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第1章『リンゴンの街編』

第19話 おねぼうの朝は、おおさわぎ!

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 くすぐったいような気がして、ふっと、目が覚めた。

「んぅ……んん……」

 背中がちょっと痛い。でも、オレンジ色のふわふわしたものが目の前にあって、きもちよくて、すりすりとほほを寄せた。
 そうこうしているうちに、ぼんやりとした意識が冴えてきて、だんだんと昨日のことを思い出す。

「……寝ちゃってたぁ」

 時計塔からの帰りに、街でミートパイとカスタードパイをおなかいっぱい食べて、いつまでおしゃべりしてたんだっけ。
 話し疲れてシュシュがウトウトしてきたから、テントまで送ろうっておんぶして。
 それでシュシュを寝かせたら、僕も満足して、そのまま寝落ちちゃったみたい。

「んん……からだがバキバキだ」

 なにも敷かないで寝たからか、あちこち痛いかも。
 からだを起こしてのびをしたら、関節がポキポキ悲鳴をあげて、苦笑する。

「……ふぁ……ソラ、くん……?」

「あ、ごめん、起こしちゃった?」

 もぞもぞ、とみじろいだシュシュが、寝袋から抜け出してくる。

「おはよう、シュシュ」

「んー……」

「寝グセがすごいね。顔洗ってスッキリしておいで」

「んー……」

 これは、寝ぼけてるね。
 のそのそ起き上がろうとするけど、見てて危なっかしいったら。

「大丈夫? こけたりしないでね」

「んんんー……」

「わぁっと!」

 肩をささえようと手をのばしたけど、遅かったかも。
 寝起きでろくに手足の力が入ってないシュシュが、ふらついて僕のほうへ倒れ込んできた。
 とっさに受けとめたのはいいけど……

 むにゅ。

「……うん?」

 なんだか、やわらかいものをつかんでいる気がする。
 いま目の前にいるのは、シュシュだ。
 ってことは……え? まって。
 右手にふれてる、やわらかくてふっくらしたものって、シュシュの……えっ、えっ、えっ!

「うわぁあーーーーっ!!」

 僕、大絶叫。
 それもそのはず。

「おんな、のこ……シュシュ、女の子っ……!?」

 そんな大事なことに、いまさら気づいた僕自身にびっくりしたからです。
 ちっちゃくて細い子だなぁとは思ってたけど……まさか、まさか!

 べちぃんっ!

「いっっったぁ!」

「……ウー……」

「あぁっトッティ! ごめんっ! わざとじゃないの! ほんと、ほんっとに!」

「ウゥアアア……!」

「いたいっ、いたいよ! うわぁあっ!」

 さすがトッティ。早起きさんですね。
 シュシュの枕もとに植木鉢ポットが置いてあったから、一部始終をバッチリ目撃された僕は、激怒したトッティのツルにベシベシ叩かれまくっていた。

「まって、落ち着こうトッティ! シュシュもちゃんと服着ようね? ねっ!?」

「ん~……」

 もともとダボダボなオーバーオールの肩ひもがずり落ちて、はだけちゃってるシュシュ。
 そこから白い首と肩が見えて……いやっ、けっしてやましい気持ちで見ていたわけではっ!
 服をととのえてあげたいのは山々なんだけど、トッティがね、近づけさせてくれないの!

「おねがいだから、シュシュ起きてぇ~っ!」

「んむむ……」

 僕の切実な訴えも、悲しいかな。
 おねぼうさんは、まだ夢のなか。

 シュシュは起きてくれないし、トッティのツルには追っかけまわされるし、おおさわぎ。

「フワワ……」

 おねむ用のフラワーボウルで、白とピンクのお花といっしょにぷかぷか浮いたポポも、あくびをもらしてる。

 あたらしい場所へと旅立つ僕らの朝は、なんとまぁさわがしくて、ヘンテコだった。


【第1章 リンゴンの街編 おしまい】
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