『 使えない』と勇者のパーティを追い出された錬金術師は、本当はパーティ内最強だった

紫宛

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追放と加入

第13話 おネェなギルドマスター

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あれから、さらに半年たった。

スノースノーの街を出て3日、依頼をこなしながら、ようやくアロイス雪原を抜け王都への街道に出た。
雪道から普通の大地に変わり、吹雪からチラつく程度の雪に変わった。

舗装された街道は、浄化石が適度に埋め込まれている為モンスターは出にくい(出ないとは言ってない)。
先を歩いていたラハルが何かを見つけたようだ。

「フォルス!テントが見えますよ!」
「……テント?この先に小屋があるのにか?」
「ええ、もしかしたら、アロイス雪原は初めてなのかも知れませんね」
「ならば、忠告をしといた方が良いだろうな…モンスターの発生率が上がってる事を」

誰かは知らないが、何も知らずにアロイス雪原に入るのは危険すぎる。
俺達は、忠告するためテントに近付く。

すると、テントから人が出てきた。

「!!!」

出てきた人物に、ピシッと思考と体が固まる。固まった俺を気にも止めず、3人はテントから出てきた人物に近寄る。

「イレーネ殿ではありませんか」
「よっ、嬢ちゃん久しぶりだな」
「……元気?」

「ラハルさん、ザックさん、シグレさん!お元気でしたか?!」

パッと顔を上げ、表情はあまり変わってないが嬉しそうに返事を返していた。

「あれ?フォルスさんは?」

俺の名前が聞こえ、止まってた呼吸が戻ってくる。イレーネ嬢に聞かれたラハルは、後ろを指さし「あそこですよ」と言った。

(っ!はぁ……いき、息が……ヤバかった)

イレーネが、ラハル達から視線をずらし、俺を見つけ手を振ってきた。
俺は、ようやく足が動き、イレーネ達の元に歩き出した。

「お久しぶりです、フォルスさん。お元気でしたか?」
「ああ、俺達は問題なく元気だな。イレーネこそ、元気だったか?」
「……えっと、はい元気ですよ」



いま、なんか…間があったな……。
何があったんだろうか……
仲間と顔を見合わせるが、誰も事情など知るはずもない。
仕方が無いので、イレーネに直接聞くことにした。

「なにか……あったのか?」

聞けばビクッと肩を上げさせ俯く。
表情が見えないが、辛そうな顔に、またザハルに何かされたのかと苛立った。

彼女は口を開いては閉じ、開いては閉じを数回繰り返し、再び俯く。
そして、俯いていた顔を上げ、意を決したように話し始めた。

「……実は、簡潔に言いますと…」
「うん」

一呼吸置き

「勇者パーティから、追い出されたんです」











「はあ?!」

ポカンと阿呆な顔になる。
一瞬何を言われたのか分からなかった。

「は?……え?、追い出された?」
「はい」

神妙な顔で頷き、さらに言葉が続く。

「『お前は錬金術師の癖にポーション作れないから』と」


なんだと……!
表情が強張り、一気に険しくなる。

「それで、どうしたのです?」

俺の顔には触れず、続きを促すラハル。

「聖女様であるレニアさんという方を新たに仲間に入れたそうです。それで、私は必要なくなって邪魔だからと……無能だから……と」

少し、涙乍なみだながらに話す彼女が痛ましい。

イレーネ嬢の作るポーションやアイテムは素晴らしい物だ。性格も人柄も全て。

それを、全否定する彼らが忌々いまいましく、この手でぶん殴りたい程だ。

「それで……その……」

彼女は、言い難いいにくそうに言葉を詰まらせる。

 


※※※

まさか、テントから出たら北の勇者であるフォルスさん達に出会うとは、思ってなかった。

その時の私の顔は、鳩が豆鉄砲を食らったような、とても間抜けな顔だったと思います。

朝ごはんの支度に取り掛かろうと、テントの外に出て焚き火のチェックをしてたら、私の名を呼ぶ声が聞こえたんです。

なんだろう?と顔を上げたら、ラハルさん達が駆け寄ってきて、声をかけてくれたんです。フォルスさんのことを聞けば、後ろを指したので、視線をずらしフォルスさんを見つけ手を振りました。


そして私は、自身の身に起きたことをフォルスさん達に全て話しましたら……
皆さん、自分の事のように怒ってくれました。

途中、フォルスさんの顔が物凄く怖いものになっていましたが……
それで私は、勇気を出して、言うことにしました。

「あの、その……っ!フォルスさん!前に話してくれた……勧…「イレーネ、俺達の仲間に入らないか?」」

「っ!」

私の言いたい事を汲み取ってくれたのか、私の言葉に重なるようにして、フォルスさんが再び勧誘してくれました。

「っ、あの……」
「貴方がくれたポーションは、私達の命を助けてくれました。貴方がくれたアイテムは、仲間を助けてくれました。貴方の作るアイテムは、私達の助けになるでしょう」

