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本編

*99* 甘いキャンディは恋の味

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 よく言われてるよね。糖分はだいじだけど、摂取過多は要注意だって。

「はぁ……あっま。改良の余地あり」

 ベッドに腰かけたわたしは、口に放り込んだキャンディを舌先で転がして、その甘さにため息をついた。

 なにを隠そうこのキャンディこそ、娼館街でも売れ行き好調だったわたし特製の避妊薬ピル

 まさか、これをセルフで緊急処方することになるとは。

 いや、まったく予想してなかったわけでもないんだけど……ねぇ?

「……これ、だめだよね。女の子は、妊娠しちゃうかもしれないんだよね? そうしたら、リオのからだに大変な負担がかかるのに、俺、がまんできなくて、勝手に……ごめんね」
「うん……うん、そうだね。ちょっとやりすぎたかもね。初心者向けではなかった」
「ごめんなさい……」

 ベッドに座ったわたしの目の前には、私服のシャツに着替えたノアが、申し訳なさそうに床で正座をして、しゅんとうなだれている。たしかに、やりすぎではあったけど。

「でも、今回はこれが『正解』だったんだよ」

 壮絶なモンスターとの闘いで衰弱したノアを回復させるには、肉体接触による人間の精気の摂取、つまり性交が必要不可欠だった。

 ノアが、だれかと肌をかさねなければならない。

 わたしはそのだれかが、わたし以外のだれかである未来を思い描けなかった。

(だってノアは、まだ女の子が苦手だもん)

