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◆10.ゆうくん(悠斗視点)
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黒くてツヤツヤした、男にしては長めの髪が揺れる。首を少しだけ傾けて、スーパーの野菜売り場でどの大根がいいか吟味している。
眼鏡の奥の瞳は、レンズに触れてしまいそうなほどの長い睫毛に縁取られ、魅惑的に潤んでいる。
大根を片手に、これほど愛らしい人間がこの世にどれほどいるだろうか?
少なくとも俺は、目の前の一人しか知らない。
優李が大根を選ぶ間に、俺は前に優李から『根元の白いところが太いほうが、甘くておいしい長ネギ』と教わった通りに、根元が太めの長ネギを選ぶ。
「ゆうくん、これはどうかな?」
「うん…根元がしっかり太くて美味しそう!
これにしよ」
ふわりと綻ぶように控えめに笑む姿は、誰にも見せたくないと思うほど可憐だ。実際、周りの人間は大抵、俺を見るからほとんど優李が注目されることはない。それでいい。
俺が選んだ長ネギをカゴに入れてくれた。優李の役に立てたことに、お腹の辺りがほくほくとする。
「で、なに、あのダサめがね
邪魔なんだけど……」
「なんであんなのと一緒に居るんだろ。どう考えても底辺じゃん」
はぁ?
少し距離を開けて、背後から耳障りな声が聞こえる。ピクリとカートを押す優李の肩が震えるのが見えた。
舌打ちしそうになるのを、懸命に堪える。
こんな言葉を、聞かせたくない。
「ゆうくん、次はお肉コーナー行こ」
「あ、あぁ…」
そっと、優李の背中に手を添える。ジャケット越しにも伝わるほのかな体温と、華奢な背中。はぁ、役得だ。今日も優李に触れることができた。
でも、こいつらは許せない。
優李に気取られないように、そっと背後を振り返る。
スマホをこちらに向けながら笑みを浮かべていた女2人は、その瞬間、血の気が引いたような青い顔をして走り去った。十分に俺の気持ちが伝わったようだ。
俺が、優李を傷つける奴を許すはずがない。
本当は二度とこの近辺に近付かないようにしてやりたいが、今は優李との貴重な時間だ。これ以上奴らに意識を割きたくない。
お肉コーナーに着き、優李が肉を選び始めると、背中に添えていた手は離れてしまった。
青山優李は、俺、遠野悠斗の幼馴染みだ。
物心ついたときには、もう傍にいて、それからずっと一緒にいる。
両親の記憶はあまりなく、そういう人が居るんだな、くらいの認識だったから、祖母や出会う人に「寂しいでしょう?」「可哀想に」と声をかけられるのが、不思議でたまらなかった。
だって俺には、優李がいるから。
優李はいつだって俺と遊んでくれるし、俺の話を聞いてくれる。心細い時には手を握ってくれるし、抱きしめてもくれる。
可愛いかわいい優李は、俺にとってかけがえのない人だ。
だから時々、無性に確かめたくなってしまう。
優李も俺と同じ気持ちだよね。ずっと傍に、一緒にいてくれるよね? と。
「ゆうくん、」
「ん?」
食卓を挟んで向かいにいる優李を見つめる。
今日も優李は俺との夕食を手際よく作ってくれた。俺のために、少し甘めの麻婆茄子だ。本当は辛いものだって食べられる。でも、俺は優李が俺のためにアレンジしてくれる味を求めて、いつも我儘を言ってしまう。でも、優李にそれを拒まれたことはない。
目の前の優李はもぐもぐと口いっぱいにご飯を頬張っている。小動物のようで愛らしい。
「僕、ゆうくんと居られて、本当に幸せ。
ずっと、一緒に居てね。」
途端に、優李の瞳が揺れる。
元々白い肌が、さらに血の気を失って、青くも見えるような顔色になる。
「当たり前じゃん。
俺たち家族みたいなもんだろ!」
ずっと見ているからわかる。
優李、それは君の本当の笑顔じゃないだろ?
