9 / 10
第8話 逃亡
しおりを挟む
「あっははは、私は、聖女ぉ、聖女なのよぉ!皆私に跪きなさぁい!あはは……あは、は…あ"あ"あ"」
薄暗い闇の中……女は、何も無い黒い平原で蹲り奇声を上げていた。彼女の傍には何も無い、彼女に危害を加えるものも無い…本当に何も無い平原で、遠くを見つめ、叫び声を上げ続けている。
彼女は今、自分を焼く燃え盛る炎に、ただ為す術なく叫ぶだけ。
「なぜダメなのですかぁ?私ではぁ!美しさもぉ!体型もぉ!聖女に相応しいのはぁあ"あ"あ"?!」
彼女が何か発言する度に、炎は勢いを増していく。
燃え盛る炎の中、彼女は灰にならず熱さに悶えながらも聖女に相応しいのは自分だと主張を続けた。
美しく、理想的な体型をし人々を魅了する自分が、何故聖女に選ばれなかったのかと訴える。
「あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"」
✾✾✾✾✾
『愚かじゃの……』
大鏡を覗いていたファサリスが小さく呟く。
聖女になるのに、外見的美しさも理想的な体型も……何の意味も無い。
必要なのは、
外見的美しさでは無い。
理想的な体型でも無い。
本当に必要なのは……
魔獣も獣人も人も、分け隔てなく接する優しき心。
外見的特徴で人を魅了するのではなく、優しき心で人々を癒し思いやりの心で人々を包み込む。
思いやりとは、優しさであり
思いやりとは、人の立場に立って考える心であり
思いやりとは、人を大事にする心である。
気が付けば、自然と人々が集まってくる……
そんな人間に、聖獣は心惹かれる。
それを、この娘は分かっていない。
『許すつもりは、ないのじゃろ?』
『……』
『あの娘には、隠しておくのかえ?』
『『……言えぬ』』
『辛い思いを、何年もしてきたのだから……』
『我らが、地上を離れた間に……』
ソルとレヴォネ、聖獣達はずっと地上にいる訳ではなかった。天上で神として、聖獣として仕事をしていた。気が付けば、ラフィーリアは人々に恨まれ処刑までされそうになっていたのだ。
『カテドラーラの方はどうじゃ?』
『……オレリーとリナリーが、率先し見張っている』
『王族が、早くも逃亡したらしい』
処刑の日からまだ数日……
けれど、獣神と聖獣を失った影響は直ぐに現れた。
天候が荒れ、作物の実りが悪くなり、ラフィーリアによって保たれていた各国との交流は、王太子レゴルに変わった事で悪化した。
『逃げ先は、ここかえ?』
『……あぁ』
『リアが、ここに居る事は内緒にしたい。王に話をつけておいてくれ』
『任せておけ、と言いたいところだが……ラファールならば、既にある程度の情報は掴んでおるであろう。心配はいるまい。まぁ、一応話はしておく』
『『すまんな、頼む』』
ソルとレヴォネ、ファサリスの間に風が通り抜け沈黙が訪れる。
『今更じゃ、馬鹿者め。……長かったのぉ……』
『『そうだな』』
『……』
ファサリスは小さく、本当に小さく『寂しかったのじゃ』と言った。ソルとレヴォネに聞こえたのかは分からないが……2人は小さく笑い『すまない』と言った。
✾✾✾✾✾
「ラフィーリア、どこだよっ!?助けてくれよ!」
「全く!お前が余計な事をするからだ!」
「父上だって、納得して協力してくれたじゃないか!」
「2人ともやめなさい!今は逃げることが大事よ!愚民共に殺されたくなければね!」
王族は、カテドラーラとフルスターリの国境付近まで来ていた。ラフィーリアの居場所は知られていないが、王族達は、ラフィーリアを聖獣達が助けたのなら、同じ聖獣を持つフルスターリにいる可能性を信じ向かっていた。
聖獣を失った影響が直ぐに現れ、国民の怒りを買い追われていたからだった。
薄暗い闇の中……女は、何も無い黒い平原で蹲り奇声を上げていた。彼女の傍には何も無い、彼女に危害を加えるものも無い…本当に何も無い平原で、遠くを見つめ、叫び声を上げ続けている。
彼女は今、自分を焼く燃え盛る炎に、ただ為す術なく叫ぶだけ。
「なぜダメなのですかぁ?私ではぁ!美しさもぉ!体型もぉ!聖女に相応しいのはぁあ"あ"あ"?!」
