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第一部
19.6 一期一会
しおりを挟む6 一期一会
「VRMMOでは、初心者がこうして痛みの無いままヘルス、体力を失うことが多いんだ」
「確かに、痛みを伴わないダメージって把握し辛いからね」
カイトは真剣な表情で、ようやく事の重大さに気が付いた様子だった。
それを見た俺は彼女の腕を放し、左手を左に素早くスライドさせて、簡易のスロットに選択したアイテム、回復アンプル小を手元に出現させる。
「……これを」
俺がそれを手渡すと、カイトはフムフムと口にしながら凝視する。
「コレ……回復薬かい?」
「そうだ……ヘルスは常に満タンを保て、この世界は遊びじゃないんだぞ――」
「……そうだね、この世界は遊びじゃない」
その現実を突き付けられた表情は、彼女自身にまだ覚悟なんてものがない証拠だった。
「初心者であることも本来隠すべきだ、でないと、利用され死ぬことになる」
俺の言葉にカイトは、風に黒髪を揺らしながら頷く。
「でも、無言で腕を何度も小突くのはどうかと思うよ、ボクは」
どこか懐かしいこの会話、KAITOという文字の並びにも覚えがあるが、彼女でとは呼んだことがなかった。
「……もしコレが俺じゃなく、本当に悪意を持ってる奴だったら――今ここで死んでたぞ」
「かもしれないね」
のんびりしているのか、悟っているのか、俺は少し丁寧に一から説明した。
「一つ、他人は信用するな、アイテムや装備は資金に変えられる、初心者同士なら簡単に奪い合えるのがMMOだ。二つ、一人で歩くのは止めろ、初心者一人なんていいカモだ」
カイトは黙って俺の言葉を聞く。
「三つ、この世界は良くも悪くもゲームだ、だが、今は命がかかっている、もう少し警戒して行動しろ、俺に話しかけている時点で不用心過ぎる。あんたみたいな美人、そうでなくても悪目立ちしてるからな」
「……美人――ね」
……たく、こいつ……嬉しそうにしている場合じゃないぞ。
「人を疑え、すぐ信用するな、用心しろ――そう言っているんだ」
「……同じくらいの歳なのに、年上に感じちゃうなヤトは」
…………。
そうして、俺はカイトにこの世界を教え始めた。
「剣は体で覚える、それしかない。運動が不得手ならこの世界では生きられない、良くも悪くも感だけが頼りになる」
「なるほど……なかなか難しいね、ゲームなのに本当に剣の修行しているみたいだ」
「向こうでこんなに剣を振れば息切れして、筋肉の疲労で腕が上がらなくなる、この世界ではそういったことはない」
「なるほど、ちゃんとゲームってわけだね。はっ!えい!」
そうして、スキルやチェーンスキルを教え終わった頃には、数時間が経っていた。
「ありがとう、色々と世話になったねヤト」
「こっちも、〝人に教える〟ってのが、大変だと体感できる良い経験だった。が、もう二度とごめんだ」
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