思いがけず、箸を握る手に力が入ってしまう。でも、この動揺を優李に知られてはいけない。
「うん。
ふふ、嬉しい」
穏やかな笑顔を浮かべて、相づちを打つ。
いつからだろう、優李が俺からのこの手の質問に、青ざめ、思い詰めた表情を浮かべるようになったのは。
優李、ずっとは一緒にいられない?
君は俺から離れたいの?
いつか、優李に恋人ができて、奥さんができて、子どもができるのを、俺はここで見ていなきゃいけない?
そんなこと、俺は絶対に耐えられない。
絶対に許さない。
意識的に、優雅に食事を口へと運ぶ。演技するのは得意だ。
優李の前では穏やかで優しい幼馴染みを、この十数年演じてきた。これからもそれは変わらない。
優李のそばに居続けるためなら何だってする。
優李に近づく奴らを排除するためなら、何でもしてやる。
学校は好きだ。
優李と一緒に並んで学校へ行けるし、帰りも一緒に帰れる。二人で過ごしても何も不自然じゃない。
俺は優李との時間を満喫できる。
今朝は、寝癖が付いてる、と嘘を言って優李の頭を撫でることもできた。滑らかで細い艶々とした黒髪は、触れるとサラサラと指の間を滑って心地良い。
ずっと触っていたい欲を堪えて、手を離す。
こんな時間を持てるのも、穏やかで無害な幼馴染みを演じているおかげだ。
でも、ただ一つだけ、優李と過ごす中で、どうしても避けたい時間がある。
「……あの、ハル、これ…」
来た。
「……誰から?」
わかりきったことなのに、毎回聞いてしまう。
優李から差し出された色とりどりの封筒を受け取る。どれも丁寧に名前が書かれているが、俺が欲しいものじゃない。
誰から? の問いに、優李から、という答えが返ってくることなんて、ないんだ。
顔も知らない誰かからの好意ほど気持ち悪いものはない。本当なら、すぐにでもゴミ箱へ投げ入れたいが、1年の頃、俺が返事をしなかったことに腹を立てた奴らが、事もあろうに優李を責め立てているのを見てしまった。
それからは優李から受け取った手紙には返事をするようになったが、そのせいで余計に優李に手紙を渡す奴が増えたように思う。
最近では優李に手紙を託せば、放課後俺と二人きりで話す機会が与えられる、といった噂まで流れているらしい。心からゾッとする。
そんなことも知らずに、健気に俺を気遣って申し訳なさそうにしている優李を愛らしく思う反面、俺宛のラブレターを毎日なんとも思わずに運んでくる優李が憎たらしくも思えてしまう。
本当に、俺のことなどただの友人としか思っていないのだと、毎日思い知らされる。
ぽす、と頭に手を乗せるだけのチョップをして、少しだけふてくされた気持ちを紛らわせた。
「え、なに俺殺されんの?
こえーーーwww」
「ふざけんな、なんなんだよお前…」
久生壮司、優李と同じクラスの男だ。
俺はこいつが気に食わない。
「お前、優李にしつこく付き纏って、何が目的だ。」
久生はほとんど変わらない身長の俺を、にやにやした笑みを浮かべながら覗き込んでくる。
放課後、人気のない社会科準備室にこいつを呼び出した。
今頃、優李は告白の手紙の返事に行っているであろう俺を、健気に教室で待ってくれているはずだ。
「目的も何も、俺はただただ、優李と仲良くなりたくて一緒にいるだけだけどな。
遠野こそ、随分優李の前と態度が違うじゃん。どっちが素なの……って聞くまでもないかw」
ずっとニヤニヤとしていて、心から腹立たしい。
優李はなんでこんなやつに絆されているんだ。
チッ、と舌打ちする。こんな奴の前で取り繕う必要などない。
「遠野~、その優李以外どーでもいいって態度、改めた方がいいぜ。
今は優李のお友達は俺だけだけど、優李はとってもいい子だからすぐにお友達いっぱいになるよ。
そのうち、お前の正体バレるぞ」
心底愉快だというふうに笑いながら、久生が告げる。
「……優李は慎重な子だ。そう易々と気を許すわけがない。
お友達とやらが何を言おうと、最後に信じるのは俺だ。」
「すっげぇ自信。」
あははは、と久生が声を上げて笑う。
「その余裕、いつまで保つのかな~?」
久生はポン、と俺の肩を叩いて去って行こうとする。
「おい!まだ話は終わってない……」
「俺はお前がどれだけ凄もうと、優李の傍を離れるつもりはないし、
優李も、お前がいつまでも閉じ込めておけるほど、子どもじゃないと思うぜ」
じゃあまたな~、と手をひらひらと振りながら、久生は準備室を出て行った。
ほこりっぽい部屋の中で、俺は爪が食い込むほど強く拳を握りしめた。
「あ、ハル」
手紙を人数分すべて突き返してから、鞄を持って教室へ行くと、優李が一人で待っていてくれた。
課題をやっていたようだ。パタパタと筆記用具やノートを片付けて荷物をまとめ始める。
「……今日はどうだった?」
鞄を肩にかけた優李が、教室のドアを開けながら俺に問う。
彼女ができた?恋人ができた?という意味なんだろう。優李は決して顔を見ながらこの質問をしてくれない。
「……ちゃんと断ってきたよ。」
「そっか。
悠斗、理想高過ぎるんじゃない? 高校入ってから全然恋人できないじゃん!」
俺の先を歩く優李から、明るい声で問いかけられる。
ねぇ優李、俺に恋人を作ってほしいの?
俺に恋人ができたら、優李は他の誰かと過ごすの?
……早く俺から離れたい?
「……今は恋愛とか……いいんだ。」
「……まぁ、そういうときもあるか。
いつかいい人が現れるといいな。」
前を歩いていた優李が後ろを振り返り、ぽんぽん、と背中に触れてくれる。
こちらを思いやるような、そんな顔で俺を上目遣いに見上げてくれる優李。
だって。
俺はお前が好きなんだよ。
お前以外、誰でもなく。優李だけがいいんだ。
「今日はバイトの日でしょ。夕飯、木漏日に食べに行っていい?」
「いいよ。今日は半熟オムライスがおすすめ。中にチーズ入れるからね」
「あ~僕の好きなやつだー」
そんなこと言えるはずない。
優李とずっと一緒にいるために。俺はこの気持ちを隠し続ける。
眼鏡の奥の瞳は、レンズに触れてしまいそうなほどの長い睫毛に縁取られ、魅惑的に潤んでいる。
大根を片手に、これほど愛らしい人間がこの世にどれほどいるだろうか?
少なくとも俺は、目の前の一人しか知らない。
優李が大根を選ぶ間に、俺は前に優李から『根元の白いところが太いほうが、甘くておいしい長ネギ』と教わった通りに、根元が太めの長ネギを選ぶ。
「ゆうくん、これはどうかな?」
「うん…根元がしっかり太くて美味しそう!
これにしよ」
ふわりと綻ぶように控えめに笑む姿は、誰にも見せたくないと思うほど可憐だ。実際、周りの人間は大抵、俺を見るからほとんど優李が注目されることはない。それでいい。
俺が選んだ長ネギをカゴに入れてくれた。優李の役に立てたことに、お腹の辺りがほくほくとする。
「で、なに、あのダサめがね
邪魔なんだけど……」
「なんであんなのと一緒に居るんだろ。どう考えても底辺じゃん」
はぁ?
