国を守護する聖獣は、聖女と呼ばれた少女より嫌われ者の悪女を望む

紫宛

文字の大きさ
5 / 10

第4話 出会い

しおりを挟む
フルスターリの王都フルスタに、私たちは足を踏み入れました。街の入口には兵士が立っていたので、厳しい審査があるのかと思えば…持ち物検査と印を入れられるだけでした。

この印は、私が貴族で殿下の代理で王都を訪れた際にも入れられたものです。街を出る時に印を抜きました。

何でも、誰かを傷付けたり犯罪を犯すと赤く光るんだそう。そして、身体能力含め全能力が低下するので逃げる事が出来ないそうです。

実際にこの国で罪を犯した訳では無いので、聞きかじりですが……

「こんな軽くて良いのでしょうか?私みたいに犯罪者を入れて後々問題に……」
『ならないよ……』
『ん、リアは犯罪者じゃないもんね!』

いつの間にか、ソル様は私をリアと愛称で呼ぶようになりました。嫌ではありません、むしろ嬉しいです。レゴル様や家族にも、愛称で呼ばれた事はありませんでしたから…

『ねぇ、リア……これから、王様に会うの?』

レヴォネ様が私の左手を引きながら、街の中にある屋台に目を光らせています。

『その前に、腹ごしらえだよ!リアはお腹すいてるでしょ?!』

ソル様も同じように私の右手を引きながら、街の中の屋台に連れて行こうとします。

「今の私に、会って下さるでしょうか……」

街に入る前は、2人に勇気づけられて会うって決めましたが…やはり、お城を前にすると尻込みしてしまいます。

『大丈夫……』
『大丈夫だよ!僕達の存在に気付いてるだろうからね!』

『『問題があるとしたら……僕たちの方かな』』と2人は言いました。ケンカになるかも知れないと…

どういう事でしょうか?

その理由は話して下さいませんでした。行けばわかるから……と。

街の屋台で、ヴィルトボアという魔獣の肉を串焼きにしている店を見つけ、3人で座って食べました。お金は、レヴォネ様が出してくださいました。

普段聖域や神域にいらっしゃるだろう御二人が、地上のお金や勘定に詳しいのは驚きましたが…よく遊びに来ていたそうです。

『だから、リアの事も知ってたんだ!』
『ん…』

ソル様の言葉に、レヴォネ様は頷きました。

お腹も膨れ、そろそろお城に行く事になりました。
それに伴って、私の緊張も高まって行きます。

『もし、リアに何かしたらその時点で僕達が容赦しないよ』
『守る、安心して……』

優しく、それでいて強く手を握られる。
その瞳を見つめれば、強い眼差しで見つめ返される。

「信じろ」……そう言われているみたい。

だから私も……2人の手を強く握り返し、門の前に佇む兵士に声を掛けました。

「竜王陛下に拝謁賜りたく……」
「話は聞いています、お通り下さい」
「……え?」

兵士の方が、聞いたと言ました。
私が行く事は、ソル様達しか知らないはずなのに……。もしかして、食事の前にソル様が言ったことが理由でしょうか?『僕達の存在に気付いてる』と言ってましたから……

兵士の方の案内で謁見室に向かっていると、大理石で作られた階段や柱が目に入って来ました。フルスターリでは石職人の技術が向上し、近年他国にも技術提供をしていると聞きます。

それにしても……大理石で作られたお城は美しい流線型で、何度見ても何時間見ていても飽きるものではありません。

石職人の技術の高さに敬服し感動すら覚えます。

先程まで感じていた緊張は解れ、気持ちを引き締める事も出来ました。もうなるようにしか、なりませんものね。

「竜王陛下、お客様をお連れしました」
「入れ」

扉は閉まっていますのに、威圧の様なものを既に感じます。

「どうぞ」

扉は開かれ、兵士の方に促され、そしてソル様とレヴォネ様に手を引かれ中に入ります。

「お前達は、外に出ていろ」
「はっ」

私達が中に入ると竜王陛下は、兵士や文官達を外に出しました。中に居るのは、私とソル様レヴォネ様、ラファール竜王陛下と竜王陛下の護衛兼側近のゼファール様、宰相ナファール様、更に小さな銀色の龍が残りました。

ラファール様、ゼファール様、ナファール様は、血は繋がってませんが御兄弟です。ナファール様が長男で、ラファール様は次男、ゼファール様が三男です。

ある程度は、貴族時代に知りました。この国の事も、陛下たちの事情も、情勢も…

「久しぶりですね、ラフィーリア様」
「この様な格好で失礼しますわ、ナファール様」

初めに声をかけて下さったのは、宰相のナファール様です。私は旅装束の格好で、不格好ですがカーテシーで挨拶をしました。

この格好は、処刑場から逃げ出した後にレヴォネ様が用意して下さいました。ソル様よりセンスは良いからと。

「私の事は聞き及んでいると思いますが…」
「……あぁ、だが…貴方がそのような事をするとは思っていない。全ての情報を入手している訳では無い……が、今まで接して来て貴方が毒をもって聖女を害すはずは無いと確信を持って言える」
「ええ。我が国との架け橋になって下さった貴方が、そのような愚かな事をなさるとは思えません」
「あぁ、貴方なら姑息な手段より正々堂々と叩きのめすだろ」

……ゼファール様、ちょっと論点が違う気がしますわ……でも、信じて下さるのですね。

『妾は信じぬ!金龍の愛し子などっ!』

そう怒り始めたのは、ラファール竜王陛下の肩に乗った銀色の龍でした。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

召喚聖女が来たのでお前は用済みだと追放されましたが、今更帰って来いと言われても無理ですから

神崎 ルナ
恋愛
 アイリーンは聖女のお役目を10年以上してきた。    だが、今回とても強い力を持った聖女を異世界から召喚できた、ということでアイリーンは婚約破棄され、さらに冤罪を着せられ、国外追放されてしまう。  その後、異世界から召喚された聖女は能力は高いがさぼり癖がひどく、これならばアイリーンの方が何倍もマシ、と迎えが来るが既にアイリーンは新しい生活を手に入れていた。  

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。 しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。 自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。 そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。 一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。 ※カクヨムさまにも掲載しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。  リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。

処理中です...