COLOR

アオヤカ

文字の大きさ
8 / 19

7話 常識

しおりを挟む
「君はこう思わないかな?見えないものに意味はないと…。」
白いスーツの男はそう言った。
「どういう意味ですか?」
シンは面と向かって話した。
「ある時、こんな話を聞いた。彼はそこそこの陸上選手で世界で一番速い選手の走りを研究し、その理論を遂に紐解いたのだ。しかし、その走りはあくまで理論であり、彼の走りとは無縁のフォームをしていた。そして、彼は言ったそうだ。このフォームは速く走ることができると…。しかし、一度自分のフォームを崩していた。だから、彼は前のようには速く走れなかった。そんな彼を誰もが嘲笑い…小馬鹿にしたそうだ。その後…彼は世界で最速になった……………男の話だよ。」
三佐は楽しそうに話す。
「なんの関係があるんですか?」
「君ならわかるはずだよ?常識というのは常に遅れているもののことだと…。一般的に知れ渡る知識など…退化した知識であるという証明なんだ。したがって、君は常識の先にいるんだよ。我々が、考えつかない先に君はたどり着いているんだ。色を正確に見る君は、最も先を走る人類だ。」
彼は世界が美しく無いものだと理解している。
だから…彼は熱意を込めるように話すのだろう。
ここまで巧みに話す彼は熱意はあるものの、淡々とした口調であることは変わりない。
「要するに…この世界は古い…と。」
シンは彼の話を遮った。
「…………半分正解だ。だが、古いのは世界ではなく、人間だ。人間から見た世界が古いのは君の言うとおりだ。だからこそ、認識という古い価値観が、人間の新たな可能性を否定している。挑戦するというよりもこのままを保つことに力を注いでいる時点で人類は死んだも当然なんだ。なぜなら、これ以上の発展を望まない人間にこれ以上の繁栄はありえない。」
彼は立ち上がり、窓を開けた。
新しい空気が入ってくる。風が髪を少し揺れる。
「そこで、好奇心旺盛な君に、人類の新たな進化のために、色の回収を命ずる。世界は新時代を迎える。この腑抜けた価値観を全て消し去る。………というのが僕の考えだ。君から全てを奪う代わりに世界の最先端に連れて行くと約束しよう。」
彼の言葉には重みがあった。人間はコミュニケーションをとるために言葉を話す。ただの言語だが、同時にその者の感情も一緒に伝わってくることがある。
これが演技なのなら化け物でしかないが、そんな風には見えなかった。シンは少し、考えたあとに口を開く。
「わかりました。でしたら…世界の最先端に連れて行ってください。」
シンは右手を出した。
三佐は喜んで握手に応じた。

シンは同時に思った。
まるでアカさんと話しているみたいだなと………。

「三佐管理官。それでは我々はアオ色彩三等官とミロ色彩三等官の仕事の応援に行きますのでこれで失礼します。」
アカはシンを連れて部屋から出ていく。
ゆっくりと扉は閉まっていく。
「あとは頼んだよ。アカ。」




「あの…アカさん…一つ質問したいことがあります。」
シンは車で移動中にアカに話しかけた。
「なんだい?君はよく人に質問することが多いね。悪いことではないけど自分で考えることも重要だよ。」
アカは微笑みながら運転を続ける。
「三佐管理官と話している時、アカさんと話しているみたいに思ったんですが、どうしてだと思いますか?」
車は信号で止まった。
「そうだねー。私がいつの間にか似てしまったんだろうね。それがどうしたの?何か不満でもあった?」
アカはシンを見た。心配そうに見ていた。
「僕はただ…彼が………なんでもないです。」
なんだが…言ってはいけないような気がした。
彼からは危険な色を感じた。それが…アカさんと同じ色に見えたなんて…言えない。一瞬だが、彼の顔が赤で塗りつぶされて見えなくなった。……僕は何を見ているのか…。
「そっか…。でも一人で悩まないでね。私は君を不安にさせるようなことはしないから。」

車は再び動き出す。

…………仕事が始まるのだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...