趣味がチート探しで異世界転移した俺は、世界に囚われた唯一の存在だった。

tobu_neko_kawaii

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4話 ヒモ男が就職するってさ

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「聞きましたか主」
「ペノー、その主っての止めない?なんかくすぐったいし」

「ですが、雇っていただいたのなら親方でない限りは主としか呼び方がありません!」

 約一週間、このラルンスで過ごしているけど暮らしやすい。あとはゲームでもあればって話だけど……この状況をVRと捉えてやはり冒険に出ることくらいしかないかと思い始めた今日この頃。

 ペノーとの関係も主と雇われ鍛冶士に固定され、ようやくペノーへの罪悪感が無くなった柚夏奈は、村の人たちに気に入られつつあった。

 猫耳と猫尻尾が無いためその容姿が美しいとは思われていないけど、言い寄る者もいないことは彼女にとっての救いだ。

「今日は冒険者登録に北東の村行くんですよね?柚夏奈さんはどうしたんですか?」
「さー、俺も待ってるんだけどね、最近何か考え込んでいるようで、悩みがあるみたいなんだよな」

「いったい何でしょうか……やはりお金ですかね主」

 ぐぬぬ、ヒモ男である俺はその件では肩身が狭い。

「あ、ペノーちゃんに太一くん」

 噂をすれば柚夏奈の登場……やはり悩んでいる様子だけど。

「どうかしたの、柚夏奈?」
「え?はい……あのですね、実は私そろそろ赤ちゃんが欲しいなって」

「なるほど、赤ちゃんね」
「はい、私の夢はお母さんになることなんですが、太一くんと赤ちゃんを迎えられればって思っているの」

 ふー、なんだ、赤ちゃんか、そうだよな母性ってのは女の子は早く目覚めるって言うしな。

「……って!赤ちゃんって!」
「太一くんも赤ちゃん欲しいでしょ?」

 な、なんだこれは、何を言っているんだこのピュアな生き物は!ピュア過ぎて恥ずかしい!

「柚夏奈さんや……赤ちゃんがどうやって生まれてくるか知っているかい?」

「はい、好き合っている男女がコウノトリさんに祈ることで、コウノトリさんが運んできてくれると母さんから教えて貰ったんです」

 柚夏奈のお母さん、ある程度の歳になれば本当のことを話すつもりだったんだろうけど、話す前に亡くなってしまったから、ピュアな娘が原石のままうろついてしまっている。

「だから太一くん、一緒にお祈りに行きましょう、その前に結婚とかもしておかないと、役所にも届けてでないと子どもが困るって父さんも言ってたし」

 柚夏奈のお父さんは現実的なことを話していたのに、肝心なところは話していないだと!

「太一くんは何人がいいですか?私は男の子と女の子二人がいいですけど、太一くんもっと望むなら私も頑張って養いますよ!」

 ああ、誰かこの清らかな無知に真実を告げてくれまいか。

 俺が肩を落としていると、小さい体躯のロリッ娘ドワーフが柚夏奈に近づく。

「柚夏奈さん!女の子には子宮と言うのがありまして!」

 ま、待てペノー、そんな直球で説明するとか、てか小さいのに性に対する知識があるだと!親の教育が行き届いているのか!

「そこから生えてくるんです!」

 いや!生えてはこないから!植物じゃないから!

「ペノーちゃん、お腹から人は生えてこないよ?」

 しかし、俺が教えることもできるけど、今は触らないでおこう、俺も知識だけで説明しきれる自信がないし。

 本当は柚夏奈に赤ちゃんが欲しいと、これからもねだられたい太一なのであった。

「って、ことにしておいて、柚夏奈、北東の村に冒険者登録に行こうぜ」
「え?うん、そうだね、金貨はまだあるけど働かないと、いつまでもはお金があるわけじゃないし」

 お金もそうだけど、ゲームみたいに没頭できるものが欲しい、柚夏奈がいるだけでも十分だけど、俺には男には趣味も大切なんだ!いや、女にとってもか?

「さ!行こう!冒険者登録に!」

 ペノーを残し、柚夏奈と二人で北東の村へと向かう。そこはド田舎の村で住民も少なく農地が広がていた。

 三世帯ほどでほぼ老人、派遣されているというギルドの支部を切り盛りしているのは20代の女性で、やる気も無いだらけていたい風の女の人だった。

「登録なら大きな町でした方が、依頼も直ぐに更新されるし、集まる依頼も多いのでおすすめですね」

 やべー面倒くさいのがきたわ、って顔して俺たちにそう勧めるギルドの受付さんは、俺がどうしてもここでと言うと渋々から嫌々に態度が変化しつつ作業を開始した。

「感じの悪い人だね」
「いや、こんな田舎で登録なんて、今時する人もいないから能力の低い人がここに配属されているんだろうな。それなのに俺たちみたいなのが来ると面倒くさがるのは普通なんだろう。ほら、鑑定士とかもいないしさ」

 柚夏奈は受付さんの態度に嫌悪感を抱きつつも、王都で登録するよりもマシだと言う。

「では、こちらの書類にぃ適当に記入してください」
「はい」

 そう言って手渡された書類に色々記入して、年齢の隣にあるパーティーの関係性を記入する欄を見て、俺はすぐに柚夏奈の方を覗き込んだ。

 いったい、俺と柚夏奈の関係性は何なんだろうか、柚夏奈はどう思っているんだ?

