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第102話
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◆神坂冬樹 視点◆
美晴さんとふたりで、鷺ノ宮那奈さんと待ち合わせた駅に着き、すぐに姉さんも合流できた。
「私と一緒に居て大丈夫か?」
顔を合わすと開口一番、自分が一緒にいることについて心配してくれていた。
「姉さん、来てくれてありがとう。
医師じゃないからちゃんとしたことは言えないけど、時間も経ったし最近はビデオチャットでも話しているからか姉さんに会ったからと言って問題なさそうだよ」
「そ、そうか。それなら良いのだが・・・
それと、美晴さん。冬樹のこと、本当にありがとうございます」
姉さんは美晴さんに頭を下げ、美晴さんは姉さんに頭を上げるようにジェスチャーで促し、姉さんはそれに従い頭を上げた。
「いいのよ、夏菜ちゃん。私が好きでやらせてもらっているのだから。
そんな深刻そうな顔をしないでちょうだい」
「はい、気を使わせてしまって申し訳ありません」
「だからね、そんなに気を使わないでって」
そんな問答をしている内に、鷺ノ宮那奈さんらしき人が近くに寄ってきた。
「すみません、神坂さんですよね?」
改めて見ると鷺ノ宮と血縁を感じさせる顔立ちで姉と名乗られなくても察することができるくらいだ。
当然、学校でも有名な美形男子に似ている姉というのだから目を瞠らせられる。
「はい、神坂です。
鷺ノ宮さんですね?」
「はい、鷺ノ宮隆史の姉の那奈と申します。
重ね重ねになりますが愚弟がとんでもないご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした」
そう言いながら土下座をしようと膝を曲げ始めたので慌てて静止した。
「もう良いですって。電話でも何度も謝罪の言葉をもらいましたし、慰謝料だってすぐに振り込んでいただいていますし、そもそもお姉さんは何も悪くないじゃないですか」
「でも、でも・・・弟が取り返しのつかないご迷惑を・・・」
「第一、今ここは人通りがすごく多いですから、悪目立ちしちゃって僕らも居心地が悪いですし、止めてもらえると助かります」
「そうですよね・・・すみません・・・」
そういう那奈さんは目に涙を浮かべていた。この人もまた追い詰められているのかも知れない。
駅から近いホテルに入ってデイユースの手続きをし始めたら那奈さんがその代金を持つと言ってきたけど、ここを選んだのは僕の都合なので固辞した。
部屋へ入り4人が落ち着いたところで襟を正して話を聞くことにした。
「改めまして、急なお願いにも関わらずお時間をいただき、またご足労いただきありがとうございます。
そして、本当に愚弟がご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
またも深々と頭を下げる那奈さん。
「もう、那奈さんからは十分すぎるほど謝罪の言葉はいただきましたし、正直なところを言えば高めに算出して請求していた慰謝料をすぐに満額でお支払いいただいているので、あとは鷺ノ宮君本人から言葉をもらえればそれ以上はもう良いですよ。
それよりも、重要な話があるのではないですか?」
やはり予想した通り、何らかのきっかけで鷺ノ宮が二之宮に利用されていた事を察して、本人から真実に近い話を聞き出し、それの裏取りをしたかったようだ。
事情を聞いた対象が那奈さんも美晴さんと姉さんも鷺ノ宮本人からということもあり僕から見ての新しい話はなかったけど、鷺ノ宮の姉である那奈さんが二之宮を疑っていると言う状況は大きな収穫だった。
こちらからも二之宮のことは差し支えがない範囲で全て共有し、美晴さんの妹であり鷺ノ宮が恋慕した相手である美波が二之宮と接触していることや、僕が二之宮にストーカーされているらしいことも共有した。
那奈さんは電話の時点で僕の家まで来てくれると言っていたけど、それを断ってここへ来た理由も理解してもらえた。
二之宮の話を一通り終えて、那奈さんの話を聞くと鷺ノ宮の家族はひどい状況になってしまっていることも聞けた。父親は仕事を辞めさせられてからまだ次の仕事を見付けられないでいるというし、母親はノイローゼで実家に帰っていると言うし、施設に居る鷺ノ宮本人は憔悴しきっていて以前の快活さは全くなくなってしまっているとのことだった。
