社則でモブ専ですが、束縛魔教主手懐けました〜悪役武侠女傑繚乱奇譚〜

はーこ

文字の大きさ
192 / 266
第三章『焔魔仙教編』

第百八十八話 夜明け【後】

しおりを挟む
「んっ……ん」

 丁寧に血を舐めとった憂炎ユーエンは、最後に早梅はやめの首すじを吸い上げ、唇をはなす。そして赤く咲いた華を目にして、うっそりと笑んだ。

「はい、上書きできた。ねぇ……口づけもしようか? いい気分になって、よく眠れるよ」
「だめだよ……憂炎」
「えぇ、ここにきておあずけ? 生殺しじゃないかなぁ」
「あっ、やっ……!」
「ふふ、からだは素直に反応してるのにね。かわいい」

 ちゅ、ちゅ、と耳に口づけられたかと思えば、かり、と甘噛みをされる。声を押し殺せなかったじぶんが恨めしい。

「でも、嫌われたくはないからね。梅雪メイシェがいいって言うまで、この先はしないからね」

 翻弄されている一方で、どこか安心感がある。
 思わず身をゆだねてしまいそうになるのは、『この子は乱暴をしない』と、信じているからなのだろう。
 盲目的ともいえる重い愛。けれど飛龍フェイロンのそれとは、まるでちがう。

「ゆう、えん……っ!」
「おっと!」

 なんだか無性にほっとして、しがみつく。
 憂炎は抱きとめてくれた。

「悪いやつにやなことされたんだね。俺が見張っててあげるよ。そばにいるから、大丈夫、大丈夫……」

 この子の前で弱音を吐くのは一度きりだと決めたくせに泣いてしまう情けないじぶんを、すべて包み込んでくれる、たのもしい腕だった。
 いつの間に、この子は立派な男のひとになっていたんだろう。
 よしよしと頭をなでられて、余計に泣けてくる。彼という存在にとっくの昔にほだされているのだから、すこしくらい、いいだろう。

「ちょーっと目をはなしたすきに、でかいわんこが増えてやがるんだが!?」
「あっ、おじゃましてますー、おじいさま」
「じゃれんのもそこまでだ。梅梅メイメイはこれからお着替えすっからな、はい出てった出てった!」

 ちょうど水桶と手ぬぐいをかかえた晴風チンフォンがもどり、憂炎におどろきつつもヒラヒラと手をふって軽くあしらう。
 憂炎も憂炎で晴風が仙人である事実をすんなり受け入れた肝のすわりようなので、動じない。

「いいこにしてますから、そばにいちゃだめですか?」
「いいこならそもそも空気を読んで出てくもんだよ!」
「えー、わたし、梅雪といっしょにお風呂とか、寝たことありますよー?」
「それはちびっこのときの話だろが!」
「ふふっ……」

 晴風と憂炎のやりとりを見ていると、気が抜けて、笑ってしまった。

「ふたりとも、ありがとう。モヤモヤした気分でしたけど、すっきりしました」
「食べちゃいたいくらいに、愛らしいえがおですね……」
「おいそれは聞き捨てならねぇなぁ!」

 もはや本音をかくしもしない憂炎のつぶやきに、すかさず晴風のツッコミが入る。
 平和な日常の風景に、早梅もこわばりがほどかれるようだった。

「──梅雪!」

 そんな和やかなひとときが、一瞬にして様変わりする。
 ぎょっとしたのは、寝室の入り口にたたずんでいた晴風だ。

「お、おう……なんだ、おまえさんか。そんなに慌ててどうしたよ? 桃桃タオタオ
「……お父さま?」

 そんなはずはと疑問に思えども、寝室へ足を踏み入れたのは、たしかに桃英タオインである。

 ──ザオ家当主は、そなたに『すべて』を明かしてはいないようだな。

 ふいによみがえる言葉があり、思わず手足が緊張する。
 ききたいことはあれども、深刻な桃英の面持ちを前にして、言葉がでてこない。

桜雨ヨウユイが……」

 桃英は告げる。瑠璃の瞳をゆらめかせ、声をふるわせながら。

「桜雨が、目を覚ました……!」

 いつの間にか空は白み、夜明けがおとずれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

処理中です...