35 / 70
本編
*34* 星夜の散歩 ジュリSide
しおりを挟む
真っ白な光──それが、生まれてはじめて『目』にしたものだ。
次にまぶたを開けたとき、『腕』の中には、ひとりの『女性』がいた。
「……マザー……」
生まれてはじめて、『声』にする。
『女性』は答えない。『腕』の中で沈黙して、その『瞳』がどんな色をしているのか見せてはくれない。
「マザー……マザー・セントへレム……」
だけど『声』にするたび、『頭』の中に次々と流れ込んでくるものがある。
『胸』が熱くなって、世界がにじんだ。
「あなたが『オレ』の……『母さん』なんだね…」
そして、すべてを理解した。
『感情』が、『涙』があふれる──
「……目を覚まして」
──守らなければ。
「『オレ』を呼んで……ねぇ」
──守らなければ。
「おねがい……『セリ』」
──たとえこの先、何があったとしても。
「『オレ』の存在意義を、たしかめさせて」
──この身に代えても、守らなければ。
数多の星の瞬く夜、その『想い』のもとに、自分は生まれてきたのだから。
* * *
ひたり、ひたり──
無機質の冷たさが、素足に伝わる。
歩むたび、足元から凍りついていきそうだ。
「……どこ……」
オレを取り巻く暗闇は沈黙したまま、何も答えてはくれない。
いつだってそうだ。寒くて、孤独だった。
「……どこなの、かあさん……」
使い物にならない目を閉じ、ひたすらに腕を伸ばす。
左胸から伸びるひとすじの『糸』だけを頼りに、おぼつかない歩を進める。
ひたり、ひたり──
永遠にも感じられる静寂で、ふいにぽう……と灯るものがある。
「かあさん……あぁ」
白い光。空洞な心に求めてやまなかったもの。
ぐっと1歩を踏み出す。
夢中でその熱をつかんで、たぐり寄せた。
「やっと……みつけた」
次に目を開いたとき、笑みがこぼれてしょうがなかった。
ベッド脇に跪いたオレは、月明かりに照らされた寝顔へ頬を寄せる。
シーツをつかんでいた指をほどいて、オレのそれと絡める。
一度ふれてしまったら凍えは嘘のように溶けて、身体の隅々までぬくもりに満たされるんだ。
「……ん……」
ちゅ……ちゅ……と、唇でやわらかい頬を擽る。
間近にある体温を少しも逃がしたくなくて、きつく囲い込む。
大事なものは、傷つかないように、仕舞っておかないと。
この腕に閉じ込めて、誰にも見せないように隠してしまおう。
「オレが守ってあげるから……一緒にいようね……」
──ずっと、ずっと、永遠に。
「愛してる……セリ」
穏やかな寝息を立てる唇を指でなぞり、まぶたを閉じる。
近づく吐息に、喜びで胸があふれるよう──
──バチィッ!
唇と唇がふれあう寸前だった。雷が落ちたような閃光に視界が眩み、飛び退く。
「っ……なん、だ……これは……」
指先は痺れを訴え、引きつれたように痙攣していた。両手を見下ろしたまま、愕然とする。
「──お姫様を眠らせる、王子様のキスってところかい? 奇を衒った斬新なおとぎ話だね。一躍著名作家になれるかも」
冷水に満たされたバケツを、頭上でひっくり返されたような心地だった。
夢中で振り返った背後の暗闇で、静寂が揺らぐ。
「やぁ、こんばんは」
純白のフードを背中に流した少年のプラチナブロンドが月光に反射し、ゆるく笑みをたたえた口元が照らし出された。
こんな夜更けで、こんな状況を目の当たりにして、場違いも甚だしい挨拶を寄越される。
「……なんで、ここに」
「今夜は、星がざわめいていたからね」
そうとだけ返した少年──イザナは、微笑みを崩さないまま、ゆったりと歩み寄ってくる。
とっさに身構えたオレにふ……と笑みを深めるばかりで、長い長いローブの裾を引きずった末、母さんの枕元へ。
ちょうどベッドを挟んだ、オレの向かい側だ。
「僕の言った通りにしていたね。えらい、えらい」
イザナは少し腰を屈めると、眠る母さんの頭をそっと撫でる。
その穏やかな声に呼応して、ベッドサイドのテーブルが仄かに発光していることに気づく。
そこに置かれていた透明な小瓶の中で、銀色の星が瞬いていたのだ。
そして急激に理解する。先ほどの閃光とこの身に迸った衝撃は、あの星によるものだと。
