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リディアーナの心の声を 《》 と表記
ヴェルグの心の声を()で表記します。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
婚約者の家へ向かう馬車の中。
「はぁ、憂鬱だな」
今日はこれから、婚約者の元に向かはねばならない。
最近、私たちの仲が悪いという噂が学園で流れているため払拭する必要があったのだ。
私の婚約者は、幼い頃に決まったのだが、子供の頃はとても可愛らしく表情も豊かで一緒にいて楽しかった思い出がある。
だが、いまは……
無表情で何を考えているのか、さっぱり分からなくなってしまった。
しかも、1年ほど前から彼女の妹メディアーナが何故か付きまとってくる。
彼女の両親は、それを止めようともしない。
「はぁ」
2度目の溜息をついた時、馬車がリディアーナの家の前に着いた。
馬車を降り、護衛の騎士と共に侍女の案内のもと庭に向かう。
薔薇が咲き乱れる庭園の中央に東屋があり、そこに菓子やら茶やらがセットされていた。
傍らには、銀髪に紫色の瞳をした冷たく美しい女性が立っていた。
ランドルーガ公爵令嬢 リディアーナ・ランドルーガだ。
氷のような冷たさを含んだ吊り目に、何の感情も表さない無表情な顔。
俺は、彼女が苦手だった。
今日、この時までは……
お茶会が始まって、目の前にはリディアーナ嬢が優雅な手つきで紅茶を飲んでいる。
何の変哲もない、長閑な日常だ……この声が無ければ……
《はわわわわ、ヴェルグ殿下と久しぶりのお茶ですわ!何かお話をしなくては……、ですが何を話せば良いんですの?最近は、あまり私と目も合わせてくれなくなりましたし…》
リディアーナの表情とは裏腹の声が聞こえてくる。何故か……彼女の心の声が聞こえるようになってしまった。
(どうしてだ?)
このような事態になった原因は何だろうか……声が聞こえるようになった前の状況は………
※※※
30分ほど前、お茶会が始まって少し経った頃。近くの茂みからガサッと音がして、何事かと思い覗いてみれば、銀の毛並みをした小さな子猫が顔を出していた。
オッドアイの瞳で、右目は金、左目がアイスブルーの、どこか神秘的な猫だった。
どこからか迷い込んだのか、リディアーナ嬢も知らないようだった。
「なぁ~」
抱けと言わんばかりの視線に俺は、子猫を抱き上げ膝に乗せた。
リディアーナが此方に視線を寄越す。
どこか、羨ましそうに感じるのは気のせいか?
「にゃぁ~~ん、ゴロゴロ」
喉を鳴らしながら撫でろと言わんばかりだ。
膝の上に乗せた子猫の喉元を優しく撫でてやると、不意に声が聞こえた。
《羨ましいですわ……ネコが》
「え?」
俺は、びっくりして場違いな声が出た。
「殿下?どうなさいましたか?」
すると、リディアーナが無表情な顔で首を傾げる。
《急に声を上げて、どうなさいましたの?まさか!?私、気付かぬうちに何かやらかしましたの!?》
「…………」
呆然と彼女の顔を見つめてしまう。
先程から声は聞こえているのに、リディアーナの口は一切動いていない。
(まさか、心の声が聞こえているのか?)
※※※
これが、30分前の出来事だ。
子猫は、いつの間にかいなくなっていた。
(何故急に?もしかして、意味があるのか?)
俺は訳が分からなかったが、それを顔に出す訳にはいかない。
王太子として、毅然とした態度を心がけなくてはな。
リディアーナを横目で見てみる。
表情は変わっていないが、先程と変わらず優雅に茶を飲んでいる。
ヴェルグの心の声を()で表記します。
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婚約者の家へ向かう馬車の中。
「はぁ、憂鬱だな」
今日はこれから、婚約者の元に向かはねばならない。
最近、私たちの仲が悪いという噂が学園で流れているため払拭する必要があったのだ。
私の婚約者は、幼い頃に決まったのだが、子供の頃はとても可愛らしく表情も豊かで一緒にいて楽しかった思い出がある。
だが、いまは……
無表情で何を考えているのか、さっぱり分からなくなってしまった。
しかも、1年ほど前から彼女の妹メディアーナが何故か付きまとってくる。
彼女の両親は、それを止めようともしない。
「はぁ」
2度目の溜息をついた時、馬車がリディアーナの家の前に着いた。
馬車を降り、護衛の騎士と共に侍女の案内のもと庭に向かう。
薔薇が咲き乱れる庭園の中央に東屋があり、そこに菓子やら茶やらがセットされていた。
傍らには、銀髪に紫色の瞳をした冷たく美しい女性が立っていた。
ランドルーガ公爵令嬢 リディアーナ・ランドルーガだ。
氷のような冷たさを含んだ吊り目に、何の感情も表さない無表情な顔。
俺は、彼女が苦手だった。
今日、この時までは……
お茶会が始まって、目の前にはリディアーナ嬢が優雅な手つきで紅茶を飲んでいる。
何の変哲もない、長閑な日常だ……この声が無ければ……
《はわわわわ、ヴェルグ殿下と久しぶりのお茶ですわ!何かお話をしなくては……、ですが何を話せば良いんですの?最近は、あまり私と目も合わせてくれなくなりましたし…》
リディアーナの表情とは裏腹の声が聞こえてくる。何故か……彼女の心の声が聞こえるようになってしまった。
(どうしてだ?)
このような事態になった原因は何だろうか……声が聞こえるようになった前の状況は………
※※※
30分ほど前、お茶会が始まって少し経った頃。近くの茂みからガサッと音がして、何事かと思い覗いてみれば、銀の毛並みをした小さな子猫が顔を出していた。
オッドアイの瞳で、右目は金、左目がアイスブルーの、どこか神秘的な猫だった。
どこからか迷い込んだのか、リディアーナ嬢も知らないようだった。
「なぁ~」
抱けと言わんばかりの視線に俺は、子猫を抱き上げ膝に乗せた。
リディアーナが此方に視線を寄越す。
どこか、羨ましそうに感じるのは気のせいか?
「にゃぁ~~ん、ゴロゴロ」
喉を鳴らしながら撫でろと言わんばかりだ。
膝の上に乗せた子猫の喉元を優しく撫でてやると、不意に声が聞こえた。
《羨ましいですわ……ネコが》
「え?」
俺は、びっくりして場違いな声が出た。
「殿下?どうなさいましたか?」
すると、リディアーナが無表情な顔で首を傾げる。
《急に声を上げて、どうなさいましたの?まさか!?私、気付かぬうちに何かやらかしましたの!?》
「…………」
呆然と彼女の顔を見つめてしまう。
先程から声は聞こえているのに、リディアーナの口は一切動いていない。
(まさか、心の声が聞こえているのか?)
※※※
これが、30分前の出来事だ。
子猫は、いつの間にかいなくなっていた。
(何故急に?もしかして、意味があるのか?)
俺は訳が分からなかったが、それを顔に出す訳にはいかない。
王太子として、毅然とした態度を心がけなくてはな。
リディアーナを横目で見てみる。
表情は変わっていないが、先程と変わらず優雅に茶を飲んでいる。
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