まさか、婚約者の心の声が聞こえるなんて……~婚約破棄はしない、絶対に~

紫宛

文字の大きさ
2 / 11

2話

しおりを挟む
そこに……

「きゃあぁ!ヴェル様ではありませんか!?お茶してますの?私もお邪魔してもよろしいですよね?」

いや、
良くないだろう……
普通、婚約者同士のお茶会に妹とはいえ、部外者が参加するものじゃない。
それに、俺の名を勝手に呼ぶな。許可してないだろう。

チラッと護衛の騎士に目配せすれば、意図を理解したシルヴァンとフェリクがメディアーナを止めに入る。

「何ですの?貴方たち。私がランドルーガ公爵令嬢と知っての事ですか?」
「知っていますよ。ですが、俺たちに命令したのは王太子殿下です。この意味が分かりますね?」
「命令って……ヴェル様は何も発してないでは無いですか!邪魔しないで頂けます?」
「悪いが、それはできかねる」
「いい加減になさい、メディ。貴方、ヴェルグ様に許可を頂いていないのに、愛称で呼びましたね?不敬罪と問われても文句は言えなくてよ?」
「何よ!悪役令嬢は黙っててよね!私はヴェル様に用があるんだから」
「!!」

(悪役令嬢?ってなんだ?)

よく分からないが、相変わらず図々しい女だ。再びリディアーナを盗み見ると……じっとメディアーナを見ていた。

彼女の心の声は……

《なぜ殿下はメディを許してるのでしょうか?愛称呼びも拒んでませんでしたし。まさか!?殿下は妹が好きなのかしら…?わたくしとは、もうダメなのかしら……?こんなにも愛してますのに…》

「え」

《ヴェルグ様、お慕いしておりますから…傍にいて、離れていかないで……お願いですわ》

俺は、別に許可なんてしてないが、注意をしなかったから、彼女は誤解をしてしまったようだ。
悲しげな声で訴える声に顔を上げるが、彼女の顔は変わっておらず相変わらずの無表情。
だが、彼女の心が発する声は、とても悲しげだった。

「リディ……」
「ヴェル様ぁ」
「っ!シルヴァン!フェリク!早く連れて行け」

隙あらば俺に抱きついてこようとする女の手を避け騎士を呼ぶ。
シルヴァンとフェリクはメディアーナの腕を手に取り下がらせて行く。

「ちょっ、離しなさいよ!ばか!私はヒロインなのよ!ヴェル様も私の虜になるんだから!」

(なるか!)

連れ出されてもなお、叫ぶ女の声に思わず突っ込んでしまった。

リディはというと、固まっていた。

「リディ」

俺はもう一度、婚約者の名を呼ぶ。メディアーナのあの言葉を間に受けてしまったのだろうか?
彼女の心の声は、なんと言っている?
俺の心が不安に揺れる。

彼女はハッとして顔を上げた。

《ヴェルグ様が、わたくしの愛称を?!なんて素敵な日なの!今日この日はわたくしの大切な思い出ですわ。忘れないように日記にしたためましょう》

表情は分からなくても、彼女から聞こえてくる声は嬉しそうで、俺も嬉しくなる。
良かった、先程のメディアーナの言葉にショックを受けてるわけじゃなさそうだ。

神の悪戯か、理由は分からないが……これは僥倖ぎょうこうだ。

卑怯かもしれないが、彼女の心の声を頼りに、俺達の関係の改善に努めよう。

来週から学園も始まる。
メディアーナも、拒んだ所で来るだろう。

リディの表情が無くなったのは?
メディアーナが急に付きまとうようになったのは?
リディの心の声が聞こえるようになったのは?

分からないことだらけだが、これから先の未来が少し待ち遠しく感じた。
彼女と再び笑い合える毎日が送れると思うと、嬉しく思う。

公爵家に来るまでは、彼女を苦手に感じていたのに今は……ふっ、我ながら単純な男だな。


しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

これ、ゼミでやったやつだ

くびのほきょう
恋愛
これは、もしかしたら将来悪役令嬢になっていたかもしれない10歳の女の子のお話。

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

婚約破棄、別れた二人の結末

四季
恋愛
学園一優秀と言われていたエレナ・アイベルン。 その婚約者であったアソンダソン。 婚約していた二人だが、正式に結ばれることはなく、まったく別の道を歩むこととなる……。

婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした

珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。 そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。 ※全4話。

婚約したがっていると両親に聞かされ大事にされること間違いなしのはずが、彼はずっととある令嬢を見続けていて話が違いませんか?

珠宮さくら
恋愛
レイチェルは、婚約したがっていると両親に聞かされて大事にされること間違いなしだと婚約した。 だが、その子息はレイチェルのことより、別の令嬢をずっと見続けていて……。 ※全4話。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

良くある事でしょう。

r_1373
恋愛
テンプレートの様に良くある悪役令嬢に生まれ変っていた。 若い頃に死んだ記憶があれば早々に次の道を探したのか流行りのざまぁをしたのかもしれない。 けれど酸いも甘いも苦いも経験して産まれ変わっていた私に出来る事は・・。

処理中です...