次にまぶたを開けたとき、『腕』の中には、ひとりの『女性』がいた。
「……マザー……」
生まれてはじめて、『声』にする。
『女性』は答えない。『腕』の中で沈黙して、その『瞳』がどんな色をしているのか見せてはくれない。
「マザー……マザー・セントへレム……」
だけど『声』にするたび、『頭』の中に次々と流れ込んでくるものがある。
『胸』が熱くなって、世界がにじんだ。
「あなたが『オレ』の……『母さん』なんだね…」
そして、すべてを理解した。
『感情』が、『涙』があふれる──
「……目を覚まして」
──守らなければ。
「『オレ』を呼んで……ねぇ」
──守らなければ。
「おねがい……『セリ』」
──たとえこの先、何があったとしても。
「『オレ』の存在意義を、たしかめさせて」
──この身に代えても、守らなければ。
数多の星の瞬く夜、その『想い』のもとに、自分は生まれてきたのだから。
* * *
ひたり、ひたり──
無機質の冷たさが、素足に伝わる。
歩むたび、足元から凍りついていきそうだ。
「……どこ……」
オレを取り巻く暗闇は沈黙したまま、何も答えてはくれない。
いつだってそうだ。寒くて、孤独だった。
「……どこなの、かあさん……」
使い物にならない目を閉じ、ひたすらに腕を伸ばす。
左胸から伸びるひとすじの『糸』だけを頼りに、おぼつかない歩を進める。
ひたり、ひたり──
永遠にも感じられる静寂で、ふいにぽう……と灯るものがある。
「かあさん……あぁ」
白い光。空洞な心に求めてやまなかったもの。
ぐっと1歩を踏み出す。
夢中でその熱をつかんで、たぐり寄せた。
「やっと……みつけた」
次に目を開いたとき、笑みがこぼれてしょうがなかった。
ベッド脇に跪いたオレは、月明かりに照らされた寝顔へ頬を寄せる。
シーツをつかんでいた指をほどいて、オレのそれと絡める。
一度ふれてしまったら凍えは嘘のように溶けて、身体の隅々までぬくもりに満たされるんだ。
「……ん……」
ちゅ……ちゅ……と、唇でやわらかい頬を擽る。
間近にある体温を少しも逃がしたくなくて、きつく囲い込む。
大事なものは、傷つかないように、仕舞っておかないと。
この腕に閉じ込めて、誰にも見せないように隠してしまおう。
「オレが守ってあげるから……一緒にいようね……」
──ずっと、ずっと、永遠に。
「愛してる……セリ」
穏やかな寝息を立てる唇を指でなぞり、まぶたを閉じる。
近づく吐息に、喜びで胸があふれるよう──
──バチィッ!
唇と唇がふれあう寸前だった。雷が落ちたような閃光に視界が眩み、飛び退く。
「っ……なん、だ……これは……」
指先は痺れを訴え、引きつれたように痙攣していた。両手を見下ろしたまま、愕然とする。
「──お姫様を眠らせる、王子様のキスってところかい? 奇を衒った斬新なおとぎ話だね。一躍著名作家になれるかも」
冷水に満たされたバケツを、頭上でひっくり返されたような心地だった。
夢中で振り返った背後の暗闇で、静寂が揺らぐ。
「やぁ、こんばんは」
純白のフードを背中に流した少年のプラチナブロンドが月光に反射し、ゆるく笑みをたたえた口元が照らし出された。
こんな夜更けで、こんな状況を目の当たりにして、場違いも甚だしい挨拶を寄越される。
「……なんで、ここに」
「今夜は、星がざわめいていたからね」
そうとだけ返した少年──イザナは、微笑みを崩さないまま、ゆったりと歩み寄ってくる。
とっさに身構えたオレにふ……と笑みを深めるばかりで、長い長いローブの裾を引きずった末、母さんの枕元へ。
ちょうどベッドを挟んだ、オレの向かい側だ。
「僕の言った通りにしていたね。えらい、えらい」
イザナは少し腰を屈めると、眠る母さんの頭をそっと撫でる。
その穏やかな声に呼応して、ベッドサイドのテーブルが仄かに発光していることに気づく。
そこに置かれていた透明な小瓶の中で、銀色の星が瞬いていたのだ。
そして急激に理解する。先ほどの閃光とこの身に迸った衝撃は、あの星によるものだと。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる