237 / 252
第237話
しおりを挟む
◆春日悠一 視点◆
客先訪問で百合恵が現在住んでいるマンションのすぐ近くまで来たので、少し足を伸ばしてマンションへ立ち寄ってみた。
昼間で不在なはずだし、第一俺には合わせる顔がないので部屋まで行くつもりはなかったが、百合恵への未練がせめて同じ街を感じたいという感傷の情による気まぐれを起こした。
建物を見上げてみると百合恵の住んでいるはずの部屋辺りがブルーシートで囲われていて不穏な気配を感じたため、マンションの住人に話を聞いたところ火事に遭ったということを知った。
更に火災元は百合恵の住んでいた部屋の隣の部屋だということで、外から見た感じでは影響を受けていそうだと思い火災現場の部屋まで行って修復作業を行っている業者に尋ねてみると、居住者はこの部屋に住めなくなってしまったために転居してしまったということを教えてもらった。
百合恵のことが心配になり、百合恵の現状を知っていて、しかもこの平日昼間の時間帯に連絡が取れそうな相手として元の義母である百合恵の母親へ電話をした。
幸いな事に応答してくれ、百合恵と同居人の赤堀さんも火災発生時に不在だったために難を逃れて今も元気にしているという話を聞けた。
それから合わす顔がないことは重々承知しているものの居ても立っても居られない心境で、百合恵へ見舞いに行きたいとメッセージを送った。
それから帰社して仕事を終えたところでスマホを確認すると百合恵からの返信があった。
【お見舞いのお気持ちは嬉しく思いますが、現在は知人の家に居候させてもらっている状況ですので、悠一さんが来られても応じることができません】
【お気持ちだけ受け取らせていただきますので、これ以上はわたしの事など気になさらずお過ごしください】
そう言われても『はいそうですか』と納得できるわけもなく、そのまま通話発信をし、何回かの呼び出し音の後に繋がった。
『もしもし、百合恵です』
「あの、その、悠一だけど」
『メッセージでお返ししたように不在の時の火災だったので、わたしは問題ありません。
住むところも空き部屋がある知人のお宅にお世話になっていて問題ないですから気になさらないでください』
「そうは言っても、心配なんだよ・・・心配くらいはさせてくれないか?」
『ふぅ・・・わかりました、お気遣いはありがたく受け取らせていただきます』
「ありがとう。それと、気持ちを押し付けてすまない。
百合恵が俺と関わりたくないはずなのはわかっているんだが・・・」
『そうですね。そもそも、母に連絡したことも不愉快ですし』
「本当にすまなかった!」
『まぁ、気持ちはわかりますよ。
わたしだって知り合いが住んでいるマンションが火事になったと知ったら、その方がどうなさっているのかは気になりますしね』
「それが百合恵なんだから、俺にとっては何よりも気になる」
『ふふっ』
「どうかしたか?」
『いえ、悠一さんにそんなに心配されたことなんてなかったように思って・・・まさか離婚してから一番心配されるなんてと思ったらおかしくなってしまいました』
「言い訳になるけど、俺は別れたくなかったし、今でも・・・いや、それはやめておこう」
自分の傲慢な価値観の押し付けと、無知ゆえの傍若無人な振る舞いに、愚かな行動の結果がこれで、全ては俺の因果応報。
百合恵は何も悪くなく、俺だけが全て悪い。愛想を尽かされて当然なのだから。
◆高梨百合恵 視点◆
『言い訳になるけど、俺は別れたくなかったし、今でも・・・いや、それはやめておこう』
何で知ったのかはわからないけど、わたしが住んでいたマンションが火事に遭ったことを知った悠一さんがわたしの心配をして連絡をしてくれた。
悠一さんからのメッセージの後にお母さんからも悠一さんから火事を知って安否を心配する電話があったとメッセージがあって、どれだけ心配をしてくれていたのかと少し微笑ましく思ったりもした。
「たしかにそうでしたね。
お義姉さんに別れるように迫られて流されていたところはありましたね」
『そう思ってもらえるならありがたいけど・・・それだって俺のせいだ』
「それとは別に浮気もしていていましたね」
『その件は本当にすまなかった。
なんなら今からでも慰謝料を払わせてもらいたい』
「別に要りませんよ。幸いお金には困っていませんし、贅沢をしなければちゃんと生活していけるお給料もいただいていますから」
『そうだよな・・・百合恵はそういう性格だよな・・・でも、お金に困った時には言ってくれ。
俺としては誠意をもって対応させてもらいたいと思っている』
「わかりました。その時はお願いしますね」
それからなんとなく電話を切らずに近況や何気ない雑談で言葉を交わしていき、これが久し振りになる悠一さんとの長話しになって、気が付いたら会話を楽しんでいた。
そして、話している内に二之宮さんや鷺ノ宮君を赦し、新しい関係を構築し始めている岸元さんのことを思い出して、わたしも悠一さんと会ってちゃんと話をしても良いかもしれないと考えた。
「気が付いたらけっこう長く話してしまいましたね」
『ああ、久し振りに百合恵とこうやって話せて楽しかったよ』
「わたしもです。
それでなのですけど、お見舞いはけっこうですから一度顔を合わせてゆっくりお話をしませんか?」
『いいのか!?