少し距離を開けて、背後から耳障りな声が聞こえる。ピクリとカートを押す優李の肩が震えるのが見えた。
舌打ちしそうになるのを、懸命に堪える。
こんな言葉を、聞かせたくない。
「ゆうくん、次はお肉コーナー行こ」
「あ、あぁ…」
そっと、優李の背中に手を添える。ジャケット越しにも伝わるほのかな体温と、華奢な背中。はぁ、役得だ。今日も優李に触れることができた。
でも、こいつらは許せない。
優李に気取られないように、そっと背後を振り返る。
スマホをこちらに向けながら笑みを浮かべていた女2人は、その瞬間、血の気が引いたような青い顔をして走り去った。十分に俺の気持ちが伝わったようだ。
俺が、優李を傷つける奴を許すはずがない。
本当は二度とこの近辺に近付かないようにしてやりたいが、今は優李との貴重な時間だ。これ以上奴らに意識を割きたくない。
お肉コーナーに着き、優李が肉を選び始めると、背中に添えていた手は離れてしまった。
青山優李は、俺、遠野悠斗の幼馴染みだ。
物心ついたときには、もう傍にいて、それからずっと一緒にいる。
両親の記憶はあまりなく、そういう人が居るんだな、くらいの認識だったから、祖母や出会う人に「寂しいでしょう?」「可哀想に」と声をかけられるのが、不思議でたまらなかった。
だって俺には、優李がいるから。
優李はいつだって俺と遊んでくれるし、俺の話を聞いてくれる。心細い時には手を握ってくれるし、抱きしめてもくれる。
可愛いかわいい優李は、俺にとってかけがえのない人だ。
だから時々、無性に確かめたくなってしまう。
優李も俺と同じ気持ちだよね。ずっと傍に、一緒にいてくれるよね? と。
「ゆうくん、」
「ん?」
食卓を挟んで向かいにいる優李を見つめる。
今日も優李は俺との夕食を手際よく作ってくれた。俺のために、少し甘めの麻婆茄子だ。本当は辛いものだって食べられる。でも、俺は優李が俺のためにアレンジしてくれる味を求めて、いつも我儘を言ってしまう。でも、優李にそれを拒まれたことはない。
目の前の優李はもぐもぐと口いっぱいにご飯を頬張っている。小動物のようで愛らしい。
「僕、ゆうくんと居られて、本当に幸せ。
ずっと、一緒に居てね。」
途端に、優李の瞳が揺れる。
元々白い肌が、さらに血の気を失って、青くも見えるような顔色になる。
「当たり前じゃん。
俺たち家族みたいなもんだろ!」
ずっと見ているからわかる。
優李、それは君の本当の笑顔じゃないだろ?
思いがけず、箸を握る手に力が入ってしまう。でも、この動揺を優李に知られてはいけない。
「うん。
ふふ、嬉しい」
穏やかな笑顔を浮かべて、相づちを打つ。
いつからだろう、優李が俺からのこの手の質問に、青ざめ、思い詰めた表情を浮かべるようになったのは。
優李、ずっとは一緒にいられない?
君は俺から離れたいの?
いつか、優李に恋人ができて、奥さんができて、子どもができるのを、俺はここで見ていなきゃいけない?
そんなこと、俺は絶対に耐えられない。
絶対に許さない。
意識的に、優雅に食事を口へと運ぶ。演技するのは得意だ。
優李の前では穏やかで優しい幼馴染みを、この十数年演じてきた。これからもそれは変わらない。
優李のそばに居続けるためなら何だってする。
優李に近づく奴らを排除するためなら、何でもしてやる。
学校は好きだ。
優李と一緒に並んで学校へ行けるし、帰りも一緒に帰れる。二人で過ごしても何も不自然じゃない。
俺は優李との時間を満喫できる。
今朝は、寝癖が付いてる、と嘘を言って優李の頭を撫でることもできた。滑らかで細い艶々とした黒髪は、触れるとサラサラと指の間を滑って心地良い。
ずっと触っていたい欲を堪えて、手を離す。
こんな時間を持てるのも、穏やかで無害な幼馴染みを演じているおかげだ。
でも、ただ一つだけ、優李と過ごす中で、どうしても避けたい時間がある。
「……あの、ハル、これ…」
来た。
「……誰から?」
わかりきったことなのに、毎回聞いてしまう。
優李から差し出された色とりどりの封筒を受け取る。どれも丁寧に名前が書かれているが、俺が欲しいものじゃない。
誰から? の問いに、優李から、という答えが返ってくることなんて、ないんだ。
顔も知らない誰かからの好意ほど気持ち悪いものはない。本当なら、すぐにでもゴミ箱へ投げ入れたいが、1年の頃、俺が返事をしなかったことに腹を立てた奴らが、事もあろうに優李を責め立てているのを見てしまった。
それからは優李から受け取った手紙には返事をするようになったが、そのせいで余計に優李に手紙を渡す奴が増えたように思う。
最近では優李に手紙を託せば、放課後俺と二人きりで話す機会が与えられる、といった噂まで流れているらしい。心からゾッとする。
そんなことも知らずに、健気に俺を気遣って申し訳なさそうにしている優李を愛らしく思う反面、俺宛のラブレターを毎日なんとも思わずに運んでくる優李が憎たらしくも思えてしまう。
本当に、俺のことなどただの友人としか思っていないのだと、毎日思い知らされる。
ぽす、と頭に手を乗せるだけのチョップをして、少しだけふてくされた気持ちを紛らわせた。
「え、なに俺殺されんの?
