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幕間
旅の中で(アーシャ視点)
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街の広場で、ヴァイオリンを弾く子どもを見つけた。
どこかで見たような、真面目な顔。
指のかたちも、肩の緊張感も──
ふと、あの少年を思い出す。
「届く音を、持っていたい」
そんなことを言っていた。
子どもが言うには大げさすぎるセリフだと思ったけれど、不思議と耳に残っていた。
彼女はそれを「夢見がちな子のひとこと」として片付けたかった。
でも、どうしてか思い出すたびに胸のどこかが、かすかに音を立てる。
仕事先のフェスティバルで、ある審査員が雑談の中でふと口にした。
「最近、ハンガリーの若い子が頑張ってるらしい。レメーニ……って名前だったかな」
アーシャは聞き返さなかった。
目の前の紅茶を見つめたまま、返事をせずにいた。
──ブダペストに帰ったのね。
そう思っただけだった。
別に、だからどうということもない。
でも、何かが変わっていた。
気がつけば、自分の演奏にもどこか“聴かせよう”という意思が混ざることが増えた。
そういう演奏を、自分は嫌いだったはずなのに。
演奏の合間、ホテルのロビーで新聞をめくった。
そこに、小さな見出しが目に入る。
チャイコフスキー国際コンクール──若きヴァイオリニスト、M.レメーニが決勝へ進出
アーシャは新聞をたたんだ。
心が静かに波打っていた。
──戻ってきたのね、モスクワに。
「……まさか、本当に来るとはね」
誰に言うでもないその言葉が、空気の中に消えていった。
⸻
どこかで見たような、真面目な顔。
指のかたちも、肩の緊張感も──
ふと、あの少年を思い出す。
「届く音を、持っていたい」
そんなことを言っていた。
子どもが言うには大げさすぎるセリフだと思ったけれど、不思議と耳に残っていた。
彼女はそれを「夢見がちな子のひとこと」として片付けたかった。
でも、どうしてか思い出すたびに胸のどこかが、かすかに音を立てる。
仕事先のフェスティバルで、ある審査員が雑談の中でふと口にした。
「最近、ハンガリーの若い子が頑張ってるらしい。レメーニ……って名前だったかな」
アーシャは聞き返さなかった。
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──ブダペストに帰ったのね。
そう思っただけだった。
別に、だからどうということもない。
でも、何かが変わっていた。
気がつけば、自分の演奏にもどこか“聴かせよう”という意思が混ざることが増えた。
そういう演奏を、自分は嫌いだったはずなのに。
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そこに、小さな見出しが目に入る。
チャイコフスキー国際コンクール──若きヴァイオリニスト、M.レメーニが決勝へ進出
アーシャは新聞をたたんだ。
心が静かに波打っていた。
──戻ってきたのね、モスクワに。
「……まさか、本当に来るとはね」
誰に言うでもないその言葉が、空気の中に消えていった。
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