星夜に種を〜聖母になっちゃったOL、花の楽園でお花を咲かせる!〜

はーこ

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本編

*35* 銀河につつまれ ジュリSide

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「母さんに、何をしたの」

「気になるかい?」

「訊いているのはオレだ」

「そう怒らずに。セリちゃんが起きてしまうよ」

 つくづく人を食ったような言動をする。
 オレをたしなめる一方で、くすくすと笑い声を抑えないのは、確信犯としか言いようがない。

「離れろ」

 今すぐにでも追い出してやるつもりだった。

「こーら、怒らない」

「……なっ」

 それなのに、引き寄せようとしていた母さんが、あいつに抱かれている。
 なんだ、何が起きた? まばたきのうちに、一体何が。
 思考停止したオレにまた笑い声をもらしたあいつが、オレよりも細いだろう右腕で何でもないように母さんを抱えたまま、左手を伸ばしてくる。

「落ち着きなさい、ジュリ」

「──ッ!!」

 ……とんっ。

 ほんの少しふれた指先で、軽く額を弾かれただけ。それだけで、視界がひっくり返る。
 頭を強打されたように星が弾けて、崩れ落ちることしかできなかった。

「……いっ……つ……」

 まただ。はじめて会ったときと同じだ。
 魔力反応はなかった。魔法を使ったわけじゃない。
 それなのに、こうしてオレが、赤子の手をひねるようにあしらわれるわけは……

「魔術師だなんて……詐欺だろ」

 只者ではない身のこなし。確信した。この人には武術の心得がある。
 それも虫も潰せそうにない顔をしておいて、かなりの手練だ。
 おそらく……ヴィオさんよりも、ゼノよりも。

「うちのキティが、お転婆な子猫ちゃんでね。たまには僕が宥めてあげないといけないのさ」

 失念していた。この人が拠点にしているのはイグニクス。騎士を目指す者なら誰もが一度は訪れるという、エデン中の猛者が集う大地。
 そこで、武芸に秀でたマザーの補佐を務める男が、見た目通りの優男なわけがなかったんだ。

「でもまぁ、魔術師ってことは嘘じゃないよ。僕は剣より、ペンを握っているほうが好きだからね」

 ──化物だ、と思った。
 世間話のように、異常なことを話す男が。
 その笑顔の裏で、何を考えているのだろう。胸をざわつかせる感情が恐怖だなんて、信じたくなかった。

「セリちゃんはね、君のことをとても心配していたよ」

「……え」

「そばについてるって言って聞かないのを、やっと寝つかせたんだ。そっとしてあげなさい」

 深い眠りに落ちた母さんを再びシーツへ横たえる仕草は、声の通りに優しいもの。
 少なくとも、母さんを傷つけることはしない……か。なら彼が、イザナがここへ来た目的は。

「いい星夜だねぇ」

 脈絡のない独り言に隠された真意を、目を凝らし、息を殺し、じっと見極める。
 そんなオレなど意にも介していないだろう少年が、おもむろに振り返る。

「こんな夜は、一緒に散歩でもどう?」

 ゆるく細められたアメシストに捉えられた刹那、世界が滲んだ。
 インクを落としたように、じわじわと広がりゆく黒。

「母さんっ……!」

 とっさに伸ばした右手は、虚空を引っ掻くだけ。漆黒の闇が景色だけでなく、母さんまでも飲み込んでしまったんだ。

「安心してくれ。セリちゃんには何もしていない」

 母さんには。
 耳に引っかかった言葉を裏返してみて、はたと顔を上げる。

 その先で、アメシストは依然として微笑んでいた。暗闇の中でそれがわかったのは、オレたちを取り囲むように、銀色の光が無数に瞬いていたから。
 ベッドもあの不思議な小瓶も、どこにもない。踏みしめていた床の感覚さえも。
 オレは……オレたちは、見渡す限りの銀河に浮かんでいたんだ。

 ──『プラネタリア』──

 それはオレが紡ぐ魔法と同じようであって、まったく別の代物。
 杖もなく、詠唱を省略するオレが『異常』なら、この人は何なのか教えてほしいよ、リアンさん。

「……本物の化物でしょ……」

 ──詠唱破棄して、星魔法を使うだなんて。
 滅茶苦茶すぎて、笑いも出ない。
 絶句するオレをアメシストに映し込んだ少年は、月のように凪いだ声音を紡ぐ。

「僕と少し話をしよう、ジュリ」
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