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本編
*64* まるで宝さがし
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わたしたち冒険者や商団ギルドの関係者が活動するのは、おもに一階と二階フロア。
ヴァネッサさんに連れてきてもらったここ三階は、厨房や洗濯室をはじめとした共同スペースがある。
「わたしたちは、アカデミー生の寮室もあるこのフロアで暮らしているの。授業は、ひとつ上の四階フロアでおこなわれてるわ」
「そっか、だから全然顔を合わせられなかったんだね」
ララの話によると、彼女は十六歳。弟のルウェリンは十四歳。
アカデミー生のなかでは年長のほうだから、ふたりが率先して下の子たちの面倒を見てるんだって。
おたがいに自己紹介をした流れで、厨房横の食堂に案内され、朝食をごいっしょさせてもらうことになった。
「いつも美味しい食事を作ってくれて、ありがとう」
「そんな、お礼なんていいわ。この街を守ってくださっているみなさんのためにわたしたちができることは、これくらいだもの」
スープを飲み終えたころかな。スプーンを置いたララが、ふと視線を伏せて、もじもじと口をひらいた。
「それでその……リオは、冒険者なのよね?」
「まぁ一応。パーティに入れてもらって、旅とかはしたことないけど」
「でも、この街へ来る途中、傷ついたモンスターを治療した薬術師がいるってきいたわ! それってリオのことでしょう?」
おっと。どうやらうわさになっているらしい。
あのときのことを知っているのは、同行してくれたエルをはじめとする商団ギルドのひとたちくらいなので、うわさの出どころはそこだろう。
薬術師って、ここにわたししかいないもんなぁ。そりゃバレるよね、わたしのことだって。
「すごいわ……モンスターと心をかよわせるなんて、ドラマチックで、ロマンチックね!」
「そ、そうかな……?」
ずずいっと身を乗り出してくるララ。
アクアマリンみたいに蒼い瞳をキラキラさせる表情は、まるで、宝さがしをするちっちゃなこどもみたいだった。
「ねぇリオ、もしよかったら、わたしに──」
ララがなにか言いかけたときだった。パリィン! と、厨房のほうから甲高い物音が響きわたった。
「こらレオン、さわるな!」
「ふぇぇ、ごめんなさぁい~!」
すぐさま、張り上げられたルウェリンの声と、おさない男の子の声がきこえてくる。
「あら……下の子がお皿を割っちゃったのかしら。ルル、レオン、大丈夫?」
「大丈夫です、怪我はしてません。僕が破片を片付けるので、姉さんはレオンを着替えさせてくれませんか! 服がスープまみれだ!」
箒を手にしたルウェリンは、口早に状況報告をすると、あわただしく厨房へ引っ込んでしまう。
「わかったわ、すぐに行くわね」
一方で、あわてずさわがず椅子から立ち上がったララの様子は、『慣れたひと』のものだった。
「大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ。ありがとう。せっかくの朝食なのに、さわがしくしてしまってごめんなさいね。リオはゆっくりしていって」
ララはふわりと笑うと、じぶんの使っていた食器をまとて、厨房へ向かっていった。
「おや、ひとりになってしまったね。それじゃあ私が、可愛らしいお嬢さんと相席させていただくとしよう」
見計らったかのように、ララが座っていた椅子が引かれて、黒ずくめの麗人が腰を落ち着ける。
ヴァネッサさんに連れてきてもらったここ三階は、厨房や洗濯室をはじめとした共同スペースがある。
「わたしたちは、アカデミー生の寮室もあるこのフロアで暮らしているの。授業は、ひとつ上の四階フロアでおこなわれてるわ」
「そっか、だから全然顔を合わせられなかったんだね」
ララの話によると、彼女は十六歳。弟のルウェリンは十四歳。
アカデミー生のなかでは年長のほうだから、ふたりが率先して下の子たちの面倒を見てるんだって。
おたがいに自己紹介をした流れで、厨房横の食堂に案内され、朝食をごいっしょさせてもらうことになった。
「いつも美味しい食事を作ってくれて、ありがとう」
「そんな、お礼なんていいわ。この街を守ってくださっているみなさんのためにわたしたちができることは、これくらいだもの」
スープを飲み終えたころかな。スプーンを置いたララが、ふと視線を伏せて、もじもじと口をひらいた。
「それでその……リオは、冒険者なのよね?」
「まぁ一応。パーティに入れてもらって、旅とかはしたことないけど」
「でも、この街へ来る途中、傷ついたモンスターを治療した薬術師がいるってきいたわ! それってリオのことでしょう?」
おっと。どうやらうわさになっているらしい。
あのときのことを知っているのは、同行してくれたエルをはじめとする商団ギルドのひとたちくらいなので、うわさの出どころはそこだろう。
薬術師って、ここにわたししかいないもんなぁ。そりゃバレるよね、わたしのことだって。
「すごいわ……モンスターと心をかよわせるなんて、ドラマチックで、ロマンチックね!」
「そ、そうかな……?」
ずずいっと身を乗り出してくるララ。
アクアマリンみたいに蒼い瞳をキラキラさせる表情は、まるで、宝さがしをするちっちゃなこどもみたいだった。
「ねぇリオ、もしよかったら、わたしに──」
ララがなにか言いかけたときだった。パリィン! と、厨房のほうから甲高い物音が響きわたった。
「こらレオン、さわるな!」
「ふぇぇ、ごめんなさぁい~!」
すぐさま、張り上げられたルウェリンの声と、おさない男の子の声がきこえてくる。
「あら……下の子がお皿を割っちゃったのかしら。ルル、レオン、大丈夫?」
「大丈夫です、怪我はしてません。僕が破片を片付けるので、姉さんはレオンを着替えさせてくれませんか! 服がスープまみれだ!」
箒を手にしたルウェリンは、口早に状況報告をすると、あわただしく厨房へ引っ込んでしまう。
「わかったわ、すぐに行くわね」
一方で、あわてずさわがず椅子から立ち上がったララの様子は、『慣れたひと』のものだった。
「大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ。ありがとう。せっかくの朝食なのに、さわがしくしてしまってごめんなさいね。リオはゆっくりしていって」
ララはふわりと笑うと、じぶんの使っていた食器をまとて、厨房へ向かっていった。
「おや、ひとりになってしまったね。それじゃあ私が、可愛らしいお嬢さんと相席させていただくとしよう」
見計らったかのように、ララが座っていた椅子が引かれて、黒ずくめの麗人が腰を落ち着ける。
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