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歌えなくなった、カナリヤ
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ある貴族の元に1人のカナリヤがいた。
綺麗なレモン色した髪と、美しい声をした少女だ。
カナリヤと言うのは、美しい声音で歌う鳥人族という種族の人間だ。
少女の名をリィ。
生まれた時から、今日まで貴族の元で歌い続けていた。だが、少女は歌う事を求められていても、話す事は許されなかった。
だから、少女は言葉を、意志を言葉にする事は出来なかった。
ある日、少女は主人と共に異国の地に渡った。交流のために、少女の歌を利用としたのだ。
そこで、少女はある人間と出会う。
厳つい顔して、笑わない男の人。
この人との出会いで、少女の運命は変わる。
✾✾✾✾✾
「リィ、私の合図で歌え。よいな」
少女は頷く。
言葉を忘れてから随分経つと、少女は思った。
どこかの国の王城で、少女は大きい鳥籠に入れられていた。
沢山の人に見世物にされる。それも、いつもの事なので、少女はさして気にも止めていなかった。
ただ、今回も沢山歌わされるのだろうと、少しげんなりするだけだった。
(今日は、何曲歌わされるのかな……)
少女の歳は5歳……
だが、カナリヤという種族は普通に過ごして10年が寿命だ。
大切に愛されて育てば、20年ぐらいと言われている。環境が最悪ならば、10年も持たないとも言われている。
少女は、貴族に飼われて2年経つ頃から歌わされている。奴隷のように扱われ、少女は気付いていないが、ストレスは確実に少女の体を蝕んでいた。
ご主人様に呼ばれた少女は、もう何曲目か覚えていないくらい歌わされていた。
煌びやかな格好をした人達が、自分を珍しそうに見るのを眺めていたら、1人の厳つい顔をした男性が自分に話しかけてきた。
「歌うのは好きか?」
最初は、何故そんなことを聞くのだろう?と思った。歌うのは、命じられたから…そう答えようとしたけれど、自分は話せないのだと少女は気が付いた。
無言で無視を決め込んだ少女。だが、男性は更に話しかけて来た。
「そこは狭くないか?」
無視をしているのに、何度も話しかけてくる男性に興味を持った少女は、籠から手を出して男性の手に文字を書いた。
『はなせない』と。
男性は少し驚いた顔をして、悲しそうに厳つい顔を歪ませた。
「俺は、ゼトと言う。お前は?」
そして、聞きもしないのに名前を告げられ、少女の名前を聞いてきた。
少女は、仕方なさそうに溜息を着くと、また手を出し男性の掌に『リィ』と書いた。
次の日も、その次の日も、歌わされている少女に、話しかけてくる厳つい男性。
答えないと分かっているはずなのに、根気よく聞いてくる男性に少女は折れた。
籠から手を出して、ゼトと言った男性の質問に答えると、男性は嬉しそうに笑った。
その顔を見て、少女は少し嬉しくなった。
歌わなくても、人を笑顔に出来るのだと。
だが、とうとう少女に限界が来てしまった。
偉い人達の前で、毎日毎日声が枯れるまで歌い続けた少女。遂に、ストレスで蝕んだ体はある異変を起こした。
少女は、歌えなくなってしまったのだ。
声を出そうとすると、喉が焼けるように痛くなり掠れた声しか出せなくなった。
少女を飼っていた貴族は、大きく舌打ちをし少女を乱暴に籠から出して捨てた。
「チッ、5年しか持たなんだか。まぁ良い、次のカナリヤもおる。貴様は用済みよ」
貴族は、気付いていなかった。
貴族の祖国では、カナリヤの扱いが罪に問われる事は無かったが……貴族が訪れた国では、カナリヤは珍しく保護の対象だと言うことを。
少女は、初めて自分の足で地面を踏みしめた。感動しているが、籠から出されることのなかった少女には、外の世界は危険がいっぱいだった。
少女が捨てられた場所は、街から少し離れた森の中……野犬や狼が出没する場所だった。
街からそんなに離れていなくても、森の入り口付近でも、少女にとっては目に入る全てが新鮮で、ふらふらと歩いてしまった。
気が付けば少女は、森で迷子になっていた。
元々食事は殆ど与えられていなかった少女は、空腹でも我慢が出来た。
