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第一部
13.3 自由【秩序】な世界
しおりを挟む3 自由【秩序】な世界
君の名前を聞いてもいいか?男は笑顔でそう言った。
「ヤト」
「ケージェイだ」
差し出された手。普段なら握り返すことはないが、事が事であるため握り返した。
握手によって相手の名前がその頭上に現れると、KJという文字が見て取れた。
165の俺と比べると、ケージェイは190ぐらいはあるだろうか。
「ヤト……みんなも聞いてくれ!」
ケージェイは注目を集めると、これからどうすべきかを話し始めた。
「俺たちテスターの有利は今一番発揮されている。つまり、今を逃せばいずれ数で勝る非テスターたちが有利となるだろう」
「だからってどうすんだよ!」
「非テスターの数を減らすのか?」
そう返すテスターたち。
「いいや、違う――最初に作るのはギルドだ」
KJの言葉にその場の多数が首を傾げる。
「すまない、言葉を間違えたかもしれない。ギルドとは言ったが、実際に作るのは"最強のギルド"だ」
ケージェイの言い分は"圧倒的な抑止力"を作る、ということなのかもしれない。
「一つのギルドにテスターも非テスターも従う、いいや、決まりを反しない限りは得をすると言って聞かす」
「一万人のプレイヤー、その上にギルドを作るとして上限が200――」
メガネの男がそう言う。
単一のギルドで200という定員は多い、フルダイブ系のMMOでは珍しいが、もしかすると大規模なPVP、ないしPVEを予定しての設定をしていたのでは?と勘ぐってしまう。
「テスターだけでギルドを作って、それでどうするんだい?」
メガネの男の言葉は当然の質問だ。
たかが単一のギルドでは、8000ものプレイヤーを力で云々は無理がある。
「今、頭で"無謀だと"思い浮かべたなら、まだ発想が足りない」
ケージェイは指を立てて言い切る。
「8000人にギルドを作らせる。ギルドマスターは1人、1ギルドに対し上限200、40ギルドに40人のギルドマスターなら御し易い」
その言い分に疑問があるとすれば、1人で200もの人間を仕切ることなどできはしない。
8000の中でそんな資質を持った人が何人いるだろうか、いいとこ十数人だろう。
「人は誰かに導かれなければその場で足踏みをし続ける、希望と自由を与えてやれば彼らは水を得た魚のように泳ぎ始める」
「非テスターたちが一斉に敵対したらどうする?8000人ともなるとどうにもならないだろ?」
俺がそう言うとケージェイは腕を広げてみせた。
「彼らは自由だ!好きなもの同士でギルドを作って好きなように過ごせばいい」
それなら不満を持つことはまずない、が、一部ではやはり不満が現れるだろう。
「それでも敵対する奴が出てきたらどうする気だい?」
メガネの男の質問は的を射ている、不満は増幅し伝染する。
「もちろんその不満は沈静化……いや、鎮圧しなくてはいけない、自由の対価に彼らにはこちら側に協力を要請する」
つまり、不満を持った集団をテスターと非テスターで罰するということ。
「非テスター同士で律しあうのか、……それなら不満がテスターに偏らないね、僕はその考えに賛同するよ」
メガネの言葉に他のテスターたちも反応する。
「俺も」
「俺も賛成だ」
「まずはテスターに説明しなくちゃならないだろ?」
ケージェイは俺に視線を向けて言う。
「どうだヤト?この考えに不満があれば聞きたい」
「………不満――」
不満などないが、上手くいく保障もない、全ては仮定の段階だ。
「実際にやってみないとな、上手くいくかどうかは分からない」
なら、やってみようじゃないか――
ケージェイの差し出した拳に、俺は少しだけ悩んで右手の拳を前に突き出す。
「ならすぐに行動しないとな、時間は待ってはくれないぜ」
「そのつもりだ――」
拳と拳がぶつかり合い、俺たちは互いに同意しあった。
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