こえーーーwww」
「ふざけんな、なんなんだよお前…」
久生壮司、優李と同じクラスの男だ。
俺はこいつが気に食わない。
「お前、優李にしつこく付き纏って、何が目的だ。」
久生はほとんど変わらない身長の俺を、にやにやした笑みを浮かべながら覗き込んでくる。
放課後、人気のない社会科準備室にこいつを呼び出した。
今頃、優李は告白の手紙の返事に行っているであろう俺を、健気に教室で待ってくれているはずだ。
「目的も何も、俺はただただ、優李と仲良くなりたくて一緒にいるだけだけどな。
遠野こそ、随分優李の前と態度が違うじゃん。どっちが素なの……って聞くまでもないかw」
ずっとニヤニヤとしていて、心から腹立たしい。
優李はなんでこんなやつに絆されているんだ。
チッ、と舌打ちする。こんな奴の前で取り繕う必要などない。
「遠野~、その優李以外どーでもいいって態度、改めた方がいいぜ。
今は優李のお友達は俺だけだけど、優李はとってもいい子だからすぐにお友達いっぱいになるよ。
そのうち、お前の正体バレるぞ」
心底愉快だというふうに笑いながら、久生が告げる。
「……優李は慎重な子だ。そう易々と気を許すわけがない。
お友達とやらが何を言おうと、最後に信じるのは俺だ。」
「すっげぇ自信。」
あははは、と久生が声を上げて笑う。
「その余裕、いつまで保つのかな~?」
久生はポン、と俺の肩を叩いて去って行こうとする。
「おい!まだ話は終わってない……」
「俺はお前がどれだけ凄もうと、優李の傍を離れるつもりはないし、
優李も、お前がいつまでも閉じ込めておけるほど、子どもじゃないと思うぜ」
じゃあまたな~、と手をひらひらと振りながら、久生は準備室を出て行った。
ほこりっぽい部屋の中で、俺は爪が食い込むほど強く拳を握りしめた。
「あ、ハル」
手紙を人数分すべて突き返してから、鞄を持って教室へ行くと、優李が一人で待っていてくれた。
課題をやっていたようだ。パタパタと筆記用具やノートを片付けて荷物をまとめ始める。
「……今日はどうだった?」
鞄を肩にかけた優李が、教室のドアを開けながら俺に問う。
彼女ができた?恋人ができた?という意味なんだろう。優李は決して顔を見ながらこの質問をしてくれない。
「……ちゃんと断ってきたよ。」
「そっか。
悠斗、理想高過ぎるんじゃない? 高校入ってから全然恋人できないじゃん!」
俺の先を歩く優李から、明るい声で問いかけられる。
ねぇ優李、俺に恋人を作ってほしいの?
俺に恋人ができたら、優李は他の誰かと過ごすの?
……早く俺から離れたい?
「……今は恋愛とか……いいんだ。」
「……まぁ、そういうときもあるか。
いつかいい人が現れるといいな。」
前を歩いていた優李が後ろを振り返り、ぽんぽん、と背中に触れてくれる。
こちらを思いやるような、そんな顔で俺を上目遣いに見上げてくれる優李。
だって。
俺はお前が好きなんだよ。
お前以外、誰でもなく。優李だけがいいんだ。
「今日はバイトの日でしょ。夕飯、木漏日に食べに行っていい?」
「いいよ。今日は半熟オムライスがおすすめ。中にチーズ入れるからね」
「あ~僕の好きなやつだー」
そんなこと言えるはずない。
優李とずっと一緒にいるために。俺はこの気持ちを隠し続ける。
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閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
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