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Fuse6
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幻覚ならどんなによかっただろう。
吐き出す息が白く凍りつき、冷気が肌を刺す玄関先で、今一番会いたくない人物と対峙する。
「何しにきたの」
「俺の話を聞かずに帰っただろ」
「あんただっていつも話聞かないじゃない」
「そういうとこだって」
「だから、何?」
「らしくないぞ、おまえ」
そういうあつきも、らしくない。
いや……違う。
本当は、わかっている。
少し粗野な言葉遣いの目立つ彼が、気取らない本当のあつきだということを。
「意地っ張りはやめろよ。おまえが『C』で、俺が『A』であることは変わらない。目を背けんな」
「私だって、腹立つことくらいあるわよ……」
『Type-C』の『マイクロチップ』を巡る話には、続きがある。
穏やかな気質、一見して非生産的な人間をも、何故【激情汲み取り方式による人力発電】の対象者としたのか──
ふたを開けてみれば単純なことだ。
穏やかな人ほど怒ると怖い。
ひとたび激高した『Type-C』は、『Type-A』の発電量を凌駕する可能性を秘めているのだ。
けれど。だけれど。
「私はこんなこと望んでなかった! こんなっ……!」
──ピピ。
聞き慣れない電子音。
《激情反応を感知。送電しますか?》
脳内に直接響き渡るような音声ガイドが、耳障りでしょうがない。
──なんで?
なんでそんなこと訊かれなくちゃいけないの?
私のことなのに、これは私の……なのになんで、なんでなんでなんで。
「私の激情を、他人にどうこうされたくないわよッ!!」
これは叫びだ。みな一様に前にならう世界へ『No』を叫ぶ、少女の。
「バカ! あつきのバーカ! ガリ勉! パパママが医者だからって医者になりたい短絡野郎!」
「それはそれで真っ当な理由だろ、ほっとけ」
「医者になりたいなら人の気持ちくらい汲み取れるようになれやバカ! ブワァーカ!!」
「学年一の秀才の語彙力とはとても思えねぇな」
売り言葉に買い言葉を返しながら、あつきはゆるむ口元を抑えられない。
高揚していたのだ。今度は冷めることはない。ざわめく胸に熱が満たされる。
「そりゃ、テスト期間中だったけど……クリスマス……一緒にいてくれるって、言ったじゃん……」
トドメだった。
堪らず空を仰ぐ。手のひらで顔を覆うまでに、すべてを理解した。
自分に向けられている激情のわけも、ひくひくと嗚咽を漏らしはじめたあかりが、どうしようもないことも。
「……かわいすぎか」
そうだ。昔からそうなのだ。
この幼馴染は同年代のこどもよりずば抜けて賢いくせに、意地っ張りで、寂しがりで、甘え下手なのだ。
だからあつきもつい、あの手この手で意地悪をしてしまうのだ。
「最近素っ気なかったの、もしかしてそれが理由?」
ぶす。あかりはしかめっ面で頬をふくらませるだけ。何だそれは。つついてくれと言っているようなものだろうに。
「補習になったら、冬休みにデートもできないだろ」
「……む」
「ちゃんと考えてたよ。遅刻したクリスマスの埋め合わせくらい」
「……んああ!」
語彙力が崩壊したあかりは、もはや人語すら発せなくなってしまったらしい。怒りではない赤に染め上がった頬を、慌てて手のひらで覆い隠している。
だからそれは、ふざけてんだろうか。かわいすぎるんだって。あかり、俺のあかり。あつきの脳内連呼は止まらない。
いつもそうだ。あかりが可愛いのがいけない。会話をしていると何だか腹さえ立ってきて、それを逐一『送電』しないと、おさまりがつかないのだ。
今だって理性を総動員している。ご近所迷惑だなんて紳士ぶるのは、今更すぎるけれど。
「こんなん愛しいしかないだろ、ふざけろよ……」
