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◆21.スポットライト(悠斗視点)
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「やっと捕まえた!今日こそはクラスに貢献してもらうからね!」
「……」
「遠野くん、聞いてる!?」
優李が走り去ってすぐに、2組の奴らに見つかって体育館に引きずり込まれた。
台詞も何もいらない。衣装に着替えて指定された場面で舞台に立っているだけでいいらしい。
観客のことも、俺のことも随分と馬鹿にしてる。
でも、もう、何もかもどうでもいい。
俺の顔を利用したいなら、もうどうにでもしろ。
──俺が、優李を泣かせた。
濡れた鴉の羽みたいな綺麗な黒髪の間から、艶々の宝石みたいな瞳が覗いてた。
そこから、あんなにバタバタと涙の粒がこぼれ落ちるなんて。
優李は綺麗だ。笑っていても、拗ねていても、怒っていても、泣いていても──……
『そんな顔、あいつに見せてどうすんだよ!』
『……ごめん、 こんな顔、 晒して』
そういう意味で言ったんじゃない。
そんな綺麗な顔を、俺以外の誰にも見せて欲しくなかったんだ。
ましてや、お前に気のある椎名に部屋に二人きりでいるときに晒すな、と言いたかった。
でも、優李がそう思うように仕向けたのは俺だ。
椎名たちが優李を傷つけたことを利用して、優李を世界から隠そうとした。
優李に「その顔は隠さなきゃいけないもの」と刷り込んだ。
最低だ。
そうやって、優李を孤立させ続けてきた。
『おい、久生 いいか、優李を尋ねてくる男がいたら絶対に引き継ぐな。』
『は? 遠野お前何やってんだよ 優李がずっとお前のこと探してんぞ』
『……優李を小学校の時にいじめてた奴が今日会いにくるかもしれないんだ。
絶対に会わせたくない』
『なら、優李に伝えてやれよ スマホは?
優李ずっとお前に連絡してんだぞ』
『……使えない』
『は? スマホ?』
文化祭最終日、念の為に優李のところに向かったら、優李は俺を探しに出かけたという。
久生は、……まじであいつは人たらしだ。優李はとんでもない奴に目をつけられた。俺がスマホが使えないと言ったところから、小西まで一人で繋げやがった。
ニヤニヤしながら、『スマホのことは任せとけ。』と言いながら、優李がすでに椎名と会ってることを告げられた。
……俺は、あいつが心の底から嫌いだ。
「やばい、本当に王子様じゃん」
「え、感動して泣きそう」
「この白地のサテンの艶のある詰襟に金の刺繍…ビロードのマント……
え、衣装担当神過ぎない?」
「この衣装着こなせる人間が存在することにも驚きなんだけど……まじでやばい美しい……」
頭の下の方で、口々に何か言っているのが聞こえる。
馬鹿馬鹿しい。
……本当に馬鹿馬鹿しい。
俺の外見が目当てで近づいてくる奴らは腐るほどいる。
女たちは自分たちが無条件に優しくされるとでも勘違いしているのか、俺が拒絶すると、さも自分が被害者かのように泣き喚く。男たちは俺のそばにいれば、おこぼれにあずかれるんじゃないかと俺をダシに女と繋がろうとする奴らばかりだった。
大人は大人で、俺の外見が金になるとあの手この手で俺を手に入れようとする。
優李だけだった。
おもちゃを取られて泣き喚こうが、風邪で鼻水を垂らそうが、イタズラに失敗して泥だらけになろうが、寝起きで目も開いてない情けない顔だろうが……どんな俺でも、優李はあの華奢な細い手で抱きしめてくれた。
『ハルくん、どうしたのこわいゆめ見たの?
