告、ドラゴンヘッドとカフドへの報告書が送られ、今回の騒動の後始末が行われた。


 バルファーデンへは、直接カイネルがワールドとして出向いた。

「……では脅威は去ったっと?でナエリカは?」
「残念だが、彼女は俺が見つけたときにはもう」

「……」

 ワールドの報告を聞いたのは、第1王女ユーファとヒュデルン将軍で、国王はナエリカ失踪から体調を崩していた。

 ユーファは、深い溜め息を吐いて身を崩す。

 ヒュデルン将軍は、すぐに彼女の肩を触り励ます。

「これについては公にした方がいい」

 ワールドの言葉に、ヒュデルン将軍がユーファの代わりに答える。

「それはこちらが決めることだ」
「いいや、公にしてもらう。そして、ここからは公にはしないで貰いたい」

 ワールドは、右手で入り口に手招きをすると、銀髪の女が床を鳴らして入ってくる。

 マントの付いた騎士服の女は、顔をワールドのように上半分に白面で覆っていた。

「そちらは何者ですか?」
「彼女はセヴン、ぜひあなた方にご紹介しておきたい人物です」

 白面の女が片膝を突いて頭を下げると、ユーファとヒュデルンは目を見合わせた。

「私の名はセヴン、この名は主ができたことで新たに改名した名、かつては」

 彼女はその白面に手をかけ外すと、二人に顔を見せた。

「!あなた!ナエリカ!」
「ナエリカ姫?!」

「お久しぶりですお姉様、ヒュデルン将軍。ナエリカ・ハルファーただいま帰りました」

 ナエリカはそう言うと自身の剣を抜いて言う。

「この身はすでに主を見つけ名を変え、国を裏切った身……今日は我が剣を返すために参りました」
「将軍職……軍職を返上するということですか?何故です?助かったのならまた国に帰ればよい話ではないのですか?」

 セヴンは首を左右に振って言う。

「私はもうこの国には戻れません、父にも会えません、部下にも会えません。ただただ私の身勝手です」
「……何かは分かりませんが、もう決めたことなのですね」

 肯く彼女にユーファは笑顔で、「昔から一度決めたら絶対に枉げない子だったものね」と言いヒュデルンに目で合図を送る。

 するとヒュデルンは、ナエリカへと近づいて、その剣を一度受け取り、さらに差し出された鞘を手にとって剣を収めると、ユーファの元へと持って行く。

「確かに受け取りました。国王にはなんと?」
「国王には、わが身、鞘となり、幸自の合を得た者、とお伝え下さい」

「わが身、鞘となり、幸自の合を得た者、しかと伝えます、ナエリカ、いいえ、セヴン……あなたが名を変えようと私はあなたの姉です。いつでも会いにきて構いませんよ」

 そう言ってその頬に涙を流すユーファに、ナエリカも再び身に付けた仮面の下から頬を伝い涙を流し答えた。

「ありがとうございます、ユーファ王女」

 王にその言葉が伝えられると、そのまま王は笑みを浮かべて「困った娘だ」と言った。その後、徐々に体調も戻り、次なる王の選定に自ら尽力することを宣言した。


 ナエリカとバルファーデンから帰ったカイネルは、レイフに頼んだナンバーネームズたちの生活品などを運搬したクーリエのホチアの様子を見るために、コトーデの街の外れにある森の中へと向かった。

 その森なら街からはタワーで見えず、人が時折自生する山菜を摘みにくるものの、ほとんど人気はない。

「天外で降りるには丁度いいだろ」
「はい、そうですね」

 カイネルがセヴンと空を見上げると、天外が一つ降りてくる。

 天外には、ホチアとテンスとテイムモンスターのシュシュが乗っていた。

「あ~カイネル!と姫様ぁー」
「殿とセヴン!」

 ホチアは、天外から飛び降りると、シュシュも一回転して飛び降りる。テンスは、ホチアと違いワンピースであるために、天外が地に着くまでは降りられない。

 テンスは、天外を降りると頭を下げてからその服をカイネルに見せて、「どうですか?」と言う。

「似合っているよ」

 カイネルがそう言うと、彼女はうれしさのあまりに頬を押さえて一回転した。ふわりとワンピースが少女の生足を窺わせると、ホチアがカイネルの視界を遮る。

 睨み付ける彼女にカイネルは困惑気味に声をかけた。

「どうしたのホチア?顔が怖いよ?」
「……テンスにキスしたカイネルさんは、きっと少女の下着に興奮するので、見てはいけません」

「そんな!ボクが少女の下着に興奮するなんて!本気で思っているのかい?!」
「……うん」

 ホチアの返答にカイネルは頭を抱えてふらつく。そんなカイネルをサッと支えたセヴンが言う。

「主、少女に欲情した場合は、私で発散して下さい」
「……セヴン……それは本気で言っているのかい?」

 カイネルは、目を輝かせているセヴンに溜め息を付く。

「事実は捻じ曲がって現実を侵食して行くんだね……、この身で体験できてよかったよ」

 などと吐いたカイネルは、自身の足をポンと叩くと表情を切り替えた。その様子を見たホチアも、表情を変えて言う。

「冗談はさて置き、テンスたちの生活品は全部運び終わったから安心して、テンスはこれから私の家に遊びにくるんだ~」
「そうなのです!これからホチアさんのお家にお出かけです!」

 テンスは興奮気味にそう言うと、ホチアと顔を見合わせて笑いあう。

「ホチア家見つかったんだ」
「うん、今日はテンスをお泊りさせてあげるつもりさ」

「そうなると天外を隠さないといけなくなるし、外層幕も消えてしまうんじゃないかな」

 天外の大きさは大人20人が乗れるほど大きくて、とてもじゃないが人目からは隠し辛い。外層幕にいたっては数時間で消えてしまう、と前にクススから聞いていたためカイネルはそう言う。

「それなら大丈夫です殿!」

 天外のボタンをホチアが押すと、外層幕が瞬時に無くなってしまう。

 そして、もう一度ボタンを操作すると再び外層幕が展開し一同が声をあげる。

「へ~再展開できるのか」
「どうやら本来の天外は外層幕を削除と展開が可能なのです。私たちのスカイブロックにあった天外はその機能を封じられていたらしいのです。さらにこのボタンを押すと」

 テンスが再び何かのボタンを押すと、天外が一瞬にして消えてしまう。

「……迷彩か……凄い機能だね」
「これならば何者にも見えません」
「しかし、これは見つけるのが大変では?」

 セヴンの言葉にカイネルは、「大丈夫だよ」と言う。

「ほら」

 カイネルは地面の草が潰れて、そこだけが不自然な部分を指摘した。

「よく見ないと分からないけど、理解していれば分かるし、あと場所もここの木を覚えておけば大丈夫だよ」

 そう言ったカイネルは、テンスとホチアの二人を見て安心すると、タワーの街への帰路についた。

 ユラダリアの復興、バルファーデンとコトーデの戦争に関する後始末、ドラゴンヘッドとの後始末、ナンバーネームズたちの生活支援。

 レイフのダイバー復帰、シアの妊娠の祝い、それ以外にもやらなくてはならないことが山積みのカイネル。

 しかし、彼には彼だけが知る一つの問題を抱えていた。

 それは、神核者という存在だ。

 セヴンをヴァハムートでスカイブロックへ送ったカイネルは、そのまま一度自宅へ帰る。

 タワーの街の門を通ったカイネルは、自分の右腕を見て何度か握り締めたり開いたりする。

「……ディアルムド、神核者……侮れない相手だ」

 その独り言は本当に独り言で、誰にも聞こえない。


「お帰りなさい、兄さん」
「ただいまアリア」

 カイネルを出迎えたアリアは、すぐにその後ろをキョロキョロと視線を動かす。

「どうしたの、アリア」
「い、いえ、あの子は?」

「あ~ホチアはワールドのところだよ、こっちの家も見つけたらしいから、もうボクの家に泊まることもないよ」
「そ、そうなんだ」

 ホッとするアリアは、「すぐにお風呂沸かしますね」と満面の笑みを浮かべた。

 カイネルは自室に入ると、魔法の紙を起動させて地図製作の続きに入る。

 黙々と記憶を頼りに書き込むカイネル。

「タワーの地図ですか?殿」

 不意に声をかけられて視線を向けると、そこには金髪ので金の瞳が顔を覗かせていた。

「……テンス?」
「はい殿」

 どうして君がここにいるんだ?

 その疑問がカイネルの口から出ることはなく、「兄さん、お風呂沸かしましたよ~」というアリアの声に、「うん!」と慌てて返事をする。

「殿の気配を察知して、その身を癒すべくやってきました」
「ホチアの家に遊びに行って、お泊りするって言ってたよね?」

「はい、だから、お泊りしに」

 おそらく、今ホチアはいなくなったテンスに困惑していることだろう。

 まさかテンスのお泊りが、ボクの家でなんてことが分かるはずもなく、ただただ、ボクはゆっくり魔法の紙を閉じた。

「兄さん!兄さん!」
「はい!」

 アリアの声に、カイネルは慌ててテンスを自分のベットへ入れて全身を隠す。

「入ります!」
「ちょ!」

 入ってきたアリアは、「あの子が訪ねてきてますよ!」と言い、その視線が不自然に盛り上がるカイネルのベットに向く。

「カイネル!カイネル!テンス来てないか!」
「ちょっと!勝手に上がりこまないでください!」

 ああ、ホチア、来てしまったんだね。

 カイネルは状況に、思わず苦笑いでホチアを迎えた。

「テンス、来てるよね!」

 そのホチアの声にベット盛り上がりがモゾモゾと動く。

「な、なんですか、兄さん」
「こ、これはね、あ~ん~好奇心旺盛な子でね」

 言い訳を考えて、言い訳を諦めたカイネルは、テンスの上に被せた布団をゆっくり剥がす。

「ハァハァ、殿の匂いがするぅぅ」

 だが、その瞬間に再びカイネルが布団をゆっくり被せると、アリアは目に涙を溜めながらポカポカとカイネルを叩き始めた。

「兄さんのバカ!浮気者!」
「どうしてテンスとベットに!まさか!カイネル!」

 カイネルは事態の収拾に頭を巡らせると、「よし!」と言って立ち上がる。

「お風呂に入ってくる!」

 カイネルがここ最近で身に着けた日常スキル、【戦術的撤退】は困惑するホチアとアリアを置き去りにして、あとは流れで誤魔化すというものだ。

 テンスは今も布団の中で、「殿の匂い~ハァハァ」と興奮し続けている。

 カイネルが五右衛門式の風呂に入っている時、カイネルの部屋ではそれはもう緊張に包まれたテンスと、物凄い表情のアリアとホチアの睨み合いが続いていた。

「……」
「……」

 沈黙するアリアとホチアに、たまらずテンスが願望を口にする。

「……殿と一緒にお風呂入りたいな~」

 ギロリとホチアの視線がテンスに刺さると、アリアは「トノって誰ですか?」と素朴な疑問を浮かべた。

「殿とは我が主、カイんん~」

 ホチアは慌ててテンスの口を塞ぎ、「ワールドのことだから!」と説明する。

「ワールドさん?」
「そ、カイネルがお風呂に入っているなら、ワールドも今頃入ってるかもしれない、それを想像したテンスは一緒に入りたいな~って思ったのさ!きっと!」

「そっちの子はテンスっていうのね……で、自己紹介とかないのかな?不法侵入者さん」

 ホチアの手から解放されたテンスは言う。

「テンスです、殿……カ……ワールドのお嫁さんです将来的にはね」
「へ~そうなんだ」

「んなことがあるわけないでしょうが!ウチだし!ウチが将来的にお嫁さんだし!」

 も~何なんじゃこの子は!

 そう思いつつテンスを連れ帰ろうとするホチアに、アリアは「もう帰るんですか?」と声をかける。

「良かったらどうですご飯でも、兄さんのお世話になってるワールドさんのお嫁さんならぜひご飯食べていってくださいよ」

 その言葉にホチアは、「ムリ!」とだけ言ってテンスを連れ出そうとする。

 ムリムリ、これ以上ここにいたらカイネルの事ワールドって呼び間違えたりしたら、カイネルの今までの苦労が無駄になっちゃうよ!

 ホチアは色々気を使ってテンスを連れ出して帰ると、アリアは少し困惑してカイネルが出てくるのを待って話を聞こうとしていた。

 そうしてお風呂から出てくるカイネルを待っていると、いつまでも出てこないことに違和感を感じて、お風呂がある外の一角へとアリアが向かうと、なぜかカイネル以外の声が響いてくる。

「兄さん?メイネとネテルと入ってるのかな?」

 そう思いつつ中を覗いたアリアが見たのは、やはりメイネとネテルがカイネルと一緒にお風呂に入っているところだった。

「あ!アリアお姉ちゃんも入ろうよ!」
「アリア姉さん?でも兄さんにくっ付かないと入れないよ?」

 カイネルは、お風呂ではずっと目を瞑ってウトウトとしている。だから、いつもメイネとネテルが勝手に入ってしまったのだろうと、アリアは立ち去ろうとする。

「……でも、こんな機会もう一生ないかもだし……」
「アリア姉さん?入る?」

 メイネの言葉に、アリアは母屋までの短い道を見つめ、ゆっくりと視線を風呂場の戸に移すと、静かにその戸を開けて中に入る。

「いいよね、私は妹だし、兄妹、姉妹で入るんだし」

 そう言って自身を言い聞かせながら、彼女は小さな脱衣所で服を脱いで、戸の無い浴室へと入って行く。

 広めの五右衛門風呂には、カイネルが両手を左右に広げて、向かい側にメイネとネテルが入っていた。

「私も入るね」

「アリアお姉ちゃん!じゃ私がお兄ちゃんの上に乗る!」
「ちょっと!ネテルずるいよ!」

 ネテルはサッとカイネルの上に移動すると、ゆっくりカイネルの右腕に頭を添えた。

 すると、そのままメイネも左腕に頭を添えて、ゆっくりと息を吐く。

 そうなると、アリアは素早く石鹸で体を洗い、兄の対面へ~と座ればいいものを、何故か彼女は素早くカイネルの前に同じ方向を向いて座る。

 もちろん、そこは妹たち二人の間になるが、思わず「ん?」とお尻に当たる違和感に気が付く。

 父とお風呂に入ったこともあるアリアは、その違和感には全く覚えがなく、右手で握ると柔らかかったものが、しっかりと固くなって、アリアの後頭部にあるカイネルの顔は当然真っ赤になる。

「なにこれ?」

 モミュモミュと両手で優しく掴むアリアに、カイネルの顔はどんどん赤くなる。

 その後しばらくアリアが満足するまで、カイネルは我慢しながら耐えていて、内心何の拷問だ、と思いつつ時を過ごした。

 風呂から出たカイネルは、再び地図を開くも、その制作意欲は失せ、食事に呼ばれるまでベットの上で正座しながら、アリアは妹アリアは妹アリアは妹とお経の様に旨の内で唱えていた。
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