足の痛みも、感動で忘れていられた。
だが、もう、あの男性と会えないのかと思うと、涙が零れた。
ほんの少ししか話せていないが、それでも少女にとって初めて言葉を交わした人間だった。もちろん少女は言葉を話せないので、聞くだけだったが。
森で過ごすこと数時間、夕方から夜に変わる頃、少女の前に唸り声を上げる狼が数匹現れた。
(あ、食われるのかな……)
逃げられないと悟った少女は、静かに目を閉じた。
(あまり痛くないと良いな……)
1匹の狼が飛びかかり、少女の肩に食らいつく。痛みで顔を歪めても、掠れた声しか出ない少女に、助けを求める事なんて出来なかった。
「………っ!」
残りの狼も飛びかかって来た時だ、「キャン」と言う狼の鳴き声が聞こえた少女は、閉じていた目を開けた。
少女の目に飛び込んで来たのは、
身の丈ほどある剣を軽々と振るう、あの男性だった。
「大丈夫か、リィ!?待ってろ、すぐに助けてやるからな!」
鬼気迫る顔で狼相手に剣を振るい、少女に噛み付いていた狼をも撃退した。
ゼトは、少女の元に駆け寄り抱き上げ、肩に布を巻くと、すぐに馬に乗り森を駆けた。
少女は、男性が現れた事で安心したのか眠るように気を失った。
少女が目を覚ました時、そこは見覚えのない場所だった。
「リィ」
名前を呼ばれた少女は、声の方に向く。
するとそこには、自分よりも痛そうな辛そうな顔をしたゼトが居た。
「すまなかった、リィ。助けるのが遅くなって……っ」
「……な…ぜ?」
(謝るの?貴方は私を助けてくれたのに…)
「っ!?話せるのか?!」
男性の言葉で少女は、自分が言葉を発した事に気が付いた。
全然、話せなかったのに……
「は、なせ、る」
まだ掠れてはいるが、喉が焼けるような痛みは無く、普通に話せる事が嬉しくなった少女は、身振り手振りを交えて話し続けた。
「待てリィ!話すのは、傷が治ってからにしような」
不服そうな顔をした少女の頭を撫でて、時間はたっぷりあるから、とゼトは言った。
少女は不思議に思った。
歌わなくて良いのか?と……声が出るようになったのだ、掠れが治れば歌わせたいのでは?と。
それが顔に出ていたのか、ゼトは歌いたい時に歌えば良いと言った。
「無理に歌わなくていい。お前が歌いたい時に歌い、歌いたくないなら歌わなくてもいいんだ」
傷が治り、ゼトと一緒に過ごし続けた少女は、もう少女では無くなっていた。
8歳になったリィは、もう立派な大人の女性になっていたのだ。
そして、ゼトと結婚していた。
リィは、子供が出来るか分からないけれど、欲しいと、作りたいと言った。
そして生まれた子供は男の子で名を、クードと名付けられた。
リィは、10歳になっていた。
普通なら寿命で亡くなる年だったが、リィは生き続けた。
優しい旦那様と、愛しい我が子に愛され続けたリィは、15歳になった。
しかしこの年、リィが住む国が戦乱に巻き込まれた。
ゼトは、リィが捨てられた場所の領主で、国に仕える将軍だった。
国の要請で戦乱に向かうゼトに、リィは共に行きたいと願った。
「旦那様、私も連れて行ってくださいませ」
「お前を連れて行くことは出来ない。私の帰りを待っていてくれ。お前が待っていてくれるなら、必ず意地でも帰ってくるから」
「お父さん……」
「クード、母さんを頼むぞ」
「うん!」
2年続いた戦争は、ゼトの活躍により勝利に終わった。
しかし、リィの元に帰ったゼトは、戦争で負った傷が悪化し、ベッドから起き上がれなくなってしまっていた。
「旦那様……」
「リィ、すまないな……」
「いいえ、旦那様のお陰で私達は、今もこうして生きていられるのですから」
ゼトは、自分がもう長くない事を悟っていた……リィを1人にする事に申し訳なく思っていたが、次いでリィから放たれた言葉に驚いて呼吸が止まった。
「旦那様が死ぬのなら、私も死んでしまうのです。カナリヤは、基本10年しか生きられませんが、愛する人を見つけ幸せな日々を過ごすと、10年以上生きる事があります。しかし、その人が亡くなると、一緒に亡くなるのです」
あまり知られていないですけれど……と。
「旦那様に出会って、17年……長く生きましたわ。子供にも恵まれて、私とても幸せですの。だから、最後まで共に居させて」
「すまない……リィ、愛してる」
