『 使えない』と勇者のパーティを追い出された錬金術師は、本当はパーティ内最強だった

紫宛

文字の大きさ
26 / 41
過去と闇

第20話 イレーネの過去

しおりを挟む
ザハルさんと邂逅かいこうしてから、ザックさんとシグレさんと一緒に、彼らがよく使う宿屋に向かっていた。

2人ともまだ警戒していて、周りに視線を巡らせながら私の傍についてくれていた。

「大丈夫か、イレーネ?災難だったな」
「はい…」

さっきの事が脳裏をぎる。

『イレーネ、また俺達のパーティに入れてやる。有難く思え』

掴まれた腕を無意識に摩る。
ザハルさんの形相が、以前とまるで違った。
3ヶ月前、別れた時はまだ人らしい雰囲気だった。でもさっきのザハルさんは、目が虚ろで、隈があり、目がギョロっとしていた。

正直、あの一瞬は怖かった。
一瞬で顔付きが変わったから。

「そう言えば、イレーネは、なんであんな勇者と行動を共にしていたの?」
「……え?」
「そう言えば、そうだな。イレーネ程の実力なら引く手数多だろうに」

私が、ザハルさんと一緒に行動するようになった理由……

「ザハルさんと出会ったのは、4年近く前になりますね
でも、パーティに入る決意をしたのは、14年近く前に経験した事とある人の助言ですね」

私の最初の記憶







イレーネ 5歳

川のせせらぎが近くから聞こえ、目が覚めた。

私は、何してたんだっけ?
どうしてここにいるの?
私は……だれ?

「ここ、どこ?」
「……さま、イレーネ…さま」
「イレーネ?それ、私のこと?」

目の前にいた人が、私を呼ぶ……
私はイレーネと言うらしい。
何故だかとても悲しくて、自然と涙が溢れてくる。

どうして……?

「そうです。貴方様は……私たちの、大切な、御方で……」
「お兄さん……?どう、したの?ねぇ」
「申し、訳ありま……せん。貴方様を……守る…には、これし、か方法……が」

お兄さん?が、苦しそうに話してる。

「大丈夫……?」
「イレーネ、さま、良く…聞いて、下さい。もし、貴方様…の家族を、名乗る方、が現れ……た、なら、コレを…」

そう言って震える手で渡してきたのは、小さな紙切れだった。

「家族?」
「そう……です。…きっと、現れ……ますから。イレーネ、さま、諦め…ない、で下さい」

そこまで言うと、お兄さんは、話さなくなった。

「お兄さん…お兄さん?…お兄さん!やだ!1人にしないで!」

揺すっても、叩いても、お兄さんは起きなかった。頭から流れる赤い液体が、地面を染めていく。

ダメだと、何とかしないとダメだって、私は何故か思って……走ったの。
泣きながら「誰か助けて」って!
そしたら、近くにいたおじいさんが声掛けてくれて…私もお兄さんも助けてくれたの。

でも、お兄さんは全然目を覚ましてくれなくて……。
私は、自分がイレーネとしか分からなくて。
おじいさんの家でおばあさんと一緒に暮らし始めて。

気が付いたら、8年の年月が過ぎていて、私を育ててくれた、おじいさん夫妻が亡くなって。それから2年、錬金術を学びながらポーションを売って生計を立ててたんです。

私を助けてくれたであろうお兄さんは、10年の年月を経ても目を覚ましませんでした。
死んではないのですが、目を覚ます気配もなかったんです。

そうして、日々を過ごしてたら、村に勇者が訪れたんです。
ザハルさんは東の勇者になったばかりで、まだまだ未熟なのだと話してました。

「君がイレーネかい?錬金術師の?」
「はい?そうですけど、貴方様は?」
「僕はザハル、勇者の神託を受けて、この度東の勇者に選ばれたんだ」
「勇者ザハルさま……!申し訳ありません!」

その場に跪き頭を垂れる。

「あ!そんな事しなくていいよ!確かに僕達東の勇者パーティだけど、まだまだ未熟だからね」

仲間に視線を移し同意を求めたザハルさん。
格闘家のゴドさん、狩人のキリクさん、魔道士のウルべさんが、優しい笑みで頷いてくれたのを覚えてる。

「ありがとうございます。それで、私に何か御用でしょうか?」
「君の錬金術腕を見込んで頼みがあるんだ」
「頼みですか?」
「うん!僕達には回復役が居ないんだ!だから君のポーションの腕を見込んで、僕達のパーティに入らないかい?」
「パーティ……ですか?」