それは俺がお願いしたいことだ』
「でしたら、あとでメッセージでやり取りして時間が合うときにでも・・・」
『いや、時間なら都合をつけて空けるから、百合恵が空いている時間を教えてくれ!』
「いいのですか?」
『百合恵が俺に時間をくれるなら最優先で合わせる!』
「わかりました・・・では、スケジュール帳を確認しますね・・・」
思いのほかあっさりと悠一さんと会う事が決めて、電話を終えた。
ふと視線を感じて見ると、みゆきが何とも形容しがたい表情でわたしを見ていた。
「百合恵、春日と会うのね」
「ええ、電話をしていて、大事な話もちゃんとしておきたいと思っていたから」
「一つだけ言っておくわ」
「何かしら?」
「もし春日と縒りを戻すなら、私のことは気にしないでいいから」
「どうして・・・でも、そうね心に留めておくわね」
みゆきの表情から本心は読み取れなかったけど、こういう時は言葉のとおりに受け止めるのが良いと思うのでそうさせてもらった。
客先訪問で百合恵が現在住んでいるマンションのすぐ近くまで来たので、少し足を伸ばしてマンションへ立ち寄ってみた。
昼間で不在なはずだし、第一俺には合わせる顔がないので部屋まで行くつもりはなかったが、百合恵への未練がせめて同じ街を感じたいという感傷の情による気まぐれを起こした。
建物を見上げてみると百合恵の住んでいるはずの部屋辺りがブルーシートで囲われていて不穏な気配を感じたため、マンションの住人に話を聞いたところ火事に遭ったということを知った。
更に火災元は百合恵の住んでいた部屋の隣の部屋だということで、外から見た感じでは影響を受けていそうだと思い火災現場の部屋まで行って修復作業を行っている業者に尋ねてみると、居住者はこの部屋に住めなくなってしまったために転居してしまったということを教えてもらった。
百合恵のことが心配になり、百合恵の現状を知っていて、しかもこの平日昼間の時間帯に連絡が取れそうな相手として元の義母である百合恵の母親へ電話をした。
幸いな事に応答してくれ、百合恵と同居人の赤堀さんも火災発生時に不在だったために難を逃れて今も元気にしているという話を聞けた。
それから合わす顔がないことは重々承知しているものの居ても立っても居られない心境で、百合恵へ見舞いに行きたいとメッセージを送った。
それから帰社して仕事を終えたところでスマホを確認すると百合恵からの返信があった。
【お見舞いのお気持ちは嬉しく思いますが、現在は知人の家に居候させてもらっている状況ですので、悠一さんが来られても応じることができません】
【お気持ちだけ受け取らせていただきますので、これ以上はわたしの事など気になさらずお過ごしください】
そう言われても『はいそうですか』と納得できるわけもなく、そのまま通話発信をし、何回かの呼び出し音の後に繋がった。
『もしもし、百合恵です』
「あの、その、悠一だけど」
『メッセージでお返ししたように不在の時の火災だったので、わたしは問題ありません。
住むところも空き部屋がある知人のお宅にお世話になっていて問題ないですから気になさらないでください』
「そうは言っても、心配なんだよ・・・心配くらいはさせてくれないか?」
『ふぅ・・・わかりました、お気遣いはありがたく受け取らせていただきます』
「ありがとう。それと、気持ちを押し付けてすまない。
百合恵が俺と関わりたくないはずなのはわかっているんだが・・・」
『そうですね。そもそも、母に連絡したことも不愉快ですし』
「本当にすまなかった!」
『まぁ、気持ちはわかりますよ。
わたしだって知り合いが住んでいるマンションが火事になったと知ったら、その方がどうなさっているのかは気になりますしね』
「それが百合恵なんだから、俺にとっては何よりも気になる」
『ふふっ』
「どうかしたか?」
『いえ、悠一さんにそんなに心配されたことなんてなかったように思って・・・まさか離婚してから一番心配されるなんてと思ったらおかしくなってしまいました』
「言い訳になるけど、俺は別れたくなかったし、今でも・・・いや、それはやめておこう」
自分の傲慢な価値観の押し付けと、無知ゆえの傍若無人な振る舞いに、愚かな行動の結果がこれで、全ては俺の因果応報。
百合恵は何も悪くなく、俺だけが全て悪い。愛想を尽かされて当然なのだから。
◆高梨百合恵 視点◆
『言い訳になるけど、俺は別れたくなかったし、今でも・・・いや、それはやめておこう』
何で知ったのかはわからないけど、わたしが住んでいたマンションが火事に遭ったことを知った悠一さんがわたしの心配をして連絡をしてくれた。
悠一さんからのメッセージの後にお母さんからも悠一さんから火事を知って安否を心配する電話があったとメッセージがあって、どれだけ心配をしてくれていたのかと少し微笑ましく思ったりもした。