「私も愛してますわ、ゼト様」
そして、その一年後
ゼトは息を引き取った……
その傍らには、とても綺麗なレモン色をした鳥が、寄り添うように亡くなっていた。
「お父さん、お母さん安らかに」
お葬式は、リィの事情を知る人達だけでひっそりと行われ、ゼトと同じ墓に小さな鳥も入れられた。
クードは、父の後を継ぎ領主として騎士として国に仕え、カナリヤを保護する活動を本格化させた。
その国では、カナリヤは大事に扱われ、愛され長く生き続けた逸話が残ったのだった。
~完~
おまけ
「チッ、5年しか持たなんだか。まぁ良い、次のカナリヤもおる。貴様は用済みよ」
あの日、リィを捨てた貴族は、ゼトの手によって捕縛され国に連行された。
貴族は「なぜ自分が!」と憤慨したが、貴族がいた街はゼトが治める領地で。ゼトが仕える国は、カナリヤが保護の対象だと言うことを、貴族は知らなかった。
カナリヤを不当に扱うことは、この国では犯罪なのだ。
ゼトは本来、貴族を歓迎するパーティに参加する気はなかった。何故ならば、自分は無骨で気が利く男ではなかったからだ。
なので、自分の部下が参加していた。
だが、その部下から報告が上がった。
貴族がカナリヤを連れていて、無理やり歌わせていると。
ゼトは真意を確かめるように、パーティに参加しリィに接触したのだ。
話しかければ無視されたが、何度目かに籠から手を出しゼトの手に『はなせない』と書いた。
驚き悲しんだゼトはその時に、少女を必ず助けようと決めた。
そして、少女を助ける為の行動を起こそうとした時、部下が慌てるように部屋に駆け込んできた。
「大変です!奴が森に少女を捨てたと報告がっ」
「っ!奴を捕縛しろ!俺は、リィを助けに行く!」
「はっ!」
助けに向かった先に見たのは、狼がリィに飛び掛り肩を食らいつく光景だった。
「くそっ!間に合わなかったかっ」
他の狼が少女に向かって飛び掛るのを剣で阻止し、少女に食らいつく狼も剣で薙ぎ払った。峰打ちだから、少女に汚すことは無いはずだ。
俺の腕の中で気を失ったリィを抱き締め、屋敷に帰る。
家の者にリィを任せ、医者を呼びつけると俺は、牢獄に向かった。
腐れ貴族を捕まえたと、報告が上がっていたからだ。
「奴は?」
「中です。ですが……」
「いい、尋問するから同行しろ」
「はっ」
牢獄の中では、貴族が声を荒らげ暴れていた。自分を捕まえて良いと思っているのか!と、国際問題だぞ!と叫んでいた。
「国際問題か。だが、何も理由無しで捕まえた訳じゃない。貴様が、この国の法を破ったからだ」
「何だと?!」
「我が国では、カナリヤを不当に扱う事を良しとしない事を理解しているか?」
「っ?!」
「我が国の王にも報告し、問題無いと返事が来ている。残念だったな」
貴族は、知らなかったんだ!と未だ叫んでいるが無視し、リィにした行為と同じ事を貴族にもしてやった。
貴族を鳥籠に突っ込み、ある性癖を持つ男の所に連行した。
その男は、普段は問題ないのだが、男の裸体に興味を持ち鑑賞する性癖を持っていた。
なので、刑罰の行き場所として利用されていた。
その男は、罪を犯す気はないので諦めていたが……王から刑罰の行き場所として許可が下りたので、嬉々として受け入れた。罪を犯さなくても、男を裸体にし籠に入れて鑑賞することが出来るのだ。男にとって、これほど嬉しいことは無い。
裸体にされる方は、この上なく屈辱で泣くほどに辛い刑罰だが……。
カナリヤにした行為が、自分に返ってくるだけだ。自業自得だと、ゼトは思った。
これから屋敷に帰り、リィの様子を見て、リィが望むなら屋敷で保護しようとゼトは思っていた。
この時はまだ、リィと結婚する事も、子供が出来ることも、ゼトには予想出来なかったのだった。
~おまけ完~
勢いで書いた作品です。ゆるふわ設定のご都合主義です。ご了承ください(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝)
綺麗なレモン色した髪と、美しい声をした少女だ。
カナリヤと言うのは、美しい声音で歌う鳥人族という種族の人間だ。
少女の名をリィ。
生まれた時から、今日まで貴族の元で歌い続けていた。だが、少女は歌う事を求められていても、話す事は許されなかった。
