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12.好きになんて
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……おかしい。
変化に気づいたのは、あの日の晩からだ。
文化祭の買い出しのために、悠斗が俺と一緒には帰れない、と言いに来た日。
いつもなら、悠斗はメッセージの返事をすぐに返す。中学で彼女ができたときさえ、そうだった。マメで律儀なヤツなのだ。それが、あの日以降、ほとんど連絡が取れなくなり、登下校も、昼食も、夕飯も、一緒にすることはなくなった。
「俺らとしては青山と一緒に飯食えて嬉しいけど」
「確かに急にだと、『避けられてんのかな~』『何かしちゃったのかな~』ってなるよね」
「あれだけ仲良かったら、余計にね~」
「えー!単純に彼女できたんじゃねぇの?」
一斉に、机を合わせて昼食を取っていた全員の目が、筧に向く。最近、お昼休みにはこうして調理班メンバーで教室で集まることが増えた。
まだ、悠斗に確認してはいないから、彼女ができたのでは、ということはみんなには話していない。でもこの状況を聞いたら、やっぱそう思うよな…と一人で納得する。
食事中、あまりに俺の元気がないので、みんなが声をかけてくれて思わず、『ハルに避けられている気がする』と呟いてしまったところだ。
これだけの人に囲まれて心配されることがなかったから、思わず、本当に考えていたことを口から出してしまった。
「……やっぱそうだよね。
恋人ができたら、そっち優先するよね」
自分の口から出た言葉が、あまりに未練がましくて、耳に入った途端に後悔する。
今までが異常だったんだ。きらきらした世界の住人と俺が、幼馴染みだからってずっと近くに居た。
悠斗に恋人ができて、その人を大事にしているだけだ。悠斗が幸せになるなら、喜ばしいことじゃないか。
「よかった。高校入ってから、ずっと彼女できないから、なんでだろって心配してたんだ。
いい人が見つかったなら、よかった。」
「なー、彼女できたなら、できたで、言えよって話だけどな!今度会ったら言ってやれよ!」
筧が無邪気に声をかけてくれる。そうだね、と頷きながら笑顔を作った。
すぐに話題は「遠野のカノジョはどんな女の子か」という話題に切り替わる。
スタイルが良くて、可愛くて、優しくて、穏やかで、趣味が一緒で、自分の友達とも気が合って……と、みんなの理想詰め合わせみたいな人物像になって、最後に郷さんが、「そんな人間いねぇわ!!」とツッコんで終わった。
でも、悠斗の恋人になるなら、きっと悠斗が特別に思う魅力がたくさんある人なんだろう。
それは、俺みたいな陰気な眼鏡じゃなく、ましてや男じゃない。きっと、正反対な女の子なんだろう。
そう思って、胸の奥がひやりと冷たくこわばっていくのを感じた。
「優李~、一緒に帰ろうぜ」
「え、いいの? 塾あるんじゃないの?」
荷物をまとめていると、壮司が誘ってくれる。でも、壮司の塾は俺の家とは真逆だ。
「大丈夫~、もうすぐ模試だからスケジュール変わってんだ。
今日は優李とデートできるよ~!」
顔の横でダブルピースしながら、壮司が笑う。その様子があまりにはしゃいでいるから、思わず俺も笑ってしまう。
「ははっ、じゃあさ、前に話してたパンケーキ屋さん行こ。
甘いもの食べに行きたい」
「いいね、クリーム山盛り食おうぜ」
一人でバイトもないとなると、どうしても悠斗のことを考えてしまうから、壮司の申し出に甘えてしまう。
こうやって気を紛らせていれば、悠斗を思い浮かべるたびに起こる胸の痛みは、だんだん薄れていくはずだ。中学の時だってそうだった。し、今度もきっと大丈夫なはずだ。
だって、これからは悠斗の結婚式や、子育てだって俺は見守るんだから。
そう思って、壮司とパンケーキを食べに来たのに……
「……まじか……」
隣の壮司から、そんな言葉がこぼれ落ちる。
入ろうとした店のテラス席に、周囲の人間の視線を独り占めしている人がいる。……悠斗だ。
悠斗と先日一緒に文化祭の買い出しに連れ立っていた女の子が、悠斗の前に座っている。ここからは悠斗の背中しか見えないが、後ろ姿とまとう空気だけでも悠斗だとわかるんだな、と妙に感心してしまった。
向かいに座っている女の子の満足そうな笑顔が、目に焼き付く。
「優李…
っ……」
俺に声をかけた壮司の表情が悲しそうに歪む。
……俺、そんなひどい顔してるのかな。
「……壮司、ごめん。
今日はやっぱり帰ってもいいかな?」
「家まで送る」
「ううん、壮司の家、ここからじゃ遠回りでしょ。」
帰ろうと身を翻すと、腕を掴まれる。
「だめだ。今優李を一人にしたくない。」
「っ……壮司…。」
こんな真剣な顔をした壮司は初めて見る。
でも、……それでも……
「ごめん……っ」
腕を振りほどいて、全力で駆け出す。
背中に、壮司の声が聞こえたが、聞こえないフリをして走った。
心臓が破れそうに痛むのは、きっと柄にもなく全力疾走しているからだ。
なんで人間の気持ちって、思った通りに動いてくれないんだろう。
悠斗と一緒にいたいなら、こんなことで痛くなっちゃいけないのに。なんでこんなに苦しくなるんだ。
ただの友だちだったら良かったのに。
