国を守護する聖獣は、聖女と呼ばれた少女より嫌われ者の悪女を望む

紫宛

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第1話 処刑(R15)

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私は、なんて事をしてしまったのでしょうか?
この国の守護者たる聖獣に選ばれた少女……聖獣の聖女を虐めてしまうなんて…

でも、どうしても許せなかったのです。

婚約者と仲良くする彼女が……





私の体は、十字の木の板に括り付けられ…
手のひらは板ごと杭を打ち付けられました……
足も同様に、板ごと杭を打ち付けられました。

板を立てると、多くの民衆が私を見つめていた……
怒りや憎しみの籠った、険しい顔で……

「燃やせっ!」
「聖女様を害した女を燃やせっ!」
「聖なる炎に焼かれろ!」

聖獣……

炎の聖獣様が残した、聖なる炎
水の聖獣様が残した、聖なる水
地の聖獣様が残した、聖なる大地
風の聖獣様が残した、聖なる風

聖なる炎は、悪や邪を焼き尽くしその身を浄化する聖なる炎。

聖なる水は、飲むと病や傷を癒す聖なる水。

聖なる大地は、種を植えれば直ぐ様成長し必ず実り豊かになる聖なる土。

聖なる風は、人々の負の感情により生み出された瘴気を浄化する聖なる風。

全て、教会により管理されていますが…
人々が危機に陥ると解放されると聞きます。
私が生まれてから、解放された気配はありませんでしたが……

まさか……初めてお目にかかるのが、自身を焼く聖なる炎にるとは夢にも思いませんでしたね。

「我らが神よ、獣神よ……我が罪をお許し下さい。願わくば、貴方様の御許に行ける事を……」

私は小さく、呟きました。

「聖なる炎をここへ!」

元婚約者である、この国の王太子……レゴル様が神官に命令を下します。
隣の聖女様は瞳から大量の涙を流しながら、私を見ています。

こんな私に涙を流して下さるなんて、なんて優しいお方なのでしょうか…

私は静かに瞳を閉じて、最後の時を待ちます。
目を閉じ……最後の時を待つ私には、涙を流しながら薄ら笑う聖女の姿は写りませんでした。

神官様が、私の足元の藁に聖なる炎を放つと、一気に燃え上がりました。

目の前が真っ赤に染まりましたが、不思議と熱いという感覚はありません。寧ろ、春の日差しのような暖かな感じがします。

後ろから優しい母親の腕に抱かれたような、奇妙な感覚が全身を包むと……炎は、私の身体を撫でながら頭上に上がっていきました。

そして一塊になると、褐色の肌をした妖艶な美女が現れました。異国風の踊り子の様な格好をして、私を後ろから板ごと抱き締めます。

私の首や体にあった縄は焼き切れ、手や足にあった杭は溶けて無くなっていました。でも、杭が溶けるほどの熱を私は一切感じませんでしたけど。

『人の子というのは、ほんに愚かよのぉ。妾の愛しの子に、この様な扱い。気分が悪いのぉ』

﹣この方は……?﹣

わらわかえ?炎を司る、聖獣よ』

私は声に出していないはずなのに……、どうして分かったのかしら……?

それに、炎を司る聖獣様?
この国の守護神様の5柱が1人、炎の聖獣様?

『妾には、其方そなたの声は全て聞こえておる。例え、声に出さなくてもの』

「炎の聖獣だと?!そんな馬鹿な!何故、悪女なんかを……っ?!」

妖艶な美女は、私を板から離すと抱き上げました。先程の炎のように全身が暖かな空気に包まれ……何故かは分かりませんが、とても懐かしくて安心してしまいました。

『煩い人の子よのぉ。少しの間、静かにしておれ』
「む、むぐ?!」

そして、妖艶な美女が自分の口元に人差し指を当てると、レゴル様の口が塞がりました。

『全く……何時からこの国は、このように腐ってしまったのかのぉ。オレリーが悔しがるの』

私を片手で抱いたまま宙に浮かぶ聖獣様は『まぁ、良いわ』と言い、次いで『決めたぞ!』と叫びました。

『妾は……この国の守護を辞める!誰がなんと言おうがの!』

と言いました。

﹣え……?﹣

妖艶な美女は、炎の聖獣様だと言っていました。
この国の守護神……5柱が1人、炎の聖獣ラヴァ様。

この国カテドラーラは、聖国としてこの世界の中心に位置しています。その理由は、聖獣様がこの国を守護しこの国から聖女様が生まれるからです。

全ての国々が聖女と聖獣を崇め、聖国を支持しています。

なのに、私は……
婚約者が奪われるかも知れないからと、聖女であるメラニー様を虐めました。

彼女に苦言を申し上げた事もあります。

聖女は、全てが許されるのに…です……
メラニー様がレゴル様と2度目のダンスを踊った時、レゴル様が私ではなく聖女様をエスコートされた時、私は醜い感情で聖女様を邪険にしました。

最低な行いです。

『違うの、それは正しい行いよ。普通、婚約者がいる相手に、手を出す事はせぬであろう?オレリーはそうであったぞ?』

奴はの、リナリー以外の女性とは一線を引いておった。側室も取らなんだ…と、炎の聖獣ラヴァ様は仰いました。

『ソルレヴォネよ、オレリーよ。妾は、愛し子と共に出てゆくが…止めるでないぞ?』
『止めない……ボクも行く』
『え?!狡いっ!僕も行くし!』

姿は無いのに、2人の少年の声が処刑場に響いた。
すると、私を抱き抱えた炎の聖獣様の前に、白い鱗の龍?鹿?の様な姿をした大きな獣が居ました。
その背中に黒い髪をした少年を乗せて……

『ラフィーリア……おいで』

え?どうして……私の名前…

黒い髪をした少年が、私の名前を呼び手を差しだします。炎の聖獣様が私を少年の手に渡すと、彼は私を白い獣の上に乗せ抱き締めます。

『じゃあ、ラヴァ。後は頼んだ!よろしく!』

そして……驚くことに白い鱗の獣から活発そうな少年の声がし、白い鱗の獣は嘶き空を駆けました。

『妾達の愛し子!直ぐに後を追うでの!』

炎の聖獣様は私に投げキッスを送ると、レゴル様の方に向き直りました。

「待って、お待ちになって!聖獣様!その方はっ!……ざぃ……」

メラニー聖女様が何か叫んでましたが、私には最後まで聞こえませんでした。

後ろで……

炎の聖獣様が、鬼の形相で皆さんに行っている事にも気が付きませんでした。
私は白い鱗の獣の上で、黒い髪の少年に抱き締められたまま眠ってしまったから……
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