だから、少女は言葉を、意志を言葉にする事は出来なかった。
ある日、少女は主人と共に異国の地に渡った。交流のために、少女の歌を利用としたのだ。
そこで、少女はある人間と出会う。
厳つい顔して、笑わない男の人。
この人との出会いで、少女の運命は変わる。
✾✾✾✾✾
「リィ、私の合図で歌え。よいな」
少女は頷く。
言葉を忘れてから随分経つと、少女は思った。
どこかの国の王城で、少女は大きい鳥籠に入れられていた。
沢山の人に見世物にされる。それも、いつもの事なので、少女はさして気にも止めていなかった。
ただ、今回も沢山歌わされるのだろうと、少しげんなりするだけだった。
(今日は、何曲歌わされるのかな……)
少女の歳は5歳……
だが、カナリヤという種族は普通に過ごして10年が寿命だ。
大切に愛されて育てば、20年ぐらいと言われている。環境が最悪ならば、10年も持たないとも言われている。
少女は、貴族に飼われて2年経つ頃から歌わされている。奴隷のように扱われ、少女は気付いていないが、ストレスは確実に少女の体を蝕んでいた。
ご主人様に呼ばれた少女は、もう何曲目か覚えていないくらい歌わされていた。
煌びやかな格好をした人達が、自分を珍しそうに見るのを眺めていたら、1人の厳つい顔をした男性が自分に話しかけてきた。
「歌うのは好きか?」
最初は、何故そんなことを聞くのだろう?と思った。歌うのは、命じられたから…そう答えようとしたけれど、自分は話せないのだと少女は気が付いた。
無言で無視を決め込んだ少女。だが、男性は更に話しかけて来た。
「そこは狭くないか?」
無視をしているのに、何度も話しかけてくる男性に興味を持った少女は、籠から手を出して男性の手に文字を書いた。
『はなせない』と。
男性は少し驚いた顔をして、悲しそうに厳つい顔を歪ませた。
「俺は、ゼトと言う。お前は?」
そして、聞きもしないのに名前を告げられ、少女の名前を聞いてきた。
少女は、仕方なさそうに溜息を着くと、また手を出し男性の掌に『リィ』と書いた。
次の日も、その次の日も、歌わされている少女に、話しかけてくる厳つい男性。
答えないと分かっているはずなのに、根気よく聞いてくる男性に少女は折れた。
籠から手を出して、ゼトと言った男性の質問に答えると、男性は嬉しそうに笑った。
その顔を見て、少女は少し嬉しくなった。
歌わなくても、人を笑顔に出来るのだと。
だが、とうとう少女に限界が来てしまった。
偉い人達の前で、毎日毎日声が枯れるまで歌い続けた少女。遂に、ストレスで蝕んだ体はある異変を起こした。
少女は、歌えなくなってしまったのだ。
声を出そうとすると、喉が焼けるように痛くなり掠れた声しか出せなくなった。
少女を飼っていた貴族は、大きく舌打ちをし少女を乱暴に籠から出して捨てた。
「チッ、5年しか持たなんだか。まぁ良い、次のカナリヤもおる。貴様は用済みよ」
貴族は、気付いていなかった。
貴族の祖国では、カナリヤの扱いが罪に問われる事は無かったが……貴族が訪れた国では、カナリヤは珍しく保護の対象だと言うことを。
少女は、初めて自分の足で地面を踏みしめた。感動しているが、籠から出されることのなかった少女には、外の世界は危険がいっぱいだった。
少女が捨てられた場所は、街から少し離れた森の中……野犬や狼が出没する場所だった。
街からそんなに離れていなくても、森の入り口付近でも、少女にとっては目に入る全てが新鮮で、ふらふらと歩いてしまった。
気が付けば少女は、森で迷子になっていた。
元々食事は殆ど与えられていなかった少女は、空腹でも我慢が出来た。
足の痛みも、感動で忘れていられた。
だが、もう、あの男性と会えないのかと思うと、涙が零れた。
ほんの少ししか話せていないが、それでも少女にとって初めて言葉を交わした人間だった。もちろん少女は言葉を話せないので、聞くだけだったが。
森で過ごすこと数時間、夕方から夜に変わる頃、少女の前に唸り声を上げる狼が数匹現れた。
(あ、食われるのかな……)
逃げられないと悟った少女は、静かに目を閉じた。
(あまり痛くないと良いな……)
1匹の狼が飛びかかり、少女の肩に食らいつく。痛みで顔を歪めても、掠れた声しか出ない少女に、助けを求める事なんて出来なかった。
「………っ!」
残りの狼も飛びかかって来た時だ、「キャン」と言う狼の鳴き声が聞こえた少女は、閉じていた目を開けた。
少女の目に飛び込んで来たのは、
身の丈ほどある剣を軽々と振るう、あの男性だった。
「大丈夫か、リィ!?待ってろ、すぐに助けてやるからな!」
鬼気迫る顔で狼相手に剣を振るい、少女に噛み付いていた狼をも撃退した。
ゼトは、少女の元に駆け寄り抱き上げ、肩に布を巻くと、すぐに馬に乗り森を駆けた。
少女は、男性が現れた事で安心したのか眠るように気を失った。
少女が目を覚ました時、そこは見覚えのない場所だった。
「リィ」
名前を呼ばれた少女は、声の方に向く。
するとそこには、自分よりも痛そうな辛そうな顔をしたゼトが居た。
「すまなかった、リィ。助けるのが遅くなって……っ」
「……な…ぜ?」
(謝るの?貴方は私を助けてくれたのに…)
「っ!?話せるのか?!」
男性の言葉で少女は、自分が言葉を発した事に気が付いた。
全然、話せなかったのに……
「は、なせ、る」
まだ掠れてはいるが、喉が焼けるような痛みは無く、普通に話せる事が嬉しくなった少女は、身振り手振りを交えて話し続けた。
「待てリィ!話すのは、傷が治ってからにしような」
不服そうな顔をした少女の頭を撫でて、時間はたっぷりあるから、とゼトは言った。
少女は不思議に思った。
歌わなくて良いのか?と……声が出るようになったのだ、掠れが治れば歌わせたいのでは?と。
それが顔に出ていたのか、ゼトは歌いたい時に歌えば良いと言った。
「無理に歌わなくていい。お前が歌いたい時に歌い、歌いたくないなら歌わなくてもいいんだ」
傷が治り、ゼトと一緒に過ごし続けた少女は、もう少女では無くなっていた。
8歳になったリィは、もう立派な大人の女性になっていたのだ。
そして、ゼトと結婚していた。
リィは、子供が出来るか分からないけれど、欲しいと、作りたいと言った。
そして生まれた子供は男の子で名を、クードと名付けられた。
リィは、10歳になっていた。
普通なら寿命で亡くなる年だったが、リィは生き続けた。
優しい旦那様と、愛しい我が子に愛され続けたリィは、15歳になった。
しかしこの年、リィが住む国が戦乱に巻き込まれた。
ゼトは、リィが捨てられた場所の領主で、国に仕える将軍だった。
国の要請で戦乱に向かうゼトに、リィは共に行きたいと願った。
「旦那様、私も連れて行ってくださいませ」
「お前を連れて行くことは出来ない。私の帰りを待っていてくれ。お前が待っていてくれるなら、必ず意地でも帰ってくるから」
「お父さん……」
「クード、母さんを頼むぞ」
「うん!」
2年続いた戦争は、ゼトの活躍により勝利に終わった。
しかし、リィの元に帰ったゼトは、戦争で負った傷が悪化し、ベッドから起き上がれなくなってしまっていた。
「旦那様……」
「リィ、すまないな……」
「いいえ、旦那様のお陰で私達は、今もこうして生きていられるのですから」
ゼトは、自分がもう長くない事を悟っていた……リィを1人にする事に申し訳なく思っていたが、次いでリィから放たれた言葉に驚いて呼吸が止まった。
「旦那様が死ぬのなら、私も死んでしまうのです。カナリヤは、基本10年しか生きられませんが、愛する人を見つけ幸せな日々を過ごすと、10年以上生きる事があります。しかし、その人が亡くなると、一緒に亡くなるのです」
あまり知られていないですけれど……と。
「旦那様に出会って、17年……長く生きましたわ。子供にも恵まれて、私とても幸せですの。だから、最後まで共に居させて」
「すまない……リィ、愛してる」
「私も愛してますわ、ゼト様」
そして、その一年後
ゼトは息を引き取った……
その傍らには、とても綺麗なレモン色をした鳥が、寄り添うように亡くなっていた。
「お父さん、お母さん安らかに」
お葬式は、リィの事情を知る人達だけでひっそりと行われ、ゼトと同じ墓に小さな鳥も入れられた。
クードは、父の後を継ぎ領主として騎士として国に仕え、カナリヤを保護する活動を本格化させた。
その国では、カナリヤは大事に扱われ、愛され長く生き続けた逸話が残ったのだった。
~完~
おまけ
「チッ、5年しか持たなんだか。まぁ良い、次のカナリヤもおる。貴様は用済みよ」