その時、最初の記憶が甦ったの。
お兄さんの言葉を思い出したの。

『貴方様…の家族を、名乗る方、が現れ……た、なら、コレを…』

家族を名乗る人……
今まで、そんな人は現れなかった。
それは、私がこの村を出なかったから…

もしかしたら、この村を出た先に、私の家族が見つかるかもしれない。
そう思うと、勇者様の誘いは、魅力的だった。でも、未だ覚めないお兄さんを置いていく事は、どうしても出来なかった。

「悩んでいるのかい?」
「先生!」

ザハルさんに誘われた日の夜、とても月が美しい夜だった。
共に行きたいけど、村を出ること、お兄さんのこと、踏ん切りはつかなかったわ。

村のお医者が話しかけて来るまでは。

「あの青年の事だね」
「…………」
「君が、ザハルくん達と村を出たいと言うなら……、私があの青年の面倒を見てあげるよ」
「先生」
「君のポーションで、この村は救われた。みな感謝してるんだ。だから、僕達に頼って欲しい。
 ザハルくんは、良い青年だよ。信頼出来る、行っておいで」
「っ、ありがとう、ございます」

そうして次の日に、ザハルさんと話して、後日村を発ったの。
あの時は、まだ、優しかったのよ。

ザハルさんも、ゴドさんも、キリクさんも、ウルべさんも。

でも、1年の月日で、彼らは変わってしまったの……。


と、寂しそうに俯き話すイレーネを、ザックとシグレは、驚いた顔で見つめていた。
2人は顔を見合わせ、イレーネのいた村の名前を聞き出した。

「イレーネ!君がいた村の名前は?」
「え?…村の名前ですか?」
「うん、そう!」
「マヤンナ村です。東の孤島にある」

それを聞いたザックさんは、ギルドに行くと言って走って行ってしまいました。
シグレさんが1人残ってくれて「心配?」と聞かれたので「いいえ」と答えたら、満足そうに笑って「大丈夫、ぼく、これでも強いから」と言いました。

既に宿屋に着いていたこともあり、私とシグレさんは、夕食を食べて部屋でまったりする事にしました。



その頃ギルドでは……ザックさんのもたらした情報がヴォルフさんに伝わり、王弟レオにも伝えられることになったのでした。
しおりを挟む
感想 100

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

【 完 結 】言祝ぎの聖女

しずもり
ファンタジー
聖女ミーシェは断罪された。 『言祝ぎの聖女』の座を聖女ラヴィーナから不当に奪ったとして、聖女の資格を剥奪され国外追放の罰を受けたのだ。 だが、隣国との国境へ向かう馬車は、同乗していた聖騎士ウィルと共に崖から落ちた。 誤字脱字があると思います。見つけ次第、修正を入れています。 恋愛要素は完結までほぼありませんが、ハッピーエンド予定です。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

『「毒草師」と追放された私、実は本当の「浄化の聖女」でした。瘴気の森を開拓して、モフモフのコハクと魔王様と幸せになります。』

とびぃ
ファンタジー
【全体的に修正しました】 アステル王国の伯爵令嬢にして王宮園芸師のエリアーナは、「植物の声を聴く」特別な力で、聖女レティシアの「浄化」の儀式を影から支える重要な役割を担っていた。しかし、その力と才能を妬んだ偽りの聖女レティシアと、彼女に盲信する愚かな王太子殿下によって、エリアーナは「聖女を不快にさせた罪」という理不尽極まりない罪状と「毒草師」の汚名を着せられ、生きては戻れぬ死の地──瘴気の森へと追放されてしまう。 聖域の発見と運命の出会い 絶望の淵で、エリアーナは自らの「植物の力を引き出す」力が、瘴気を無効化する「聖なる盾」となることに気づく。森の中で清浄な小川を見つけ、そこで自らの力と知識を惜しみなく使い、泥だらけの作業着のまま、生きるための小さな「聖域」を作り上げていく。そして、運命はエリアーナに最愛の家族を与える。瘴気の澱みで力尽きていた伝説の聖獣カーバンクルを、彼女の浄化の力と薬草師の知識で救出。エリアーナは、そのモフモフな聖獣にコハクと名付け、最強の相棒を得る。 魔王の渇望、そして求婚へ 最高のざまぁと、深い愛と、モフモフな癒やしが詰まった、大逆転ロマンスファンタジー、堂々開幕!

【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします

ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに 11年後、もう一人 聖女認定された。 王子は同じ聖女なら美人がいいと 元の聖女を偽物として追放した。 後に二人に天罰が降る。 これが この体に入る前の世界で読んだ Web小説の本編。 だけど、読者からの激しいクレームに遭い 救済続編が書かれた。 その激しいクレームを入れた 読者の一人が私だった。 異世界の追放予定の聖女の中に 入り込んだ私は小説の知識を 活用して対策をした。 大人しく追放なんてさせない! * 作り話です。 * 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。 * 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。 * 掲載は3日に一度。

処理中です...