「……婚約者……いや、夫婦ってことだよね、子どもがいないだけだし」

 既に結婚している間柄!さすがは子どもはコウノトリが運んでくると勘違いしている天然娘!

「ん?どうしたの?」
「いや、夫婦って記入してもいいのかなってさ」

「あ!そうだね、役所にも届けていないもんね、内縁ってことで夫婦って言えないかも……」

 いや、そういうことではないのだよ!

 などと思いつつ、夫婦と記入してみたり、おぉ夫婦、何か……感動すら感じてしまうな。

「お二人は夫婦なんですね、今時流行りの駆け落ちですかぁ?」

「いや……」
「清き交際をしている最中です!」

 柚夏奈がそう言うと、受付さんは内心思ってしまう。

 この子、美人なのにバカなんだろうな……。

「それはともかく、お二人のクラスは……アイテム鑑定士と調律士とのことですが、本当に二人で冒険者に?」

「はい!お金を稼がないといけないので!」
「……戦闘職がいない場合、死亡率は八割を超えます、それでも冒険者になりますか?」

 一応は俺たちに無謀さを説いているんだろうけど、ま、まず死ぬことはないだろうな。

「大丈夫ですよ、こう見えても俺と彼女は死なないので」
「……ならいいのですが、死亡した場合、残された遺物はこちらのギルドで金銭に変換しますがよろしいですか?」

「はい!大丈夫です!私たち死なないので!」

 そうして登録した俺たちは冒険者の証を受け取る。

「これが銀翼?」
「いいえ、それは鉄翼です、鉄製の翼のレリーフです」

 小さいレリーフを胸元に付けた俺たちは、いよいよ冒険者になってしまった。

「では、こちらの手配書が賞金付きの魔物です、依頼は今日もございません」

 今日もか、毎日田舎にまで依頼が回ってくることは少ないんだろう。

「手配書、魔竜?ドラゴン、難易度業火?インフェルノかな?」
「そちらは、長年サダ―ラン聖法王国のハーレットラル領の北の沼地に巣食う一体のカースドラゴンだとか」

 ドラゴンとかファンタジ―すぎるな、魔物も見たことが無い俺たちはまだ異世界に触れた感覚が少ないからな。

 この時の俺は、まだペノーをただのロリッ娘でパーフを耳の長い手品師くらいにしか思っていなかったから、ドラゴンの名前に期待してしまった。

「柚夏奈、ドラゴンだって、どうする?」
「もちろん、退治しに行こうよ!困っている人もいるみたいだよ」

 柚夏奈は乗り気だったが、受付さんは嫌がっていた。

「そちらは熟練の冒険者パーティーでも不可能な手配書です、建前で出しているだけですので、別に受けて頂かなくても」

「いいえ、困っている人がいるなら倒すのが冒険者です!」
「……はい……では手続きを」

 柚夏奈は一度決めたら絶対に曲げない、なら、俺は彼女が戦える剣を用意しないとな。

 ペノーが作ってくれたペノーソード、アビリティがついているけど無い方が好ましいから、そういった理由で作ってもらったこのCランクのペノーソードが役に立つ。

「相手はドラゴンだから、ドラゴンスレイヤーとかドラゴン特攻とかは必須だろ、今回は殺すことが前提だけど、ドラゴンに絞るべきだろうな、柚夏奈が人を誤って殺してしまうことが無いようにしないと、思い詰めて悲しい顔をされても困る」

「太一くん?」
「ん?どうした?」

「準備できたけど、太一くんは?」
「ほら、これが今回の柚夏奈の武器だよ」

「え!ありがとう!今回はどんなアビリティが付いているの?」
「ドラゴンだけを退治できる剣だ」

「へーありがとう、これで間違って人を全裸にすることは無いんだね」
「ん?……うん、そうだね」

 言えない、人間に対して全裸にする効果を付けていることは。

「あれ?そういえば……この前の剣のアビリティ、敵を全裸にする効果はつけていたけど、どうしてペノーにも効果が出たんだろうか……うむ、分からん」

 この時俺は気が付かなかったけど、柚夏奈がペノーを敵だと認識するだけの理由が一つだけあった。

「太一くん、あの女の人太一くんに惚れたりしないよね?」
「え?ないでしょ、アイテム鑑定士のヒモ男だよ?ないない」

「……分かんないよ、女の子は惚れやすいから」

 同性に対する柚夏奈の敵意、それに気が付いていれば、あんな事件は起こるはずもなかった。
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