【完結】たまゆらの花篝り

はーこ

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憧憬と嫉妬㈠

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 ほのを主とあおいだ名もなき神は、次いでつくがみであることを告げた。
 付喪神とは特定の神を指すものではない。永い年月を経て、道具に魂が宿った類いの総称。とりわけ彼の神は、狐の面に憑いた付喪神だという。

 出会いを彩る椿を思い描くままに、べにという名を与えた黄昏もいまは昔。
 ありし日に立てた誓いを寸分たがえることなく、紅は今日こんにちまで片時も穂花の傍を離れることはなかった。
 愛犬を亡くし、母を亡くし、とうとう独りになってしまったいまもなお。

「ほんっと、警備会社も恐れおののくほどの二十四時間体制だわ……頭痛が痛い」

 ゆったりとながる風景は淡い蒼。越冬を果たしたつばくらめが艶やかな藍黒色の翼を広げ、揚々と滑空する様が、気重な穂花にはまぶしい。

「学を生業とせんお方が、よもや母国語を誤られるとは」
「この場合は物理的・精神的と二重の意味で甚だしい頭痛の程度を表す意図的なちょうふく、つまりは大事なことなので二回言いましたってわけだから、用法・用量は正しく守っています」
「承知しておる。そう照れなさるな、かわいいお人め」

 紅の脳内は、負帰還回路で構成されているらしい。どれほど穂花が物申そうと、負かける負で正に変換されるばかりか、増幅された妄想をさも現実のように出力されてしまう。
 背後で奏でられた猫なで声は、紅が最上級に機嫌の良い証拠。破顔しているだろうことが、返り見ずともわかる。
 首に回された腕の鬱陶しい圧迫感もあいって、穂花の頭痛は悪化の一途をたどる。

「穂花」

 天啓にも似た声音が鼓膜を震わせたのは、たまらずアスファルトめがけて盛大な嘆息を漏らしたそのときである。

「浮かない顔だな。具合が悪いのか?」

 刹那、暴落していた穂花の気分は桁違いに浮上。声の主を探し当てることも、実に容易であった。
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