ただの家族だったらよかったのに。
好きになんてなりたくなかった。
変化に気づいたのは、あの日の晩からだ。
文化祭の買い出しのために、悠斗が俺と一緒には帰れない、と言いに来た日。
いつもなら、悠斗はメッセージの返事をすぐに返す。中学で彼女ができたときさえ、そうだった。マメで律儀なヤツなのだ。それが、あの日以降、ほとんど連絡が取れなくなり、登下校も、昼食も、夕飯も、一緒にすることはなくなった。
「俺らとしては青山と一緒に飯食えて嬉しいけど」
「確かに急にだと、『避けられてんのかな~』『何かしちゃったのかな~』ってなるよね」
「あれだけ仲良かったら、余計にね~」
「えー!単純に彼女できたんじゃねぇの?」
一斉に、机を合わせて昼食を取っていた全員の目が、筧に向く。最近、お昼休みにはこうして調理班メンバーで教室で集まることが増えた。
まだ、悠斗に確認してはいないから、彼女ができたのでは、ということはみんなには話していない。でもこの状況を聞いたら、やっぱそう思うよな…と一人で納得する。
食事中、あまりに俺の元気がないので、みんなが声をかけてくれて思わず、『ハルに避けられている気がする』と呟いてしまったところだ。
これだけの人に囲まれて心配されることがなかったから、思わず、本当に考えていたことを口から出してしまった。
「……やっぱそうだよね。
恋人ができたら、そっち優先するよね」
自分の口から出た言葉が、あまりに未練がましくて、耳に入った途端に後悔する。
今までが異常だったんだ。きらきらした世界の住人と俺が、幼馴染みだからってずっと近くに居た。
悠斗に恋人ができて、その人を大事にしているだけだ。悠斗が幸せになるなら、喜ばしいことじゃないか。
「よかった。高校入ってから、ずっと彼女できないから、なんでだろって心配してたんだ。
いい人が見つかったなら、よかった。」
「なー、彼女できたなら、できたで、言えよって話だけどな!今度会ったら言ってやれよ!」
筧が無邪気に声をかけてくれる。そうだね、と頷きながら笑顔を作った。
すぐに話題は「遠野のカノジョはどんな女の子か」という話題に切り替わる。
スタイルが良くて、可愛くて、優しくて、穏やかで、趣味が一緒で、自分の友達とも気が合って……と、みんなの理想詰め合わせみたいな人物像になって、最後に郷さんが、「そんな人間いねぇわ!!」とツッコんで終わった。
でも、悠斗の恋人になるなら、きっと悠斗が特別に思う魅力がたくさんある人なんだろう。
それは、俺みたいな陰気な眼鏡じゃなく、ましてや男じゃない。きっと、正反対な女の子なんだろう。
そう思って、胸の奥がひやりと冷たくこわばっていくのを感じた。
「優李~、一緒に帰ろうぜ」
「え、いいの? 塾あるんじゃないの?」
荷物をまとめていると、壮司が誘ってくれる。でも、壮司の塾は俺の家とは真逆だ。
「大丈夫~、もうすぐ模試だからスケジュール変わってんだ。
今日は優李とデートできるよ~!」
顔の横でダブルピースしながら、壮司が笑う。その様子があまりにはしゃいでいるから、思わず俺も笑ってしまう。
「ははっ、じゃあさ、前に話してたパンケーキ屋さん行こ。
甘いもの食べに行きたい」
「いいね、クリーム山盛り食おうぜ」
一人でバイトもないとなると、どうしても悠斗のことを考えてしまうから、壮司の申し出に甘えてしまう。
こうやって気を紛らせていれば、悠斗を思い浮かべるたびに起こる胸の痛みは、だんだん薄れていくはずだ。中学の時だってそうだった。し、今度もきっと大丈夫なはずだ。
だって、これからは悠斗の結婚式や、子育てだって俺は見守るんだから。
そう思って、壮司とパンケーキを食べに来たのに……
「……まじか……」
隣の壮司から、そんな言葉がこぼれ落ちる。
入ろうとした店のテラス席に、周囲の人間の視線を独り占めしている人がいる。……悠斗だ。
悠斗と先日一緒に文化祭の買い出しに連れ立っていた女の子が、悠斗の前に座っている。ここからは悠斗の背中しか見えないが、後ろ姿とまとう空気だけでも悠斗だとわかるんだな、と妙に感心してしまった。
向かいに座っている女の子の満足そうな笑顔が、目に焼き付く。
「優李…
っ……」
俺に声をかけた壮司の表情が悲しそうに歪む。
……俺、そんなひどい顔してるのかな。
「……壮司、ごめん。
今日はやっぱり帰ってもいいかな?」
「家まで送る」
「ううん、壮司の家、ここからじゃ遠回りでしょ。」
帰ろうと身を翻すと、腕を掴まれる。
「だめだ。今優李を一人にしたくない。」
「っ……壮司…。」
こんな真剣な顔をした壮司は初めて見る。
でも、……それでも……
「ごめん……っ」
腕を振りほどいて、全力で駆け出す。
背中に、壮司の声が聞こえたが、聞こえないフリをして走った。
心臓が破れそうに痛むのは、きっと柄にもなく全力疾走しているからだ。
なんで人間の気持ちって、思った通りに動いてくれないんだろう。
悠斗と一緒にいたいなら、こんなことで痛くなっちゃいけないのに。なんでこんなに苦しくなるんだ。
ただの友だちだったら良かったのに。
ただの家族だったらよかったのに。
好きになんてなりたくなかった。
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