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第1楽章
消えなかった音
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あの日、公園での演奏のあと、彼女は何も言わずに去った。
名前と、そのギターの音だけが、レメーニの中に強く残った。
──アーシャ。
それだけを頼りに、彼はあれから何度も放課後の公園を訪れた。
だが、彼女が再び姿を現すことはなかった。
木のベンチには別の人間が座っていたり、時には誰もいなかったり。
演奏の余韻すら残らない、ただの街角の空間に戻っていた。
「やっぱり、偶然だったのかもしれない……」
そう思いながらも、彼の足は止まらなかった。
ほんのわずかな可能性に賭けて、ヴァイオリンケースを抱えて通い続けた。
──そして、ある夕暮れ。
レメーニは、公園の入り口に立つブロンドの女性を見つけた。
ギターケースを背負い、背筋をまっすぐ伸ばした姿。
間違いなかった。アーシャだった。
思わず声をかける。
「アーシャさん……!」
彼女は立ち止まり、振り返る。
淡いアイスブルーの瞳がこちらを見た。その表情は変わらず、どこか冷たく静かだった。
レメーニは息を整えながら、言葉を紡ぐ。
「……あの、また、あなたのギターを聴きたくて。あの日の演奏が、ずっと耳から離れないんです」
アーシャはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「……金曜の夜なら」
言葉は、風に流されそうなほど小さかった。
「だいたい、レストラン《トロイカ》にいる」
「……え?」
「仕事してるの。演奏の。学生じゃないから」
それだけ言うと、彼女はまた歩き出した。
その背中は、もう話しかけるなと告げるようでもあり──どこか、こちらの反応を待っているようにも見えた。
レメーニは小さくうなずく。
それが、彼女なりの「来てもいい」という合図なのだと信じて。
名前と、そのギターの音だけが、レメーニの中に強く残った。
──アーシャ。
それだけを頼りに、彼はあれから何度も放課後の公園を訪れた。
だが、彼女が再び姿を現すことはなかった。
木のベンチには別の人間が座っていたり、時には誰もいなかったり。
演奏の余韻すら残らない、ただの街角の空間に戻っていた。
「やっぱり、偶然だったのかもしれない……」
そう思いながらも、彼の足は止まらなかった。
ほんのわずかな可能性に賭けて、ヴァイオリンケースを抱えて通い続けた。
──そして、ある夕暮れ。
レメーニは、公園の入り口に立つブロンドの女性を見つけた。
ギターケースを背負い、背筋をまっすぐ伸ばした姿。
間違いなかった。アーシャだった。
思わず声をかける。
「アーシャさん……!」
彼女は立ち止まり、振り返る。
淡いアイスブルーの瞳がこちらを見た。その表情は変わらず、どこか冷たく静かだった。
レメーニは息を整えながら、言葉を紡ぐ。
「……あの、また、あなたのギターを聴きたくて。あの日の演奏が、ずっと耳から離れないんです」
アーシャはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「……金曜の夜なら」
言葉は、風に流されそうなほど小さかった。
「だいたい、レストラン《トロイカ》にいる」
「……え?」
「仕事してるの。演奏の。学生じゃないから」
それだけ言うと、彼女はまた歩き出した。
その背中は、もう話しかけるなと告げるようでもあり──どこか、こちらの反応を待っているようにも見えた。
レメーニは小さくうなずく。
それが、彼女なりの「来てもいい」という合図なのだと信じて。
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