当の那奈さんだって、仕事を周囲の空気で辞めたあと家族を支えるために性風俗店で働くようになり、結婚も婚約者自身はまだ諦めていなそうなもののそのご両親は反対で、断腸の思いで那奈さんが婚約破棄をし、既に予約していた結婚式諸々のキャンセル料も那奈さんが負担する事になっているらしい。
ちょっと、意外だったところでは鷺ノ宮の被害者のひとりである芳川さんのお兄さんが、怒鳴り込んできた事があったのだけど、後日その際に言い過ぎたと謝罪しに来たらしい。余裕がなかったこともあり、芳川さんや仲村先輩のことを忘れていたことを思い出させてもらった。
那奈さんとは今後も連絡を取り合うということで話をまとめ、お互い何かあれば連絡するということで決着したけど、美晴さんが僕のことを考えて、緊急時以外は美晴さんに連絡するように強めに言い含めてくれていた。
今日はそこそこ長い時間、姉さんや初対面とは言え僕に精神的ストレスを与える事となった原因の鷺ノ宮の姉である那奈さんと一緒に居たけど気分が悪くなることはなかったし、逆にやることが見えたからか晴れやかな気分とも言える状況だった。
それにしても、那奈さんは僕だけでなく美晴さんと姉さんにも何度も頭を下げていて申し訳ないという気持ちが表情張り付いていたけど、顔の皺の付き方から普段は笑顔が素敵な人なんだろうなぁというのも感じたし、そういう人を追い詰めてしまっている一因になっていると言うのは心に小さな棘が刺さった感覚になった。
帰り道、姉さんと別れ美晴さんとふたりきりになったところで・・・
「冬樹くん、那奈さんに見惚れてたよね?」
「そんなことはないですよ。ただ・・・」
「ただ、なに?」
「客観的にはきれいだと思いましたけど、表情は暗かったなぁって。
まぁ、ノーテンキに満面の笑みだったら怒っちゃいますけどね。
・・・たぶん、那奈さんって普段は笑顔が素敵な芸能人顔負けの美人なんだと思うんですよ。
それこそ、いい人と結婚して幸せになる事が見えているような順風満帆な人生だったのに青天の霹靂で一気に壊れてしまって、それこそ鷺ノ宮への恨み節が滲み出てもおかしくないじゃないですか?
そんな雰囲気など一切なく、身内が迷惑をかけて申し訳なかったという気持ちが全面に出てて、僕も姉さんやハルのためにそこまで徹底できるかなぁって思ったんですよ」
「たしかに、私も美波のためにそこまでできるかって考えると難しいわね」
美晴さんとふたりで、鷺ノ宮那奈さんと待ち合わせた駅に着き、すぐに姉さんも合流できた。
「私と一緒に居て大丈夫か?」
顔を合わすと開口一番、自分が一緒にいることについて心配してくれていた。
「姉さん、来てくれてありがとう。
医師じゃないからちゃんとしたことは言えないけど、時間も経ったし最近はビデオチャットでも話しているからか姉さんに会ったからと言って問題なさそうだよ」
「そ、そうか。それなら良いのだが・・・
それと、美晴さん。冬樹のこと、本当にありがとうございます」
姉さんは美晴さんに頭を下げ、美晴さんは姉さんに頭を上げるようにジェスチャーで促し、姉さんはそれに従い頭を上げた。
「いいのよ、夏菜ちゃん。私が好きでやらせてもらっているのだから。
そんな深刻そうな顔をしないでちょうだい」
「はい、気を使わせてしまって申し訳ありません」
「だからね、そんなに気を使わないでって」
そんな問答をしている内に、鷺ノ宮那奈さんらしき人が近くに寄ってきた。
「すみません、神坂さんですよね?」
改めて見ると鷺ノ宮と血縁を感じさせる顔立ちで姉と名乗られなくても察することができるくらいだ。
当然、学校でも有名な美形男子に似ている姉というのだから目を瞠らせられる。
「はい、神坂です。
鷺ノ宮さんですね?」
「はい、鷺ノ宮隆史の姉の那奈と申します。
重ね重ねになりますが愚弟がとんでもないご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした」
そう言いながら土下座をしようと膝を曲げ始めたので慌てて静止した。
「もう良いですって。電話でも何度も謝罪の言葉をもらいましたし、慰謝料だってすぐに振り込んでいただいていますし、そもそもお姉さんは何も悪くないじゃないですか」
「でも、でも・・・弟が取り返しのつかないご迷惑を・・・」
「第一、今ここは人通りがすごく多いですから、悪目立ちしちゃって僕らも居心地が悪いですし、止めてもらえると助かります」
「そうですよね・・・すみません・・・」
そういう那奈さんは目に涙を浮かべていた。この人もまた追い詰められているのかも知れない。