大丈夫だよ、こっちおいで』
小学生低学年の頃だ。夜眠る時に無性に寂しくなって、優李の家に押しかけた。夜も遅かったのに、優李は嫌な顔ひとつせずに、俺を布団に招き入れてくれた。
『ゆうくん、ぎゅってして』
『ふふ、ハルくん、今日は甘えんぼさんだねぇ
はい、ぎゅー』
『あはは、ゆうくん力つよい』
『こわいゆめ見ても大丈夫だよ
ぼくがやっつけてやるからね』
『ゆうくん、つよい?』
『うん、つよい。
ハルくん泣かせるやつはなんだってやっつける』
『ははは!つよい~』
真っ暗な部屋の中で、優李の温もりだけを感じて眠れたあの夜。
いまだに眠る時には、あの温もりを思い出す。
俺には、もうずっと優李だけだったんだ。
その優李を、俺は──……
「遠野くん、そろそろ出番だよ。
暗転したら、あの印ついたところまで歩いて行ってね」
舞台袖からは、スポットライトを浴びるお姫様と野獣が見える。
うちのクラスの演目は『美女と野獣』だったのか。
ボウガンを構える悪役の前に、お姫様を守るように野獣が立ちはだかる。
俺も、優李を守りたかった。
スポットライトを浴びる野獣のように、俺はなれなかった。舞台袖の暗い影の中で思う。俺は、あのスポットライトの中の登場人物にはなれない。
優李を俺だけのものにしたい。他の誰にも見せたくない。
優李が微笑みかけるのは俺だけにしてほしい。
優李が抱きしめるのは俺だけがいい。
優李が話しかけるのも、優李が助けを求めるのも、優李が……何をするのも俺がすべて独り占めしたい。
結局は俺の欲が優李を傷つける。
クラスで優李が楽しそうに調理をしていたのを思い出す。
優李は俺がいなくても、やっていける。本来、優李はそういう人間だ。俺が歪めなければ、優李はたくさんの人に囲まれて、笑っていられる子だった。
ああ、内臓がすべてギリギリと締め上げられるようだ。苦しい。
優李をこれ以上傷つけるのも、優李が自分のいないところで幸せに暮らすのも。
俺は全部、許せない。
こんな自分が大嫌いだ。
愛する人の幸せを願えない自分が、一番醜い。
舞台上のスポットライトが消え、舞台が暗転した。
まるで俺の世界全部、真っ黒に塗り潰されたみたいだ。
「……」
「遠野くん、聞いてる!?」
優李が走り去ってすぐに、2組の奴らに見つかって体育館に引きずり込まれた。
台詞も何もいらない。衣装に着替えて指定された場面で舞台に立っているだけでいいらしい。
観客のことも、俺のことも随分と馬鹿にしてる。
でも、もう、何もかもどうでもいい。
俺の顔を利用したいなら、もうどうにでもしろ。
──俺が、優李を泣かせた。
濡れた鴉の羽みたいな綺麗な黒髪の間から、艶々の宝石みたいな瞳が覗いてた。
そこから、あんなにバタバタと涙の粒がこぼれ落ちるなんて。
優李は綺麗だ。笑っていても、拗ねていても、怒っていても、泣いていても──……
『そんな顔、あいつに見せてどうすんだよ!』
『……ごめん、 こんな顔、 晒して』
そういう意味で言ったんじゃない。
そんな綺麗な顔を、俺以外の誰にも見せて欲しくなかったんだ。
ましてや、お前に気のある椎名に部屋に二人きりでいるときに晒すな、と言いたかった。
でも、優李がそう思うように仕向けたのは俺だ。
椎名たちが優李を傷つけたことを利用して、優李を世界から隠そうとした。
優李に「その顔は隠さなきゃいけないもの」と刷り込んだ。
最低だ。
そうやって、優李を孤立させ続けてきた。
『おい、久生 いいか、優李を尋ねてくる男がいたら絶対に引き継ぐな。』
『は? 遠野お前何やってんだよ 優李がずっとお前のこと探してんぞ』
『……優李を小学校の時にいじめてた奴が今日会いにくるかもしれないんだ。
絶対に会わせたくない』
『なら、優李に伝えてやれよ スマホは?
