Blade Chain Online―ブレイド・チェーン・オンライン―

tobu_neko_kawaii

文字の大きさ
99 / 138
第二部

99.

しおりを挟む

 試合開始のゴングはなく。ただ、誰かの罵声がそれになる。

 突っ込んでくるプレイヤーの剣を避け、左手の棒を背後で回し、足に引っ掛けて転げたところに右手に持ち替えた棒を打ちつける。

 HPバーが4分の1減るのを確認したヤトは、素早く3回同じように棒を打ちつけた。

 HPの消失でプレイヤーがゆっくりとエフェクトへと変わる。

「……まずは1人――」

 1人いなくなったところでまだ99人いて、その誰もがそれを見て怯みはしない。

 プレイヤーが一斉に群れて近づく光景は、中世欧州の戦争を彷彿させていた。

 しかし、その対象はたった一人である俺に向かってくる。

 その1人が華麗な棒捌きで戦う姿を見た者は、さながらアクション映画以上の迫力があったに違いない。

 砂漠の上という悪所でのアクロバティックな動きに、他のプレイヤーは一切ついてこれない。

 巻き上がる砂が細かく再現されて、一層動きがアクロバティックに見える。

 ステータスが同一にもかかわらず、まったく違う動きをするため、「チーターが!!」と叫ぶプレイヤーたち、その気持ちも分からなくもない。

 黒いファンタジーコートと物干し竿という組み合わせは、普通なら変に見えてもしかたない、がどうやら、今はその動きが玄人過ぎて見蕩れるプレイヤーも現れる。

 そんなプレイヤーも一瞬で足を棒で払い、宙を舞っている間に4連突でHPを削るとエフェクトへと変わる。

 集団に囲まれても棒を器用に使えば、頭上から囲いの外へと逃れることができて、その後にスキルによる素早い一突きを使うと、集団が吹き飛んでいく。

「何をしている!相手は1人だぞ!!」

 ジョーカーの声が響くと、プレイヤーたちは不満そうにブツブツと文句を垂れ始めた。

「相手はチーターなんだろ」

「あー無理ゲー」

「パフミパフ!!パフナ!」

 相手がチート使いと思ってるのならば当然の反応、妙な言葉はあまりに酷い罵声でNGワードを喋ったためのものだろうと推測できる。

 ジョーカーも、イライラしている様子で戦闘を眺めている。

 戦意を失った相手でも俺は容赦なく倒していく。数が減ってくると、ようやく〝ゲームらしい〟戦い方をするプレイヤーが現れ始めた。

 左右に展開して投剣で攻撃、それを牽制で回避した所に大剣などでスキルを放ってくる。

 外れたらそれをカバーするために楯がタンクとして前に入る。

「……少しは頭を使うようになったか――」

 相手が烏合の衆からパーティーに変わった、それはそれで前提として戦えば問題ない。

 棒で投剣を弾くことも容易にできたのだが、耐久値が減って壊れてしまうことを懸念して全てをかわし続けた。

 戦闘開始から20分、すでにプレイヤーの残りは30人を切っていた。

 そして、ついに棒の耐久値が攻撃による減少でなくなり、中ほどからヒビが入って砕ける演出が入る。もちろん、プレイヤーたちはそれを見て笑顔を浮かべた。

 1人のプレイヤーが大剣を振りかぶって斬りかかる、が、それは時期尚早だった。

 黒いファンタジーコートがフワっと広がり、大剣が空を斬るとそれ振るう男の体が上下逆さになる。地面を仰ぎ見る男の横で、軽くジャンプし踵を振り下ろすと、鎧を身に付けた男が地面に叩きつけられて砂塵を巻き上げる。

 倒れるプレイヤーを足蹴にすると、始めに棒で一人を地面に伏した状況とほぼ同じ光景、違うのはHPの減少量ぐらいだ。

「……武器がなくなった――だからといって勝算があるとでも?」

 そこまでしてようやく力の差に気がついたプレイヤーたちは、もう自棄で突撃しだした。

 向かってくる男たちをいなしては殴る蹴るの猛攻。

 少し距離をとって見ているプレイヤーは、「アメージング……」と言って呆ける。

 気がつくと呟いたプレイヤー以外はもう1人もいない。

「1対100で100が負ける……確かにチートと言われるはずだ」

 男がそう言う理由は本来チートが、アイテムやステータスに反映されるが、アバターを動かすことには反映されないためだ。例えば、自動でCPUとして常識離れの武術や動きができたとしても、それを人にチートでさせるのは無理なのだ。

 それに、CPUがいくら強いステータスや武術の動きができても、1人を見ている間に他の方向の攻撃は防ぎきれない。破壊不能な設定なら別だが、それ無しに無傷ということに驚かないフルダイブプレイヤーはいない。

「あんたに負けるのなら仕方ないな――」

 男の捨て台詞を聞き、俺は特に何も返答せずに殴って倒す。

 そうして、広い砂漠に一人だけになってしまう。

「……〝コンバットグローブ〟がなかったら、こんなにダメージは通らなかった」

 そう呟き、手元のグローブをギュッと握り閉める。

 コンバットグローブは装飾のユニークアイテムで、効果は、〝防具による殴打のダメージ減少無効〟というものだ。もちろん攻撃力の反映もされるため、純粋なSTR分の攻撃力になるが、コンボボーナスというものがあり、その数値によって反映率も上昇する。

 そうして戦いを終えると、再び元いた場所へと転移が始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。 185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク! ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。 そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、 チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、 さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて―― 「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」 オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、 †黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!

姉が美人だから?

碧井 汐桜香
ファンタジー
姉は美しく優秀で王太子妃に内定した。 そんなシーファの元に、第二王子からの婚約の申し込みが届いて?

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

処理中です...