一周して涙が滲みはじめたあつきは、とうとう耐えかねて、広げた腕いっぱいに幼馴染の恋人を囲い込んだのだった。
吐き出す息が白く凍りつき、冷気が肌を刺す玄関先で、今一番会いたくない人物と対峙する。
「何しにきたの」
「俺の話を聞かずに帰っただろ」
「あんただっていつも話聞かないじゃない」
「そういうとこだって」
「だから、何?」
「らしくないぞ、おまえ」
そういうあつきも、らしくない。
いや……違う。
本当は、わかっている。
少し粗野な言葉遣いの目立つ彼が、気取らない本当のあつきだということを。
「意地っ張りはやめろよ。おまえが『C』で、俺が『A』であることは変わらない。目を背けんな」
「私だって、腹立つことくらいあるわよ……」
『Type-C』の『マイクロチップ』を巡る話には、続きがある。
穏やかな気質、一見して非生産的な人間をも、何故【激情汲み取り方式による人力発電】の対象者としたのか──
ふたを開けてみれば単純なことだ。
穏やかな人ほど怒ると怖い。
ひとたび激高した『Type-C』は、『Type-A』の発電量を凌駕する可能性を秘めているのだ。
けれど。だけれど。
「私はこんなこと望んでなかった! こんなっ……!」
──ピピ。
聞き慣れない電子音。
《激情反応を感知。送電しますか?》
脳内に直接響き渡るような音声ガイドが、耳障りでしょうがない。
──なんで?
なんでそんなこと訊かれなくちゃいけないの?
私のことなのに、これは私の……なのになんで、なんでなんでなんで。
「私の激情を、他人にどうこうされたくないわよッ!!」
これは叫びだ。みな一様に前にならう世界へ『No』を叫ぶ、少女の。
「バカ! あつきのバーカ! ガリ勉! パパママが医者だからって医者になりたい短絡野郎!」
「それはそれで真っ当な理由だろ、ほっとけ」
「医者になりたいなら人の気持ちくらい汲み取れるようになれやバカ! ブワァーカ!!」
「学年一の秀才の語彙力とはとても思えねぇな」
売り言葉に買い言葉を返しながら、あつきはゆるむ口元を抑えられない。
高揚していたのだ。今度は冷めることはない。ざわめく胸に熱が満たされる。
「そりゃ、テスト期間中だったけど……クリスマス……一緒にいてくれるって、言ったじゃん……」
トドメだった。
堪らず空を仰ぐ。手のひらで顔を覆うまでに、すべてを理解した。
自分に向けられている激情のわけも、ひくひくと嗚咽を漏らしはじめたあかりが、どうしようもないことも。
「……かわいすぎか」
そうだ。昔からそうなのだ。
この幼馴染は同年代のこどもよりずば抜けて賢いくせに、意地っ張りで、寂しがりで、甘え下手なのだ。
だからあつきもつい、あの手この手で意地悪をしてしまうのだ。
「最近素っ気なかったの、もしかしてそれが理由?」
ぶす。あかりはしかめっ面で頬をふくらませるだけ。何だそれは。つついてくれと言っているようなものだろうに。
「補習になったら、冬休みにデートもできないだろ」
「……む」
「ちゃんと考えてたよ。遅刻したクリスマスの埋め合わせくらい」
「……んああ!」
語彙力が崩壊したあかりは、もはや人語すら発せなくなってしまったらしい。怒りではない赤に染め上がった頬を、慌てて手のひらで覆い隠している。
だからそれは、ふざけてんだろうか。かわいすぎるんだって。あかり、俺のあかり。あつきの脳内連呼は止まらない。
いつもそうだ。あかりが可愛いのがいけない。会話をしていると何だか腹さえ立ってきて、それを逐一『送電』しないと、おさまりがつかないのだ。
今だって理性を総動員している。ご近所迷惑だなんて紳士ぶるのは、今更すぎるけれど。
「こんなん愛しいしかないだろ、ふざけろよ……」
一周して涙が滲みはじめたあつきは、とうとう耐えかねて、広げた腕いっぱいに幼馴染の恋人を囲い込んだのだった。
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