彼女が何か発言する度に、炎は勢いを増していく。
燃え盛る炎の中、彼女は灰にならず熱さに悶えながらも聖女に相応しいのは自分だと主張を続けた。
美しく、理想的な体型をし人々を魅了する自分が、何故聖女に選ばれなかったのかと訴える。
「あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"」
✾✾✾✾✾
『愚かじゃの……』
大鏡を覗いていたファサリスが小さく呟く。
聖女になるのに、外見的美しさも理想的な体型も……何の意味も無い。
必要なのは、
外見的美しさでは無い。
理想的な体型でも無い。
本当に必要なのは……
魔獣も獣人も人も、分け隔てなく接する優しき心。
外見的特徴で人を魅了するのではなく、優しき心で人々を癒し思いやりの心で人々を包み込む。
思いやりとは、優しさであり
思いやりとは、人の立場に立って考える心であり
思いやりとは、人を大事にする心である。
気が付けば、自然と人々が集まってくる……
そんな人間に、聖獣は心惹かれる。
それを、この娘は分かっていない。
『許すつもりは、ないのじゃろ?』
『……』
『あの娘には、隠しておくのかえ?』
『『……言えぬ』』
『辛い思いを、何年もしてきたのだから……』
『我らが、地上を離れた間に……』
ソルとレヴォネ、聖獣達はずっと地上にいる訳ではなかった。天上で神として、聖獣として仕事をしていた。気が付けば、ラフィーリアは人々に恨まれ処刑までされそうになっていたのだ。
『カテドラーラの方はどうじゃ?』
『……オレリーとリナリーが、率先し見張っている』
『王族が、早くも逃亡したらしい』
処刑の日からまだ数日……
けれど、獣神と聖獣を失った影響は直ぐに現れた。
天候が荒れ、作物の実りが悪くなり、ラフィーリアによって保たれていた各国との交流は、王太子レゴルに変わった事で悪化した。
『逃げ先は、ここかえ?』
『……あぁ』
『リアが、ここに居る事は内緒にしたい。王に話をつけておいてくれ』
『任せておけ、と言いたいところだが……ラファールならば、既にある程度の情報は掴んでおるであろう。心配はいるまい。まぁ、一応話はしておく』
『『すまんな、頼む』』
ソルとレヴォネ、ファサリスの間に風が通り抜け沈黙が訪れる。
『今更じゃ、馬鹿者め。……長かったのぉ……』
『『そうだな』』
『……』
ファサリスは小さく、本当に小さく『寂しかったのじゃ』と言った。ソルとレヴォネに聞こえたのかは分からないが……2人は小さく笑い『すまない』と言った。
✾✾✾✾✾
「ラフィーリア、どこだよっ!?助けてくれよ!」
「全く!お前が余計な事をするからだ!」
「父上だって、納得して協力してくれたじゃないか!」
「2人ともやめなさい!今は逃げることが大事よ!愚民共に殺されたくなければね!」
王族は、カテドラーラとフルスターリの国境付近まで来ていた。ラフィーリアの居場所は知られていないが、王族達は、ラフィーリアを聖獣達が助けたのなら、同じ聖獣を持つフルスターリにいる可能性を信じ向かっていた。
聖獣を失った影響が直ぐに現れ、国民の怒りを買い追われていたからだった。
8
あなたにおすすめの小説
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
召喚聖女が来たのでお前は用済みだと追放されましたが、今更帰って来いと言われても無理ですから
神崎 ルナ
恋愛
アイリーンは聖女のお役目を10年以上してきた。
だが、今回とても強い力を持った聖女を異世界から召喚できた、ということでアイリーンは婚約破棄され、さらに冤罪を着せられ、国外追放されてしまう。
その後、異世界から召喚された聖女は能力は高いがさぼり癖がひどく、これならばアイリーンの方が何倍もマシ、と迎えが来るが既にアイリーンは新しい生活を手に入れていた。
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。
リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる