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第5話 出立
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2日目の朝。
昨日の痺れが嘘のように消えて、清々しい目覚めだった。ただ……目覚めて、直ぐに違和感に気が付いた。
「アイシャ……これ、貴方が?」
自分に掛けられたウール素材のひざ掛けを持って、世話に来た侍女のアイシャに問いかけた。
「いいえ、私が来た時には……」
「そう……」
アイシャは、緩く首を振って否定した。
そうよね、私達がこんな良いものを持ち込める訳ないし……
そっと、自分が寝ていた場所を振り返る。そこには、柔らかい素材のクッションが沢山置いてあった。
そう言えば……
昨日の夜、ソル様が来た気がする……じゃあ、……これはソル様が?
ううん、ソル様は私を疑ってるはず……こんな事する訳ないわ。
じゃあ、ラシード様……な訳ないわよね。
うん、絶対無いわ。
結局……誰が用意したのかは分からなかった。きっと誰かに聞いても「知らない」って答えるだろうし。まぁ、答えても嫌われてるから本当の事言うわけないわよね……
まさか……地竜様…とか?
アマルは「そんなわけないか」と考える事をやめた。
気にした所で、答えが分かるわけじゃないものね。
「ヒメサマ」
「どちら様ですか?」
外から誰かが声を掛けてきた。
アイシャが対応すると、ご飯の支度が出来たという事だった。
支度を整えて外に出ると、テントの前にソル様が立っていた。
「ソル様?」
「……」
ソル様は何も言わず私の顔を見つめた。
「もう、大丈夫なのか?」
その言葉で、昨日の夜の事を言っているのだと分かった。例え疑ってても、心配してこうして様子を見に来てくれたのだという事ぐらいは。
でも……ダメなの。
私の事は気にしないで、嫌っていて……
貴方は、自分の事と国や民の事を思っていて……
「なんの事かしら」
「……」
「まさか、ソル様。私のテントに勝手に入りましたの?」
「……いや」
ごめんなさい。
心配してくれてるんだって、分かってるの。
でも、ダメなの。
(だから、昨日の事は忘れて……)
ソルの言葉を待たずに、アマルは歩き出した。地竜のいる広場に向かって…
「ヒメサマ、ゴハン、ドウゾ」
片言な言葉で食事を持ってきてくれたのは、カヴァルの護衛の女戦士だった。
私は、センシエル語(聖王国センシェル)もカルヴァ語(砂漠の国カヴァル)も話せるけれど、彼女が口にしたのは共通語のリヴェル語(全国)だった。
私の為に、カヴァル語ではなくリヴェル語で話してくれる彼女の優しさが嬉しく思う。
ニコニコと笑って接してくれるけれど……この人は、私の事嫌いじゃないのかしら?
「ありがとう」
でも私は、奪うようにお盆を受け取って嫌味を放つ。
「はぁ、穀物を煮ただけのスープに硬いパンですか……こんな物を食べなくてはいけないなんて」
「ゴメン、ナサイ」
女性が少し悲しそうな顔をする。
嘘よ……
彼らの作るスープには、穀物だけじゃなく細かく切った野菜が入っている事は知っているもの。パンだって、スープに浸して食べるから少し硬めにしてある事は知ってるわ。
ごめんなさい……貴方は悪くないの。
それでも、彼女を振り返り優しくする事は出来ない。
振り返らず視線をずらす事で確認すると、ソル様が話しかけている所だった。女性は、何度も頷き去って行った。
アイシャが隣に立って「計画は止めますか?」と聞いてきたので「それだけは絶対に無いわ」と返した。
そう、それだけは絶対に無いの。
食事を食べ終えたアマルは、地竜の元に向かった。昨日の約束の確認をしに。
グル
『おや』
「昨日の約束の確認に」
グゥゥルルル、ルルルゥ
『忘れてはおらんよ。センシェルが攻めて来おったら、若い連中を連れてカヴァルを守ってやろう。お前さんと話せて、久方ぶりに楽しんだからのぉ』
「感謝しますわ」
グルルル
『しかしのぉ、ソルの事はええんかいのぉ?お前さんが死なんでも、良い方法があるんじゃないのかね?』
「良いのです。これが、私が選んだ道ですから」
アマルは、そう言って踵を返した。