優李ずっとお前に連絡してんだぞ』
『……使えない』
『は? スマホ?』
文化祭最終日、念の為に優李のところに向かったら、優李は俺を探しに出かけたという。
久生は、……まじであいつは人たらしだ。優李はとんでもない奴に目をつけられた。俺がスマホが使えないと言ったところから、小西まで一人で繋げやがった。
ニヤニヤしながら、『スマホのことは任せとけ。』と言いながら、優李がすでに椎名と会ってることを告げられた。
……俺は、あいつが心の底から嫌いだ。
「やばい、本当に王子様じゃん」
「え、感動して泣きそう」
「この白地のサテンの艶のある詰襟に金の刺繍…ビロードのマント……
え、衣装担当神過ぎない?」
「この衣装着こなせる人間が存在することにも驚きなんだけど……まじでやばい美しい……」
頭の下の方で、口々に何か言っているのが聞こえる。
馬鹿馬鹿しい。
……本当に馬鹿馬鹿しい。
俺の外見が目当てで近づいてくる奴らは腐るほどいる。
女たちは自分たちが無条件に優しくされるとでも勘違いしているのか、俺が拒絶すると、さも自分が被害者かのように泣き喚く。男たちは俺のそばにいれば、おこぼれにあずかれるんじゃないかと俺をダシに女と繋がろうとする奴らばかりだった。
大人は大人で、俺の外見が金になるとあの手この手で俺を手に入れようとする。
優李だけだった。
おもちゃを取られて泣き喚こうが、風邪で鼻水を垂らそうが、イタズラに失敗して泥だらけになろうが、寝起きで目も開いてない情けない顔だろうが……どんな俺でも、優李はあの華奢な細い手で抱きしめてくれた。
『ハルくん、どうしたのこわいゆめ見たの?
大丈夫だよ、こっちおいで』
小学生低学年の頃だ。夜眠る時に無性に寂しくなって、優李の家に押しかけた。夜も遅かったのに、優李は嫌な顔ひとつせずに、俺を布団に招き入れてくれた。
『ゆうくん、ぎゅってして』
『ふふ、ハルくん、今日は甘えんぼさんだねぇ
はい、ぎゅー』
『あはは、ゆうくん力つよい』
『こわいゆめ見ても大丈夫だよ
ぼくがやっつけてやるからね』
『ゆうくん、つよい?』
『うん、つよい。
ハルくん泣かせるやつはなんだってやっつける』
『ははは!つよい~』
真っ暗な部屋の中で、優李の温もりだけを感じて眠れたあの夜。
いまだに眠る時には、あの温もりを思い出す。
俺には、もうずっと優李だけだったんだ。
その優李を、俺は──……
「遠野くん、そろそろ出番だよ。
暗転したら、あの印ついたところまで歩いて行ってね」
舞台袖からは、スポットライトを浴びるお姫様と野獣が見える。
うちのクラスの演目は『美女と野獣』だったのか。
ボウガンを構える悪役の前に、お姫様を守るように野獣が立ちはだかる。
俺も、優李を守りたかった。
スポットライトを浴びる野獣のように、俺はなれなかった。舞台袖の暗い影の中で思う。俺は、あのスポットライトの中の登場人物にはなれない。
優李を俺だけのものにしたい。他の誰にも見せたくない。
優李が微笑みかけるのは俺だけにしてほしい。
優李が抱きしめるのは俺だけがいい。
優李が話しかけるのも、優李が助けを求めるのも、優李が……何をするのも俺がすべて独り占めしたい。
結局は俺の欲が優李を傷つける。
クラスで優李が楽しそうに調理をしていたのを思い出す。
優李は俺がいなくても、やっていける。本来、優李はそういう人間だ。俺が歪めなければ、優李はたくさんの人に囲まれて、笑っていられる子だった。
ああ、内臓がすべてギリギリと締め上げられるようだ。苦しい。
優李をこれ以上傷つけるのも、優李が自分のいないところで幸せに暮らすのも。
俺は全部、許せない。
こんな自分が大嫌いだ。
愛する人の幸せを願えない自分が、一番醜い。
舞台上のスポットライトが消え、舞台が暗転した。
まるで俺の世界全部、真っ黒に塗り潰されたみたいだ。
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