【完結】トラウマ眼鏡系男子は幼馴染み王子に恋をする

獏乃みゆ

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8.サプライズ

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「はーい! みなさまご注目~っ!」

 教室の黒板の前で、壮司がクラス全員の視線を集めている。
 夏休み明けの試験も終わり、文化祭実行委員に自ら名乗り出た壮司が、来月の文化祭に向けて張り切って会を取り仕切っているのだ。
 壮司の後ろでは、壮司が相方として名指しした田村さんがカツカツと小気味よい音を響かせながら黒板に文字を書いている。「田村、字がすげぇ上手いからよろしく」と名指しされた田村さんは、心底嫌そうな顔をしていたが、田村さんが引き受けないと、壮司の実行委員パートナー争奪戦でクラスの女子が血を見そうな勢いだったために、仕方がなく引き受けてくれたようだった。
 なるほど、田村さんは達筆で、素晴らしい書体で黒板に記した。

『2年3組 仮装喫茶店』

 記された瞬間に男子からうおーーーっという雄叫びが上がる。
 女子からもきゃっきゃっとした声が聞こえてくる。
 ……仮装って、そんなに人気があるのか。着ぐるみとか?あ、ハロウィンみたいなやつ?
 頭の中で?を浮かべながら仮装について考えていると、前にいる壮司から信じられないことが告げられる。

「仮装はまぁ後でコンセプト決めるとして……
 みんな喜べ! 我がクラスには料理の天才! 愛すべき青山優李がいる!
 この才能を生かさない手はない!
 仮装の見た目だけじゃない、本格的な料理で客の胃袋を掴みに行く!
 いいか!俺たちで文化祭アワードを総なめにしてやるぜ!!」

 おおーーーっ! とクラス中が一丸となって、歓声が上がる。文化祭アワードとは、デザイン賞、アイデア賞、優秀賞、最優秀賞という賞があり、生徒や教員、一般の招待客の投票から決定される。最優秀賞に輝けば、担任がクラス全員を焼き肉に連れて行ってくれるらしい。
 だから、俺一人だけだ。
 壮司にとんでもないサプライズを仕掛けられて呆然と口を開けて固まっているのは。

 は? 何? 料理の天才って誰だよ。





「悪かったって優李~!」

 文化祭でのそれぞれの役割が決まった後には、教室で各々の仕事に取り掛かり始めた。
 俺は廊下に壮司を引っ張り出して苦情を言う。

「聞いてないっ 料理の天才って、俺普通に家庭料理しか作れないしっ
 調理班リーダーってなに?! 俺そんなのできないよ!」
「いやいや、普通にバイトでもうまい飯作ってるじゃん。」
「バイトはっ、前日から仕込みとかやってるし、お店のレシピとかあるから……って壮司、来たことないだろ?!
 ……俺、文化祭でみんなで作れるメニュー考えるとか無理だよっ
 そもそも、俺が作った料理なんて誰も食べたくな……」
「えー俺食べたいけどな、青山の料理」
「私も私も! 時々お弁当教室で食べてるじゃん、すっごく美味しそうなの見えてたんだよね~
 あれ青山くんが作ってるんでしょ?」

 ガラッと突然廊下側の窓が開いて、4人が身を乗り出して話に参加してくる。

「なっ?! あ、 え、見て……? えっ?」
「アハっ、ウケる~ 壮司と二人のときと全然違う~!」
「ちょっとマイ、青山くんびっくりしてんじゃん! やめなよー!」
「青山、ごめんな?
 こいつら悪い奴らではないからな、ただちょっとうるさいだけなんだ」
「ちょっとショーゴどう言う意味よ!」

 突然のことに、青くなったり、赤くなったり、顔の表面温度が目まぐるしく変わっているのを感じる。
 目の前でワイワイと言葉のキャッチボール……というより、銃弾戦が繰り広げられているみたいだ。
 
 マイと呼ばれているさとさんと、ショーゴと呼ばれているかけいくん、そして郷さんのお友達の戸田とだリホさん。その三人を呆れながらも仲裁している、佐藤昇さとうのぼるくん。ときどき、壮司と一緒に仲良く話しているグループの人たちだ。
 俺は、調理班として彼らと一緒にカフェメニューを作ることになる。





「しのぶさん、どうしよう……」
「あら~、とっても楽しそう
 私も行っていいのかしら」
「あっ、それはうん! ぜひぜひ!
 三日目は一般のお客さんも入れるから来て欲しい
 招待状持ってくるね。」

 じゃあお友達誘って行きましょう、と嬉しそうに呟きながら、コーヒーの準備をしてくれる。
 今日はバイトの日ではないが、時々こうして客として喫茶店『木漏日』にコーヒーを飲みに来ることがある。フードメニューがない日の夕方は、それほど忙しくなく、店内はBGMのクラシックが流れて穏やかな雰囲気だ。
 そのうちに、コーヒーの香りが漂ってくる。カウンター席で、しのぶさんが丁寧に作業をしている姿を眺める。

「そういえば、去年の今頃だったかしらねぇ~」
「? 何かあったっけ?」
「ほら、ずぶ濡れの男の子来たじゃない。
 文化祭の準備だかで、この辺りまで買い物に来て、降られちゃったって子。」