グルグルルゥ
『そうかい?では、儂はお前さん達若いもんの行く末を見守ろうかのぉ』
去って行くアマルを優しげに見つめ、地竜は地面に首を横たえた。
「……やはり」
それを、水晶を持って見つめる者が一人……
「時間だ。姫、構わないな?」
「ええ!やっと、この穴蔵から出られますのね!湿気で髪はベトベト、砂埃で服はザラザラ、もう嫌になっちゃうわ」
そう言っても、それが本心ではないと、みんな薄々勘づき始めていた。
彼らは、地竜の住まう砂山を出て次の目的地に向かう。
行先は、東……カジェルマ地方です。
そこにも地竜が居るそうですが……ここの地竜とは別の品種?だそうです。
「ここに住む地竜は、砂岩竜と呼ばれる種族だ。砂漠の民にとっては、身近な存在になる。空は飛べないが、その分砂漠を走る速さは凄く早い」
なんか、ソル様の物言いが優しくなった気がするのだけど……?気の所為かしら。
「次に向かうのは、東に住まう海砂竜だな」
「かいしゃりゅう?」
「あぁ、海がある地方で、海に面した洞窟に住んでいる」
今日は移動だけで、日が暮れる前に途中でテントを貼り休むそうです。
うーん、確かに普通の姫なら断念してるかも知れません。お風呂はありませんし、水浴びする為のオアシスも近くに無いそうですから。歩く速さは私に合わせてくれていますし、休む頻度も多く取ってくれていますけど、結構しんどいですもの。
途中、ワームと言う魔物も襲って来ますし…あぁ、今回の旅では襲って来ませんわよ?
既に、説得済みですから!
それと、同行しているセンシェルの兵士が少し怪しい動きをしていると、アイシャが言っていました。今回の移動は、警戒した方がいいかも知れませんわね。
昨日の痺れが嘘のように消えて、清々しい目覚めだった。ただ……目覚めて、直ぐに違和感に気が付いた。
「アイシャ……これ、貴方が?」
自分に掛けられたウール素材のひざ掛けを持って、世話に来た侍女のアイシャに問いかけた。
「いいえ、私が来た時には……」
「そう……」
アイシャは、緩く首を振って否定した。
そうよね、私達がこんな良いものを持ち込める訳ないし……
そっと、自分が寝ていた場所を振り返る。そこには、柔らかい素材のクッションが沢山置いてあった。
そう言えば……
昨日の夜、ソル様が来た気がする……じゃあ、……これはソル様が?
ううん、ソル様は私を疑ってるはず……こんな事する訳ないわ。
じゃあ、ラシード様……な訳ないわよね。
うん、絶対無いわ。
結局……誰が用意したのかは分からなかった。きっと誰かに聞いても「知らない」って答えるだろうし。まぁ、答えても嫌われてるから本当の事言うわけないわよね……
まさか……地竜様…とか?
アマルは「そんなわけないか」と考える事をやめた。
気にした所で、答えが分かるわけじゃないものね。
「ヒメサマ」
「どちら様ですか?」
外から誰かが声を掛けてきた。
アイシャが対応すると、ご飯の支度が出来たという事だった。
支度を整えて外に出ると、テントの前にソル様が立っていた。
「ソル様?」
「……」
ソル様は何も言わず私の顔を見つめた。
「もう、大丈夫なのか?」
その言葉で、昨日の夜の事を言っているのだと分かった。例え疑ってても、心配してこうして様子を見に来てくれたのだという事ぐらいは。
でも……ダメなの。
私の事は気にしないで、嫌っていて……
貴方は、自分の事と国や民の事を思っていて……
「なんの事かしら」
「……」
「まさか、ソル様。私のテントに勝手に入りましたの?」
「……いや」
ごめんなさい。
心配してくれてるんだって、分かってるの。
でも、ダメなの。
(だから、昨日の事は忘れて……)
ソルの言葉を待たずに、アマルは歩き出した。地竜のいる広場に向かって…
「ヒメサマ、ゴハン、ドウゾ」
片言な言葉で食事を持ってきてくれたのは、カヴァルの護衛の女戦士だった。
私は、センシエル語(聖王国センシェル)もカルヴァ語(砂漠の国カヴァル)も話せるけれど、彼女が口にしたのは共通語のリヴェル語(全国)だった。
私の為に、カヴァル語ではなくリヴェル語で話してくれる彼女の優しさが嬉しく思う。
ニコニコと笑って接してくれるけれど……この人は、私の事嫌いじゃないのかしら?