あの日、リィを捨てた貴族は、ゼトの手によって捕縛され国に連行された。
貴族は「なぜ自分が!」と憤慨したが、貴族がいた街はゼトが治める領地で。ゼトが仕える国は、カナリヤが保護の対象だと言うことを、貴族は知らなかった。
カナリヤを不当に扱うことは、この国では犯罪なのだ。
ゼトは本来、貴族を歓迎するパーティに参加する気はなかった。何故ならば、自分は無骨で気が利く男ではなかったからだ。
なので、自分の部下が参加していた。
だが、その部下から報告が上がった。
貴族がカナリヤを連れていて、無理やり歌わせていると。
ゼトは真意を確かめるように、パーティに参加しリィに接触したのだ。
話しかければ無視されたが、何度目かに籠から手を出しゼトの手に『はなせない』と書いた。
驚き悲しんだゼトはその時に、少女を必ず助けようと決めた。
そして、少女を助ける為の行動を起こそうとした時、部下が慌てるように部屋に駆け込んできた。
「大変です!奴が森に少女を捨てたと報告がっ」
「っ!奴を捕縛しろ!俺は、リィを助けに行く!」
「はっ!」
助けに向かった先に見たのは、狼がリィに飛び掛り肩を食らいつく光景だった。
「くそっ!間に合わなかったかっ」
他の狼が少女に向かって飛び掛るのを剣で阻止し、少女に食らいつく狼も剣で薙ぎ払った。峰打ちだから、少女に汚すことは無いはずだ。
俺の腕の中で気を失ったリィを抱き締め、屋敷に帰る。
家の者にリィを任せ、医者を呼びつけると俺は、牢獄に向かった。
腐れ貴族を捕まえたと、報告が上がっていたからだ。
「奴は?」
「中です。ですが……」
「いい、尋問するから同行しろ」
「はっ」
牢獄の中では、貴族が声を荒らげ暴れていた。自分を捕まえて良いと思っているのか!と、国際問題だぞ!と叫んでいた。
「国際問題か。だが、何も理由無しで捕まえた訳じゃない。貴様が、この国の法を破ったからだ」
「何だと?!」
「我が国では、カナリヤを不当に扱う事を良しとしない事を理解しているか?」
「っ?!」
「我が国の王にも報告し、問題無いと返事が来ている。残念だったな」
貴族は、知らなかったんだ!と未だ叫んでいるが無視し、リィにした行為と同じ事を貴族にもしてやった。
貴族を鳥籠に突っ込み、ある性癖を持つ男の所に連行した。
その男は、普段は問題ないのだが、男の裸体に興味を持ち鑑賞する性癖を持っていた。
なので、刑罰の行き場所として利用されていた。
その男は、罪を犯す気はないので諦めていたが……王から刑罰の行き場所として許可が下りたので、嬉々として受け入れた。罪を犯さなくても、男を裸体にし籠に入れて鑑賞することが出来るのだ。男にとって、これほど嬉しいことは無い。
裸体にされる方は、この上なく屈辱で泣くほどに辛い刑罰だが……。
カナリヤにした行為が、自分に返ってくるだけだ。自業自得だと、ゼトは思った。
これから屋敷に帰り、リィの様子を見て、リィが望むなら屋敷で保護しようとゼトは思っていた。
この時はまだ、リィと結婚する事も、子供が出来ることも、ゼトには予想出来なかったのだった。
~おまけ完~
勢いで書いた作品です。ゆるふわ設定のご都合主義です。ご了承ください(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝)
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王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
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レモン色のカナリア、可愛いですよね😊
つーーか、導入部分が、かわいそうじゃぁーー๐·°(৹˃ᗝ˂৹)°·๐
いや、青空の小説も導入部分、散々かわいそーだけどね😅
裸の男鑑賞は、ちょっと面白かったヾ(*´∀`*)ノキャッキャ
ありがとう|•'-'•)و✧
でもでも最後は、ハッピーエンド……では無いか…。ちょっと切ない感じにはなったけれど、バッドエンドでは無いはず……と思いたい(._.`)
この作品を読んで頂き、ありがとうございます(⸝⸝›_‹⸝⸝)