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第四幕 奪われないための力
しおりを挟む力を手に入れた、なら次はどの貴族から殺すか、そんなことを考える日々。
そんな中で俺は、こんな力を持っていても、それでも得られない存在を今日も眺めていた。
「いらっしゃいませ!」
「ミレイユちゃんいつもの!」
「は~い!いつものですね!」
彼女の笑みは俺の唯一の癒しで、安らぎだ、こうして眺めているだけでいい。
そう思いつつ、俺はその時も彼女を見ながら別の男たちの話に聞き耳を立てていた。
「聞いたか、また例の野盗が現れたそうだぞ」
「荷馬車三台、女が一人連れ去られたそうだ」
この手の話は一度や二度、いや、もう何度も耳にしていた。だが、大概は尾ひれがついて話が大きくなってる可能性が大きい。だがしかし、今回は少々違うようだ。
「どうやら、その野盗ども、ラブズレン伯の元私兵らしくてな、どうやら盗られたそれらは伯の元へと入っていくらしい」
「何!そ、それじゃ、この辺の領地の兵に言っても、伯に睨まれて何もしてくれないじゃないか!酷い話だな――」
なるほど、ラブズレン、聞いたことがある貴族の名前だ。あまり評判は耳に入ってこないから、今のところ優先度としては低いと考えていたが、一番身近にそんなゴミがいたとはな。
「連れ去られた女は伯の元で、四肢を切断されて、嬲られて捨てられるとも聞いた」
「うげぇぇ、そいつは最悪な話だ」
税は六割、それだけでも領民にとっては苦しい生活が目に見える。それに加えて、取り足りないと野盗を使い搾取しているなど。
最初に始末する貴族は決まった。が、まずはその野盗どもから絶望を与えてやろう。
俺は酒場を後にして、その足で野盗のアジトへと向かった。
デリの町から東に少し向かうと、小高くなって谷になっている場所があり、その奥に奴らのアジトはあった。話ではラブズレンの所有していた別宅に野盗が住み着いた、そういうシナリオになっているらしい、体のいい作り話であるのは間違いない。
門番は一人か、手入れされた防具に高品質な剣、装備からしても野盗なはずがない。
もしかすると使命を持つ者がいるかもしれない、ダークナイトの力、試すにはやはりそれくらいの敵は必要だな。
「何だ貴様は」
「……そうだな……貴様らにとっての死神かな」
正面から堂々と、それができるのはこの黒のフルプレートのおかげだ。
店主の気遣いで、暗黒騎士らしい禍々しさも備わった良いデザインになっている。迫力だけならおそらくかなりのものだ、それは目の前のこの男の表情を見ても分かる。
「指を触れることなく殺すこともできるが、この剣の切れ味も試してみたい……、お前はどっちがいい」
「な、何を言っている!ここがラブズレン伯の息がかかる場所と知ってのことか!」
こういうバカがいると、戦いにおいて最も注意すべきは強敵ではなく無能な味方だ、その言葉が真実そうだと思える。
「死ね――己が無能を知らぬままに」
「ぐっな、何をした……ぐぅあがぁ」
この男からしても、ここにいる他の野盗も全て自らラブズレンに従っている愚者どもで間違いない。血を操作できるということは、目の前の男の脳の血管を少し突き破れば簡単に死を与えることができる。
「即死とまではいかないか」
急に苦しむ男を、俺は軽く押すと地面に倒れてしまい、簡単に敷地に侵入できた。
野盗が住み着いたにしてはやけに手入れが行き届いている庭、やはりラブズレンもここへきているようだな。
重々しい音を立てて開く玄関、入ってすぐ目に付く物は、傘立てのようなカゴに傘のように乱雑に置かれた鞘に納められた剣だ。
おそらくショートソード、野盗なら短剣や手斧が常であるところをこんな兵士が扱うような物を用いてはバレバレだろうに。ま、それだけバレても問題がない程にその行為を咎める者がいないのだろうと推測できる。
建物に入ると、右手の扉の奥から声が聞こえて、何かしらの体内の血の存在を感じる。
左側でにおう血の匂い、それはおそらく女、しかも若い女の血の匂いだろう。
「どうやら生きてはいるようだが、ま、無事ではないだろう、何人に嬲られればこんなに血が香るか想像に難くないな」
俺はまず右にいるゴミを処理するために、その金のドアノブに触れた。
部屋に入ると直ぐに視界に飛び込んできたのは、乱雑に置かれた酒の空瓶空樽で、次に目に入るのが飲んだくれたゴミども、最後に目に入ったのが裸の少女だった。
少女は無理矢理に酒を飲まされているようで泥酔状態、加えて下半身の穴に酒瓶が突き刺さっていた。おそらく処女に無理やり突っ込んだのだろう、俺がエシューナとした初めての時より多くの血が出ていた。
「な、んら?ッヒ……えんなやつらな!」
「おいおい!こいつぁ侵入者じゃないのかぁ!」
舌も回らない、剣を持つ手が震えているぞゴミども。
そう思いつつ剣を手にしたゴミに対して、武器屋で購入した高価な大剣を振り下ろした。
「ピギャ」
随分とブサイクな鳴き声だ、潰れるかと考えていたゴミは意外とキレイに半分になった。