 あー…そういえば、そんなことがあった。
 ひどい雨で客もなく、もう閉めてしまおうかというときに、ずぶ濡れの客がやってきたのだ。
 秋口とはいえ、頭からつま先まで濡れそぼり、あまりに居た堪れなかったから、タオルや俺の替えの厨房用制服と寒い時用にロッカーに入れたままにしていたパーカーを貸したのだ。
 身体が冷えてるだろうと、その時試作していたスープも飲んでもらった。
 その後、俺は直接会っていないが、制服やパーカーを、わざわざクリーニングに出して持って来てくれたそうだ。律儀な人だ。

「あの後も時々来てくれてるのよ、彼」
「えー、俺会ってない。」
「ふふ、そうねぇ、塾とかで優李くんがいるディナーの時間には来られないらしいわ。
 また会えるといいわよねぇ」
 
 淹れたてのコーヒーが、テーブルの上に置かれる。

「文化祭のカフェってことは……優李くんだけじゃなくて、他のお友達も一緒に調理するのよね。
 できるだけ簡単で早く作れるメニューがいいわねぇ」
「それにさ、文化祭アワードってのをクラスで狙ってるらしくて、できればおいしい名物メニューみたいなのも考えたいんだ
 賞獲ると、クラス全員担任のおごりで焼肉に行けるんだって。」
「あら、じゃあ頑張らなきゃ!
 えて、美味しいの考えなきゃね~!」

 ばえ! ばえ! としのぶさんは楽しそうに呟きながら、客に呼ばれて行ってしまった。

「ばえ? 映えか~……ばえ……」





「今日は『木漏日』に寄ってきたの?」

 悠斗がふかしたじゃが芋をマッシャーで滑らかにつぶしながら、俺に尋ねる。今日の夕飯はポテトサラダと豚の生姜焼きだ。ポテサラに生姜焼きのタレをつけながら食べるのもうまい。
 俺は生姜をすりおろしながら、会話を続ける。

「そう。
 うちのクラス、文化祭で喫茶店やるんだけど、調理班を任されちゃって。
 しのぶさんにメニューの相談してきたんだ。」

 映え! しか、記憶には残ってないけど……
 冷蔵庫から生姜焼き用の豚スライスを取り出す。『木漏日』からの帰りに精肉店に寄ったら、佐伯兄ちゃんがおまけしてくれたのだ。

「ゆうくん、去年は何もやらなかったのに……」
「何もじゃない! 特に、決まった係はやらなかっただけだよ……
 ちゃんとゴミ出しとか、掃除とかはやった!」

 去年、クラスに話せる人が誰もいなかった俺は、完全に孤立していて、お化け屋敷の出し物にほとんど関わらなかった。当日はほとんど悠斗と展示を見たり、店を回ったりして過ごしていた。特に決まった仕事がなかったからだ。

「ハルのクラスは何やるの?」

 悠斗は難しそうな顔をして、つぶしたじゃが芋を見つめている。

「? どうした? なんか入ってた?」
「あ、いや、なんでもない。
 ……うちは、演劇部の人がいて、なんか劇やるって言ってた」
「へー、ハルは何するの?」
「……あー、絶対舞台には上がりたくないから、大道具とか、照明とか、何か裏方やると思う。」
「はは、そっか
 時間わかったら教えてね。
 見に行きたい。」
「僕は出ないよ?」
「はは、そうだけど、ハルも頑張って作る舞台でしょ?
 見に行きたいよ」

 熱したフライパンに下味をつけた豚肉を乗せていく。ジューという音と、香ばしい香りが食欲をそそる。

「……今年の文化祭は、ゆうくん忙しそうだね」

 そう呟く悠斗を、ちらと見てみると、何かを考え込むような顔をして、じゃが芋をつぶし続けている。
 すごく滑らかなマッシュドポテトができている。ポテトサラダにしては滑らかすぎるかもしれない。そろそろ他の具を混ぜなければ。

「ハル、そろそろこれ入れよっか。」

 マッシュドポテトが入っているボウルの中に、キュウリやニンジン、ハムや薄くスライスした玉ねぎを入れていく。

「まぁ、去年よりは忙しいかもしれないけど……シフトちゃんと決めてくれるって言ってたから、また一緒に文化祭回れるよ
 それに、ハルも友達と回ったりできるよ。
 毎年付き合わせてごめんな。」

 はは、と笑いながら軽く言ってみる。こんなとき、ハルの方を見ることはできない。

「……ううん。僕が、ゆうくんと回りたいんだよ。」

 その言葉に、思わず悠斗のほうを向くと、上手に具と調味料を混ぜて、美味しそうなポテトサラダを完成させてくれている。
 悠斗の言葉に喜んでしまいそうな気持ちを誤魔化すように、「そもそも、壮司が突然俺になんの相談もなく決めたことなんだけどさ」、と愚痴っぽく言いながら焼目がついた豚肉を裏返す。

 本当は。
 悠斗の言葉に飛び上がって喜びたい。
 本当は。
 去年とは違って、自分に何かを任せてもらえたことが、嬉しかったりする。
 




 こんな気持ちを俺は、これからいくつ悠斗に隠して過ごしていくんだろうか。

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