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1話
しおりを挟む私には、血の繋がった1人の妹がいます。
金の髪は緩やかにウェーブがかかっておりふわふわで、青緑の瞳は二重でぱっちり。
両親の愛を一心に受け、甘えたがりの我儘娘。
名をシェリア・マグナリア。
マグナリア公爵家次女です。
その妹が、いつものセリフを私に言ってきました。
「おねぇさま~、シェリア、一生のお願い
聞いて下さいます?」
「またですか……?」
「またなんて、酷いですわ。これで、最後ですから、ね?」
「はぁ、なんです?」
シェリアの言いたい事など分かりきっていますが、一応聞きましょう?
「お姉様、王太子であるクロード様と婚約したと聞きました」
「ええ、それがどうしました?」
「……クロード様、私に頂戴?」
やはり、そう来ましたか。
分かっていました。
いつもそうです。
親の愛を独り占めし、私から全てを奪っていった妹。その時のセリフが「シェリア、一生のお願い」です。
と言うか、あなた何回一生のお願いを使うつもりでしょうか……一生のお願いとは…いえ、良いでしょう。言っても無駄でしょうし。
今回も、簡単に奪えると思っているのでしょう。両親もシェリアのお願いなら、叶えようとするかもしれません。
ですが、今回は分が悪いでしょうね。
なんてったって相手は、あの、クロード・ファウスト・ベルグリフなのですから。
「良いですよ?あの方が、それを望むのであれば」
(まぁ、無理でしょうけど……ね)
「ほんとう?!やった!お姉様、大好き!」
「クロード様に、お話してきたらどうです?」
「ええ!そうするわ!おとーさまぁ~!」
シェリアは、大きな音を立てて扉を開けて出ていった。バタバタと廊下や階段を走っていく。淑女としては、失格ね。
それで良く、王太子妃になりたいと言えるものです。
(はぁ~)
溜め息が口から漏れる。
クロード様に押付けた事、後でネチネチと嫌味を言われそうですわね。
「にしても、あの、クロード様が、脳内お花畑なお馬鹿さんを必要とするとは思えませんけれど……まぁ私としては、破棄された方が嬉しいですけど……ね」
(だって相手は…………腹黒鬼畜王太子ですもの)
王城 王太子執務室
コンコン
「誰だ?」
「私です、クロード様」
「サミュエルか…どうした?」
俺の執務室に入ってきたのは、側近のサミュエル。申し訳なさそうな顔をして、俺の机の前まで来ると重々しく言葉を紡いだ。
「殿下にお客様です」
「今日は来客の予定はなかった」
「はい、左様です。ですが、その、お相手が…」
「誰だ」
「マグナリア公爵家でして」
「ティアか、だがアレは、お前を通さなくてもここに来るだろう」
ミューティアなら仕事上、側近を通さなくてもここに来る許可を出している。それを指摘しながら書類から目を外し顔を上げると、サミュエルはなんとも言えない顔をしていた。
「お越しになられましたのは、マグナリア公爵とミューティア様の妹君、シェリア様です」
「・・・は?」
俺は自分の耳を疑った。
いや、何かの聞き間違いだな。
なぜ、公爵と妹が俺を訪ねてくる必要があるのだ。時間の無駄だったな。書類に再び視線を落としかけた所で
「マグナリア公爵とシェリア様が、お越しになりました」
サミュエルが書類の上にバンと手を置き、もう一度、訪問者の名前を上げた。
「はぁ、先触れもなく訪問した常識知らずは何用で来たのだ?」
「要件は伺っておりません。クロード様が来てから話すの一点張りでして…」
「俺の時間を使う価値がアイツらにあるのか?クソが」
元々口が悪いが、さらに悪くなる。
唯でさえ忙しいのに、これ以上面倒事を増やさないで欲しいものだな。
この時、公爵達の話がティアの差し金で、更なる面倒事だと言うことを、俺はまだ知らない。
仕方が無いので、応接室に向かった。
マグナリア公爵と妹は応接室にて、俺が来るのを待っているらしい。
はぁ、行くのが面倒くさい。
応接室の扉の前に辿り着き、笑顔を顔に張りつけ、襟を直し仕草も直した。
完璧な理想の王子を演じる。
「失礼します」
俺が応接室に入ると、ソファに座っていた公爵とシェリア嬢が立ち上がり一礼する。
「ああ、構わないよ。座っていて下さい」
近くに立っていた側近の顔が引き攣る。
恐らく、普段の俺と大きく態度が違うため戸惑ってるのだろうな。
もう何度か見ただろうに……
いい加減に慣れろ!
という視線を側近に投げかける。
公爵は2人がけ用の椅子の真ん中にドカッと座り、シェリア嬢は2人がけ用の椅子の隅に座った。視線が、隣どうぞと言いたげだ。
座らねぇよ……。
1人がけの椅子に腰を下ろし、側近が後方に立つ。
「それで、本日はどういった御用件でしょうか?約束はしてなかったかと思いますが…?」
「実はクロード殿下に提案がありまして」
「提案……ですか」
「ええ、実は娘のシェリアがクロード殿下をお慕い申してるそうで……」
げっ、言いたい事が分かってしまった。
最悪だ……こんな能天気で頭の悪そうな女いらんぞ。
それが、顔に出てしまったのか、公爵が怪訝な顔をした。
それをニコッと微笑んで躱し、話を促す。
促したくはなかったが……
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