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閑話(本編前の話)
しおりを挟む数年前……
アルクトゥルス王国
「ヴェイグ・アルクトゥルス王弟殿下にご挨拶を申し上げます」
ミナージュ・シリウスは、見事なカーテシーでヴェイグに頭を下げた。
彼女は……プロキオン王国の第2王子ククルト・プロキオンの婚約者で、外交には必ず彼女だけがやってくる。
「久しいな、ミナージュ穣。顔を上げてくれ」
「ありがとうございます、殿下。お久しぶりにございます」
「ミナージュ穣。此度は迷惑をかけるが、よろしく頼む」
「迷惑だなんて、思っておりませんわ。同盟国ですもの、困った時はお互い様です」
そう言って、柔らかに笑うミナージュに、ヴェイグは一瞬見惚れていた。だが……彼女には婚約者がいることを思い出し、ヴェイグは頭を左右に降りミナージュの笑顔を頭から追い出した。
「ヴェイグ様?」
「いや、なんでもない」
ヴェイグはミナージュの背に手を添えて、先を促した。
この度、アルクトゥルス王国では天災が起き、支援の為にプロキオンよりミナージュが派遣されたのだ。
本来ならば、ミナージュの婚約者であるプロキオンの第2王子も来る予定だった。しかし、聖女アイリス殿が体調を崩したとかで来れなくなったそうだ。
だが……聖女の体調が崩れたからって、何故ククルト殿が残る必要がある?婚約者でも無いのに。
聖女の事は教会に任せ、ククルト殿は役目を果たすべきであろう……彼女のように。
しかも、彼女には数人の使用人がついているだけで、他の外交官や護衛が一切いない。毎回思うが、プロキオン王国はふざけているのか?
ミナージュ殿は、公爵令嬢だろう。そして、プロキオン王族の婚約者だ。こんな風に蔑ろに扱うのは間違ってるんじゃないのか?とヴェイグは常々思っていた。
天災が起きた地域にミナージュを案内したヴェイグは、街の中で活動をしていた1人の魔道士を見つけると声をかけた。
「レヴィン!」
その声に反応した魔道士が振り返ると、ミナージュを見つけ黙礼しミナージュもまた同じように頭を下げた。
怪我人の治療や瓦礫の処理をしている人々の中で、貴族の挨拶をする馬鹿はいない。ヴェイグもレヴィンも、当然ミナージュも軽く頭を下げ「お久しぶりです、レヴィン様」と言った。
「久しいですね、ミナージュ様。ミナージュ様も怪我人の治療のために?」
「はい、それもありますが……ゴーレム系の魔法も使えますので、瓦礫処理の手伝いも兼ねてます」
「おや、それはありがたいですね。我が国でもトラブルがあり、今回は魔道士をあまり派遣できなかったのです」
「それゆえ、私自ら来たのですよ」と、レヴィンは言った。
ミナージュとレヴィンは、魔法でゴーレムを数体作り出し、道を塞いでいた瓦礫を退かし始めた。
アルクトゥルス王国を襲った天災は、火山の噴火だった。それに合わせて地震が起き、周辺の町や村だけじゃなく少し離れた場所にまで被害は広がっていた。
道中の山や崖が崩れていたり、地割れも発生していた。火山付近の村は、溶岩被害もありアルクトゥルス王国の受けた被害は相当なものだった。
「レヴィン様、ヴェイグ様。こちらは終わりました」
「ミナージュ穣、こっちも終わったぞ。助かった、ありがとうな」
「いいえ。前にも言いましたが、困った時はお互い様です。それにまだ終わってませんよ。怪我した方々が完全に治るまで私は残るつもりですから…」
既に、ミナージュが来てから数日が立っていた。
その間、ミナージュは休むこと無く怪我人の治療や瓦礫の処理、加えて各所への連絡などを担当した。
レヴィンは沢山のゴーレムを作り出し、瓦礫の処理や瓦礫に埋もれた人の救助を担当し、ヴェイグは冒険者や騎士の派遣、指示を担当し自らも救助を行っていた。
そのお陰か、重軽傷者は多く出たが死者は1人も出なかった。
それは、天災が起きてから直ぐにレヴィンとミナージュが駆けつけた事も理由だが、ヴェイグ達アルクトゥルスの王族が何を置いても民を救うことを第一に考え行動した事も理由だった。
多くの怪我人を昼夜問わず治療し看病したミナージュは、アルクトゥルスの民だけじゃなく各地を旅する冒険者も怪我になれた騎士達からも感謝の言葉が送られた。
夜遅く明かりの魔法片手に、部屋を行き来し看病する彼女は人々から聖女様、天使様と崇められた。
そして……彼女が部屋を出て次の部屋に行く時、治療を受けた者達は感謝と尊敬を込めて彼女の影にそっと口付けを落としたのだ。
アルクトゥルスやアヴィオールは、ミナージュに恩義を感じる者はいても、彼女を嫌う者は一人もいなかった。
ミナージュが婚約破棄を言い渡され、魔獣討伐に参加させられる……ほんの3年前の出来事だった。
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