五人の適合者

アオヤカ

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内にあるもの

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アルムは、木の棒を受け取った。
特になんてことない木の棒。よく観察するとそれなりに新しそうだった。そのくらいだろうか…
「これを使って火を起こせ。」
クロスはいつもと同じようにそう言った。
「えっと…これをどうしろと?」
アルムは、アホみたいな質問をした。
「お前の知っている手段で火を起こせ。それだけだ。」
知っている手段で……
火を起こすということは木を摩擦で擦るとか、………それしかなくない?と思った。しかし、そう言っても意味がないので言葉にはしなかった。確か、昔に父さんから教わった方法がある。
アルムは、木をもう一つ用意した。
「構わないですよね?」
アルムは、確認をとる。
「好きにして構わない。」
椅子を用意しながら言葉を発した。
アルムは、早速取り掛かる。ここからは根性と努力と気合だ。
「うおおぉぉぉ」
アルムは、全力で木を摩擦で擦り合わせた。とにかく何度も擦る。それでも火は起こらない。
簡単ではない事を思い出した。何時間もかかるんじゃないだろうか。しかし、諦めが悪いのも、アルムのいいところである。汗を拭い。そして、また再開する。
その姿を見るクロス。必死に火を起こすアルム。遠くからでも熱意を感じる。とても暑そうだ。

その頃、月姫と天姫はようやく起床する。
「うーーん……久しぶりにちゃんとしたベットで寝たよ」
髪がボサボサになった姉を見る天姫。
「お姉…様……おはようございます」
もちろん天姫もボサボサ頭であるが……。
白のパジャマを着ている姉妹は髪型以外は人形のように可愛らしい。月姫はやっと起き上がると、大きく伸びをする。
「お風呂にでも入らない?なんだかこのまま訓練するのは……ね!」
月姫は天姫を見て言う。
「そうですね。行きましょう。」
二人は部屋を出て風呂場に向かうのであった。

「うおおぉぉぉ!!!!」
全くと言っていいほど火は出ない。煙すら出てこない状況が続いていた。しかし、クロスは一度も目をそらさずに見続ける。これを更に約1時間以上続けた。

「わぁー、お姉様!かなりお風呂大きいですよ!」
久しぶりのお風呂にはしゃいでしまう天姫を追いかけるように月姫もお風呂場に向かう。
「確かに広いね!これは凄くありがたい…うん。昨日はすぐに寝ちゃったからね」
お湯をかぶり、ボディーソープで身体を洗う。そして髪を洗っていた時月姫は話しかけた。
「ねぇー…あのさ天姫?」
すごくよそよそしい感じがした。
「どうしたんですか?お姉様?」
天姫は、髪を洗う手を一度止めた。
「少しは眠れた?昨日はずっと何か…考えていたみたいだけど?」
「はい。ちゃんと眠れましたよ。お姉様は心配性ですね。」
天姫はにっこりしている。
「良かった~!何か困ってるんじゃないかなってお姉ちゃん心配になっちゃったよ!」
月姫は安心したように声のトーンが上がった。
しかし、その不安はあまり改善されることはなかった。
湯船に足をそっと入れる。熱が浸透するように身体に伝わってくる。湯気が身体を包み、お湯が現れる。肩までお湯に浸かる二人は極楽の顔をしている。
「ほんとに気持ちがいいですね」
天姫は思わず、顔が緩まる。
「そういえば、天姫はどんな訓練をする予定なの?」
月姫は髪をお団子にしてそう言う。
「確か、銃の精密な射撃術を磨くことから始めると言っていました。」
青い髪を姉のようにお団子にする。
「そっか…大変そうだね…もう少ししたら、出ますかね!」
月姫はこの旅で天姫が少しずつ表情が良くなることがとても嬉しかった。しかし、それと同時に彼女の内にあるものが捉えられなくことがとても不安だった。姉として天姫の事を少しでもわかってあげられることが重要だと考えていた。
しばらく、入浴を楽しんだのだった。

そしてアルムは…未だに火を起こすことができていなかった。2時間以上も経過したが何一つ上手くいっていない。
「くっ………なんでつかないんだ。」
アルムは…手を止めた。
「火を起こすときには摩擦による熱を逃さずにより高温で木を擦る。すると煙が出てくる。その後種火を枯れ草などに移し、火を大きくしていく。これが普通の火の起こし方だ。しかし、それは普通の発想だ。必要なのは、火を創り出す過程でどのようにエネルギーを込めるかが重要になる。アルムは、その発想とエネルギーの無駄と不器用さが問題だ。そして、ここまで時間をかけておいて他の方法をしなかったところの判断力も欠けている。つまり…この木だけでお前に足りないものすべてがわかってしまうと言うことだ。ただの木を舐めるなよ。それが武器を扱ううえでの心構えだ。……休憩にするぞ。」
クロスはすべてをここで読みとっていた。アルムの欠点をすべて見つけ出してしまった。彼の観察力にはとても敵わない。
「アルム…内にあるものを考えろ。」
彼はアルムにその言葉を残して家の中に入って行った。
アルムは…汗を拭くと悔しそうに木を眺めるのだった。
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