「ありがとう」
でも私は、奪うようにお盆を受け取って嫌味を放つ。
「はぁ、穀物を煮ただけのスープに硬いパンですか……こんな物を食べなくてはいけないなんて」
「ゴメン、ナサイ」
女性が少し悲しそうな顔をする。
嘘よ……
彼らの作るスープには、穀物だけじゃなく細かく切った野菜が入っている事は知っているもの。パンだって、スープに浸して食べるから少し硬めにしてある事は知ってるわ。
ごめんなさい……貴方は悪くないの。
それでも、彼女を振り返り優しくする事は出来ない。
振り返らず視線をずらす事で確認すると、ソル様が話しかけている所だった。女性は、何度も頷き去って行った。
アイシャが隣に立って「計画は止めますか?」と聞いてきたので「それだけは絶対に無いわ」と返した。
そう、それだけは絶対に無いの。
食事を食べ終えたアマルは、地竜の元に向かった。昨日の約束の確認をしに。
グル
『おや』
「昨日の約束の確認に」
グゥゥルルル、ルルルゥ
『忘れてはおらんよ。センシェルが攻めて来おったら、若い連中を連れてカヴァルを守ってやろう。お前さんと話せて、久方ぶりに楽しんだからのぉ』
「感謝しますわ」
グルルル
『しかしのぉ、ソルの事はええんかいのぉ?お前さんが死なんでも、良い方法があるんじゃないのかね?』
「良いのです。これが、私が選んだ道ですから」
アマルは、そう言って踵を返した。
グルグルルゥ
『そうかい?では、儂はお前さん達若いもんの行く末を見守ろうかのぉ』
去って行くアマルを優しげに見つめ、地竜は地面に首を横たえた。
「……やはり」
それを、水晶を持って見つめる者が一人……
「時間だ。姫、構わないな?」
「ええ!やっと、この穴蔵から出られますのね!湿気で髪はベトベト、砂埃で服はザラザラ、もう嫌になっちゃうわ」
そう言っても、それが本心ではないと、みんな薄々勘づき始めていた。
彼らは、地竜の住まう砂山を出て次の目的地に向かう。
行先は、東……カジェルマ地方です。
そこにも地竜が居るそうですが……ここの地竜とは別の品種?だそうです。
「ここに住む地竜は、砂岩竜と呼ばれる種族だ。砂漠の民にとっては、身近な存在になる。空は飛べないが、その分砂漠を走る速さは凄く早い」
なんか、ソル様の物言いが優しくなった気がするのだけど……?気の所為かしら。
「次に向かうのは、東に住まう海砂竜だな」
「かいしゃりゅう?」
「あぁ、海がある地方で、海に面した洞窟に住んでいる」
今日は移動だけで、日が暮れる前に途中でテントを貼り休むそうです。
うーん、確かに普通の姫なら断念してるかも知れません。お風呂はありませんし、水浴びする為のオアシスも近くに無いそうですから。歩く速さは私に合わせてくれていますし、休む頻度も多く取ってくれていますけど、結構しんどいですもの。
途中、ワームと言う魔物も襲って来ますし…あぁ、今回の旅では襲って来ませんわよ?
既に、説得済みですから!
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