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第5滑走
リザルト
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キスクラに座ると、ルイが隣に腰を下ろした。
口数は少ない。
それでも、隣に座ってくれているという事実が、何よりの言葉だった。
「……冒頭の4S、見てましたか?」
「見てた。跳べてた。……跳びに行った、というより、“待っていた”ようにさえ見えた」
ヤンはふっと息を吐く。
「ルイ先生に教わったこと、思い出しました。『跳ぶんじゃない。流れの中に踏み出せ』って」
「……言ったな。そんなこと」
二人の会話が続く前に、画面が点灯した。
アナウンサーの声が響く。
《Technical Elements(技術点):89.08》
《Program Components(演技構成点):80.92》
《Deductions:0.00》
Free Skate Total:170.10
Total Score:262.95
──ヴォルフィーを、わずか0.16点差で逆転。
スタンドから歓声が上がる。
確かに「空気が変わった」瞬間だった。
控室にはヴォルフィーとレメーニがいた。
得点を見たヴォルフィーは、少しだけ口元を歪めた。
「……負けたな」
「そう見えますか?」
「うん。でも、悔しくはない。不思議と」
「それは、あなたが“演じ切った”からです」
ヴォルフィーはしばらく無言のまま画面を見つめていたが、不意に笑った。
「ってことはさ、俺とヤンのプログラム、どっちが“芸術”だったか、これで証明された?」
「……どちらも、“本気”でした。それで充分です」
最終結果の確定のアナウンスが入る。
「これにて、男子シングル・フリースケーティング、全競技終了!
最終順位が確定いたしました――」
画面に表示されるリザルト。
Men's Singles - Final Results
1st: Jan Lysáček (Czech Republic) – 262.95
2nd: Wolfgang Müller (Germany) – 262.79
3rd: Aleksandr Sotnikov (Russia) – 258.25
4th: ...
会場のあちこちから拍手が沸き起こり、チェコ国旗が掲げられる。
リンクに呼ばれたヤンが再び立ち上がる。
表彰台の中央へ向かうその姿は、どこまでも自然体で、誇らしげだった。
ヤンの右隣に登るヴォルフィーが、ぼそりと呟く。
「……まあ、今日はその場所譲ってやるよ。たまにはな」
ルイは最後まで言葉を口にしなかったが、
どこか、誇らしげな目をしていた。
口数は少ない。
それでも、隣に座ってくれているという事実が、何よりの言葉だった。
「……冒頭の4S、見てましたか?」
「見てた。跳べてた。……跳びに行った、というより、“待っていた”ようにさえ見えた」
ヤンはふっと息を吐く。
「ルイ先生に教わったこと、思い出しました。『跳ぶんじゃない。流れの中に踏み出せ』って」
「……言ったな。そんなこと」
二人の会話が続く前に、画面が点灯した。
アナウンサーの声が響く。
《Technical Elements(技術点):89.08》
《Program Components(演技構成点):80.92》
《Deductions:0.00》
Free Skate Total:170.10
Total Score:262.95
──ヴォルフィーを、わずか0.16点差で逆転。
スタンドから歓声が上がる。
確かに「空気が変わった」瞬間だった。
控室にはヴォルフィーとレメーニがいた。
得点を見たヴォルフィーは、少しだけ口元を歪めた。
「……負けたな」
「そう見えますか?」
「うん。でも、悔しくはない。不思議と」
「それは、あなたが“演じ切った”からです」
ヴォルフィーはしばらく無言のまま画面を見つめていたが、不意に笑った。
「ってことはさ、俺とヤンのプログラム、どっちが“芸術”だったか、これで証明された?」
「……どちらも、“本気”でした。それで充分です」
最終結果の確定のアナウンスが入る。
「これにて、男子シングル・フリースケーティング、全競技終了!
最終順位が確定いたしました――」
画面に表示されるリザルト。
Men's Singles - Final Results
1st: Jan Lysáček (Czech Republic) – 262.95
2nd: Wolfgang Müller (Germany) – 262.79
3rd: Aleksandr Sotnikov (Russia) – 258.25
4th: ...
会場のあちこちから拍手が沸き起こり、チェコ国旗が掲げられる。
リンクに呼ばれたヤンが再び立ち上がる。
表彰台の中央へ向かうその姿は、どこまでも自然体で、誇らしげだった。
ヤンの右隣に登るヴォルフィーが、ぼそりと呟く。
「……まあ、今日はその場所譲ってやるよ。たまにはな」
ルイは最後まで言葉を口にしなかったが、
どこか、誇らしげな目をしていた。
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