そう、ラハルさんが言ってくれました。

「嬢ちゃんの人柄は、付き合いが短くても充分に分かる」
「皆に好かれてる、だから誘った」

ザックさんも、シグレさんも、そう言ってくれました。

ならば、こんな私でも役に立てるのなら……

今度は、北の勇者であるフォルスさん達の助けになれればいい。

「私を、仲間に入れて下さい。よろしくお願いします」

(精一杯頑張りたいと思います)

頭を下げて、丁寧に挨拶をする。

「イレーネなら歓迎だ」

言って私の頭をぐしゃぐしゃと撫で回すフォルスさん。微笑みを浮かべ見守るラハルさん。ザックさんは豪快に笑い、シグレさんも、笑っていた。

このメンバーが、私の新しいパーティ。


「それで、イレーネはどうする?俺達は王都に行くんだが……」

あ、王都は……

「すみません。私はスノースノーに行ってて良いですか?王都には、その……」

メンバー登録もあるので、一緒に王都に行くのもありですが……やはり、ザハルさんにかち合いたくないので。

フォルスさんが、私の意思を尊重して下さいましたが、腕を組んで何やら悩んでいます。

「アロイス雪原なんだがな、今モンスターの発生率が上昇してて危険なんだ」

え、そうなんですか……1人は厳しいでしょうか……最悪、モンスター避けのアイテムがありますから、1人でも何とか……なると思いますし。少しなら攻撃アイテムもありますから、戦えます。

「1人では行かせられない。
ザック、シグレ、共にスノースノーまで行ってやってくれないか?」
「イイよ」
「ああ、構わないぞ」
「良いのですか?全員で王都に行かなくても……最悪、私は1人でも……」

「ダメだ!」
「イレーネ殿、ここはフォルスの言う通りに、何も全員で報告に行く必要はありませんから」
「北の大地のモンスターは、Lv通りの強さじゃねぇから、全員での移動の方が安全なんだ。本来ならな」
「ぼくたちは、強いから平気
  イレーネ1人くらいなら守れるよ」

そう説得され、私とザックさん、シグレさんでスノースノーに。
フォルスさんとラハルさんが王都に行くことになりました。

戻ってくる時に危険かもしれないので、私の持っているモンスター避けのアイテムを数個と、モンスターから逃げる為のアイテムを渡しておきました。

「ありがとう、イレーネ気を付けてな。ザック、シグレ頼んだぞ」
「直ぐに私達も戻りますから、大丈夫だと思いますが無理しないように」

凄く凄く心配されました。
こんなに心配されたのは久しぶりです。
ザハルさんのパーティにいた時は、心配なんてされたこと無かったので。

「イレーネの事は心配すんな、傷一つつけさせはしねぇ」
「仲間は守る」
「フォルスさんも、ラハルさんも、お気を付けて!」

そうして、私達は別れました。


アロイス雪原を進み、途中の小屋で一泊してスノースノーを目指しました。

驚いたのは、シグレさんが料理してた事です。失礼ですが、1番やらない……と思ってました。
それを言ったら「コイツらの料理、不味い」と言ってました。「これからは、私も作りますよ」と伝えたら「君の料理、美味いの?」と聞かれましたが、少し嬉しそうでした。

スノースノーの街に到着をして、先ずはギルドを訪ねました。
扉は2枚あって、開けたら閉めて次の扉を開けるのだそうです。寒さ対策なのだそう。

2枚目の扉を開けた瞬間

「まぁ~~~!あなたがイレーネちゃんね!、サムアって言うの。よ ろ し く ね!」

ピシッと固まる……

一瞬間違えたと思って、扉を閉めた。

(……え?……)

もう一度、扉を開けて……

「もう!急に閉めるなんて酷いじゃない!」

少し低めの声を上げて、女性のような言葉使いで私に話しかけているこの人は…… 
紅緋べにひの髪をストレートに腰まで伸ばし、瞳は灰色で、とても体格のいい男性で……

ギギギと音がしそうな感じで振り返れば、ザックさんが「ヤレヤレ」と言った感じで紹介をしてくれた。

この人が、北の大地を取りまとめるスノースノーのギルドマスター、サムアさんというそうです。

「イレーネちゃん!ね」

語尾にハートが付きそうな感じで話してくる男性に、慣れそうにありません……。



今日は挨拶を済ませ、勇者が間借りしている領主の御屋敷に泊まらせて貰うことになりました。





サムアさんの存在が、強力過ぎて……眠れそうにありません……。


※※※※※※※

今回の話数、めちゃくちゃ長くなりました。
すみませんm(_ _)m
しかし、次の話が、東の勇者視点の話になりますので、どうしても、キリがいいところで終わりたかったのです。ご了承くださいです。

次の話が、少し暴言や暴力と言った言葉が多く出てきます。
読みたくない場合は、スキップして下さいますよう、よろしくお願いしますm(_ _)m

長々と、失礼致しました。
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