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第151話
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◆神坂冬樹 視点◆
家を出る支度をしていたら姉さんから裏サイトへの書き込みのお礼のメッセージが届いたけど、恍けて僕ではないと返信をしておいた。
とは言え、姉さんのことだから誤魔化されてはくれないと思うけど、見え透いたことでもぼやかしておくことに意味があると思う。
約束通り美波を一人にしないために岸元家を訪問した。
「思ったより元気そうで良かったよ」
「うん、裏サイトの流れが変わったのもあって不安な気持ちが和らいだからかな。
夏菜お姉ちゃんが言っていたけど、あの流れを変えた書き込みは冬樹がやってくれたんでしょ?」
「それは僕じゃないよ。姉さんからもメッセージで訊かれたけど、どうしてそう思ったの?」
「そういう書き込みをする動機と能力があるのは冬樹くらいだろうって夏菜お姉ちゃんが言ってて、わたしもそう思ったの」
「動機と能力かぁ・・・そういう風に言われるとたしかに僕も候補に上がっちゃうね」
「候補どころか、他にいないと思うよ」
「そうは言うけど、無存在の証明は難しいよ。全ての可能性を潰さないといけないんだから」
「・・・ふふっ、そういう小難しいことを言い出して誤魔化そうとするのは冬樹の癖だよね。
冬樹が何を考えているのかはわからないけど、一応聞いて欲しいかな。
あの書き込みをしてくれた人には感謝しているんだ。強力な牽制になったと思うし、次にまた同じ話題で盛り上がったとしてもその対処法がわかったわけだから気持ちは軽くなったんだよね」
「そっか、美波がそう思えているなら良かったよね」
「うん」
美波へ言った通り気が楽なったのなら良かったと思う。
僕らは自己採点でもう高卒認定試験は合格できているだろうと判断していて、大学受験に目標を変えている。僕は美晴さんと同じ大学への進学を第一志望にしているけど、美波は今のままだとハードルが高いので志望大学すらまだ決めかねている状態で大学入学共通テスト対策を重点的に行いつつ学力向上を目指している。
まだ1年以上先の話だし今から頑張れば大丈夫だと思うけど、美波には心理的ハードルが高いらしい。
そもそも大学は勉強したいことがある人が行くべき場所だし、大学を決めて入学し卒業することを目的化するのは不純なので、美波が勉強したいと思うことがはっきりしないならとりあえず保留でもいいと思う・・・とは言え、僕の動機が美晴さんと同じ大学へ行きたいという不純なものだし人のことは言えないのだけど。
午後になって大学が終わった美晴さんがやってきた。
「美波、思ったより元気そうで良かったよ」
「心配掛けてごめん」
「良いのよ、そんなことは。姉が妹の心配をするのは当然のことでしょ」
軽く話をしてから美晴さんが教師役となって勉強をしているあいだに夕方になり姉さんが帰ってきた。
「美晴さん、わざわざありがとうございました。
冬樹もありがとう」
「何言ってるの夏菜ちゃん、こちらこそ美波のために色々してくれてありがとうだよ」
「そうだよ、姉さん。僕らの分まで色々と動いてくれてありがとう」
「まぁ、私にとっても美波は妹みたいなものですし、当然ですよ。
今日学校であったことを共有させてもらって良いですか?」
姉さんが学校であったことを共有するというので、お茶を用意してリビングに着いてから話を始めた。
「まず、仲村さんは3年でもう卒業まで僅かなので先生方と連携して自宅などで試験を受ければ卒業を認められることになった。そして、芳川さんについても通信制など他の高校への転校で便宜を図るということになった。いずれも学校側の方針としてで、当人にはこれから相談していくことになる。
そしてお前たちについては、当初冬樹が認められていた高卒認定試験の合格を以って登校をしないでも見做しでの卒業を認める方向になった」
「姉さん、学校側に交渉して有利になる様に話をしてくれたんですよね?」
「事情を知っている者として少し話をさせてもらったが、私なんぞが決定に影響を与えるわけがないよ。お前と同じだ、冬樹」
「そういう事にしておくよ」
「しておくも何もそういう事だぞ」
「わかったよ、姉さん。でも、せっかくの話だけど僕は元のクラスへ復帰しようかと思うんだ」
「なんでそんな事を!」
美晴さんが常にない大声で問い質してきた。
「美晴さん、落ち着いて。
僕の冤罪は知れ渡ったから嫌がらせをされる事はないだろうし、ハルも同じクラスになるし、それに僕の病気もだいぶ良くなってきているので現実と向き合っていく必要があるかなと思うんです」
「それでも反対だよ!」
美晴さんはまだ興奮気味な状況で異を唱えてきた。
「もちろん精神科の医師に相談して止められたら止めますけど、いつまでも逃げるのはダメかなと思うんです」
◆岸元美波 視点◆
冬樹が元のクラスへ復帰しようと思っていると言った。
もっともらしい理由を挙げてきたけどこのタイミングで言い出したということは、恐らく冬樹が注目を集めることでわたし達へ向けられる下卑た悪意から守るためだと思う。
冬樹の今もやろうとしている他人を気遣う時にも『自分のために』というところは長年見てきた幼馴染みのそれだ。痴漢騒ぎ以降変わってしまっていた様に思うけど、以前の様な優しくて強かにわたし達を守ろうとしてくれる大好きだった冬樹に戻ってきていると感じる。
それを呼び戻しているのはたぶんお姉ちゃんなのだろうと思う。感謝の気持ちはあるけど、それ以上に嫉妬してしまう。騒ぎの時に外野だったから頃良いタイミングに無傷でやってきて濡れ手に粟で良いところを持って行っているようにも思ってしまう。
たしかにわたしも良くなかったところはあったし、そのせいで取り返しが付かない事もあった。そんなわたしと比べてお姉ちゃんはただ大学へ逃げていただけで何も失わずに冬樹を手に入れた・・・ズルい、ズルいよ・・・
家を出る支度をしていたら姉さんから裏サイトへの書き込みのお礼のメッセージが届いたけど、恍けて僕ではないと返信をしておいた。
とは言え、姉さんのことだから誤魔化されてはくれないと思うけど、見え透いたことでもぼやかしておくことに意味があると思う。
約束通り美波を一人にしないために岸元家を訪問した。
「思ったより元気そうで良かったよ」
「うん、裏サイトの流れが変わったのもあって不安な気持ちが和らいだからかな。
夏菜お姉ちゃんが言っていたけど、あの流れを変えた書き込みは冬樹がやってくれたんでしょ?」
「それは僕じゃないよ。姉さんからもメッセージで訊かれたけど、どうしてそう思ったの?」
「そういう書き込みをする動機と能力があるのは冬樹くらいだろうって夏菜お姉ちゃんが言ってて、わたしもそう思ったの」
「動機と能力かぁ・・・そういう風に言われるとたしかに僕も候補に上がっちゃうね」
「候補どころか、他にいないと思うよ」
「そうは言うけど、無存在の証明は難しいよ。全ての可能性を潰さないといけないんだから」
「・・・ふふっ、そういう小難しいことを言い出して誤魔化そうとするのは冬樹の癖だよね。
冬樹が何を考えているのかはわからないけど、一応聞いて欲しいかな。
あの書き込みをしてくれた人には感謝しているんだ。強力な牽制になったと思うし、次にまた同じ話題で盛り上がったとしてもその対処法がわかったわけだから気持ちは軽くなったんだよね」
「そっか、美波がそう思えているなら良かったよね」
「うん」
美波へ言った通り気が楽なったのなら良かったと思う。
僕らは自己採点でもう高卒認定試験は合格できているだろうと判断していて、大学受験に目標を変えている。僕は美晴さんと同じ大学への進学を第一志望にしているけど、美波は今のままだとハードルが高いので志望大学すらまだ決めかねている状態で大学入学共通テスト対策を重点的に行いつつ学力向上を目指している。
