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第二部
99.
しおりを挟む試合開始のゴングはなく。ただ、誰かの罵声がそれになる。
突っ込んでくるプレイヤーの剣を避け、左手の棒を背後で回し、足に引っ掛けて転げたところに右手に持ち替えた棒を打ちつける。
HPバーが4分の1減るのを確認したヤトは、素早く3回同じように棒を打ちつけた。
HPの消失でプレイヤーがゆっくりとエフェクトへと変わる。
「……まずは1人――」
1人いなくなったところでまだ99人いて、その誰もがそれを見て怯みはしない。
プレイヤーが一斉に群れて近づく光景は、中世欧州の戦争を彷彿させていた。
しかし、その対象はたった一人である俺に向かってくる。
その1人が華麗な棒捌きで戦う姿を見た者は、さながらアクション映画以上の迫力があったに違いない。
砂漠の上という悪所でのアクロバティックな動きに、他のプレイヤーは一切ついてこれない。
巻き上がる砂が細かく再現されて、一層動きがアクロバティックに見える。
ステータスが同一にもかかわらず、まったく違う動きをするため、「チーターが!!」と叫ぶプレイヤーたち、その気持ちも分からなくもない。
黒いファンタジーコートと物干し竿という組み合わせは、普通なら変に見えてもしかたない、がどうやら、今はその動きが玄人過ぎて見蕩れるプレイヤーも現れる。
そんなプレイヤーも一瞬で足を棒で払い、宙を舞っている間に4連突でHPを削るとエフェクトへと変わる。
集団に囲まれても棒を器用に使えば、頭上から囲いの外へと逃れることができて、その後にスキルによる素早い一突きを使うと、集団が吹き飛んでいく。
「何をしている!相手は1人だぞ!!」
ジョーカーの声が響くと、プレイヤーたちは不満そうにブツブツと文句を垂れ始めた。
「相手はチーターなんだろ」
「あー無理ゲー」
「パフミパフ!!パフナ!」
相手がチート使いと思ってるのならば当然の反応、妙な言葉はあまりに酷い罵声でNGワードを喋ったためのものだろうと推測できる。
ジョーカーも、イライラしている様子で戦闘を眺めている。
戦意を失った相手でも俺は容赦なく倒していく。数が減ってくると、ようやく〝ゲームらしい〟戦い方をするプレイヤーが現れ始めた。
左右に展開して投剣で攻撃、それを牽制で回避した所に大剣などでスキルを放ってくる。
外れたらそれをカバーするために楯がタンクとして前に入る。
「……少しは頭を使うようになったか――」
相手が烏合の衆からパーティーに変わった、それはそれで前提として戦えば問題ない。
棒で投剣を弾くことも容易にできたのだが、耐久値が減って壊れてしまうことを懸念して全てをかわし続けた。
戦闘開始から20分、すでにプレイヤーの残りは30人を切っていた。
そして、ついに棒の耐久値が攻撃による減少でなくなり、中ほどからヒビが入って砕ける演出が入る。もちろん、プレイヤーたちはそれを見て笑顔を浮かべた。
1人のプレイヤーが大剣を振りかぶって斬りかかる、が、それは時期尚早だった。
黒いファンタジーコートがフワっと広がり、大剣が空を斬るとそれ振るう男の体が上下逆さになる。地面を仰ぎ見る男の横で、軽くジャンプし踵を振り下ろすと、鎧を身に付けた男が地面に叩きつけられて砂塵を巻き上げる。
倒れるプレイヤーを足蹴にすると、始めに棒で一人を地面に伏した状況とほぼ同じ光景、違うのはHPの減少量ぐらいだ。
「……武器がなくなった――だからといって勝算があるとでも?」
そこまでしてようやく力の差に気がついたプレイヤーたちは、もう自棄で突撃しだした。
向かってくる男たちをいなしては殴る蹴るの猛攻。
少し距離をとって見ているプレイヤーは、「アメージング……」と言って呆ける。
気がつくと呟いたプレイヤー以外はもう1人もいない。
「1対100で100が負ける……確かにチートと言われるはずだ」
男がそう言う理由は本来チートが、アイテムやステータスに反映されるが、アバターを動かすことには反映されないためだ。例えば、自動でCPUとして常識離れの武術や動きができたとしても、それを人にチートでさせるのは無理なのだ。
それに、CPUがいくら強いステータスや武術の動きができても、1人を見ている間に他の方向の攻撃は防ぎきれない。破壊不能な設定なら別だが、それ無しに無傷ということに驚かないフルダイブプレイヤーはいない。
「あんたに負けるのなら仕方ないな――」
男の捨て台詞を聞き、俺は特に何も返答せずに殴って倒す。
そうして、広い砂漠に一人だけになってしまう。
「……〝コンバットグローブ〟がなかったら、こんなにダメージは通らなかった」
そう呟き、手元のグローブをギュッと握り閉める。
コンバットグローブは装飾のユニークアイテムで、効果は、〝防具による殴打のダメージ減少無効〟というものだ。もちろん攻撃力の反映もされるため、純粋なSTR分の攻撃力になるが、コンボボーナスというものがあり、その数値によって反映率も上昇する。
そうして戦いを終えると、再び元いた場所へと転移が始まる。
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