駅から近いホテルに入ってデイユースの手続きをし始めたら那奈さんがその代金を持つと言ってきたけど、ここを選んだのは僕の都合なので固辞した。
部屋へ入り4人が落ち着いたところで襟を正して話を聞くことにした。
「改めまして、急なお願いにも関わらずお時間をいただき、またご足労いただきありがとうございます。
そして、本当に愚弟がご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
またも深々と頭を下げる那奈さん。
「もう、那奈さんからは十分すぎるほど謝罪の言葉はいただきましたし、正直なところを言えば高めに算出して請求していた慰謝料をすぐに満額でお支払いいただいているので、あとは鷺ノ宮君本人から言葉をもらえればそれ以上はもう良いですよ。
それよりも、重要な話があるのではないですか?」
やはり予想した通り、何らかのきっかけで鷺ノ宮が二之宮に利用されていた事を察して、本人から真実に近い話を聞き出し、それの裏取りをしたかったようだ。
事情を聞いた対象が那奈さんも美晴さんと姉さんも鷺ノ宮本人からということもあり僕から見ての新しい話はなかったけど、鷺ノ宮の姉である那奈さんが二之宮を疑っていると言う状況は大きな収穫だった。
こちらからも二之宮のことは差し支えがない範囲で全て共有し、美晴さんの妹であり鷺ノ宮が恋慕した相手である美波が二之宮と接触していることや、僕が二之宮にストーカーされているらしいことも共有した。
那奈さんは電話の時点で僕の家まで来てくれると言っていたけど、それを断ってここへ来た理由も理解してもらえた。
二之宮の話を一通り終えて、那奈さんの話を聞くと鷺ノ宮の家族はひどい状況になってしまっていることも聞けた。父親は仕事を辞めさせられてからまだ次の仕事を見付けられないでいるというし、母親はノイローゼで実家に帰っていると言うし、施設に居る鷺ノ宮本人は憔悴しきっていて以前の快活さは全くなくなってしまっているとのことだった。
当の那奈さんだって、仕事を周囲の空気で辞めたあと家族を支えるために性風俗店で働くようになり、結婚も婚約者自身はまだ諦めていなそうなもののそのご両親は反対で、断腸の思いで那奈さんが婚約破棄をし、既に予約していた結婚式諸々のキャンセル料も那奈さんが負担する事になっているらしい。
ちょっと、意外だったところでは鷺ノ宮の被害者のひとりである芳川さんのお兄さんが、怒鳴り込んできた事があったのだけど、後日その際に言い過ぎたと謝罪しに来たらしい。余裕がなかったこともあり、芳川さんや仲村先輩のことを忘れていたことを思い出させてもらった。
那奈さんとは今後も連絡を取り合うということで話をまとめ、お互い何かあれば連絡するということで決着したけど、美晴さんが僕のことを考えて、緊急時以外は美晴さんに連絡するように強めに言い含めてくれていた。
今日はそこそこ長い時間、姉さんや初対面とは言え僕に精神的ストレスを与える事となった原因の鷺ノ宮の姉である那奈さんと一緒に居たけど気分が悪くなることはなかったし、逆にやることが見えたからか晴れやかな気分とも言える状況だった。
それにしても、那奈さんは僕だけでなく美晴さんと姉さんにも何度も頭を下げていて申し訳ないという気持ちが表情張り付いていたけど、顔の皺の付き方から普段は笑顔が素敵な人なんだろうなぁというのも感じたし、そういう人を追い詰めてしまっている一因になっていると言うのは心に小さな棘が刺さった感覚になった。
帰り道、姉さんと別れ美晴さんとふたりきりになったところで・・・
「冬樹くん、那奈さんに見惚れてたよね?」
「そんなことはないですよ。ただ・・・」
「ただ、なに?」
「客観的にはきれいだと思いましたけど、表情は暗かったなぁって。
まぁ、ノーテンキに満面の笑みだったら怒っちゃいますけどね。
・・・たぶん、那奈さんって普段は笑顔が素敵な芸能人顔負けの美人なんだと思うんですよ。
それこそ、いい人と結婚して幸せになる事が見えているような順風満帆な人生だったのに青天の霹靂で一気に壊れてしまって、それこそ鷺ノ宮への恨み節が滲み出てもおかしくないじゃないですか?
そんな雰囲気など一切なく、身内が迷惑をかけて申し訳なかったという気持ちが全面に出てて、僕も姉さんやハルのためにそこまで徹底できるかなぁって思ったんですよ」
「たしかに、私も美波のためにそこまでできるかって考えると難しいわね」
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