「たしかにそうでしたね。
お義姉さんに別れるように迫られて流されていたところはありましたね」
『そう思ってもらえるならありがたいけど・・・それだって俺のせいだ』
「それとは別に浮気もしていていましたね」
『その件は本当にすまなかった。
なんなら今からでも慰謝料を払わせてもらいたい』
「別に要りませんよ。幸いお金には困っていませんし、贅沢をしなければちゃんと生活していけるお給料もいただいていますから」
『そうだよな・・・百合恵はそういう性格だよな・・・でも、お金に困った時には言ってくれ。
俺としては誠意をもって対応させてもらいたいと思っている』
「わかりました。その時はお願いしますね」
それからなんとなく電話を切らずに近況や何気ない雑談で言葉を交わしていき、これが久し振りになる悠一さんとの長話しになって、気が付いたら会話を楽しんでいた。
そして、話している内に二之宮さんや鷺ノ宮君を赦し、新しい関係を構築し始めている岸元さんのことを思い出して、わたしも悠一さんと会ってちゃんと話をしても良いかもしれないと考えた。
「気が付いたらけっこう長く話してしまいましたね」
『ああ、久し振りに百合恵とこうやって話せて楽しかったよ』
「わたしもです。
それでなのですけど、お見舞いはけっこうですから一度顔を合わせてゆっくりお話をしませんか?」
『いいのか!?
それは俺がお願いしたいことだ』
「でしたら、あとでメッセージでやり取りして時間が合うときにでも・・・」
『いや、時間なら都合をつけて空けるから、百合恵が空いている時間を教えてくれ!』
「いいのですか?」
『百合恵が俺に時間をくれるなら最優先で合わせる!』
「わかりました・・・では、スケジュール帳を確認しますね・・・」
思いのほかあっさりと悠一さんと会う事が決めて、電話を終えた。
ふと視線を感じて見ると、みゆきが何とも形容しがたい表情でわたしを見ていた。
「百合恵、春日と会うのね」
「ええ、電話をしていて、大事な話もちゃんとしておきたいと思っていたから」
「一つだけ言っておくわ」
「何かしら?」
「もし春日と縒りを戻すなら、私のことは気にしないでいいから」
「どうして・・・でも、そうね心に留めておくわね」
みゆきの表情から本心は読み取れなかったけど、こういう時は言葉のとおりに受け止めるのが良いと思うのでそうさせてもらった。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話
頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。
綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。
だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。
中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。
とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。
高嶺の花。
そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。
だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。
しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。
それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。
他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。
存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。
両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。
拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。
そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。
それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。
イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。
付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる