大国に売られた聖女

紫宛

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第36話

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「分かったわよ!なら、早くして」

クレアは、心底面倒臭そうに腕を組み顔を背けました。空は依然として、晴天のままでしたが…先程感じた嫌な違和感は、今も肌にビリビリと感じています。

「次は、状態異常にかかった者を救って頂きたい」
「なんですって?!」
「我が国の聖女を頼り、他国より治療して欲しいと訪れている者を連れて来た。この者達の治療をして頂く……どうした?顔色が悪いようだが?」

ナファール様の言葉の通り、クレアの顔色が白を通り越して青くなっていました。

どうしたのでしょうか?
何時もなら、自信満々に派手に治療を施すのに……

「……まさか、治療出来ぬ……という訳ではあるまい?」
「っ……」
「それとも、治療出来ぬのか?」

挑戦的なナファール様の言葉に、クレアは言葉もありませんでした。ソルシエラなら、言い負かされる事は無かったのですが……流石にナファール様には敵わないみたいですね。

「……待って……」
「なに?」
「天操で…、天操で私の力を証明しますわ!」

(天操なら、絶対に私の方が優秀だと気付くはずよ!だからっ……!)

「……はぁ、ならぬ」
「なっ!?」
「治療が出来ぬからと、聖女と認めぬ訳では無い。聖女の特性として、出来ぬ者が居るのは知っておる。出来ぬなら、出来ぬと言えば良い」
「……それ、は……っ」
「出来るなら、治療せよ。出来ぬなら、そう申せ」

ナファール様は、私に視線を移し治療するよう言いました。既に、この場には治療が必要な方が集まっていました。私は彼らの元に向かい、治療を施します。ただ、少し時間は要しますが……

十数分程して、私は治療を終えました。
目の前の方は毒に侵されており、重症ではありませんでしたが苦しんでおりました。傭兵では無く一般の民だったので、より辛かったのでしょうね。

「終わりました」
「そうか、ご苦労だった聖女メシア。それで?聖女クレアは、治療するのか?せぬのか?」
「……わた、しは……くっ……治療出来、ません」
「え?」

クレアは、悔しそうな声で出来ないと言いました。私は、その言葉に驚きを隠せませんでした。だってクレアは、治療も治癒も結界も、何でも出来ると言っていましたし、大司教様も確認し認めたと……

「そうか……。聖女メシアよ、済まぬがこの者の治療もしてやってくれぬか?」
「畏まりました」

私は、今度は腕半分を氷に覆われた女性の前に跪き、治療の為の祈りを捧げました。祈りは、天に届き聖気が女性を癒していく。

私が祈っている間、空に感じていた違和感は一切感じませんでした……一体、あの感覚は何だったのでしょうか……?

治療が終わると、ゾファロ様とロクさんが私の側までやって来ました。

「陛下。メシア様は既に、兵士の治癒と2人の治療をなさいました。天操の確認をするのは構いませんが、日にちを改めてはいかがでしょうか」
「そうだな、聖女メシアが倒れられては困る」
「ぇ?私は大丈夫ですけど?」
「ダメっす、精神力とか集中力とか気力とか、メシア様は気付いてないッスけど疲れてます!」

と言う、過保護な方々の意見で天操の証明は明日になりました。私は、ロクさんとゾファロ様と一緒にお城に入り……クレアは、再び馬車に乗せられて教会に連れていかれました。

クレアは、馬車に乗る時も大声で文句を言っていました。どうして自分が教会で、私がお城なのかと……今さっきまで落ち込んでいたようだったのに、もう立ち直ったんですね…。



次の日の朝、私はいつも通り食堂でナファール様とエリス様、ファリス様と食事を取っていました。

今日の昼に、クレアが天操を行う事になっています。私とクレアは、それぞれ力を発揮する時間帯が違うんです。私は夜に、クレアは昼に力を発揮します。

なので……天操の様に大きな力を使う時は、それぞれ得意な時間帯に行う事があります。もちろん、緊急時には時間帯など気にせず行いますが……今回のように時間に余裕がある時は、それぞれ得意な時間帯に行う事もあるんですよ。

儀式とかは特に、ですね。

本日の昼にクレアが雨を降らせ、私は夜に雨を降らせるのですが……苦手ではありませんが、得意でもないので、私の場合は時間がかかります。早ければ半日と少し、遅いと1日は覚悟した方がいいかも知れません。

逆にクレアは、天操が得意みたいで1時間ほどで雨を降らせます。調子がいいと、1時間もかからずに雨を降らせる事ができるんですよ。


「メシア様、調子はどう?疲れてない?」
「大丈夫ですよ。ルナファルナに来てから、体力もつきましたし、何よりも力が強くなったようなので」
「だが、無理はするな。お前が倒れでもしたら、俺達は心配で堪らなくなる」
「は、はい」
「大丈夫だよ、メシア。俺も、セイラ嬢もいる。カシオスもアリンナ嬢もな」

私を案じ、言葉を尽くして下さる皆さんには感謝しかありませんね。私が何を不安に思ってるのかも、全てご存知なんでしょうね……面目もありません。

何度「大丈夫」と自分の心に言い聞かせても、皆さんがどれだけ言葉を尽くして下さっても、完全には拭えない不安が私の心を暗くするんです。

また……ソルシエラの時のように、クレアの力を見て皆さんの心が変わってしまったら?
私が失敗して雨が降らなかったら?
祈りが天に届かなかったら?

……と…

(だめ、だめだよ…暗くなっちゃダメ!あの時、あのパレードの時に決めたじゃない!前を向くって!自分を信じてくれる人達に恥じない行動をするって!大丈夫、大丈夫よ…私は、私の出来る事を精一杯するの……!)

迎えた昼……

城と街を繋ぐ水路、その間にある庭……そこは、儀式にも使われる特別な場所があるそうです。城から出て湖を渡り庭の方に行くと、もう既に多くの人が集まっていました。

儀式に使われるであろう祭壇にはクレアがいて、遅いと言わんばかりに私を睨んでいました。

ナファール様も到着し、最後の証明が始まる。

自信ありげに笑うクレア……私も、負ける訳にはいきません。


_____

今回の話で、クレアざまぁの予定でしたが……無理でした!!すみません~( ´ ཫ ` )

次回、クレアざまぁ編です。ちょっと、R15が入るかも知れませんが、よろしくお願いします。
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