まだ1年以上先の話だし今から頑張れば大丈夫だと思うけど、美波には心理的ハードルが高いらしい。
そもそも大学は勉強したいことがある人が行くべき場所だし、大学を決めて入学し卒業することを目的化するのは不純なので、美波が勉強したいと思うことがはっきりしないならとりあえず保留でもいいと思う・・・とは言え、僕の動機が美晴さんと同じ大学へ行きたいという不純なものだし人のことは言えないのだけど。
午後になって大学が終わった美晴さんがやってきた。
「美波、思ったより元気そうで良かったよ」
「心配掛けてごめん」
「良いのよ、そんなことは。姉が妹の心配をするのは当然のことでしょ」
軽く話をしてから美晴さんが教師役となって勉強をしているあいだに夕方になり姉さんが帰ってきた。
「美晴さん、わざわざありがとうございました。
冬樹もありがとう」
「何言ってるの夏菜ちゃん、こちらこそ美波のために色々してくれてありがとうだよ」
「そうだよ、姉さん。僕らの分まで色々と動いてくれてありがとう」
「まぁ、私にとっても美波は妹みたいなものですし、当然ですよ。
今日学校であったことを共有させてもらって良いですか?」
姉さんが学校であったことを共有するというので、お茶を用意してリビングに着いてから話を始めた。
「まず、仲村さんは3年でもう卒業まで僅かなので先生方と連携して自宅などで試験を受ければ卒業を認められることになった。そして、芳川さんについても通信制など他の高校への転校で便宜を図るということになった。いずれも学校側の方針としてで、当人にはこれから相談していくことになる。
そしてお前たちについては、当初冬樹が認められていた高卒認定試験の合格を以って登校をしないでも見做しでの卒業を認める方向になった」
「姉さん、学校側に交渉して有利になる様に話をしてくれたんですよね?」
「事情を知っている者として少し話をさせてもらったが、私なんぞが決定に影響を与えるわけがないよ。お前と同じだ、冬樹」
「そういう事にしておくよ」
「しておくも何もそういう事だぞ」
「わかったよ、姉さん。でも、せっかくの話だけど僕は元のクラスへ復帰しようかと思うんだ」
「なんでそんな事を!」
美晴さんが常にない大声で問い質してきた。
「美晴さん、落ち着いて。
僕の冤罪は知れ渡ったから嫌がらせをされる事はないだろうし、ハルも同じクラスになるし、それに僕の病気もだいぶ良くなってきているので現実と向き合っていく必要があるかなと思うんです」
「それでも反対だよ!」
美晴さんはまだ興奮気味な状況で異を唱えてきた。
「もちろん精神科の医師に相談して止められたら止めますけど、いつまでも逃げるのはダメかなと思うんです」
◆岸元美波 視点◆
冬樹が元のクラスへ復帰しようと思っていると言った。
もっともらしい理由を挙げてきたけどこのタイミングで言い出したということは、恐らく冬樹が注目を集めることでわたし達へ向けられる下卑た悪意から守るためだと思う。
冬樹の今もやろうとしている他人を気遣う時にも『自分のために』というところは長年見てきた幼馴染みのそれだ。痴漢騒ぎ以降変わってしまっていた様に思うけど、以前の様な優しくて強かにわたし達を守ろうとしてくれる大好きだった冬樹に戻ってきていると感じる。
それを呼び戻しているのはたぶんお姉ちゃんなのだろうと思う。感謝の気持ちはあるけど、それ以上に嫉妬してしまう。騒ぎの時に外野だったから頃良いタイミングに無傷でやってきて濡れ手に粟で良いところを持って行っているようにも思ってしまう。
たしかにわたしも良くなかったところはあったし、そのせいで取り返しが付かない事もあった。そんなわたしと比べてお姉ちゃんはただ大学へ逃げていただけで何も失わずに冬樹を手に入れた・・・ズルい、ズルいよ・・・
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