「さすがは白金貨の大剣、値段に負けない切れ味だ」
俺の笑みは見えないだろうが、ゴミたちの動揺は見て取れる。
ゴミの一人は泥酔状態の少女を前に自慰でもしようとしていたのか、一物をさらけ出していたため、その小さな一物を血を操る能力を使いはち切れるほどに立たせると、本当にその一物が風船のように弾けてしまった。
「ぎぁっっ……」
痛いんだろうな――、そう思いつつ他のゴミたちも脳を弾けさせた。
そうして全てが終わった時、あることを忘れていたことに気が付く。
「ん?そうだ使命……」
使命を持っている相手と――と思っていたが、あっけなく終わらせてしまった。
ゴミ処理を終えた俺は、倒れている少女の体からビンだのを引き抜いて、血の支配者で少し血を操り傷を癒した。
そして、建物の奥に感じる気配に会いに行くと、そこには首輪をはめられた半裸の女たちがいて、事情を聞くとどうやら売られたり攫われてきたらしい。
彼女たちの体の状態を見ても被害者なのは明らかで、例の最初の左側の部屋にいる女を治療して彼女らには村へ帰ること勧めた。
「私、売られたんです……帰る場所なんてもうないんです」
泣きながらそういう女に、どうやら他の女も似たり寄ったりの境遇。
俺にとって想定外の事が起きているのは確かで、貴族を殺すために行動しているが故に、女たちを助けることは難しい。だが、ここで見捨てたら、それはエシューナと同じことをすることと同義でしかない。
「……分かった、お前たちはこのままここで過ごせ、今日からここを俺のアジト――拠点とする」
「あなたは――」
「ブラッド、ダークナイトを使命とする者だ」
俺は彼女らを見捨てはしない。
俺は住み慣れた寝床を捨て、戸惑うエシューナを連れて屋敷に住むことにした。
屋敷に戻ると首輪を付けた三人に頼んだ通り、ゴミの処理は終わっていて、泥酔していた少女も気が付いて、例の血の匂いのする女も気が付いていた。
血の匂いのする女は、ゴミの中の一人の一物を包丁で何度も刺していた。余程そいつに恨みがあったのだろう。
今は彼女の好きなようにさせておくとしよう、ただ、その様子にエシューナが戸惑っているのを感じて俺はことの経緯を話した。
「つまり、これらは全部ラブズレンの命令で行われていることだ」
「そんな……ラブズレン伯がこのようなことを――」
「勘違いするな、こんなのは一部でしかない、お前たち王族が腐っているから貴族も腐っている。だから、あの女たちが受けたような仕打ちを受ける」
だが、それもこれからは違う。俺が貴族も王族も全て処理するからだ。
「全てをその血であがなってもらうさ」
彼女が王女だということは他の女にはしばらく黙って置いた方がいい、そうエシューナに忠告したが、はたして彼女は理解しているだろうか。
「ブラッド様、お食事の用意ができました……」
なぜか例の包丁女以外の様子がおかしい、何かに怯えているようで。
「……冑を外さないと食べれませんよ」
エシューナの言葉でようやくその理由が理解できた。
俺が、いつまでも禍々しい冑を被っているから彼女らは怯えていたんだ。少女なんか、他の女の後ろに隠れている。
正直冑を被っている間は威厳ある態度を演じ易い、それがこの髪の毛のように冑無しでも徐々に馴染んでいけばいいが。
そんなことを考えながら冑を外すと、食器が割れる音が響き、それが女の一人が落としたためだとすぐに理解する。だが、その理由が分からず、俺は女に視線を向けると、女は俺を見て固まっていた。その女だけじゃない、他の女も少女さえも、隠れるのを止めて俺を見ている。
「……どうかしたか?」
最初は髪の毛が白いから驚いているのかもしれない、そう思ったがどうやら違うらしく、その理由はエシューナが呟いた言葉で理解することになる。
「また、顔が格好良くなってる」
どうやら、徐々に血の支配者に馴染んでいくほどに、俺自身の体もこっち側の姿に馴染んでいっているらしい。髪の毛にしても既に先まで真っ白で、使命を得る前と後では全くの別人だ。
「ブラッド様、今宵のお伴は不要でしょうか?」
「……あぁ、それに関しては不要だ、俺にはエシューナがいるからな」
そう俺が言うと、女たちは少しガッカリした様子で寝室を後にする。寝室に残ったエシューナを見て、随分自然にそこにいると思い少し意地悪なことを俺は言う。
「手料理が作れる時点で彼女らはお前より有能だ」
「……はい」
聞いたこともないほど落ち込んだエシューナの返事。
「エシューナ、来い」
俺に名前を呼ばれると、彼女は躊躇することなくベットに入ってくる。
もしかしたら、彼女は俺に抱かれることを望んでいる?そう思いつつも、そんなはずがないと今日も今日とて彼女を抱いて夜を明かす。
「ブラッド――」
彼女がそう呼ぶのももう何度目だろうか、甘い声で啼く彼女に対して、この行為は本当に復讐になっているのだろうか。そんな疑問を置き去りに、俺は彼女の表情を見て、声をもっと響かせようと激しさを増す。
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