 だからわたしがやるしかないって、使命感に駆られて。

 ……ううん、ちょっと違うかも。

 わたしがやるしかない、じゃなくて、わたしが助けたかった、だ。

 ノアのためなら、なんだってできると思った。それが、この身のすべてを捧げることだとしても。

 だってわたしね、ノアに抱かれて、うれしかったんだ。ノアの腕のなかで、きもちいいなぁって、ずっとこうしていたいなぁって思った。

 ノアに愛されてるってことが、すごく……すごくつたわってきたんだ。

 ノアもいっぱい発散してすっきりしたのか、腰が砕けてしまったわたしのからだをきれいにして、着替えを手伝ってくれるころには、正気にもどっていた。

 で、暴走しちゃったことを猛省して、わたしにめちゃくちゃ謝っている。いまここ。

「ねぇノア、体調はどう?」

 このままだとノアが床に頭をめり込ませそうなので、先手を取ることにした。

 やわらげた声音で問いかけると、はっと顔をあげたノアが、おひさまみたいなまぶしさで破顔する。

「絶好調だよ。リオのおかげでよくなった。だからなんでも言ってね! 俺のこと、こき使っていいから!」
「あははっ!」

 どうやら、ノアなりに気を遣ってくれてるらしい。

「……元気になって、よかった」
「リオ……」

 思わずこぼれちゃった言葉に、ノアがなにか言いかけたけど、だめ。

 その先は言わせない。言わせたらきっと、泣いちゃうだろうから。

 だから、ちょっとくらい、照れ隠ししてもいいよね。

「はい、やらかしたノアくんに、罰ゲームがあります!」
「罰ゲーム?」
「そう。わたしに、やさしくキスをすること」

 サファイアの瞳でぱちりとまばたきをしたノアが、「ははっ!」と笑い声をもらして、腰を浮かせる。

「それは罰ゲームっていうより、ごほうび。ほんと、リオは俺に甘いんだから」

 そうしてほほに手を添えられたかと思えば、唇がかさねられる。

「ん……ふぁっ」

 わたしの唇をやわやわと甘噛みしていたノアが、舌先でそっと唇を割りひらく。

 ふわりと心地いい香りがして、脱力したからだは、自然とノアを受け入れる。

「やっぱりリオは、甘いね」

 ちゅっとリップ音を立てて唇をはなしたノアが、まぶしそうにサファイアの瞳を細め、指先でわたしのほほをくすぐる。

 そういうノアのほうこそ、ささやく声が、わたしを見つめるまなざしが、甘い。甘すぎて、とっくの昔に摂取過多だ。

 また照れ隠しに「なにをいうか、この子は」って、ノアのおでこを小突く。

 甘いものばっかだとおなかいっぱいになるから、こんどキャンディを作るときは、ミントフレーバーにしようかなぁ、なんてしょうもないことを考えた。

「ねぇリオ」
「んー?」
「だいすきだよ」

 ……そしてよくもまぁ、ひとが油断してるときに爆弾発言を。

「俺はリオからはなれる気はないから、覚悟してね」
「はぁ……」
「えっ、なんでため息? 俺なんか変なこと言った!?」
「いまさらだなぁと思って」
「なにが!?」

 だってさ、ノアはずっと、じぶんの気持ちをつたえようとしてくれてたじゃん。

 なのに『恋に恋するお年頃』とか、『近所のお姉さんに憧れる感覚なのかも』とか、勝手な解釈をしていたおばかさんが、ここにおりましてね。

 そう……いまさら、気づいたの。

「ノアだけじゃないよ。わたしもノアといたいから、覚悟してね」

 やっと気づけたこの気持ちは、もうごまかせない。

「ノア、好きだよ。わたしも、大好き」

 もう観念しよう。

 わたしは、恋をしています。

「って……ノアくん? 待って、泣いてる!?」

 そうこうしてたら、ノアがボロ泣きしているというね。え、マジで待って。泣く要素どこにあった?

「感極まっちゃって……うれしいんだ。リオが、俺の一番ほしかった言葉を、くれたんだもん。夢みたい。つらいことがあっても、諦めなくてよかったって思った」

 えっとね……うん。それは不意討ちといいますか。ほんとにもう、この純情男子は。

「ね、リオ。しあわせになるのが、俺に酷いことしてきたやつらへの仕返しだって、言ってたよね」
「うん」
「俺、しあわせだよ。リオが、しあわせにしてくれた」

 わたしの手を取り、潤んだ瞳を細めたノアの表情は、清々しい。

「ありがとう、リオ。これからも、ずっといっしょにいよう」
「ノア……」

 まっすぐに見つめられて、ふいにはにかまれたら、もうだめだった。

 たまらなくなって、ノアに抱きつく。そんなわたしを、ノアは力強くもやさしく抱きしめ返してくれた。

 あぁ、わたし……じぶんが思ってた以上に、ノアのことが好きみたい。

 すごく恥ずかしくて、ノアみたいにうまくつたえられないかもしれないけど……

 わたしの気持ち、ちょっとずつでも、かたちにしていけたらいいな。
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みんなの感想(1件)

やみなべ
2023.03.15 やみなべ

まだまだ序盤の10話ぐらいまでしか読んでませんが今のところ……

ヒロインのリオちゃんは医療に関わらせたらダメな人種だw
薬の配合とか間違えて患者を危険にさらしても

「ん!? 間違ったかな……」

とかで誤魔化すタイプだww

上級ポーションが売れないのは実績とか駆け出しではなく……
その信用ならない性格のせいだろっと思いましたwww

そんなヒロインリオちゃんの活躍?……いや、やらかしをwktkしながらこの先も続き読ませてもらいます_(:3 」∠)_コジンテキコノオハナシハ『ギャグ』ノタグモイレルベキダトオモウ

はーこ
2023.03.16 はーこ

やみなべさん、お越しいただきありがとうございます。
序盤でちょくちょく出ていますように、リオは魔力の質は高品質ですが量が壊滅的に少ないので、無理をしてポーションを作ると倒れてしまうんですね。それが上級ポーションともなると、ひとたまりもなく。量産できないがために貧乏生活を送っていたリオも、魔力おばけのノアと出会ったことで一変します。

のちほどリオの本格的な治療シーンなどが登場しますので、引き続きお楽しみいただけますと嬉しいです。このたびはご感想をいただき、ありがとうございました。

解除
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